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GOLGOのひとりごと

ホテル時代の元上司の話

2024.05.15

もう20年も前、私はあるお役所系のホテルに就職した。在籍していた3年間、私の上司だった人物がいる。ホテルの頭文字をとって仮にH氏としておこう。
彼は私よりふたつくらい歳上の人で、宴会部門の責任者だった。
私が30歳くらいだったから、彼もまだ30代前半だったと思う。
若くして現場を任されるのだからそれなりに優秀だったのだろう。
彼は宴会部門を我が物顔で取り仕切っていた。

新入りは彼からパワハラを受けるのが恒例だった。
私の前に入社した先輩が散々目の前で搾られるのを見ていたので、薄々予感はしていたが、その先輩が辞めてしまうと、やはり順番が回ってきた。

例えば宴会場のテーブルの並べ方が1センチずれている、といった理由で何時間も無駄に残業させられる。もちろん残業代など出ない。すべてサービス残業だ。
やれ教育だ!自己研鑽だ!何かと理由を付けて長時間労働させられる体質の職場だった。

宴会部門の仕事の流れは、昼間は会議をやり、夜は宴会をやり、宴会が終わると翌日のセッティングをするといった感じだ。週末には婚礼もある。
ようやく宴会場の仕事が終わると、今度は勉強の為と称してレストランの手伝いをさせられる。
レストランがクローズすると、今度は事務所で酒盛りが始まる。

どこからお酒を調達するかといえば、宴会場の冷蔵庫からだ。
その為に飲み放題プランの時は、実際に出た本数よりも多く伝票を切るようにH氏から固く指示されていた。

私は酒が弱いのでいつもウーロン茶しか飲まなかったが、宴会部門は酒の強い人が多く、毎晩ひとり5本くらいはビールを飲んでいたと思う。
冷蔵庫から運んでくる役割は当然新入りの仕事だった。

H氏の名誉のために補足するが、こうした悪習は彼だけの責任ではない。
このホテルでは、ずっと前から行われてきた事だからだ。それこそ昭和の時代から。
お役所が経営しているホテルだったから、コンプライアンスが行き届いているかというと、そうではない。
国のお金で経営されているホテルには、経営者がいない。支配人という人が全体の責任者だが、おそらくどこかの省庁からの天下りで、2~3年ごとに入れ替わる。
だから社員が不正をしても誰の懐も痛まないのだ。
要するにやりたい放題だった。
共産主義国家で官僚の腐敗が起こる構造もこれと同じだ。
(少子高齢化で年金の財源が足りないなどと言われているが、年金を財源にして建てられたホテルというのは、大体こんなふうに運営されていたのだから、赤字になるのも当然だ。この会社に入る前にも、いくつかのホテルでバイトした経験があるが、○○年金会館みたいな所では仕事終わりに酒を飲む事が慣習になっていた)

結婚式を担当すると、よく新郎新婦の両親から一万円くらいのチップを貰ったが、それも担当者コンビで山分けするのがしきたりだった。最近のホテルではそれも会社に差し出すようになったと聞く。
ちなみになぜかH氏と組んだ時にはチップを分け合った記憶がない。たまたまチップが貰えなかっただけかもしれないが。。。

このホテルは酒好きの人にとっては良い職場かもしれないが、私には苦痛だった。
中途採用で簡単に入れた割に給料はそこそこ良かったのはそういうわけだった。当然社員の定着率は低い。
当時私は新婚で、長男が生まれたばかりの頃だったのに帰りは毎晩終電だった。
更に辛いのは酒盛りに何時間も付き合わされる上に、食べる物が全く無いのだ。
どうせ酒盛りをするのなら、宴会の料理も残しておけばいいのに、と思ったがそれは許されていなかった。
多分、H氏は飲む時は食べないタイプの人なのだろう。本当の酒好きはそうらしいから。

ちなみにH氏が休みの日は、みんなで示し合わせてさっさと帰ったものだった。
今から思うと、H氏がみんなを帰らせないようにしていたのは、教育のためというよりは、酒盛りのためだったのではないだろうか?
宴会部門の人間たちが夜、酒を飲んでいることはフロントや営業の人たちは黙認していた。とはいえ、共犯者が少ないと内部告発されるリスクがある。早番の人間が先に帰ることはそういう点で不都合だったのだ。つまり、みんなを共犯にする事で、自分が安全にタダ酒を飲めるようにする事が真の目的だったのではないか?

そんな職場に三年もいたのだから、あの頃の自分はよく我慢したと思う。
人間というのは結婚して、子供が生まれれば人はモチベーションが上がるものなのだろう。
そのやる気を逆手にとってパワハラが行われるのだから、実に悲惨な状況だったと思う。
今でいう、やり甲斐搾取という奴だ。
もちろん会社にとっての損失も大きかったことだろう。

そんなわけで、私はホテルを辞めて、別の道を進んだのだが、後日談がある。

最近、そのホテルを定年退職した人に会う機会があったのだ。
あの人はどうしたとか、あの時はこうだったとか、思い出話に花が咲いた。
そんな中でH氏の話も聞いた。
あの職場を牛耳っていた人なのだから、さぞや出世したのではと思いきや?
・・・なんとH氏は退職したらしい。

当時は組織ぐるみでやりたい放題だったあの職場にも、その後メスが入る時が来たそうだ。
毎晩のように深夜までやっていたタダ酒飲み放題に、ついに禁止令が出た。

禁止令に逆らって酒瓶を事務所に運び、以前のように酒盛りを復活させようと抵抗するH氏。
そんな彼を最初のうちは庇って注意していた仲間たちだった。
確かにそれまでは、みんなが共犯していたのだから、彼の気持ちもわかるのだろう。
ところが今度はH氏は酒瓶を鞄に詰めて持ち帰るようになってしまったという(さぞ重かったろうに)。
こうなってしまうと後の祭りだ。

若くして宴会部門の責任者になり、職場では一時代を築いたH氏だったが、最後は懲戒解雇されてしまった。

優秀な彼がなぜそんな愚かな行動に走ったのか?

おそらく原因は酒だろう。
長年の習慣が彼の体をアルコール無しではいられなくしてしまったに違いない。

私にとってはつらいパワハラの相手だが、会社にとっては有用な人材だったはずである。
そんなH氏が、アルコール中毒患者になってしまった原因は、間違いなくあのタダ酒だったと思う。

そしてパワハラの原因もその環境にあると言って良いだろう。
H氏は経営者ではないので、社員にサービス残業をさせる事にインセンティブは本来働かないはずだ。
ところがこの会社ではタダ酒を安全に飲むために共犯者を増やすというインセンティブが働いていた。
結局のところ、不正がパワハラやサービス残業を生んでしまっていたことになる。

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