GOLGOのひとりごと
【就業規則】記事一覧
- 2022.08.30
- 退職の種類
- 2022.04.01
- ハラスメントをしてしまうのは悪者よりも愚か者
- 2022.02.04
- 罰金制度の注意点
- 2021.01.10
- 就業規則の持ち出しを禁止してもよいか?
- 2020.09.28
- 育児休業中に有給休暇を取得可能か?
- 2020.04.16
- 給与を取り来ない従業員がいた場合の対処方法
- 2019.09.27
- 従業員代表の適法な選出
- 2019.09.24
- 就業規則の記載事項
- 2019.09.17
- 就業規則の届出手続き
- 2019.06.09
- 降格により減給する場合の金額の限度
- 2019.05.26
- 従業員のメールやパソコンを監視して良いか
- 2019.05.09
- 日々の所定時間を変形させると有休手当の計算でつまづく可能性大
- 2019.04.25
- 残業代の計算
- 2019.04.18
- 「社内恋愛禁止令」は有効か?
- 2019.04.12
- 賞与を支給する対象者は会社が決められる?
- 2019.03.12
- 休業手当
- 2019.03.05
- 労働時間をみなす制度
- 2019.02.19
- 社内恋愛を禁止できるか?
- 2019.01.18
- 出張の移動時間は労働時間になるのか?
- 2018.12.28
- 社内不倫と解雇
- 2018.12.26
- セクハラ防止と対応方法
- 2018.12.18
- ブログやツイッターに会社の悪口を投稿したらクビになる?
- 2018.09.03
- 労働条件の不利益変更
- 2018.08.20
- 能力不足で社員をクビにできるか?
- 2018.08.13
- 休憩時間中の「電話番」
- 2018.05.08
- サマータイム制に必要な法的手続
- 2018.04.23
- 退職金を減額したい
- 2018.03.26
- 固定残業制度
- 2018.02.13
- 休職制度の意味と運用
- 2018.02.06
- 就業規則は作っただけでは効かない
- 2018.01.30
- 懲戒処分(ペナルティー)を与えるには
- 2017.10.15
- 社員が会社のお金を横領・窃盗したら?
- 2017.10.09
- 遅刻や無断欠勤への対処
- 2017.09.10
- 身だしなみに問題がある社員
- 2017.01.24
- 1か月単位の変形労働時間制
- 2016.06.14
- 競合他社へ転職した社員の退職金
- 2016.04.23
- 経歴詐称の社員を解雇できるか
- 2016.03.22
- フレックスタイム制
- 2016.03.15
- 1ヶ月単位の変形労働時間制
- 2016.02.02
- 社内恋愛を会社が禁止できるか
- 2016.01.26
- 懲戒処分を段階的に行う
- 2015.12.16
- 半日単位の有給休暇
- 2015.12.02
- 従業員から休職を申請されたら
- 2015.11.25
- 会社の備品を持ち帰った従業員
- 2015.09.22
- 自主的な残業への残業手当問題
- 2015.06.30
- 通勤手当の注意点
- 2015.06.24
- 休職制度の運用
- 2015.05.11
- 会社合併時の労働条件をどう合わせるか?
- 2015.04.14
- 就業時間中の私用メール
- 2015.02.24
- 懲戒処分について知ってますか?
- 2015.02.17
- 就業規則が有効であるためには条件がある
- 2014.11.15
- 経歴詐称は懲戒解雇できる?
- 2014.11.09
- 就業規則は社員の意見を聞いて作らなくてはならない?
- 2014.05.09
- 解雇にもいろいろある
- 2014.05.01
- 個別の社員の労働条件を変えていいか?
- 2014.04.09
- 社員が逮捕されたら?
- 2014.01.05
- なぜ社員は社長のように考えられないのか?(企業にとっての憲法論)
- 2013.12.14
- 休職制度とは
- 2013.12.05
- 社員を他の店舗へ転勤させるときの注意点
- 2013.11.30
- 親の介護で休みたいとの申し出があったら?
- 2013.11.18
- 「退職証明書」の話
- 2013.10.12
- 社員が裁判員となった時の取り扱い
- 2013.10.01
- 職種によって定年年齢を変えても良いか?
- 2013.09.21
- 社内不倫を理由に解雇できるか?
- 2013.09.16
- 休職を繰り返すうつ病社員への対応
- 2013.09.10
- 管理職の割増賃金
- 2013.07.20
- 就業規則変更による賃金引き下げの話
- 2013.07.05
- 就業規則は誰に効くか?
- 2013.04.30
- 就業規則の話③
- 2013.04.25
- 就業規則の話②
- 2013.04.20
- 就業規則の話①
- 2012.12.28
- ルールのない会社で起こること
- 2012.12.20
- 就業規則の不利益変更
- 2012.09.19
- 競業避止と職業選択の自由の話・1
- 2012.08.01
- 休職期間の話
退職の種類
一口に退職と言っても、様々な種類があります。どのような種類があるか、以下で見ていきましょう。
- 自己都合退職
従業員からの申し出による退職です。従業員が希望した日が退職日となります。就業規則で退職は〇カ月以上前に申し出ること。といった規定を設けることは可能ですが、退職金制度のない会社では実効性はあまりありません。
- 雇用契約期間満了による退職
有期契約社員が雇用契約期間を満了した場合の退職です。雇用契約期間の満了日が退職日となります。雇用契約書の記載事項が重要です。
- 定年退職
会社が定めた退職年齢に達した場合の退職です。定年に達した日の属する月の末日などが退職日となります。
- 休職期間満了後の退職
会社が定めた私傷病による休職制度によるもので、休職期間が満了しても復職できない場合の退職です。休職期間満了日が退職日となります。
- 退職勧奨に合意したことによる退職
この場合は会社側からの働きかけによるものですので、雇用保険の給付は会社都合として給付制限を受けずに受給できます。退職金の上積みなどが行われる場合もあります。
- 解雇されたことによる退職
解雇とは労使の合意を経ず、会社からの一方的な雇用契約の解除のことです。日本では「解雇権濫用法理」があり、労働契約法16条において「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と規定されています。労働者側からの訴訟のリスクに注意が必要です。
- その他
死亡退職や長期欠勤後の退職、役員就任による退職等があります。
労使間では、退職事由や退職日を巡ってのトラブルが多く発生しています。会社の就業規則に退職事由や退職日を明記しておき、双方で認識のずれが生じないよう予め社内で周知しておくと良いでしょう。
ハラスメントをしてしまうのは悪者よりも愚か者
2022年4月から中小企業にもパワハラ防止法が適用されました。
社員に対する安全配慮義務として、会社はハラスメントを防ぐ必要があります。
セクハラは分かっててやる奴は別として、大抵は不用意な人がやってしまいます。
このくらいいいだろうという思い込み。
これは相手がどう思うかが全てなんだから、可能性のあることは全て避けるしかないです。
パワハラは、自分が正しいと思っている人がやってしまう。
正しいと思うから怒っちゃうんです。
昔の自分がそうでした。
「なんでわかってくれないんだよ! キーッ!」
今なら言えます。お前は甘いと。
たとえ正しい事を言っていても感情的になってしまったら負けなんです。
弁護士はケンカのプロですが、優秀な弁護士は感情的になったりしませんから。
暴力はもちろん、机を叩いたり、大声出したりするのもパワハラ。
だからパワハラしないようにするためには、自分の感情をコントロールする技術が必要なんです。上司も部下も。
★性善説のハラスメント予防研修やってます!
ハラスメントを憎んでも何も解決しません。
むしろ自分がハラスメントしないようにするにはどうすればいいかを学ぶことこそが、社会を、職場を、家庭を良くすることにつながります。
ハラスメント防止規程つきです。
罰金制度の注意点
労働基準法第91条では次のように定められています。
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
減給の制裁、つまり制裁を与える目的で減給すること自体は違法ではありませんが、この条文にあるように上限が定められています。そのほか、罰金制度にはいくつか注意点があります。
1、罰金の目的
罰金の目的は、当然嫌がらせや報復、損害賠償などではなく「企業の秩序維持のため」でなければなりません。自社の罰金制度が、始末書や出勤停止、降格のような他の懲戒処分と同様、従業員を「制裁」し、企業秩序の回復を図ることを目的とするものであるかを確認しましょう。
2、罰金の上限
上限は「一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。」とあるように上限が定められています。
例えば平均賃金が10,000円の人に対して、1回の制裁事案に6,000円を差し引くような仕組みは違法になるほか、罰金の1ヶ月の総額が月給の10%を超えることも許されません。
ただし、会社が従業員に対し実損額に基づいて民法上の損害賠償請求を行うことは差し支えありませんので、過失により壊れた備品の修理費用の一部を罰金制度とは別に請求することはできます。
3、「罰金額」の相当性
また、罰金の対象となる「行為」と「罰金額」のバランスが取れていることも必要です。制裁対象となる行為がそもそも罰金にふさわしいものか、その金額は妥当かにも注意が必要です。
就業規則の持ち出しを禁止してもよいか?
従業員から就業規則を社外に持ち出ししたいと申し出があった場合、
会社として、その要望を認めるか否かは会社の自由意思になります。
労働基準法106条および施行規則52条の2によると、
①各作業場(休憩室や事業所共用部等)への掲示・備え付け
②書面を労働者へ交付すること
③磁気テープ、ディスク等に記録、その記録内容を常時確認できる機器の設置
(会社パソコンや共有フォルダ内に就業規則を保管、全従業員が常にアクセスできる状態等)
以上、3つの方法により、周知することを規定します。
従いまして、3つのいずれかによって、周知をすればいいのであり、社外への持ち出しについては法律では何ら定めておりません。
就業規則を社外秘としたい場合はあらかじめ、就業規則に定め、あくまでも会社内で閲覧可能と規則で設定することも一つの手でしょう。
ただし実際には、社外秘と制定する重要度よりも、社外に持ち出したいと申し出があった場合には、その理由を特定することの方が大切でしょう。
育児休業のルール等を詳細に知りたい等の理由の場合は、従業員が知りたい情報についてあらかじめヒアリングをし、解説や案内パンフレット等を用意するのも手でしょう。
しかしながら、万が一会社に違法状態があり、労働基準監督署に駆け込んだり、労働組合に加入したり、弁護士などの第3者に相談するために就業規則の持ち出しを希望する場合、徒らに持ち出し禁止を謳っても余計に従業員の反発を煽ってしまう可能性もあるでしょう。
持ち出し禁止を規則として設けたい場合は、どうして持ち出しを禁止したいかの理由付けを一度整理してみる必要があるかもしれません。
育児休業中に有給休暇を取得可能か?
育児休業中に有給休暇を取得できるか
育児休業中等に有給休暇の有効期限が到来するなどで従業員より、育児休業中の有給休暇が取得できるのか、疑問に思う方もいらっしゃるかと思います。
結論から申し上げますと、原則的には、育児休業期間中に有給休暇を申請することは出来ません。
この点について、厚生労働省より以下の通達が出ております。
「年次有給休暇は、労働義務のある日についてのみ請求できるものであるから、育児休業申出後には、育児休業期間中の日について年次有給休暇を請求する余地はないこと。(以下略)」
有給休暇の性質上、労働日に休みをもらうものであり、育児休業等で、予め労働義務が消滅している場合には、有給休暇は申請することすらできないということになります。
但し、いかなる場合にも有給休暇が取得できないわけではありません。
育児休業を申請する前に、予め、有給休暇の取得が決定している場合には、有給休暇が優先されます。(育児休業給付金の給付決定額の調整対象にはなります。)
参考:厚生労働省通達
「また、育児休業申出前に育児休業期間中の日について時季指定や労使協力に基づく計画付与が行われた場合には、当該日には年次有給休暇を取得したものと解され、当該日に係る賃金支払日については、使用者に所要の賃金支払の義務が生じるものであること。」
育児休業中の就労との関係
育児休業中、10日(10日を超える場合には80時間以下)であれば、一時的・臨時的に就労したとしても、育児休業として認めらます。
このような状況下で、1日4時間で月20日勤務するシフトをした場合、シフト日を有給休暇として、申請出来るのでしょうか?
結論から言いますと、このような場合でも、有給休暇を取得することは出来ません。
そもそも、短時間でのシフトを組んで仕事をした場合には育児休業でいう、一時的・臨時的に就労する場合とはみなされず、育児休業からの復帰とみなされます。
一時的・臨時的就労とは、
大災害で出社できない従業員の臨時対応で就労する場合や、突発的な事態に対応する為、休業中の本人にのみ対応可能な場合等の就労と認めているからです。
在宅勤務や時短での勤務は、恒常的・定期的労働と認められる可能性が高く、育児休業の終了とみなされる場合がございますので、注意しましょう。
給与を取り来ない従業員がいた場合の対処方法
入社したての従業員やアルバイト等、無断欠勤の後、退職をするケースがしばし見受けられます。
突然来なくなった従業員に対し、給与についてどのように対応すべきでしょうか?
給与を支払う義務があるかどうか?
突然来なくなり、やめた社員社員に対しても、会社は賃金の支払い義務はあるのでしょうか?
この点、労働基準法上、働いた分に対しての対価として労働時間に対する給与の支払いは必要となります。(給与の時効は3年となります。)
口座等の登録がされていなかった場合の対処法
近年、給与については従業員の指定口座への振込が主流となっておりますが、
入社したての場合やアルバイトの場合、口座登録がなされないまま、連絡が取れなくなってしまう場合も多く散見されます。
連絡もつかない、給与を取りに来ないといった場合、会社としてどのように対応すべきかといいますと、
① ご家族や身元保証人の連絡先が分かる場合、その方を通じて、ご本人に取りに来てもらう
⇒賃金は直接払いが法律で定められておりますので、代理者が受け取ることは出来ませんのでご注意ください。
② 本人の住所に現金書留にて送付する。
③ 供託制度を利用する
⇒民法494条により、法務局に対し、給与を保管してもらうことにより、会社としての債務を免除することが出来ます。
上記の手段等をとることにより、会社としての責任を全うすることになります。
連絡が取れなくなった社員がいた場合に、取りに来ないからと言って、給与を支払わず、放っておいた場合、給与未払いとして使用者責任が問われる場合もございます。
こういったケースになった場合は連絡がないからといって、放置するのではなく、早めに対応するようにしましょう。
従業員代表の適法な選出
時間外労働に関する協定(いわゆる「36協定」)などの労使協定を締結する際、従業員の過半数を代表する者を従業員代表として締結することが定められています。 また就業規則を作成・変更する際にも、従業員代表の意見を求めなければなりません。
従業員代表の選出については、労基法の規定する監督または管理の地位にある者ではないこと、投票や挙手など民主的手続きによって選出された者であること、という2つの要件を満たす必要があります。
「監督または管理の地位」とは、経営者と一体的な立場にある状態を指し、肩書きや名称に関係なく、その実態で判断されます。また親族を選出する場合は労働者側から見ると使用者との関係性を強く感じてしまい労使間の締結の意味も薄れてしまいますので選出はできないでしょう。
使用者は選出された従業員代表に対して、過半数の代表であること、あるいは過半数代表になろうとしたことを理由に、不利益な取り扱いをしてはいけません。
こうして従業員代表を民主的手法で選出するのは、一義的には「法令で定められているから」であり、また「労使間の紛争やトラブルを適切に解決するため」です。しかしそうした“守り”のねらいだけでなく、過半数の代表を選ぶ過程を通じて、従業員に企業経営への参加意識を持ってもらうことにも大きな意味があります。従業員間はもとより労使間の風通しも良くなり、トラブルの未然防止というメリットも期待できるでしょう。
就業規則の記載事項
就業規則の作成では記載しなければならない事項と定めをする場合に記載しなければならない事項があります。
必ず記載しなければならない事項(絶対的必要記載事項)
① 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、労働者を2組以上に分けて交替で就業させる場合においては就業時転換に関する事項(育児・介護休業法に基づく育児休業、介護休業等も含まれます。)
② 賃金(臨時の賃金等を除きます。)の決定、計算及び支払の方法、締切り及び支払時期、昇給に関する事項
③ 退職(解雇の事由を含みます。)に関する事項
定めをする場合には、記載しなければならない事項(相対的必要記載事項)
① 退職手当の定めをする場合には、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法、退職手当の支払いの時期に関する事項
② 臨時の賃金等(退職手当を除きます。)及び最低賃金の定めをする場合には、これに関する事項
③ 労働者に食費、作業用品、その他の負担をさせる定めをする場合にはこれに関する事項
④ 安全及び衛生に関する定めをする場合には、これに関する事項
⑤ 職業訓練に関する定めをする場合には、これに関する事項
⑥ 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合には、これに関する事項
⑦ 表彰及び制裁の定めをする場合には、その種類及び程度に関する事項
以上のほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合には、これに関する事項
就業規則の届出手続き
常時10人以上の労働者を使用している事業場では就業規則を作成しなければなりません。
また、作成した就業規則は労働者代表の意見を聴き、その意見を添付して、所轄労働基準監督署長に届けでなければなりません。変更した場合も同様です。
「常時10人以上の労働者」には、パートタイム労働者やアルバイト等も含まれます。
就業規則には、職場の秩序を保ち、労働条件の安定と経営の安定に役立つとともに、無用なトラブルを防ぐメリットがありますので9人以下の事業場でも作成をするように努めた方がいいと思います。
就業規則の作成では記載しなければならない事項と定めをする場合に記載しなければならない事項があります。
就業規則は労働基準法等の法令又は労働協約に反してはなりません。また、就業規則で定める基準に達しない労働契約はその部分については無効とされます。
就業規則は事項毎に別規則(例えば賃金規則)とする事もできます。
労働者の一部について、他の労働者と異なる労働条件を定める場合に、別個の就業規則(例えばパートタイム労働者就業規則)を作成するときは、本則に委任規程を設ける事は望ましいでしょう。
制定に際しては労働者代表の意見の徴収が必要となります。意見を聴く労働者代表とは事業場の過半数で組織する労働組合があればその労働組合、そのような労働組合が無ければ事業場のパートタイム労働者やアルバイト等を含む全労働者の過半数を代表する者の事です。
降格により減給する場合の金額の限度
「給与を減額する場合、10%以内でないといけない」ということが言われますが、それは労働基準法の「減給の制裁」の規定を言っているものと思われます。
減給の制裁:
就業規則で労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、1回の 額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはいけません。
労働者保護のために減給幅を決めているものです。
しかし、懲戒による減給でなく、降格した結果役職手当がなくなった、役職手当額が変わった、ということであれば労働基準法第91条に抵触はしません。役職に対する適格性がないため下位の役職に格下げすることにより給与が下がる場合、10%に限られません。
ただし、給与を下げる場合は労使の対立が深刻化しがちですから、以下の点もご留意ください。(懲戒処分が重くなるほど客観性が求められ、より慎重を期す必要があります。)
・就業規則の懲戒条項に則ったものであること(客観的にみて懲戒事由が降格に相当であること)
・懲戒事由が本人に原因があること
・挽回の機会を与えていること
・不公平な取り扱いでないこと
・役職の変更に伴い明らかに職務内容が変わっていること
降給処分そのものが目的で、職務や責任が変わらない表面的、形式的な降格とみなされるときには問題となる場合もありますので実質的な降格(降職)を伴うことに注意してください。
従業員のメールやパソコンを監視して良いか
今やパソコンやスマホなどのデジタルデバイスは仕事に欠かせないものです。しかし、便利な機械ゆえに仕事とは関係のないこと(ゲームや金融投資、ネットサーフィン、プライベートな連絡など)も手元で手軽にできます。勤務時間に業務と関係のないことをしないように会社としては監視をしたいところですが、法律的に社員のパソコンを監視することは可能なのでしょうか。
プライバシーとの問題
近年の個人情報に関する権利意識の強まりもあるために、社員のデジタルデバイスのモニタリングをする場合には注意が必要です。
就業規則への記載と周知
まずは就業規則への根拠の記載が必要でしょう。
メールやウェブアクセスの監視に関する規程や就業規則への記載をしましょう。そして、就業規則に基づいてモニタリングをする可能性があることをしっかしとした形で周知しておくことも大事なことです。就業規則への記載がなかったり、従業員にその内容が周知されていなかったりすると、たとえ業務に使用するパソコンであったとしても「プライバシーの侵害」とみなされる場合があります。
理由の説明
モニタリングをする必要がある理由をしっかりと説明することもトラブル予防のためには大切なことです。営業秘密情報を漏れないようにするため、業務効率化をして早く帰れるようにするため、ガバナンスのためなど合理的な理由を説明し、業務と関係のないことをしないよう労働者に対して牽制をしてトラブル予防をしましょう。
実際にモニタリングをするとなるとそこに人的コストがかかります。社内のモラルをしっかりと保ちましょう。
日々の所定時間を変形させると有休手当の計算でつまづく可能性大
フレックスタイム制や変形労働時間制を採用する場合、日々の所定労働時間を変形させることが可能です。
(例)
月火水木金土日
89599休休
↑
有休
時給制の労働者に対し、このような変形を行った場合、水曜日の有休に対する給与(有休手当)は5時間分となります。
変形労働時間制は一カ月単位であっても一年単位であっても、必ず予め所定労働時間を変形させることが要件とされておりますので、そのルールを守っている限りは有休手当をいくら払えば良いか分からないといった問題は生じないはずです。
ところが、フレックスタイム制ではそうはいきません。
始業と終業の時間を労働者の判断に委ねるのがフレックスタイム制なので、ある日に有休を取得したとしても、その日の所定労働時間が何時間かは会社側には分からないことになります。
(例)
月火水木金土日
89?99休休
↑
有休
このような場合に、もしこの労働者が時給制だったら、有給手当をいくら払えばいいか?という問題が生じます。
(対応方法その1)平均賃金を使用する
平均賃金とは・・・・事由の発生した日以前3か月間に、その労働者に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数(暦日数)で除した金額(日額)
・予め就業規則や雇用契約書において有休手当を平均賃金で支払うという決め事をしておく必要があります。
・計算が複雑で手間がかかります。
(対応方法その2)標準となる1日の労働時間を使用する
フレックスタイム制を採用する場合には、労使協定の締結が必要です。その労使協定の中で「標準となる1日の労働時間」を定めることとなっております。
・労使協定で定め、周知する必要があります。
・計算に手間が掛かりません。
後者の方が圧倒的に便利です。
なお、変形労働時間制を採用しているかのように見せかけて、実際には予め日々の所定時間を決めず、実際に働いた時間に合わせてさもそれが元々の予定であったかのように偽るケースが見受けられますが、これは違法です。通称「結果フレックス」と呼んでおりますが、このようなケースでは、そもそもの変形労働時間制の要件を満たしておりませんので、所定時間の変形そのものが無効となってしまいます。
そうなると、元々の原則どおりの所定労働時間(例えば1日8時間、1週40時間)が適用となり、ここからはみ出した労働時間はすべて時間外労働となります。
そして、このような場合に特に、有給手当の計算ができなくなるのです。
ある日に有休を取得したとして、その日の所定労働時間は元々定められておらず、実際に働いた時間に合わせて所定労働時間を決めるわけですから、有休で休んでいる日の所定労働時間は決めようがないのです。
そして、フレックスタイム制ではないため、標準となる一日の労働時間も決められていないはずです。苦し紛れに平均賃金を使用するくらいしか手がありませんが、有休の都度、平均賃金を算定するのはきっと手間が掛かることでしょう。
今後、有休取得が当たり前になる時代がやってくると思われますが、こうした矛盾点も同時に炙り出されてくることになりそうです。
残業代の計算
残業代(残業手当)とは法定勤務時間時間を超過して勤務した時に支払われるものです。労働基準法により、会社に勤める社員の法定勤務時間の上限は1日8時間、週40時間と決められています。しかし、忙しい時期などは定時上がりができず、1日に8時間を超過して勤務した場合、残業扱いになります。
そして残業には、「法定外残業」と、「法定内残業」2種類があります。
種類
「法定外残業」とは、法律で定められた法定労働時間を過ぎて勤務した場合の残業を言います。一方で、法定労働時間の中に収まっているが会社の所定労働時間を超えて労働した場合の残業は「法定内残業」と呼ばれています。
法定時間外労働の残業時間の計算
残業代の計算のためにはまず1時間当たりの計算単価を求めます。
時間給の場合:時間給=単価
日給の場合:日給÷所定労働時間(法定労働時間内)=単価
月給の場合:月給÷(所定労働日数×所定労働時間)
このうち、月給の場合は基本給だけでなく手当も含みます。ただし、実費弁償的な意味合いの大きい手当(通勤手当、家族手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当)や、臨時に支払われる大入り袋などの手当は計算単価から除いて計算することができます。
計算単価に対して、法定残業の場合は125%以上(月間60時間以上の場合150%以上※中小企業特例あり)の割増率を乗じます。一方で法定内残業をした場合は、時間数に、会社規定の1時間あたりの単価をかければいいだけです。
また、夜10時から朝5時までの深夜間に残業させた場合、深夜労働手当として、割増で残業代を払うことが義務となっており、深夜労働の残業手当は、深夜時間帯分の中で働いた時間数に1時間あたりの給与をかけて、そこにさらに0.25をかけることで算出できます。
「社内恋愛禁止令」は有効か?
業務上の都合から社内恋愛を禁止している会社は存在しているようです。
社内恋愛を禁止する会社としては、社内恋愛を禁止することにより企業秩序や風紀を維持したいという意図があります。
例えば上司と部下が社内恋愛中だとして、不公平な査定が行われたり、経営上の重要な事項が漏れてしまったりという問題が発生することもありえます。また、交際が終わった場合には、気まずい関係性が仕事にも支障をきたしたり、場合によってはどちらかが退職、さらにはセクハラやストーカーなどといったより重大な事態を招いてしまう恐れさえあります。
さて、表題の「社内恋愛=クビ」という社内ルールに問題があるかという点についてですが、就業規則などに社内恋愛を禁止する規定をすることは前述した通り全く不合理であるとは言えないため可能だが、その規定があるから即ち解雇にすることには問題がある。」というのが答えになるでしょう。実際に社内恋愛により業務上の支障がある場合には、指導をしたり配置転換をしたりして問題解決を図るというのが現実的な対処方法でしょう。
配置転換:
公然とベタベタしていて仕事が進まない、目に余る様子で職場に悪影響が発生し出すと、「業務上の支障がある」という理由で配置転換ができるでしょう。ただし、会社としては、配置転換を行う前に十分な注意や指導を行っておくのが望ましいでしょう。
懲戒:
懲戒権の行使については、就業規則で懲戒処分を下すことができる旨の取り決めがあったとしても、社内恋愛発覚=即処分というわけにはいきません。
日本国憲法第19条
思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
恋愛も思想のひとつですから、両者が合意して付き合うこと自体は会社が介入できることではありません。
社内恋愛をしても、それが単に私生活上のものとして行われているぶんには問題ないわけで、それが公知の事実となっていろいろな問題が顕在化し、業務が円滑に運営できなくなった場合に限って懲戒処分ができます。つまり、恋愛そのものではなく、恋愛の結果として起こる業務上の不都合を招くような行為を禁止することであれば可能です。
賞与を支給する対象者は会社が決められる?
賞与はボーナスや一時金などども呼ばれ、毎月決まって支給される賃金とは別に、夏休み前や年末、事業年度末などに支給されるものです。
賞与の意味合いは様々です。個人の業績評価的な意味合いのこともあれば、会社全体の利益分配のためであることもあります。年俸の一部としてあらかじめ支給額が決まっている場合もあるでしょう。
上記のうち年俸制により確約されているものを除けば、賞与は必ず支給しなければならないものではなく、その支給基準、支給対象者、支給額、支給日などは原則として労使間の就業規則や賃金規程などで自由に決めることができます。つまり、基本的に「支給日に在籍していること」を賞与の支給要件とすることは法的に差し支えないと判断され、支給日在籍者にのみ賞与を支給しても問題ないと判断できます。
ただし、支給日在籍者だけに限定するとしても、退職日を自ら選択できない定年退職者や解雇の場合などは、特別に支給対象者とするなどのケアをすることが望ましいでしょう。
また、営業成績に連動するよう計算式が明確になっている場合は、「その期間に在籍して営業成績を出したのだから、途中でやめるまでの賞与をもらう権利がある」という労働者側の主張を許すことになります。賃金規程などで「支給日当日に在籍していないと支給しない」と明文化して起きトラブルを防ぎましょう。
休業手当
休業手当を簡単に説明すると「会社のせいで(労働者は働けるのに)休ませた場合は、一定額の保障をしなければならない手当」のことを言います。
例えば製造業において生産調整をするために工場の稼働を停める場合や、業績不振で休ませる場合などが当たります。これらの休業に対しては、労働基準法により平均賃金の6割以上の休業手当の支払いを強制的に使用者に義務づけられています。
休業手当を払うべきか払わなくても良いかについては、その休業の事情がどのようなものであるかにより異なります。
経営上の障害
労基法26条でいう「帰責事由:会社の責めに帰すべき事由」の範囲には、使用者側に起因する「経営上の障害」を含むものとされています(ノース・ウェスト航空事件・最二小判昭和62年7月17日)。
経営上の障害の例として以下のような事情があります。
・親会社の経営難のため、そこから資金や資材の提供を受けて操業している下請工場が操業を停止せざるをえなくなったような場合
・会社の設備が壊れたなどの設備の欠陥等に基づく休業
・行政官庁の勧告や業務停止命令による休業
・採用内定者に対して、経営状況が悪化したから自宅待機を命じる休業
天災地変の場合
地震や火災などの災害の場合、その災害が不可抗力で使用者側がどうしようもない事情だった場合は、休業手当の支払い義務は発生しません。ただし、普通に考えて会社の防災対策が足りていない場合など会社の体制に問題があった場合は休業手当の支払い義務が発生することがあります。
休業手当の額
労働基準法では、平均賃金の6割以上の休業手当の支払いを規定しています。
平均賃金とは、休業前3ヶ月の給与総額を暦日数で割って求めます。
労働時間をみなす制度
労働基準法では使用者が労働者を働かせていい時間は1日8時間、週40時間までとされています。しかし、営業のように1日の大半を社外で労働するなど労働時間の算定が困難な業務や、業務の遂行方法を労働者本人の裁量に委ねる必要がある業務などには、事前に決められた時間を働いたと「みなす」、みなし労働時間制を認めています。
みなし労働時間制には(1)事業場外みなし労働時間制と(2)裁量労働制の2つがあり、(裁量労働制には更に2種類に分かれます。
(1)事業場外みなし労働時間制
事業場外みなし労働時間制は、営業職で外回りなどで労働時間を正確に把握することが難し場合に、会社が対象者についてを適用し、実労働時間に拘らずあらかじめ決められた時間分だけ働いたとみなすことが許されています。
もちろん外回りでも細かい指示の下で働いていたり、時間配分が決められているなど労働時間の算定が可能であることもあり、その場合は事業場外労働みなし制の適用にはなりません。現代ではスマートフォンなどで逐一指示ができる状態であることを考えると、外回りの営業だからといってみなし労働時間制が認められるとは限りません。
(2)裁量労働制
裁量労働制には「専門業務型」と「企画業務型」があります。
「専門業務型」は特定の業務を対象として採用できる制度で、研究開発など会社や上司から具体的な指示が無い中で行う業務が当てはまります。その業務は「弁護士」「テレビのプロデューサー」など職種で具体的に決められています。
対象となっている業務は、労働者自身で時間配分や仕事の進め方を決めて働いた方が合理的だとされ、1日8時間週40時間という労働時間にとらわれず、あらかじめ労使協定によって定めた時間分労働したとみなすことができます。
「企画業務型」は企業において企画、立案など行う業務に就いている労働者を対象とし、専門型と同様労働者自身が労働時間の配分を決めていきますが、専門型よりも制度を実施するための手続きが複雑です。労使委員会を作り、「企画業務型」を実施するための決議をする必要があり、決議後に労働基準監督署に届出を提出し、労働者本人からの同意を得ることで制度を実施することが可能になります。
社内恋愛を禁止できるか?
会社として、社員同士の恋愛を禁止としたい場合があります。社内恋愛によるデメリットとしては以下のようなものが挙げられます。
・付き合っていることでイチャイチャして周りの社員が不快に思う
・スタッフ同士の交流に公平性がなくなる
・痴話喧嘩が元で会社の運営に支障をきたす
・別れる時に片方または両方が退職する
・お客様が不快に思う
特に退職は重要な問題で、企業が多くの投資をして雇った社員が退職してしまうのは痛手です。会社は社内恋愛の禁止をすることができるでしょうか。
原則としては恋愛禁止はダメ
本来、恋愛は個人の自由で行われる私生活上のものであり、会社が過度に干渉することは許されません。個人間の恋愛は禁止したからといって抑止できるものではありません。
企業秩序の維持のために懲戒が認められることもある
ただし、社内恋愛行為が結果として会社に迷惑をかけていることが明らかであれば、何らかのペナルティーを与えることは可能でしょう。たとえば女性が接客をするサービス業においては、社内恋愛は女性の商品価値を貶めるかもしれません。また、社内恋愛関係にある二人がお互いを明らかにえこひいきして営業成績をよくするなどの行為も秩序を乱していると言えそうです。
社内恋愛による悪影響が客観的に見て相当重大である場合や、会社の信用を著しく失墜させた場合であれば、懲戒や配置転換も可能でしょう。
ただ、社内恋愛をしたから減給するとか、配置転換をするというのは、「よっぽどの悪影響がある」場合に限られます。その悪影響を立証することができない場合は、懲戒が不当となります。
出張の移動時間は労働時間になるのか?
会社の出張となると、長時間の移動が発生してくることが多くなりますが、出張の際の移動時間は、労働時間とされるのでしょうか?
1 労働時間の定義
労働時間とは、「使用者または監督者の下で労務に服しなければならない時間」のことを指します。
キーワードは「指揮命令下」です。
労働者が使用者の下で労働するにあたり、使用者の指揮命令下にあって、行動が制限される時間であるかがポイントになります。直接「働け」と言葉で命令されているかということではなく、実態で指揮命令下にあるかを確認し労働時間であるかどうかを判断します。
2 出張の場合
出張の移動時間について、原則的としては労働時間としてカウントされないことが多いでしょう。
出張の目的は、あくまでも「出張先で業務を行うこと」であり、そのための移動は例え音楽を聴く、ゲームをする、食事をするなど私的な行動を制限されない時間なので、業務を行なうための「日常の出勤」と同じ性質のものと考えられ、基本労働時間とはならないのです。
3 労働時間になる場合
ただし、物品の運搬自体や物品の監視等について特別の指示がなされている出張などは、移動中においても物品の管理義務が生じるため、「業務中」(=労働時間)と考えられる事があります。重要な機密文書を運んでいる時も、緊張を強いることになるため、場合によって労働時間となる事があります。
出張だから一様に労働時間出ないと判断するのでなく、指揮命令下にある状態であるかを検討した上で、適宜賃金を支払うなど対処をしてください。
社内不倫と解雇
男性従業員(既婚)と女性従業員が不倫関係にあるとの噂が職場内に広まっている場合、会社はどのように対応すれば良いでしょうか。
通常の社内恋愛ならばともかく、不倫ということで、社内風紀への影響も考えられます。会社として何らかの措置が必要なのか?また解雇も可能なのでしょうか?
・事実の確認
まずは事実確認が必要です。ただの噂なのか事実なのかを、プライバシーにも留意し、当事者に状況を確認してください。
・会社への悪影響を検討
事実であったとしても、その不倫が必ず会社の運営に悪影響を与えるとは限りません。まったく職務に影響はなく、プライベートな問題と言い切れる程度、犯罪行為などに該当しない限りは会社に与える影響も小さいと考えられ、社内不倫ということだけでは解雇などの重い懲戒処分とすることは難しいでしょう。
一方で、例えば不倫が社外にも漏えいし、会社のイメージダウンにもなる場合や、不倫相手の配偶者が会社に怒鳴り込んできて刃傷沙汰に発展したりすれば、会社は当事者を厳しく懲戒与えることも検討して良いでしょう。
・セクハラとの関係
また、勤務時間中の不倫行為を目撃し、周りの従業員が性的に嫌な思いをすれば「セクハラ」との関係も出てきます。不倫行為が性的不快行為となるものであれば、会社は職場環境を健全に保つ為に、当事者に懲戒を行うなどが必要でしょう。
・就業規則に基づく懲戒
不倫関係(行為)が会社に悪影響を及ぼしていたら就業規則の定めによって、軽い順から譴責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇などの対象になります。
たしかにいきなりの解雇は困難ですが、まずは口頭で注意。それでも改善されなければ、段階的に処分を科していけば解雇も認められやすくなるでしょう。
セクハラ防止と対応方法
女性が被害にあうと思われがちなセクシャルハラスメントですが、近年では男性が被害者になることも少なくはありません。
セクハラは体に触るなどの物理的なものだけでなく,下ネタを言う、セクシーなポスターや画像などを見える場所に置くなどの行動も場合によっては該当します。嫌なら嫌と拒否することができれば良いですが、パワハラ同様、立場が上の人からのセクハラにはなかなか意見しにくく、特に被害が深刻化することがあります。
セクハラの問題は、プライベートの問題のように見えますが、職場で起こるセクハラ問題について、会社として、「放置」という対応には問題があります。なぜなら会社には雇用する労働者を、職場で、健康かつ安全に働いてもらうよう配慮する「安全配慮義務」義務があるからです。
職場における男女の差別を禁止し、あらゆる面で男女とも平等に扱うことを定めた「男女雇用機会均等法」という法律があり、その中で、セクシャル・ハラスメント防止のため、事業主に対して雇用上の管理を義務づけています。
そのため会社側は個人の問題として扱うのではなく、会社の大きな問題の一つとして、就業規則などにセクハラ防止を規定するなどセクハラに関する以上の方針を明確にし、同時に相談窓口を作るなど、あらかじめ、労働者に対して周知、啓発をしておくことが大切です。
それでもセクハラが起こってしまったときは、そのセクハラの事実関係を、迅速かつ正確に把握する必要があり、事実であった場合は速やかに、被害者の安全を確保し、また加害者に対する懲戒を検討するなどして事態の改善を図ってください。
ブログやツイッターに会社の悪口を投稿したらクビになる?
ブログやツイッター、フェイスブックなどのSNSで会社の不満や、悪口の投稿をした場合、会社は罰則を与えることはできるでしょうか。
規定があれば原則は可能
原則として、就業規則に定めてあれば懲戒を行うことは可能です。例えば、「会社の信用を落とす言動や発信をしたら懲戒します」「会社の信用を損なう言動の結果発生した損害については損害賠償請求をします」と就業規則に規定してあれば、それを根拠に懲戒を行うことは可能でしょう。
会社の悪事を通報した場合は別
ところが、その投稿内容が「会社の悪事を通報した場合」は話が違います。
例えば飲食店において、「○○さんが床に落とした食品を戻してそのまま調理した。」という投稿をした場合、「会社の衛生管理上の問題や不正を世に知らしめた」という点においては公益になる通報である為、法律でその通報行為が保護されます。
賞味期限切れの食肉を販売している企業の行為が社会的に問題になったことがありましたが、内部からの通報により会社の不正が明るみになった事例です。実際にその投稿が「内部告発」なのか「悪意のある悪口」なのかの判断は公益通報者保護法に規定された要件を満たすことを証拠に基づいて証明する必要があります。根拠の明確でない会社の悪口はやはり懲戒対象となるでしょう。
おふざけ投稿、プライベートな情報の公開は厳しく罰するべき
一方で、会社の設備や在庫物品を使って悪ふざけをしている場合、それは会社の営業に甚大な被害を与えかねません。コンビニ店員が冷凍庫に入ったり、ピザ屋のアルバイトがピザ生地を顔に貼り付けたりする悪ふざけによって営業停止や廃業になる場合もあります。
上司や同僚の趣味思考や恋愛事情をいたずらに公開する行為もプライバシーを侵害するものである為、会社としては注意指導をした方が良いでしょう。
労働条件の不利益変更
労働条件は会社と社員が対等に合意したものであるため、会社が一方的に条件を不利益に変える行為は制限されます。しかし、経済事情や会社の財務状態、社員の不公平是正などの必要から不利益な変更をしなければならない場合もあるでしょう。どのような場合に不利益変更が認められるのでしょうか。
ポイント:
不利益変更に関するポイントは以下の通りです。
① 労働者の同意を得ずに、労働条件を一方的に不利益に変更することは原則としてできません。
② ただし、労働条件を不利益に変更することについて合理的な理由がある場合には、有効とされることがあります。社員全体に影響する事案の場合、不利益変更が合理的なものであれば、これに同意しない労働者も拘束されます。
合理的とはどういうことか:
「当該規則条項が合理的なものであるとは,当該就業規則の作成又は変更が,その必要性及び内容の両面からみて,それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても,なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものであることをいうと解される。特に,賃金,退職金など労働者にとって重要な権利,労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については,当該条項が,そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において,その効力を生ずるものというべきである。」
このように言われています。
合理的かどうかを判断する方法:
上記の合理性の有無は,具体的には,次の事情等を総合考慮して判断すべきである。
l 労働者が被る不利益の程度
l 使用者側の変更の必要性の内容・程度
l 変更後の就業規則の内容自体の相当性
l 代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況
l 労働組合等との交渉の経緯,他の労働組合又は他の従業員の対応
l 同種事項に関する我が国社会における一般的状況等
能力不足で社員をクビにできるか?
日本の労働法は、戦後の「長期雇用」「年功序列」「家族主義」という会社組織における価値観の影響を多分に受けています。能力がないからといって簡単に解雇できないようになっています。
証拠を集める必要がある
従業員を能力不足により解雇しようとする場合、会社は
1、 従業員に労働契約の前提となる能力が不足していること
2、 能力不足がひどいので労働契約の目的を果たすことができないこと
3、 あるいは能力不足が著しく、社内の連携を乱すなどの事情があること
これらのことを説明できるだけの証拠を揃えなければなりません。前述したように、長期雇用を前提とした日本の価値観に基づくと、「能力がない社員に教育をし、教えて育てること」が求められます。
ただし、対象者の置かれている状況によっても違うでしょう。
例えば、学卒の若者の場合は、「最初のうちはある程度社会常識や能力が高くないことを予見できた」中で採用したわけですから、能力不足解雇は容易でないでしょう。逆に高い報酬で、高い能力を見込んで採用した中途社員であれば、能力不足を客観的に証明することもできやすいでしょう。
専門職社員などの場合も、その職務を遂行するために必要な一定の能力、経験、スキルが「最初の約束=雇用契約と比べて」明確に欠けている場合には、労働契約の債務不履行となり、能力不足による解雇が認められる可能性が高くなるでしょう。
能力不足で解雇をするならば、求めている能力が何なのかを客観的に証明できる(定量化できる)指標で示し、試用期間などを用いてパフォーマンスを計測するくらいの周到さが必要であると思ってください。
休憩時間中の「電話番」
小規模の事業であれば、休憩時間中も事務員に電話番を頼むことがありますが、労働法から考えると注意が必要です。
労働時間とは
労働時間と休憩時間の違いとはなんでしょうか。労働時間とは、「使用者の指揮命令下にある時間帯」であり、休憩時間とは、使用者の指揮命令下にない時間帯のことをいいます。
つまり休憩時間とは、使用者が労働者に対して、業務上の指示をしてはいけない時間帯ということになります。電話番は「電話がなったらでなければならない」わけですから、休憩時間とは厳密に呼べないことになります。
休憩の原則
労働基準法では、休憩の3原則があります。
① 休憩時間は自由に、
② 労働時間の途中に、
③ 一斉(業種によっては一斉に取得しなくてもいい業種もあります。たとえば販売業など)
に取得させることが明示されています。
休憩時間数
法律上付与しなければならない休憩時間は次のように決まっています。
労働時間8時間越え→60分以上
6時間越え8時間以下→45分以上
6時間以下→なくてよい
近年の労働裁判においては、「休憩時間か労働時間か」を巡って争いになることも少なくありません。例えば、「休憩1時間となっているが、実際は昼ごはんも食べられないほど忙しく、30分しか取れていなかった」という主張をされ、その主張が認められることもあります。1日30分の休憩時間が労働時間とみなされるだけでも積もり積もると大きな賃金不払いとなってしまいますので、休憩中の業務指示には注意しましょう。
サマータイム制に必要な法的手続
夏場になるとサマータイムと称して、始業終業の時刻を繰り上げする会社が最近増えてきました。
これ自体は、労働者に負担を強いることではなく、むしろ時間の有効活用を狙って行われている施策だと思います。
ですが、法的には何も問題は無いのでしょうか?
何ら書類を整えることなく「サマータイム」だから・・・といった理由でやってしまっていいのでしょうか?
ちなみにこれが一年単位の変形労働時間制の会社だったらどうでしょうか?
一年変形の協定書には、勤務時間という項目があります。厚生労働省の雛形にはご丁寧に始業終業の時刻まで書かれています。だとしたら、サマータイムをやる時は、一年変形協定にも盛り込まなければならないのでしょうか?
答えはNOです。
法律には一年単位の変形労働時間制を実施する場合には、「労働日ごとの労働時間」を記載せよと書かれているのであって、「始業終業の時刻」まで書けとは書かれていないからです。
紛らわしい雛形ですね(笑)
ですのでサマータイムをやる会社の一年変形協定書では、「所定労働時間は8時間とする」などと書いておき、始業終業の時刻は書かずにおけば大丈夫です。
次に就業規則はどうでしょう?
こちらは法律にしっかりと「始業終業の時刻」を書けと書かれていますので、書かないわけにはいきません。
ところが、サマータイムをいつからいつまでどのくらいやるかは毎年その時期になってから決めているような会社もあるでしょう。そういう場合はどうしたらいいのか?
そのような会社では、始業終業の時刻は標準的なものを書いておいて、これを繰り上げまたは繰り下げすることがある旨を書いておけば大丈夫です。
労務管理って、面倒ですね。
たかだかサマータイムくらいのことで、こんなややこしい専門知識が必要になるなんて・・・。
退職金を減額したい
人間関係が悪化した結果退職した社員に対して、退職金を減額したい、あるいは支払いたくないという心情は理解できなくもありませんが、法律的には簡単に減額できる訳ではありません。
退職金制度があるにも関わらず、会社が退職金の不支給や減額を行おうというのであれば、予め「不支給条項」や「減額条項」、つまり●●の時には不支給(減額)とするというルールを退職金規定に定めておく必要があります。
簡単に減額してはいけないのは、退職金が「賃金の後払い的な性質」を持っているからです。つまり、長く勤めてもらうことを奨励するために、社員に払うお金の一部をプールしておいて、長く勤めたことと引き換えに退職時に渡すという性格があるため、簡単に減額をすることを許さないという訳です。
ただし、減額が許されない「退職金」は、「退職金規程において制度化されている退職金」のことです。退職金規程がなく、状況によってその都度支払うものは、「恩恵的な給付」という性格が強いでしょう。。
退職金減額の根拠として正しいかどうかの例は以下の通りです。
・円満退職でないときは不支給とする
→恣意的に取り扱いできるので認められないでしょう。
・懲戒解雇された従業員には不支給とする
→合理的で認められやすいでしょう。ただし、懲戒解雇が認められるのは余程の悪事を働いた時に限られるので、一般的な解雇では認められにくいと考えてください。
・懲戒を受けた従業員には減額をする
→程度問題ですが、全く不可能という訳ではありません。就業規則の懲戒規程にしっかり根拠を書いておくと良いでしょう。
固定残業制度
残業についての社会的な関心もあり、最近は特に「定額残業制度」についての整備は必要な場合が多いでしょう。
「月額の給与に残業代も含んでいる」と言えるようにするためにはどのような要件があるでしょうか。
要件1
就業規則に固定残業制度について規定されていること
まずは会社のルールブックである就業規則(賃金規程)に固定残業制度が規定されている必要があります。その際、「定額残業で定める時間数を超えて残業した場合は差額を支給する」という文言も必要です。
要件2
雇用契約書にも記載されてあること
就業規則が会社全体の約束事であることに対し、雇用契約書は個別の労働者と労働条件について合意している証拠です。その雇用契約書に「定額残業代部分が、それ以外の賃金と、明確に区分されていること」「定額残業代部分には、何時間分の残業代が含まれているのかが、明確に定められていること」が必要です。
要件3
時間外労働(残業)時間が、要件2で定めた時間を超えた場合は、別途割増賃金の支払うこと
固定残業制度=残業管理をしなくて良い訳ではなく、毎月差額が発生するか否かをチェックしている実態が必要です。
要件4
給与明細でも基本給と固定残業手当が分離して表記してあること
社員の手元に届く給与明細でも分離して表記してなければなりません。就業規則だけでは不十分です。
休職制度の意味と運用
休職制度とは、一般に病気やけが、出向などをするため一定期間仕事をすることができないときに、在籍のまま仕事の中止を命ずる制度です。法律で義務付けられているわけではありませんので、まったく休職制度を設けないことも可能ですが、現実的には「病気で働けないのであれば即時に解雇」という取扱いをすることも難しいため、退職までの猶予期間として設けている会社が多いでしょう。
休職は会社に決定権がある:
よく勘違いされますが、休職は労働者の当然の権利ではありません。そもそも病気で休みがちな人を積極的に会社が採用することは通常ありえないことで、決められた日数を健康な状態で働くことを期待して雇っているはずです。言い換えると、労働契約は会社の「給料を支払う義務」と労働者の「健康に働く義務」を交換し合っているものですから、「健康に労働ができない」ということは本来契約違反であり解雇の理由にもなりえます。
そこに特例として病気などの事情を考慮して「すぐに解雇などはしないが、今はパフォーマンスが低い状態だから休むこと」と会社から命令をするのが休職命令です。
つまり、休職開始の手続きの順序は以下の流れが適切でしょう。
1、本人が病気などの事情を理由に休職願を申し出る。
2、会社が休職理由や状態などを考慮し、休職の命令をする。
病気療養中の休職者には治療に専念する義務がある:
休職者には当然「しっかり治療に専念する義務」があります。精神疾患による休職の場合など、休職中に会社から連絡を取ることをためらうこともありますが、「治療に専念する義務」を果たしているかを確認するという目的の範囲内であれば、会社は休職者に容体の報告をさせることができます。
復職の決定権も会社にある:
一方で復職の際の決定権も会社にあります。本人が復帰できると主張しても、「元の業務に戻れるか、配置転換が必要か」「もとの勤務時間で働けるか」「主治医以外の医師の意見はどうか」など、会社側の基準に従って慎重に復職の可否を判断するようにしましょう。
就業規則は作っただけでは効かない
作成した就業規則が有効であると会社が主張するためには、以下の点に特に注意する必要があります。
1、従業員に周知をしていること
2、その内容が合理的であること
「周知」という言葉の定義については「従業員が見ようと思ったら見ることができること」とされています。例えば次のような状態を指します。
・常時事業場の見やすい場所に掲示してある、または誰もが手に取れる書棚に保管してある。
・コピーが従業員に配布されている
・会社のパソコンのデスクトップなどにワードデータが保存されている
「就業規則は②のように全従業員に配布しなければならないのか」という質問がありますが、労働基準法上の「周知」は配布までは義務付けていません。
ただし、「周知がちゃんとされていたか否か」ということは労働問題が起きた時に争点になりやすいことも確かです。後になって「就業規則があることを知らなかった」という言い分に対抗できるように、会社としては慎重に就業規則周知方法を選択しなければなりません。
次に「合理的な内容であるか否か」についてですが、こちらは裁判所において判断することになります。内容が労働基準法を下回る場合は無効となりますが、そうでなければ合理性は争っている事案ごとにケースバイケースで決定されます。
例えば、時代の流れに合わせて出張の日当を減額する就業規則変更を行った場合、その日当減額が「会社側の論理としては合理的」でも「客観的な財務状態や労働者の不利益の程度の面からみて合理性がない」と裁判所で判断されることもあります。
なお、事業所の労働者数が10人以上の場合は就業規則を労働基準監督署へ届出する義務がありますので忘れないようにしましょう。
懲戒処分(ペナルティー)を与えるには
遅刻をする、セクハラやパワハラで風紀を乱す、会社の悪評を吹聴するなど、社員の問題行動に対して会社はどのように対処すれば良いでしょうか。
法律的なポイント
懲戒をするには、以下のポイントが重要です。
(1)会社は企業秩序を定立し維持する権限(企業秩序定立権)を持っており、労働者は労働契約を締結したことによって企業秩序遵守義務を負うことから、会社は労働者の企業秩序違反行為に対して制裁罰として懲戒を課すことができる。
→会社は集団で動いているわけですから、集団の秩序を守るように労働者に求めることはできます。
社員として働く以上は「時間通りに出社する」「不正をしない」「会社の評判を不当に貶めない」などのルールを守ってもらうことは当然です。
(2)ただし、労働者を懲戒するには、予め「就業規則」において懲戒の種別及び事由を定めておかなければならない。
→ペナルティーを科すためには、根拠がなければなりません。その根拠は会社のルールブックである就業規則において定めなければなりません。
「暴力を振るってはいけない」「お金を盗んではいけない」などの当たり前のことであっても、就業規則の●条に書いてある禁止事項に違反している、というふうに指摘しなければならないわけです。もちろん社会の常識から逸脱するものを咎めることが全くできないわけではないですが、常識というものが人によって解釈のズレがあるものである以上、できるだけ細かくルールを規定することは懲戒をする上では必要と考えましょう。
(3)懲戒事案を定めた就業規則が有効となり、労働者に対する拘束力を生ずるためには、その内容について、当該就業規則の適用を受ける事業場の労働者に「周知」させる手続が採られていなければならない。
→いくらルールがあっても、それを知らせていないならば「そんなルールがあると認識していなかった」という言い訳を許すことになりかねません。
就業規則を製本して誰もが見える場所に備えつけたり、PDFデータを共有のパソコンのデスクトップに保存しておくなどの周知を怠らないことも重要です。
社員が会社のお金を横領・窃盗したら?
現金を取り扱う部署では、従業員の金銭上の不正にも特に注意しなければなりません。また、会社の備品を不正に持ち帰るような行動も取り締まる必要があります。従業員が現金を横領したり、会社の備品を盗んだりしたことが発覚した場合、会社はどのように対応すればよいでしょうか。
まずは事実確認
当然ながら、横領や窃盗が事実であるかどうかを確認することが最も優先します。確たる証拠がない段階で問い詰めた場合、しらを切られ、不正の隠蔽をされてしまう可能性もありますので、しっかりと調査をしてください。
証拠が確かに存在する場合は、当人と面談し、不正が事実であることを認めさせる必要があります。事実を認めさせる方法としては、口頭でなく「顛末書」など書面で行うことが望ましいでしょう。顛末は「横領・窃盗時期、回数、金額、方法、使途、返済の意思の有無、返済の時期、方法」など、できるだけ詳細に書かせるとよいでしょう。
処分決定
顛末書並びにさらなる周辺事実の調査をした上で、当人に対する処分を決定します。処分が下るまでの間は、証拠隠蔽などを防ぐため自宅謹慎を命じることも検討してください。
金銭の横領や窃盗は「刑法犯」です。したがって刑事告訴するかどうかという問題が生じます。刑事告訴するかどうかは、横領・窃盗した金銭の額や頻度、横領・窃盗した金額の返済の有無などによって判断することとなります。
多くの就業規則には「窃盗や横領」の類の刑法犯は大きく信頼関係を損なう事案であるため、「懲戒解雇事由」として規定されています。温情で諭旨退職扱いにすることはあっても、秩序維持のため、原則としては厳しく処分を行うべき事案です。
いずれにせよ、慎重な調査と冷静な判断が必要ですので、社労士など専門家にも意見を聞きながら処分検討をしてください。
遅刻や無断欠勤への対処
遅刻や急な欠勤、または無断欠勤が多い従業員は、組織に一定の割合で存在します。彼らの行動は、時間を「自分中心」に捉えており、人へ与える迷惑を考えていない点で問題があります。業種・業態によっては柔軟な働き方がふさわしく、厳格な時間管理が馴染まないものもありますが、それでも対外的な印象や、社内で時間をちゃんと守っている従業員とのバランスを考えると、注意指導する必要があるでしょう。
① 記録:
当然ながら、遅刻や無断欠勤の事実を記録しておくことが重要です。タイムカードその他の方法で不正打刻ができない環境を整え、遅刻や無断欠勤の事実を明らかにし、記録しておきましょう。
② 本人の言い分を聞く:
次に、遅刻や欠勤について本人から理由をヒアリングします。病気が原因である場合などやむをえない理由がある時は、状況に応じて特別な対応をすることがあるかもしれません。
③ 再発防止策を指導する:
それから、遅刻や無断欠勤などをしないようにするための「再発防止策」を本人から出させて、指導書などに記録をすると良いでしょう。会社の対応として書面記録をするすることは、本人への自覚をより一層促す意味でも効果があるといえます。ただし、始末書の提出については、会社が作成した雛形を「強要」することは避けてください。
それでも態度が改まらず、無意味な遅刻を繰り返してしまう場合、さらに重い退職勧奨、あるいは懲戒処分として一番重い懲戒解雇といった処分も段階的に検討すべきかもしれません。
身だしなみに問題がある社員
化粧が派手すぎる、服装が華美すぎる、衣服が整っていない、清潔感がない、ヒゲなどを伸ばしっぱなしにしている等の身だしなみについて、会社が注意指導できるでしょうか。
身だしなみについては、会社は一定の規律を定め、守らせる権限があると解されるでしょう。ただし、その規律に職務上の合理性がさほどなく、個人の自由を侵害している場合は話が変わってきます。会社が従業員を絶対的に支配するような指示や命令が許されるわけではないので、その範囲は「会社の円滑な運営上必要かつ合理的な範囲内」にとどまるべきと言えます。
ドレスコード制定
身だしなみについての規律を定める上では、就業規則その他社内規定にドレスコードを規定する方法があります。髪の毛の明るさの範囲や、ヒゲの許容範囲、衣服の色や履物の範囲、装飾品や刺青など、望ましい格好の基準を作り、周知してはいかがでしょうか。
その際に、企業理念や目指すサービスレベルなどを根拠とし、「このサービスを行うためにはこのようなドレスコードがあったほうが良い」と従業員が納得できるように工夫しても良いかもしれません。
化粧や服装等の身だしなみの問題は、基本的には注意や指導をして改善させるべき問題です。その際には、業務遂行にどのような支障が生じるのかを説明して指導する必要があります。
ちなみに、男性の上司が女性の(あるいは女性上司が男性の)身だしなみについて指導した場合、指導をセクハラだと言われることがありますが、職種や業務内容に照らして必要かつ合理的な身だしなみの指導はセクハラではないでしょう。そもそも、セクハラ云々ではなく、企業理念を軸に相応しい格好であるか否かを論じることができる組織作りをしたいものです。
1か月単位の変形労働時間制
労働基準法では「1日8時間、1週40時間」を法定限度としてうたっています(一部週44時間が法定労働時間の場合もあります)。
週40時間を8時間で割ると「5」、つまり週40時間制は基本的に週休二日(週5日勤務)を想定していることがわかります。
ところが現実には完全週休二日でない働き方を認めたほうが都合の良い場面がたくさんあります。例えば「上旬は忙しいから週休1日、中旬は暇なので週休二日かつ1時間勤務時間を短縮する」などの柔軟性があったほうが労使双方のニーズに合うこともあるでしょう。
このように原則的な法定労働時間とは違う勤務体制をとることが法律で認められており、「変形労働時間制」と呼ばれます。
1ヶ月の単位で勤務日や勤務時間を柔軟にしたい場合は「1ヶ月単位で」変形労働時間制を採用するとよいでしょう。
変形労働時間制では、労使協定や就業規則で変形労働時間制についてうたっておいて、対象となる月の開始前までに
・休日
・日ごとの労働時間
・対象者
などを決めて運用します。
要は「特定の日や週で原則ルール(法定労働時間)を超えていても、1ヶ月単位で見ると週の平均労働時間が法定労働時間を下回っていればOK」ということです。
うまくいけば暇な時期に社員を拘束せずに済みますし、忙しい時期に残業となる時間を抑制できます。
柔軟な働き方を考えたい場合は変形労働時間制の導入を検討してはいかがでしょうか。
競合他社へ転職した社員の退職金
退職後、同業他社へ転職した社員に対して、会社側の心情としては退職金の減額や不支給をしたいと考えても仕方のない部分はあります。ただし、退職金を減額または不支給とすることは簡単ではありません。
原則:
退職金の支払い基準は会社が自由に定めることができますが、通常退職金は「勤続年数」等を基準として計算されますので、その意味で「在籍中の賃金を後払いする」という性格があると考えられます。そのため、「○○の場合には退職金の減額・不支給とする」と定めたとしても、その程度は合理的範囲に制限されます。
同業他社への転職の制限:
では、同業他社へ転職する者への支給制限をすることは合理的でしょうか。
退職後、同業他社に転職した者に対する退職金の減額・不支給条項を設けることも、違法ではありません。しかし、裁判例から考えれば、禁止する競業の範囲(場所・期間等)を合理的な範囲にとどめたうえで、その代償措置を設けるか、あるいは強度に背信的な場合に全額不支給とするというのが現実的な措置でしょう。一般的には退職金の減額にとどめておくのが妥当です。
つまり、「○年以内は競業他社へ就職をした場合、退職金を○%減額する」「競業とは商圏(会社から半径○㎞範囲等)とする」「競業への就職を制限する社員は、○○の役職以上の職に就くものとする」などの決まりをきちんと就業規則などに定めておいた上で、競業への就職を制限する代わりに在職中に○○手当を支給するなどの状況を整えておかなければ、退職金の減額は難しくなるでしょう。
実際に競合会社へ転職する社員は正直にそのことを会社に言わないでしょうから、その確認も簡単ではありません。在職中から退職金規程などをしっかりと周知し、背任的な転職をしないように抑止するしかないというのが実情です。
経歴詐称の社員を解雇できるか
就職の際に会社に提出する履歴書は直接合否に関わってくる非常に重要な書類です。
さて、少しでも採用される確率を上げようと履歴書に嘘の情報を書いてしまい、これが後でバレた場合、クビになったり何らかの処分を受ける事になるのでしょうか?
○嘘を書くことそのものは罪にならない
法律上では、履歴書や職務経歴書のような書類は嘘の情報を書いたことそのものが罪に問われるわけではありません。
○採用条件に直接関わるかどうかが重要
しかし、履歴書に嘘を書いた結果、会社に損害を与えたり、その嘘の内容によって会社の判断を惑わせた場合、当然それは懲戒処分を受けたり、損害賠償を求められたりする可能性は十分にあります。
例えば履歴書に「宅建(宅地建物取引主任者)の資格を取得済み」と嘘を書いて不動産関連の会社に就職したり、「管理職としての経験がある」と嘘の職務経歴を提出して、実はその仕事を行なう能力が十分に無かったりすれば、会社は明らかにその被害を受けている被害者ということになります。
逆に「勤続年数を少しだけゴマかして書いた」とか、「経歴を多少大げさに書いた」という程度であれば、それが仕事に直接影響したという事実が無ければ解雇などの懲戒処分を行なうのは認められないと考えられます。
つまり、履歴書等に事実と違う内容を書いた場合に処分の対象になるかどうかは、その影響の大きさによって異なるということです。
どれくらいのレベルの嘘が懲戒処分の対象になるかは、過去に行われた裁判を見る限り、「ここまでがセーフ」というラインを引くのは非常に難しいと思います。
書類に嘘を書いたことが原因で懲戒処分の対象になった場合は、まずその処分が本当に正しいものであるかどうかよく考えてみて下さい。
そして「不当処分だ!」と感じたら、専門家に詳しい状況を説明して判断をしてもらう必要があるでしょう。
フレックスタイム制
フレックスタイム制とは、始業時刻と終業時刻の決定を社員自身に任せる制度です。
○フレックスタイム制のメリット
労働者が自由に出社や退社の時刻を決定することで、仕事と生活のバランスがとりやすくなったり、通勤ラッシュを避けられるなどのメリットがあります。使用者は、フレキシブルタイム(労働者がその選択により労働することができる時間帯)を定めたり、会議などのために従業員の出社を確保する必要に備えて、コアタイム(労働者が労働しなければならない時間帯)を設定することもできます。
○フレックスタイム制を採用するには
フレックスタイム制を採用するには、始業・終業時刻の決定を労働者に委ねる旨を就業規則で定める必要があります。これにより労働者は、労働契約上、始業・終業時刻の決定権を取得します。このほかに、使用者は事業場に過半数労働者を組織する労働組合があればその組合、そうした組合がない場合は過半数代表者と労使協定を締結し、フレックスタイム制の対象者範囲、1カ月以内の期間(フレックスタイム制導入の単位期間を「清算期間」といいます)、清算期間の総労働時間、および1日の標準労働時間を決めます。また、コアタイムやフレキシブルタイムを設ける場合はその時間帯を定めることが必要になります。
○フレックスタイム制における残業代
フレックスタイム制では1日・1週の労働時間ではなく、清算期間内の労働時間合計を超えたかどうかによって時間外労働の有無が判断されます。
1ヶ月単位の変形労働時間制
1ヶ月単位の変形労働時間制とは1ヶ月を平均して1週間の労働時間が週40時間以下になっていれば、 労働時間が1日8時間、週40時間を超えても、時間外労働の扱いをしなくて済むという制度です。この制度は1ヶ月の中で繁閑に差がある場合に導入することが適しています。
○ 労使協定などに定めること
労使協定または就業規則その他これに準ずるものにより、この制度に関する規定を設ける必要があります。
この際、各日および各週の労働時間を具体的に定めておく必要があります。つまり、勤務カレンダーなどで勤務日やその日ごとの勤務時間を毎月決めなければならなりません。会社が業務の都合によって自由に労働時間を変更することはできません。
○ 時間外労働となる場合
1日または1週の法定労働時間を超えて労働させることができますが、以下の場合には時間外労働となります。
① 労使協定などにより8時間を超える時間を定めた日はその時間を、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間。
② 労使協定などにより40時間を超える時間を定めた週はその時間を、それ以外の週は40時間を超えて労働した時間。(①で時間外労働となる時間を除く)
③ 変形期間については、以下の式により計算される変形期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間。(①または②で時間外労働となる時間を除く)
→40(時間)×変形期間の暦日数/7
社内恋愛を会社が禁止できるか
結論から先に書くと、社内恋愛を会社が禁止をすることはできないと解されます。男女が誰と交際しようともそれは当人たちの自由であり、憲法でも私的領域の確保が保障されているため、たとえ就業規則などで社内恋愛を禁止する条文を設けたとしてもそれは「無効」となります。
ただし、社内恋愛行為が「結果として」会社の運営に支障を与えた場合、その支障を与えた部分については会社がペナルティーを科すことができます。
例えば同じ部署の者同士が社内恋愛をしていて、仲が悪くなった結果社内のコミュニケーションや連携に支障が出たとか、部下と不倫関係にある上司が人事評価を不当に高くしたりといった問題が起きた場合、その社内秩序を乱した行為に応じて配置転換を命じたり、減給などの懲戒を行うことは可能です。
就業規則上の規定
社内恋愛について就業規則上ルールを決めたいのであれば、「社内恋愛を禁止することはしないが、社内恋愛が結果として会社に迷惑をかけた場合、一定のペナルティーの可能性がある」旨定めておくとよいでしょう。ただ、社内恋愛禁止と言うルールを公言すると、障害があることでかえって恋愛が盛り上がるという可能性もあります。ルール化する際は「本当に社内恋愛の抑止になるか?」という観点でよく考えることをおすすめします。
逆に社内に男女がいることで、(異性によいところを見せようとして)それぞれのモチベーションやパフォーマンスが上がるという側面もあります。一律に社内恋愛ご法度とするばかりが労務管理ではないかもしれません。
懲戒処分を段階的に行う
懲戒処分は会社が行う教育的指導ですので、指導は段階的に行う必要があります。例えば学校で軽微な校則違反に対してすぐに退学処分をすることは「罰と違反行為が釣り合っていない」と言えるでしょう。同様に軽微な就業規則違反についてただちに解雇処分をすることは、あまりに罰が重すぎると判断される可能性が高いでしょう。
懲戒処分はつまり段階的に、ふさわしいものを科すべきであるという原則をまずは知りましょう。そのうえで懲戒処分において大事なポイントをご紹介します。
大事なポイント1:「本人の言い分を聞く」
懲戒処分を行うということは何か「悪いこと」をしていたからでしょうから、その悪いことが本当にあったのか、本人にその言い分を聞くことが必要です。例えば遅刻に対して直ちに懲戒を行うのではなく、なぜ遅れたのか、事情を汲んでやる必要はないかを検討してください。始末書などで本人の言い分や事実関係の情報を集める方法もあります。
大事なポイント2:とはいえ「始末書」は強制できない
ところが始末書は会社が提出を強制することができません。憲法19条において「思想、良心の自由」が保障されてるという趣旨から、本人の意に反する意見を強要することはできないとされてます(もちろん事実を報告するように言い渡す権限はあります)。悪かったことを認めさせようと高圧的に出過ぎてしまうとパワハラの可能性が出てきますので注意してください。
大事なポイント3:就業規則上の根拠を調べておく
会社が懲戒処分を行うことができるのは、原則として「これをしたら懲戒する」と就業規則などで規定されている内容に限ります。就業規則に根拠が求められるかを懲戒処分前に確認しましょう。
半日単位の有給休暇
年次有給休暇については、原則として「1日単位」で与えなければならないとされています。その1日とは「午前0時から深夜24時まで」を指します。
なぜ1日単位で有休を取らせなければならないかと言うと、有休が「労働者の疲労回復、リフレッシュ」を目的としているからです。疲労回復、リフレッシュのためには、まるまる1日仕事をしなくてよいという状態にしなければならない、と法律では決めていることになります。
ところが、実際には「通院をする」「子供の急なお迎え」など、まる1日は休まなくてもよいという事情があります。この場合、つまり労働者側の要望があった場合、会社は半日単位で有給休暇を与えてもよいことになっています。別の言い方をすると、「うちには半日単位の有休制度を認めない」としてもよいです。ただし、従業員の満足度や利便性を考えるとやはり半日有休は認めたほうが実運用しやすいでしょう。
半日の考え方:
半日単位の有給休暇については、以下のふたつの考え方があります。
①午前と午後にわける
②所定労働時間を半分にわける
例えば午前9時から午後6時までの8時間が所定の会社であった場合、午前3時間、午後5時間なわけですから、午前よりも午後に有休を取ったほうがその日の労働時間は少なくなります。公平にするなら②を選ぶべきということになりますが、実際には①のルールの方が使い勝手がよいため採用されていることが多いでしょう。
従業員から休職を申請されたら
休職とは、病気やけが(業務上の理由でないもの)によって働けない場合に、労働義務を免除することをいます。よく勘違いされていますが、休職は労働者の権利ではありません。あくまでも会社が「休め」と命令するものであることに注意が必要です。
雇用契約に基づく義務:
会社と従業員の間には「雇用契約」が結ばれています。雇用契約を結んでいる以上、法律的にはそれぞれ次の義務があります。
①会社側は給与を支払う義務がある
②従業員側は働く義務がある
ですから、従業員側が自分の病気やけがで働けないことは、雇用契約上の義務に違反していることになります。厳しい言い方をすれば自分の都合で働けない状態になったわけですから、本来であれば解雇事由にもあたるはずのものですが、病気は仕方がないということで一定期間の猶予期間を設けて「療養しなさい」と命令することを休職といいます。
よって、従業員から休職を求められたらといって、必ず認めなければならないわけではありませんし、就業規則に載せる義務もありません。あくまで会社側が主導権を持って命令します。
「ウチに休職制度はないから、病気になったら有給休暇を取得してくれ」というスタンスでも問題ありません。
ただし、現実的には「働けなければ辞めてくれ」とバッサリ切り捨てることもなかなかできないでしょうから、必要に応じて療養に協力して、安心して勤めることができる環境づくりをしていくとよいでしょう。
会社の備品を持ち帰った従業員
ボールペンなどの文房具や、トイレットペーパー、お茶、コーヒーなどを自宅に持ち帰ることはもちろんよいことではありません。許可を得ず会社のお金で買った備品を私物化することは、厳しい言い方をすると横領や窃盗に当たります。
ただし、だからと言って解雇をできるかというと、解雇と言う処分は「重すぎる」と見なされることが多いでしょう。
懲戒の相当性:
懲戒、つまり会社から従業員へのペナルティーは、「悪いことをしたことを認識させて、もう一度同じことをしないように指導する」目的で行います。そして、悪事に対してあまりにかけ離れたペナルティーを科してしまうと、あとで労使紛争に発展した時には「ペナルティーが重すぎる」とみなされてしまう可能性があります。
例えば今回のように、ちょっと会社のコーヒーを持ち帰って私物化したことに対して、いきなり懲戒解雇をすることは重すぎる懲戒処分とみなされるでしょう。解雇は労働者の生活を一気に脅かすペナルティーですから、それ相応の悪事を働いた場合に限られます。
対策:
会社の備品を私物化しているという事態がわかったら、始末書などの事実確認文書を提出させ、内容について注意と指導を行い、さらに指導日と指導内容を記録しておくことです。
再発するようならば、備品を持ち出せないような保管方法に改めるなど労働環境の整備を行うことも必要でしょう。
このように、会社としては指導や改善を繰り返し試みたにもかかわらず悪事を続ける場合は悪質ですので、だんだんと厳しい処分にしていってもよいでしょう。
自主的な残業への残業手当問題
会社が指示していないのに残業をした場合でも、残業手当の支払いが必要なのでしょうか。
労働時間の定義:
労働時間とは以下のふたつを指します。
①会社が働くように義務付けている時間
②形式的には会社は働くことを義務付けていないが、実質的には義務付けているのと同じと見なされる時間
①の時間はいわゆる「所定労働時間」です。9時から18時まで勤務、休憩12-13時であれば、「9時から12時まで」、「13時から18時まで」が①の時間に当たります。
②は例えば以下のような時間を指します。
・昼休憩時間中に電話番をさせている時間
・始業前に作業着に着替える時間
・始業前の機会の点検やパソコンの立ち上げ、終業時の後始末の時間
・強制参加の研修や教育の時間
これらのいずれかに該当すればそれは労働時間なので、会社はその時間分の給与を支払わなければなりません。
では自主的な残業はどうかというと、たとえ会社が残業を命令していなかったとしても、「黙示の指示」をしている場合は労働時間に当たるとされています。
黙示の指示とは次のような状態を指します。
・所定時間内ではとうてい終わらない量の仕事を与えている
・会社が残業状態を知りながら黙認している
この場合は、たとえ会社が命令していない残業であっても労働時間となり、残業手当の支払いが必要になってきます。この「黙示の指示」をしている状態でないか、自社の状況をチェックしてみてください。
通勤手当の注意点
通勤手当は、通勤定期代などの実費を支給するものとして定着していますが、実は法律上必ず払わなければならないものではありません。
通勤手当を支給するかどうか、上限をいくらにするかについては会社が自由に決めることができます。ただしほとんどの企業で支給されている手当であるため、求人の際のアピール度などを考えると一定額の支給をしたほうがよいでしょう。
通勤手当の支給額については以下のポイントに注意して決めてください。
ポイント1 通勤手段の限定
会社が通勤手段を限定することは可能です。自家用車やバイク通勤を駐車場事情や安全面の観点から禁止する必要があるケースもあるでしょう。自社の状況に合わせて通勤手段を検討してください。
交通費支給の無駄を防ぐためには通勤ルートの申請をさせることも有効です。無駄に遠回りとなる通勤方法の申請があった場合には、経済的なルートを選ぶように指導してください。
「電車通勤」と会社に申請して定期代をもらっていながら節約のため「自転車通勤」をしているなど、会社が許可しない通勤手段をとっている場合は「経費を架空に請求している」点などで問題が出てきます。適正なルールを定めて運用しましょう。
ポイント2 所得税法上の非課税限度基準と上限設定
「通勤手当の上限をいくらにするか」は、言い換えると「どのくらい遠くからの通勤を想定するか」ということです。求人募集の範囲、現在の従業員の通勤範囲などを見ながら適切な上限を設定してください。通勤手当の上限設定のもうひとつの基準として、「所得税法上の非課税限度基準」を参考にするケースも多いです。
ポイント3 交通事故のリスク対策
通勤途中の交通事故について、会社は一定の責任を負うことになります。マイカー通勤途中で重大な事故を起こした時には労災保険や自賠責保険だけでは充分でないため、一定基準以上の自動車任意保険の加入義務付けるなどのルールを作るとよいでしょう。
休職制度の運用
休職制度とは、一般に病気やけが、出向などをするため一定期間仕事をすることができないときに、在籍のまま仕事の中止を命ずる制度です。法律で義務付けられているわけではありませんので、まったく休職制度を設けないことも可能ですが、現実的には「病気で働けないのであれば即時に解雇」という取扱いをすることも難しいため、退職までの猶予期間として設けている会社が多いでしょう。
休職は会社に決定権がある:
よく勘違いされますが、休職は労働者の当然の権利ではありません。そもそも病気で休みがちな人を積極的に会社が採用することは通常ありえないことで、決められた日数を健康な状態で働くことを期待して雇っているはずです。言い換えると、労働契約は会社の「給料を支払う義務」と労働者の「健康に働く義務」を交換し合っているものですから、「健康に労働ができない」ということは本来契約違反であり解雇の理由にもなりえます。そこに特例として病気などの事情を考慮して「すぐに解雇などはしないが、今はパフォーマンスが低い状態だから休むこと」と会社から命令をするのが休職命令です。
つまり、休職開始の手続きの順序は以下の流れが適切でしょう。
1、本人が病気などの事情を理由に休職願を申し出る。
2、会社が休職理由や状態などを考慮し、休職の命令をする。
病気療養中の休職者には治療に専念する義務がある:
本来働かなければならないのに、特別扱いで休むことを会社から命じられているわけですから、休職者には当然「しっかり治療に専念する義務」があります。精神疾患による休職の場合など、休職中に会社から連絡を取ることをためらうこともありますが、「治療に専念する義務」を果たしているかを確認するという目的の範囲内であれば、会社は休職者に容体の報告をさせることができます。
復職の決定権も会社にある:
一方で復職の際の決定権も会社にあります。本人が復帰できると主張しても、「元の業務に戻れるか、配置転換が必要か」「もとの勤務時間で働けるか」「主治医以外の医師の意見はどうか」など、会社側の基準に従って慎重に復職の可否を判断してください。
会社合併時の労働条件をどう合わせるか?
会社の合併が行われた場合、別々の会社で働いていた従業員の労働条件をどう調整するかが問題となります。
そもそも合併とは…
2つ以上の会社が合併契約により1つの会社になることを言います。合併には①新設合併と②吸収合併の2種類あり、新設合併とは、合併対象となる全部の会社が解散して新たに会社を設立することを言い、吸収合併とは、ある1社(以下:存続会社)が合併後も存続し、そこに解散した他の会社(以下:消滅会社)が吸収されることを言います。
消滅会社が持っていた権利や負っていた義務は、新設会社又は存続会社に全面的に引き継がれます。この中には労働関係も含まれるため、消滅会社で働いていた従業員の労働条件も引き継がれることになります。この場合、存続会社の従業員とは労働条件が異なっているため、統一させる必要があります。そこで、統一方法として3つほどご紹介します。
1、全て高いほうの労働条件にする
2、全て低いほうの労働条件にする
3、内容によって高いほうも低いほうも採用するが、全体的には従業員の不利益にならない労働条件にする
1は、会社にとって負担が大きいため現実的でなく、2は社員の不利益が大きいため労使トラブルに発展する可能性が高いです。そのため、選ぶなら3と言うことになります。
ただ、低いほうの労働条件も採用するため、不利益に変更される箇所もでてきます。この場合、「不利益変更をする合理性」が認められなければなりません。
例えば、退職金の金額を少なくしたとしたら、代わりに休日を増やしたりする等、全体的には社員の不利益にならないように策を講じているかが判断材料となります。
合併後に労働条件を調整する場合、従業員にとってある程度の不利益な変更になることは避けられないのではないかと思います。そのような場合、代わりに有益な措置を設ける等、誠意を持った対応をしていくことが望ましいでしょう。
就業時間中の私用メール
仕事中の私用メールについて
私用メールのやり取りをしている場合、下記のような問題が起こることが予想されます。
・不正に私的利用するため、ウイルス感染のリスクがある。
・個人情報や会社情報の漏えいの恐れがある。
・勤務時間を業務以外に使うことにより生産性が落ちる
・さぼりが横行し、労務管理上の士気が落ちる。
これらを予防するために有効な手段を2つほどご紹介します。
1、社内メールのモニタリング
監視(モニタリング)することは、裁判例でも合法とされています。ただし、就業規則等の社内規定に定める必要がありますし(定め方は下記2参照)、監視行為が無制限に許されるわけではありません。監視する立場でない者や、監視の目的が興味本位で必要以上の閲覧をすれば、プライバシーの侵害にあたると解されています。
2、就業規則に定める
トラブルの防止策としては、就業規則に次のような文言を定めておくと良いでしょう。
「就業時間中の私用メールは全面禁止とする」
「私用メールは業務に差支えない程度で節度をもって行う」
「メールの利用状況は、会社が閲覧することができる」
また、就業規則に定めておくだけではなく、しっかりと従業員にこれらのルールがあることを周知することが重要です。
従業員が私用メールを送ることは、単に仕事をさぼっている事だけでは収まらず、会社の情報漏洩など、大きな損害につながる恐れがあります。就業時間中に私的なことに時間を使う従業員が多いようであれば、トラブルが起こる前にメール使用についてのルールを作りましょう。
懲戒処分について知ってますか?
◆就業規則に定めておく必要がある
懲戒処分を行うためには、あらかじめ就業規則に①懲戒事由と②懲戒処分の種類を定めていることが前提となります。
例えば、繰り返し遅刻または早退した場合(①懲戒事由)に、減給(②懲戒処分の種類)に処するなどの事柄を就業規則に明記しておかなければなりません。
◆二重処罰の禁止
懲戒には、1つの違反行為に対して1つの処分を下すという決まりがあり、同じ行為を2回懲戒処分にすることはできません。例えば、無断欠勤をした従業員に減給の懲戒処分を下した場合、さらに出勤停止という懲戒処分を下すことはできません。
◆段階的に処分を行っているか
従業員が懲戒事由に該当する事柄を行ったからといって、懲戒解雇にした場合、ほぼ認められません。なぜなら、懲戒解雇は最も重い処分であるため、「時間をかけてこれだけの指導をした」という客観的な理由を示せない限り、裁判所では有効とは判断してくれないからです。
問題を起こす従業員がいる場合には、軽い懲戒処分から始め、改善しないようなら次の重さの懲戒処分をという風に、段階的に処分を重くしていく必要があります。また、その過程を書面に記録しておくことも重要です。
◆本人の言い分を聞くこと
会社側は懲戒処分を下す前に、本人の言い分を聞く必要があります。方法としては口頭でも文書での提出でも、どちらでも構いません。
懲戒は、あくまで教育的な指導です。どういう行為をしたら懲戒処分に該当するのか、就業規則に定めておくことは必要ですが、処分を行うことを「目的」とせず、従業員を指導するための「手段」だと言うことを忘れないでください。
就業規則が有効であるためには条件がある
就業規則が有効であると会社が主張するためには、以下の点に特に注意する必要があります。
1、従業員に周知をしていること
2、その内容が合理的であること
「周知」という言葉の定義については「従業員が見ようと思ったら見ることができること」とされています。例えば次のような状態を指します。
l 常時事業場の見やすい場所に掲示してある、または誰もが手に取れる書棚に保管してある。
l コピーが従業員に配布されている
l 会社のパソコンのデスクトップなどにワードデータが保存されている
「就業規則は②のように前従業員に配布しなければならないのか」という質問がありますが、労働基準法上の「周知」は配布までは義務付けていません。ただし、「周知がちゃんとされていたか否か」ということは労働問題が起きた時に争点になりやすいことも確かです。後になって「就業規則があることを知らなかった」という言い分に対抗できるように、会社としては慎重に就業規則周知方法を選択しなければなりません。
次に「合理的な内容であるか否か」についてですが、こちらは裁判所において判断することになります。内容が労働基準法を下回る場合は無効となりますが、そうでなければ合理性は争っている事案ごとにケースバイケースで決定されます。例えば、時代の流れに合わせて出張の日当を減額する就業規則変更を行った場合、その日当減額が「会社側の論理としては合理的」でも「客観的な財務状態や労働者の不利益の程度の面からみて合理性がない」と裁判所で判断されることもあります。
就業規則の周知方法、条文の合理性については、社会保険労務士などの専門家にアドバイスをもらうとよいでしょう。
経歴詐称は懲戒解雇できる?
重要な経歴詐称は、懲戒解雇の対象
労務管理上の「重要な経歴詐称」とは、おもに「犯罪歴」と「最終学歴・保有資格の嘘」を言います。
この二つが重要な経歴詐称とされる理由は、それらが応募者などの採用の合否や、人員配置や処遇の決定に大きくかかわる要因であるためです。
たとえば、採用面接の段階では、個人の能力等についての判断材料が他にないことから、会社は応募者の最終学歴を知識・技能及び能力確認のための目安のひとつにせざるをえません。また、信頼第一の会社にとってみれば、犯罪歴がある人を採用すれば、会社の信頼が大きく揺らぐことにもなりかねません。
さらに、経歴詐称は入社後の給与処遇にも影響してきます。例えば最終学歴をもとに給与を決定する会社の場合、高卒の人が大卒と偽れば、大卒者に相当する給与を受け取ることができてしまいます。また、業務に必要な免許資格を持っていないのに、資格保有者として業務を行わせ、結果事故が発生してしまうと会社の社会的な責任の度合いも大きくなるでしょう。
このように、会社の労務管理上の判断を誤らせるような詐称は、経営に支障をきたすことになる恐れもあるため、過去の裁判例では「重要な経歴詐称は懲戒解雇の理由になる」としています。
具体的な企業秩序違反が生じない場合は注意
ただし、上記のような具体的な企業秩序違反が生じない詐称の場合(つまりその詐称がその実際に会社の秩序を大きく乱したとまでは言えない場合)、単に詐称の事実のみから懲戒解雇することは認められませんので注意してください。
採用し、入社させた従業員を解雇するには、手間も時間もかかります。それを未然に防ぐため、採用の段階での応募者とのコミュニケーション、どんな人物なのかの見極めが重要になってくるでしょう。
就業規則は社員の意見を聞いて作らなくてはならない?
常時10人以上の労働者を使用する事業場では、必ず就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署長に届け出なければなりません。では、その就業規則を届け出する際に、社員の意見を聴く必要があるのでしょうか。
①労働者代表の意見を聴く必要あり
「労働者代表」とは、その事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合にはその組合、ない場合には労働者の過半数を代表する者を指します。
就業規則を届け出する際には、「労働者代表」の意見を聴き、意見書を作成し添付する必要がある事が、労働基準法に明記されています。
「労働者代表」の同意を得る必要はないものの、意見を聴き、反対意見に関しては説明を行うことも大切です。
②意見は聴くだけでも良い
就業規則の作成、または変更する際は、あくまで労働者代表の「意見を聴くのみ」で足り、同意を求める必要はありません。反対意見があったとしても、就業規則の効力には影響はしないのです。また、労働者代表が意見聴取に協力せず、意見書を作成できないような場合には、その事実を客観的に証明すれば、意見書を提出する必要はありません。
就業規則は、会社で働く従業員にとってのルールであり、職場環境整備に役立てることができます。仮に、従業員側から反対意見が出てきたとしたら、無視をするのではなく、尊重し、意見に耳を傾ける姿勢を示せば、導入後もトラブルが起きる可能性は低いことでしょう。
解雇にもいろいろある
解雇とは、会社側から一方的に雇用契約を解除する行為ですが、その解雇には普通解雇、整理解雇、懲戒解雇の3種類があります。
【普通解雇】
普通解雇とは、従業員が勤務するにあたって、会社側と約束したこと(能力や勤務態度など)が実行できなかったことを理由する解雇です。
例えばパソコンを使用して仕事を行う場合、パソコンの使い方がわからなければ仕事になりません。その意味では「パソコンを一定程度使えるという能力」が足りなかったことになります。しかし、パソコンの操作方法がわからないからといって、即座に解雇することは難しいでしょう。
まずはパソコンの操作方法を教え、操作が出来るように指導する必要があります。解雇に対するハードルが高い日本においては、「根気よく何か月も指導したが、全く操作を覚えない」というような前提を踏まえていなければ解雇は認められないと思ってください。
【整理解雇】
整理解雇とは、経営状況悪化のために、従業員を減らすことを目的とする会社都合の解雇です。整理解雇が認められるためには。4つの要件が必要となります。
①本当に人員削減が必要か
どうしてもリストラを行わなければならない理由が必要となります。
②解雇を避けるために努力をしたか
解雇は最終手段です。整理解雇を行う前に会社は次のような努力をしなければなりません。役員報酬の削減、希望退職者の募集、新規採用の抑制、配置転換や出向等です。
③解雇をする従業員の選定は合理的か
人事権のある人物が、個人的感情で選定してはいけません。勤務態度や営業成績等の客観的な判断基準が必要です。
④整理解雇までの手続きは妥当なものか
整理解雇の対象となる従業員へ整理解雇の理由を説明したか、十分に話し合いを行って納得を得る努力をおこなったかが大切になります。
【懲戒解雇】
従業員の責めに帰すべき理由による解雇です。
懲戒処分は主に従業員の非行・悪事・失敗に対して、その重大さによって、軽いものから譴責(厳重注意)、減給、出勤停止、降格、諭旨退職、懲戒解雇に分けられます。懲戒処分を行うためには、就業規則の定めが必要となります。懲戒解雇でも、30日前までの解雇予告や、解雇予告手当の支払いは必要となりますが、労働基準監督署で除外認定を行う事で即時解雇が可能です。
個別の社員の労働条件を変えていいか?
勤務時間や賃金などの労働条件について、いったん決定し合意した労働条件を会社が一方的に変更することはできませんが、社員の同意があれば変更することはできます。
特に賃金や休日休暇などの条件を「引き下げる」場合は、変更は慎重に行わなければなりません。一方的に書面交付をして、押印を迫るような乱暴な同意の取り方をすると後々トラブルになってしまいますので、冷静に話し合いの場を持ちましょう。
【労働契約書の変更した条件で合意が得られた場合】
新しい条件の契約書を必ず結びましょう。
何らかの理由で条件を下げる場合は、必ず「合意」の証明として、新しい条件を記載した労働契約書を作成しましょう。
【就業規則との関係】
労働条件変更の内容によっては、就業規則との兼ね合いから意味をなさない場合があります。個別に交わした労働契約書の内容が就業規則に定めてある条件に満たない場合、その部分については無効となり、就業規則に定める内容で契約をしたものとみなされます。
就業規則に定めてある規定の
・対象者はだれか(適用範囲)
・内容は労働契約書と矛盾しないか
・就業規則は現状とそぐわないもののままになっていないか
などを注意してください。条件変更の理由を真摯に説明してください。
労働条件変更は、たとえ社員から(表面的には)合意が得られたとしても、社員のモチベーション低下にもつながります。
これをきちんとやれないと、会社全体の効率が悪くなったり、他の社員に不満が溜まってしまったりするため、非常に重要ですが、下手にやってしまうとこれまた大問題になるため、用意周到に行う必要があります。
当事務所への相談も非常に多い分野のひとつです。
社員が逮捕されたら?
プライベートな時間中に警察に逮捕されるなどの問題行動を起こした場合、会社はその対応に注意が必要です。原則として、仕事とは無関係の私的なトラブルでは懲戒処分はできないと考えられています。
例えば、
- 電車内で痴漢が発覚し現行犯逮捕された。
- 酔っぱらってケンカをして暴行・傷害事件で訴えられた。
- 窃盗などで逮捕された。
といったことが起こった場合、その私生活上のトラブルがどの程度会社に不利益を与えたかを検討する必要があります。
当該犯罪行為が
・業務に悪影響を及ぼす場合
・会社の信用を著しく落とす場合
であれば、解雇を含めた懲戒処分をすることも可能でしょう。ただし、それが客観的に見て軽微な犯罪で、更生の意思も見られ、再犯性が低いような場合であれば、解雇権濫用と見なされることもあります。
刑事事件を起こした=解雇とは限らないことにご注意ください。
私生活上の犯罪行為に関する解雇を巡って争われた過去の判例では、例えば、バスやタクシーの運転手がプライベートで飲酒運転事故を起こした場合、車を運転するという業務から鑑みて、飲酒運転は厳罰が求められるべきとのことから解雇が有効とされたケースがあります。社会的に求められる職業姿勢に照らし合わせて当該犯罪行為がどういう意味を持つかという点を考えなければなりません。
なぜ社員は社長のように考えられないのか?(企業にとっての憲法論)
小室直樹の代表作『日本人のための憲法原論』を読みました。
https://www.youtube.com/watch?v=cmFwl5sh0uM
宮崎哲弥、橋爪大三郎、宮台真司が小室直樹のことを全力で推薦しているのを見て、その著作を読みたいと思いました。
それを読んで、気付いた点がこのコラムの表題です。
多くの社長さんとお話をしていて、とてもよく言われる悩みが以下のようなものです。
・なぜ社員は社長のように(自分で)考えられないのか?
・社員が自分で会社のためを思って働いてくれないのはなぜか?
つまり、経営者は社員も含めた会社全体のことを考えて行動しているのに、社員は自分の仕事のことしか見ることができなかったり、社長の気持ちを理解せず、利己的な行動ばかりしたりするということです。
経営者と社員とは、共に利益を生み出しそこから糧を得るという運命共同体なのですから、もっと思いが一致しても良いのではないかと思うのですが、実際にはそうはなりません。
社長のように考えて行動してくれる社員(=自律的社員)を育てる方法はあるのでしょうか?
現場を見る限り、それは無理だとこれまで私は感じていました。
ところが、この本を読んでみて、自律的な社員を育てる方法はあるかもしれないと思いました。
この本に書いてあるのは、国家において民主主義や憲法がそもそもどういうものなのかという『そもそも論』(=原論)なのですが、国家を企業に置き換えてみると国民は社員ということになり、国家権力とは経営者ということになります。
そうして考えてみると、企業における自律的社員とは、国家における自律的国民ということであり、国民が自分で国のことを考えて行動するように仕向ける方法が分かれば、それが企業にも応用できるはずです。
で、結論を言いますと、企業における憲法を定めることが自律的な社員を育てるための必要条件ではないかと思うのです。
ここで言う『憲法』というものの意味が重要で、恥ずかしながら私はこれまでよく知りませんでした。そしてこの本を読んだことにより、『憲法』というものの意味を完璧に理解することができたと思います。
●憲法とは国民が国家権力を統制するためのもの
これに対し、普通の法律は『国家権力が定めた国民に守らせるルール』です。企業における就業規則とは、国家における一般的な法律に相当します。
必要条件と言ったのは、憲法を定めればすぐに国民が自律的になるかを考えればすぐ分かると思います。選挙の投票率がそれを物語っています。憲法は自律的国民育成のための十分条件にはなり得ません。
ただし、もし憲法が無ければやはり、自律的国民は絶対に育たないでしょう。
よって、企業において自律的な社員を育てたければ、まず社員の権利を保障することから始めなくてはダメです。経営者の権力の範囲を明らかにしなくてはなりません。
そのために最も重要なのは『雇用契約書』です。
雇用契約書をまず、きちんと書面で交付すること。
人間の記憶は曖昧にできているため、書面は非常に重要です。
そして、雇用契約書には社員の権利と考えられるものをしっかりと書くこと。
たとえば、就業規則に「勤務時間中は上司の指示に従わなければならない」とあったとして、「上司の指示」はどこからどこまで許されるのかが書かれていなければ、社員の権利は保障されたとは言えません。
たとえば社長が公私混同して、社長の趣味で使うゴルフ用品の手入れを部下に命じることがあるかもしれません。もちろん、社長の身の回りの世話を目的として雇われた社員であればいいですが、事業内容とまったく関係のない社長の私生活のために労働を命じられることに対しては、社員は戸惑いがあるでしょう。こういったことが実際にあるか無いかではなく、あらかじめ定めておくことが権利を保障することにつながるのです。
・上司から部下への指示は事業の目的に即したものであるべきである。
また、上司の指示と外部の法律との関係もあります。実際に私もかつて期間工時代に、フォークリフトの免許を持っていないにも関わらず夜勤の時にこっそりフォークリフトを運転するように指示されて困ったこともありました。
・上司から部下への指示は外部の法令を遵守して行わなければならない。
賃金の変更も、経営者の権力によって行われることです。定期昇給という考え方は、公務員以外では一般的ではなくなりましたが、これを定めればとても価値のある社員の権利になるでしょう。定期昇給が無理だとしても、賃下げを行わないとか、賃下げを行う場合のルールを定めておくことも可能です。
・原則として賃下げは行わない。経営上の高度の必要性がある場合にも、6カ月以上前に額を予告して行うこととする。
一般に出回っている雇用契約書のひな形には、こんな条項は一切書かれていないと思いますが、多くの経営者が望んでいる『自律的社員の育成』のためには非常に重要です。
・社員の権利を明確にすること。
・社員の権利を可能な限り大きく認めること。
もちろん、権利の保障だけでなく、企業の目的や経営理念をしっかりと伝えることも必要です。(目的ばかり力説しても、権利の保障をしっかり行わなければ、自律的社員は育ちません。そういう企業が非常に多いような気がします)
休職制度とは
従業員が私傷病(つまり仕事以外の理由)で長期の欠勤しなければならないとき、会社の休職制度を利用することになります。
ところが、休職制度は、法律上必ず制度化しなくてはいけないものではありません。
解雇規制が厳しい日本においては、従業員が長期の休養が必要となったとき、復職できるまで安心して休んでもらえるように会社が「恩恵的に定める制度」として機能しています。
休職制度が法律上の義務でないため、休職期間や休職中の賃金についてどのように決めても会社の自由ですが、多くは就業規則にてその条件を定めることになります。いざ私傷病事案が発生したときに対応に困らないよう、事前に取り決めを行うことをお勧めします。
一般的な休職期間:
中小企業で概ね1~3ヶ月程度、大手企業だと勤続年数によっては数年に及ぶ休職期間を定めることもあります。中小企業の現場の場合、例外的に休職期間の延長を認める可能性を残しつつ、1~3ヶ月程度の休職期間を定めているところが多いでしょう。従業員を休職させるとなった場合、トラブル防止のため、休職期間、休職満了時の取り扱い、そのほかの約束ごとを書面にて交わしておくとよいでしょう。
休職中の社会保険料・住民税等
従業員が休職して、給与の支払いがゼロになったとしても、健康保険料と厚生年金保険料の会社負担分、従業員負担分はともに発生します。
休職期間中は従業員負担分を会社が立て替えておき、復職したら従業員負担分を請求するか、それとも社会保険料の納付時期にあわせて毎月決まった日にひと月ごと従業員に請求するか事前に決めましょう。
また、住民税を毎月の給与から控除している場合も社会保険料と同じく、どのように徴収するかを決めましょう。
休職の決定権はどこにあるか:
休職とは「療養が必要な状況だから、休みなさい」と会社が「命令」して初めて機能するように定めておくほうがよいでしょう。なぜなら、無理をして勤務する従業員に対しても、会社の安全配慮義務から休職を命ずる必要があるからです。また逆に、本人が休職の申し出をしても、その症状から会社側が休職を認められない軽微なケースもあり、休職するか否かのコントロールを会社ができたほうが柔軟な対応が出来ます。
休職期間中の従業員への接し方:
休職期間中は、従業員からの病状報告を受けるだけではなく、社内報を送付したり、会社の状況をお知らせしてあげると、本人は会社からの疎外感を感じずに復帰しやすくなるでしょう。
社員を他の店舗へ転勤させるときの注意点
転勤を命令するときには、本人の同意が必要なのでしょうか。
一般に、就業規則に転勤の旨の記載があり、社員に周知されていれば、個別の同意は不要です。そのため、会社は一方的に転勤を命じたとしても問題ありません。なお、入社時の労働条件明示(契約書などの取り交わし)の際に転勤の可能性を明示すると、トラブル防止になるでしょう。書面交付の際には、「絶対に転勤がない」という場合以外は、原則として「転勤の可能性あり」と明示したほうが無難ではないでしょうか。
上記のように、転勤命令は、原則として一方的に命じることが出来ます。しかし、例外として次にあげるケースでは同意が必要とされます。同意なく行った場合は、権利濫用として無効になる場合があります。
① 業務上の必要性が存在しない場合
② 業務上の必要性以外の不当な動機、目的をもってなされた場合
③ 社員に対し、限度を超える著しい不利益を負わせる場合
④ 労働契約において勤務場所を特定して採用された社員に対し行う場合
例えば、勤務地限定の社員に行う場合、業務上の必要性があったとしても本人の同意がなければ転勤はさせられません。
では、勤務地限定の契約書でない場合はどうでしょうか。この場合も、同意が必要となります。判断基準となるのは、就業規則に「転勤を命じる旨の規定があるかどうか」だからです。転勤の可能性を明示、説明することが重要です。記載例をあげますので、参考にしてみて下さい。
労働契約書への具体的な記載例
・場合により他社多店舗への転勤を命じる可能性があります。
・本労働契約は、勤務地を特定した契約ではなく、場合によって転勤を命じる可能性があります。
・勤務地は入社時点のものであり、人事異動によって、全国、海外を含めた支店への転勤を命じる可能性があります。
転勤はその対象者の生活環境を大きく変える可能性があります。その対象者だけでなく、周りの家族などの事情も考えて慎重に対応しましょう。
親の介護で休みたいとの申し出があったら?
育児介護休業法により、一定の労働者には介護休業を取得する権利があります。
会社へ介護休業の申し出が出来るのは、育児休業と同じく日雇い労働者を除く男女すべての従業員です。
正社員だけではなく、下記の要件を満たしていれば期間契約社員、パート、アルバイトも介護休業の申し出が出来ます。
1、 勤続年数1年以上
2、 介護休業開始予定日から93日を超えて引き続き雇用が見込まれること
つまり、上記に該当するパート、アルバイトにも介護休業を取る権利があることになります。
介護休業の期間:
介護休業ができる期間は、対象家族1人につき、「要介護状態」になるごとに1回、通算93日までの介護休業をすることができます。
要介護状態とは:
介護休業を取れる「要介護状態」とは、病気や身体・精神上の障害により、2週間以上常時介護を必要とする状態をいいます。
休業中の給与は支払うべきか:
育児休業中と同じく、介護休業中もやはり「ノーワーク ノーペイの原則」で、休んだ分について給与を支払う必要はありません。
雇用保険から介護休業基本給付金について:
従業員に給与が支払われない期間の補償として、雇用保険から給与の約40%をカバーする介護休業給付金が支給されます。
介護休業期間中の社会保険料について:
育児休業とは違い、介護休業期間中は社会保険料の免除はありません。
介護休業にかぎったことではありませんが、病気やケガなどで長い欠勤が続く場合も含め、休んでいる期間の社会保険料をどのように徴収するか、会社で約束ごとをつくっておくとよいでしょう。
休業が明けた後の給与から控除するか、毎月期日を決めて会社に振り込みかなど会社独自で決めておきましょう。
・介護休暇制度について
長期の休業は必要はないけれど、直接の介護だけでなく、対象家族の通院の付き添いのためなどに休みがに必要な場合で従業員が「この日に介護休暇をほしい」と会社に申し出た場合は、対象家族が1人であれば年5日まで、2人以上であれば年10日まで、1日単位で介護休暇を取得させなければなりません。
介護休暇の申し出か出来るのは、日雇い労働者を除く、男女全ての従業員です。
また、労使協定がある場合は「子の介護休暇」と同じく次の従業員からの申し出は断ることができます。
1、 勤続年数6ヶ月未満の従業員
2、 週の所定労働日数が2日以下の従業員
「退職証明書」の話
会社では、退職者や退職願を受理した従業員から請求があった場合には、すぐに「退職証明書」を発行しなければならないということが義務付けられています。
この「退職証明書」とは、労働基準法で以下の様に定められたものです。
根拠となる条文:
(退職時等の証明)
第22条
労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。
つまり、前職で働いていた条件などを証明するものです。労働力の移動への障壁が低くなりつつある現在では、再就職先でこの退職証明書の提出を求めるケースもそう多くはないと思われますが、それでも「退職者本人が求めれば」会社はこれらを証明しなければならないという決まりになっています。
退職証明書に記載する内容:
退職証明書に記載する内容は下記のとおり法律で決められていますが、「退職者が請求していない項目は記載してはいけない」という点に注意が必要です。
1、 勤務していた期間
2、 業務の種類
3、 会社での地位
4、 給与
5、 退職の事由(解雇の場合はその理由も含む)
例えば、5、退職の事由について「書いてほしくない、証明してほしくない」と退職者から申出があれば、その内容は記載してはいけないことになります。
ちなみに、退職証明書を請求できる期間が決まっています。
請求できる期間は退職後2年以内です。
この点で、退職しても2年間は、元従業員の情報は保管しておかなければならないということになります。
社員が裁判員となった時の取り扱い
平成21年5月から、裁判員制度が始まりました。
裁判員に選ばれた場合、裁判所から「呼び出し状」が送付されます。呼び出し状が届いた場合、辞退が認められなければ、指定された期日に裁判所に行かなければなりません。理由もなく欠席した場合は、10万円以下の過料に処せられる場合があります。
つまり、出社日と呼び出し期日が重なれば、会社を休まなくてはなりません。そして、会社はこれを拒否できません。なぜなら、裁判員に選ばれて裁判所に行く時間というのは、選挙の投票と同じ、労働基準法7条の「公民権行使の時間」にあたるからです。
公民権行使の時間を、有給とするか、無給とするかは会社の就業規則等で定める方法によります。労働基準法では、公民権行使の時間に対する賃金の取り扱いは特に定められていません。統計によると、現状では裁判員として参加した場合「有給扱いとする」会社が8割を占めます。また、特別休暇制を導入している会社は6割です。
裁判員として公務に当たった日については日当が支給されますが、それに加えて有給で処理する予定のケースが多いようです。
社員のだれもが裁判員になる可能性があります。そのためにも、社員が気兼ねなく裁判所に行けるよう、裁判員に選ばれた場合の休暇等取り扱いを明確にした方が良いでしょう。そのために、裁判員等の休暇規定を作成してみてはいかがでしょうか。
休暇に関する規定を作成する場合、1日単位の付与でなくても、裁判員として要した時間分だけ休暇を与えても問題ありません。
同時に、慣れない裁判員の仕事について精神的に負担があるかもしれません。裁判員休暇明けの勤務には一定の配慮をできると尚いいのではないでしょうか。
職種によって定年年齢を変えても良いか?
職種が異なる場合、同じ会社に所属する社員の間で、定年に差をつけることに合理的な理由があれば、その範囲においてはただちに違法とはなりません。
社員に必要とされる「能力」や「適性」は、職種によって異なってきます。加齢による肉体の衰え等が職務の遂行能力に大きく影響する職種と、その影響が小さい職種では、その労働条件を変える合理的必要性もあるでしょう。
また労働条件は、労働契約を結ぶときに「個人ごと」「職種ごと」に応じて決定されるものですから、定年年齢だけを全社員そろえる必要はありません。
ただし、名目上は職種が異なっていたとしても、実態が同様であれば定年に差をつけてはいけません。労働基準法第3条で均等待遇の原則が規定されているからです。
定年差の合理性の例:
(例1)
事務職は70歳、現場での製造職は65歳の定年を定めていた場合。製造業は高齢になると肉体的に厳しくなること、現場製造職員への安全配慮から定めたものであれば、その範囲で定年差には合理性があるでしょう。
(例2)
女性は60歳、男性は65歳の定年を定めた場合。合理的な理由がないので無効です。
ただし会社は、定年年齢に差異を設けるときは、必要最小限にとどめる配慮をしなければなりません。老齢年金の支給開始時期が遅くなりつつある現在は、社員の所得保障について従来以上に気を回す必要があります。例えば、ほかの社員に比べ早い定年を設ける職種に関しては、当該職種の定年後、より高い定年年齢の職種に配転するなどの配慮をすることも考えられます。
社内不倫を理由に解雇できるか?
社内不倫が判明した場合、会社は当事者に解雇その他ペナルティを与えることが出来るでしょうか。
原則:ペナルティを与えるには「根拠」と「実害」が必要
社内不倫に対して会社が何らかのペナルティを与えるには、「就業規則上の根拠」と、「社内不倫による実害の存在」が必要でしょう。
就業規則上の根拠については、「会社の秩序を乱してはならない」等の服務規定が存在していることが多いでしょうから、そこに根拠があるとしてもよいでしょう。
ただし、「実害の存在」については中々容易でありません。
例えば、
・社内不倫が家庭に知れ、夫婦間のモメごとが職場に及んだ場合(職場でケンカをする、執拗な電話が職場にかかってくる、怪文書が送られてくるなど)
・同じ職場内の人間関係等に悪影響を与えている(まわりが気を使って、社内の協力体制がめちゃくちゃになる、円滑なシフト組みに影響を与えるなど)場合
・職種上特に倫理観が求められる状況で、その倫理観にそぐわない場合
などの場合は、ある程度実害があると認められます。
一方で、単に不倫がわかったことだけを持って(つまり私生活上の行動があることで)、会社として解雇その他のペナルティを与えることは難しいでしょう。
干渉の仕方について:
社内不倫については、その注意の仕方に注意をしなければなりません。
社内の噂やネットの書き込み等のみを鵜呑みにして執拗に問い詰めると、その問い詰める行為がセクハラ・パワハラに該当してしまう可能性も否定できません。
まずは事実確認を公平な立場ですることが必要です。
また、プライバシーにも注意して、事情を聴く際も別室に呼ぶなどの配慮を持つ方が良いと思われます。
休職を繰り返すうつ病社員への対応
私傷病による「休職制度」は法律上の義務ではなく、会社のルールで任意に定めることが出来ます。休職からの復職についても同様に会社独自のルールを適用させることができます。
休職させるべきか否か、復帰可能か否かについて、外傷であれば治癒状態が判定しやすいですが、ことに精神疾患の場合は、回復の判断が難しく、再発することが少なくありません。そして精神疾患、いわゆるうつ病については、近年休職を巡るトラブルが多くなっていますので、特にこれらの反的基準を休職制度上で整える必要があります。
例えば、「精神疾患が再発したかどうか」を判断する上で、休職者・または休職者のかかりつけの医師の意見のみを拠り所にした場合、休職者の側の利益に偏った診断書が出てくることも想定できます。こうなると、再発の度に短期間の休職何度も繰り返され、会社は労働力を提供されていないにも関わらず社会保険料その他福利費を負担し続ける事態にもなりかねません。
【解決方法】
休職に対するルール作りとしては以下のようなことが考えられます。
①復職の扱いを慎重にする
・就業規則に、私傷病で休職していたものが復職する場合に下記趣旨の文言を入れると良いでしょう。
・会社が指定する医師への受診を命ずること
・復職を本人の申告制でなく、人事部長等の許可制にすること
②再休職を前休職期間と通算する
・復職したものが復職後短期間に同一理由で就職した場合、前回の休職と通算する
・通算により、残期間を休職の限度とする
このような趣旨の規定があれば、前後の休職期間を通算することが出来ます。例えば、休職期間満の上限が3ヶ月であった場合、1ヶ月後復職し、再度類似の傷病で休職したものを「病気がなおっていなかったもの」と取扱い、休職期間のカウントを通算することが可能です。規定がない場合、休職期間が通算されず、いつまでたってもゼロからカウントしなければなりません。また、「休職満了後になっても休職事由になった私傷病が回復しておらず、従前の職務に復帰できない場合には、自然退職とする」旨を就業規則に定めておけば、解雇でなく休職期間満了による自然退職との取扱いになります。
いずれにせよ、休職に係る規定は整えておく必要があるでしょう。
管理職の割増賃金
豊明市の水産加工業のオーナーからご質問いただきました。
【Q】
管理職者には割増賃金は不要なのか。
【A】
実態が一般社員と変わらなければ、割増賃金を支払う必要があります。
(解説)
労働基準法第41条で次に該当するものは、労働時間、休憩、休日に関する規定を適用しないこととされています。
① 農業・水産業に従事する者
② 監督または管理の地位にある者
③ 機密の事務を取り扱う者
④ 監視または断続的労働に従事する者(労働基準監督署長の許可が必要)
つまり、②に該当する管理職者に「割増賃金を支払わない」ということを就業規則で明記しておけば、時間外労働や休日労働を行わせても、会社は割増賃金を支払う必要はありません。
【監督者・管理者】
そこで、41条に該当する「監督または管理の地位にある者」と認められるかが問題となります。「監督または管理の地位にある者」とは次の要件を満たすものをさします。
① 労務管理について経営者と一体的な立場にあること
② 出退勤の時間が厳格な制限を受けてないこと
名称ではなく実態で判断します
名称では管理職者であっても、実態は①②に該当しなければ、労働時間等の規定は適用除外となりません。仮に、就業規則に管理職者に「割増賃金を支給しない」と規定していても、時間外労働や休日労働を行わせれば、割増賃金の支払いが必要です。
→管理職者に割増賃金を支払わない場合には、相応の手当を支給することが望ましいでしょう。昇給したら、給料が目減りしたなどという結果を招かないよう、十分な配慮が必要です。
豊明市の水産加工業のオーナーさま。ご質問ありがとうございました。
就業規則変更による賃金引き下げの話
豊明市の製造業の会社から就業規則の変更依頼をいただきました。
経営面で少し苦労をされていて、変更の際に、会社が一方的に賃金などの労働条件を引き下げてよいかというご相談をいただきました。
労働条件の不利益変更にあたるため原則としては問題がありますが、程度や状況によっては引き下げも可能です。ただし、十分に説明する場を設けるなど慎重に行いましょう。
【不利益変更とは】
労働契約法第9条に「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない」と規定しています。言い換えると「合意があれば」条件引き下げもできます。
社員数が少ない会社であれば個別の労働者と面談し合意を得るべく説得することも可能かもしれませが、ある程度以上の規模の会社では実質的に不可能となるでしょう。この場合、就業規則の変更という形式で社員にアナウンスする事になります。
では、その就業規則変更が有効になるのはどういうときでしょうか。
労働契約法10条には以下のように規定されています。
---------------------------------------------------------------------------------------------------
使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。
---------------------------------------------------------------------------------------------------
この条文から読み解くと、以下を事前に十分検討した上で引き下げを行う必要があります。
- 労働者の受ける不利益の程度が、状況としてやむを得ないかどうか
- 労働条件の変更の必要性が本当あるか(主に経済事情、会社の財務状況、著しく世間軒順に逸脱した状態を是正する必要性など)
- 変更後の就業規則の内容は、状況として妥当であるか
- 説明手順をきちんと踏んでいるか、一方的すぎないか
特に賃金引き下げについては反発が予想されます。豊明市の製造業界に限らず、国の政策などによって景気の動向が大きく変わる業界に関しては、経営者の自己判断でなく、ぜひ経営者にもご納得いただく説明が必要になりますので、ぜひともご相談ください。
就業規則は誰に効くか?
就業規則を作成した時、すべての社員に同じ規則が適用されるのでしょうか。
対象者ごとに別規程を設けなければ、同一の規則が全社員に適用されるべきだと考えられます。多様な働き方に合わせてパートタイマー規程など別規程を検討しましょう。
【就業規則の意味合い】
就業規則には、その会社において「統一的に」労働力の管理を行うための手段という側面があります。この意味では、原則として会社におけるすべての社員が、等しくこの適用を受けることになります。
ただし、現代は働き方が多様化していることから、統一的な管理がなじまないことが想定できます。例えば、入社時の必要提出書類はパートタイマーの方が簡略化されることもあります。また、労働時間や休日などの条件は正社員と非正規社員とは異なることもあるでしょう。
【就業規則を分けて作成する】
これらのことから、正社員用とパートタイム労働者用といった異なる就業規則を作成することが認められています。ただし、この場合、それぞれの規程についての「適用対象者」を明らかにしておく必要があります。
雇用形態によってその権利義務が異なる場合、それぞれの適用対象者を定めて、各形態ごとにルール作りをしましょう。
【届出上の注意】
就業規則を作成する義務がある会社(常時使用する労働者が10人以上)の場合、正社員用の就業規則だけ作成してパートタイム労働者用の就業規則を作成しないということは認められません。パートタイム労働者用の就業規則を変更する場合でも、やはり労働基準監督署に届け出る必要があります。
なお、平成20年4月に改正されたパートタイム労働法では、このような無用なトラブルを避けるために、雇い入れ時と契約更新時に「退職手当」「昇給」「給与」の有無を文章等の交付により明示することが義務付けられました。
就業規則の話③
就業規則は、会社が一方的に作成するだけでなく、従業員の意見を聴かなければなりません。
【労働者の意見をもらう方法】
会社は、就業規則の作成と変更について、以下の意見を聴く必要があります。
- 事業場の労働者の過半数で組織する労働組合
- 労働組合がない場合には労働者の過半数代表者
そのため、過半数で組織する労働組合、または労働者の過半数代表者の意見書を就業規則に添付して、遅滞なく所轄労働基準監督署長に届け出なければなりません。
意見書には法定様式はありませんが、以下の情報を入れましょう。
- 「意見書」というタイトル
- 宛先(○○株式会社 代表取締役○○など)
- 日付
- 意見の内容
- 労働者代表者の署名または記名押印
なお、過半数で組織する労働組合、または労働者の過半数代表者の意見書は、添付するだけで良いとされています。たとえ内容が反対意見であっても構いません。
【就業規則の周知とは】
前述のとおり、就業規則は、労働者代表の意見書を添付して管轄労働基準監督署に届出します。さらに、事業場の労働者に周知した後に効力が出ます。
周知の方法については、以下を参考にしてください。
- 事務所の棚に備え付ける
- 就業規則データを会社PCなどに保存し、閲覧可能な状態にしておく
- 全体の説明会を開催する など
内容を印刷して全社員に配布する必要はありません。
【その他、育児・介護休業規程など】
「育児介護休業法」による育児休業及び介護休業に関する事項は、就業規則の絶対的必要記載事項です。従って、育児休業及び介護休業の対象となる労働者の範囲や、取得に必要な手続、休業期間等については、就業規則に記載する必要があります。
また、就業規則に記載すべき休暇には「育児休暇」や「介護休暇」も含まれるため、絶対的必要記載事項になります。実際には、「育児・介護休業規程」などの別規程を定めて、ここに育児休業などについて記載した上で、就業規則に添付するなどします。
【古い就業規則はいつ変更するか】
就業規則を十数年前に作成した後変更などをしていない場合、現行法規通りになっていない可能性があります。10年前と比べると労働基準法も大きく改正されていますし、企業の労働条件も変更されていると思われます。変更内容の労働者への説明は当然必要ですが、それに伴い就業規則の変更、所轄労働基準監督署長への届出も忘れずに行う必要があります。
労働条件が変更された場合、就業規則の該当部分を変更する必要があります。しかし、中小企業の場合はおろそかにされる場合が多々あります。就業規則の変更は労働基準監督署長に届け出る必要もありますが、これを確実に行っている中小企業は少ないと思います。必要な手続は確実に行い、就業規則と実態を合わせましょう。
【就業規則は会社の自由に変更できるか】
就業規則は会社が自由に変更できますが、変更が労働者に不利益になる場合、合理的な理由がないとして変更が無効とされた裁判例もありますので注意が必要です。
就業規則の話②
就業規則には、どのような情報を書かなければならないのでしょうか。
【就業規則に記載する情報の種類】
就業規則には、「絶対的必要記載事項」と「相対的必要記載事項」の2種類を記載します。
絶対的必要記載事項とは、就業規則に記載が義務づけられている事項、相対的必要記載事項とは、その定めをする場合には記載義務のある事項をいいます。
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<絶対的必要記載事項>
次の事項は、必ず就業規則に記載しなければなりません。
- 始業・終業の時刻、休憩時間、休日・休暇、労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合の就業時転換に関する事項
- 賃金の決定、計算・支払いの方法、賃金の締切及び支払の時期、昇給に関する事項
- 退職に関する事項
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<相対的必要記載事項>
次の定めをする場合には、就業規則に記載しなければなりません。従って、定めをしない場合は記載する必要がありません。
- 退職手当の定めをする場合は、労働者の範囲、退職手当の決定・計算・支払いの方法および支払の時期に関する事項
- 臨時の賃金等・最低賃金額の定めをする場合は、これらに関する事項
- 労働者に食事、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合は、これに関する事項
- 安全・衛生に関する定めをする場合は、これに関する事項
- 職業訓練に関する定めをする場合は、これに関する事項
- 災害補償・業務外の傷病扶助に関する定めをする場合は、これに関する事項
- 表彰・制裁の定めをする場合は、種類及び程度に関する事項
- 当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合は、これに関する事項
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退職に関する事項(退職年齢など)は絶対的必要記載事項ですが、退職手当(退職金)に関する事項は、その定めがある場合は記載しなければならない相対的必要記載事項です。従って、退職手当を支給しない場合は、記載する必要はありません。相対的必要記載事項は、その定めをしない場合は記載する必要はないのです。
【労働条件の明示義務との違い】
これらの「絶対的必要記載事項」「絶対的必要記載事項」の多くは、雇用契約書などの必要期再事項と一致していますが、例外があります。下記については、個別の労働契約の際には別途定めなければなりません。
就業規則の話①
就業規則は、どのような会社が作成しなければならないのでしょうか。
【就業規則の作成の基準】
就業規則は、すべての事業場で作成を義務づけられているものではありません。常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、所轄労働基準監督署長に届け出なければなりません。就業規則を変更したときも同じです。
つまり、常時10人未満の会社は就業規則の作成・届出をする必要はないのです。
【常時10人未満の場合でも就業規則を作ったほうがいい場合】
10人未満であっても、例えば以下のような場合は、会社のルールを明確にするため事前に就業規則を作った方がよいでしょう。
- 労働時間が総じて長く、残業に対するトラブルリスクがある場合
- 有給休暇や休職について労働者から質問されるなど、ルールの明確化が必要な場合
- 企業秘密情報の管理ルールを定める必要がある場合 など
【トラブル対策としての就業規則】
就業規則を作成する時、具体的に以下のようなリスク対策ポイントがあります。
[ポイント1]労働時間が長い・休日が少ないなど、残業代トラブル
定額残業制度を新たに導入したり、変形労働時間制の導入したりすることで、残業代を巡ってトラブルになった時に予想外の金銭リスクがないように対策します。
[ポイント2]休暇や休職など
年次有給休暇の取得に際して、「会社に事前●日前までに書面で申請する」などのルールを明確にしたり、「休職」「休職からの復帰」の基準を明確にすることで対策します。
[ポイント3]企業秘密情報や競業避止など
会社の重要な情報(顧客の個人情報や技術ノウハウなど)を管理する基準を明確にし、「規定に違反した者を懲戒する」などを定めて情報漏洩などのトラブルを抑止します。
ルールのない会社で起こること
会社にルール(就業規則)がないと職場はどうなるのでしょうか?
正直、父ちゃん母ちゃんで、八百屋をやっているだけなら、別に問題は起きないでしょう。お互い気に入らないことがあっても、原始的な夫婦喧嘩でカタがつきます。
でも、それがスーパーになって、パートを雇い始めると、事情が変わってきます。
人間というのは不思議なもので、きちんとしたルールがないと、ほとんどの人は怠けようとするものです。例えば、お客が来た時のレジ打ちを怠けることはなくても、始業前の掃除をやらなかったり。こういう時、従業員というのは、うるさく言われることはやるが、言われないことにはまず気を利かせてはくれません。
では、言えば済むかというと、確かに従業員は言われることには反応しますが、いちいち言い続けるのは、管理する側のストレスも相当なものです。
また、言われる側も「そのくらい分かってるよ」という風に思っているのです。
そのくせ、言わないとやってくれなかったりする。そういうものなのです。
そして一部にはまじめに仕事に取り組もうとする人も当初はいるのですが、周りが怠けている状況では決して長続きしません。みんなが怠けていることなら、仮に注意されるとしても、プレッシャーは小さなものです。
ルールがないということは、真面目にやった人間が馬鹿を見ることになり、やがてはみんなが平等に怠ける状況が生まれます。口を酸っぱくして注意し続けていることであっても、それがルールとして認識されない限り、時間が経ったり、監視の目がなかったりすると、守られなくなるという繰り返しになります。
これがルールのある職場だとどう展開するのでしょうか?
「始業前に店を掃除する」
この場合のルールというのは、目に見える形で文章化されて、全員に周知されているものを指します。冊子にして配布されていなくても、紙に書いてロッカールームの壁に貼ってあるだけでも結構です。
まず、ルールを周知させてからしばらくは、みんながルールを守って、始業前の掃除を行います。
そして、しばらく経つと、一部の人間が怠け始めます。
でも、それが全体に伝染することはありません。また、こういう状況では真面目な人たちは迷いなくルール通りに行動できるため、逆に怠けている人たちの方がプレッシャーを受けることになります。
また、こういう状況で注意を受けることはとても大きなプレッシャーになりますので、個別に注意しなくても、全体ミーティングの場などで取り上げるだけで、とても効果が上がるようになり、管理がとても容易になります。
●ルール(就業規則)の効果
・怠けやすいタイプの人間が、自然とプレッシャーを受ける。
・真面目な従業員が腐らないですむ。
・職場の秩序が保たれる。
・職場に不公平感や目に見えない不安がなくなり、その分仕事に向かうエネルギーが集中される。
・従業員の管理が効率的になる。
・会社と社員のレベルが確実に上がる。
就業規則の不利益変更
就業規則に書かれている賃金・勤務時間・福利厚生などの労働条件は、使用者が一方的に変更することはできません。例えば、以下のような場合は労働者の同意が必要です。
- ペナルティーによらない賃金の減額
- 労働時間・日数の増加
- 休職・特別休暇などの規定の見直し
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【根拠】
(労働契約法第9条)
使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。
つまり、一方的に就業規則を変更するだけで労働条件を引き下げることはできないのです。
ただし、以下の様に例外があります。
(労働契約法第10条)
使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。
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【判断ポイント】
この場合の合理性を判断するポイントは以下の通りです。
1.労働者が被る不利益の程度
2.使用者側の変更の必要性の内容・程度
3.変更後の就業規則の内容自体の相当性
4.代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況
5.労働組合との交渉の経緯
6.他の労働組合又は他の従業員の対応
7.同種事項に関するわが国の社会における一般的状況
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「会社全体で利益が出ているのに給与を引き下げる」「福利厚生を減らす」など、不利益の程度が大きい場合、不利益変更に合理性がないと判断される可能性が高くなります。
一方で、既存の就業規則やルールが、業界水準や会社規模から見ても高待遇であり、そのアンバランスを是正するための変更である場合、合理性があると認められることもあります。
いずれにせよ、労働条件の変更については、個別の労働者の合意を取り、または説明をしっかりとして慎重に行うほうがよいでしょう。
特に、労働者数の多い会社や、労働組合がある会社では、不利益変更は非常に困難です。労働者数がいつの間にか増えてきたという場合には、就業規則の見直しを早めに行った方がいいでしょう。
競業避止と職業選択の自由の話・1
退職した従業員が前職と同じ商圏・業種でビジネスをした時や
ライバル会社の役員になった時、企業はダメージを受ける可能性があります。
このような場合、会社は退職者の競業行為を禁止できるのでしょうか。
退職者の競業について企業が制限するときは、以下がポイントとなります。
【1.ノウハウや人脈は誰のものか】
在職中に得たノウハウや人脈は、誰に帰属するのでしょうか。
一般的には、以下のような場合、競業行為を制限されやすくなります。
•企業の中核をになう重要なプロジェクトに関わり、その業務に見合う報酬を得ていた場合
•会社役員であった場合(その責任の範囲において、機密保持義務があるとされます)
一方、一般の社員については、たとえ競業避止に関する特約があったとしても、
競業避止を義務化することは難しいといえます。
ただし、①顧客を大量に奪う②社員を多く引き抜く、などの「背任行為」は、
特約による賠償責任のほかにも、「不法行為」による損害賠償責任を負う可能性があります。
【2.競業避止についての特約の意味は何か】
競業避止の特約があったとしても、また就業規則にその旨を記載していたとしても、
憲法上の「職業選択の自由」と相反することになります。
このような時は、以下を基準として「特約に合理性はあるか」を考えなくてはいけません。
•競業避止の①期間②地域③職種の範囲
•「経営者がどのくらい得をするか」と「労働者がどのくらい損をするか」のバランス
•「独占の恐れ」と「独占によって一般消費者がどのくらい得をするか」のバランス
一般的には、競業避止の規定や特約は、のちに損害賠償をするためというよりは、
「背任的競業をしないように釘を刺す」目的で設ける場合が多いといえます。
競業避止義務違反者に対する退職金の不支給などは、
この効果が高いために規定されやすくなります。
企業は、以下についてきちんと考え、競業避止規定を定めておくと安心だと思います。
•機密事項の特定
•競業行為の定義
•違反者へのペナルティ
ただし、あまりにも「管理的な」取り決めは労使トラブルになりやすいので
第三者の意見も聞きながら慎重に考えましょう。
以上、競業避止と職業選択の自由についてでした。
休職期間の話
休職期間とは、「私傷病や留学、公務など労働者の個人的事情の発生に対して、在籍扱いのまま労働義務を免除する期間」を指します。
休職は法律上必ず与えなければならないものではなく、会社の任意とされています。つまり「休職制度なし」としても一向に構わないというわけです。
ただ実際に社員が長期病欠や留学をすることになると、いきなり「労務の提供ができなくなったから解雇」との対応もしにくい。
そこで「休職期間」という制度が必要になってくるわけです。
休職期間について大事なことは以下の3点です。
1、期間について定めること
中小企業の場合、期間は通常1~3ヶ月程度でしょうか。勤続年数によって休職期間に差を設けることもあります。近年注意しなければならないことは、休職期間の「通算」「延長」でしょう。
メンタルヘルス不全による休職の場合、類似傷病による休職を繰り返すケースが想定できるため、その場合の通算方法や延長方法についても定義が必要です。
(メンタルヘルス不全による休職の場合、類似傷病による休職期間は通算するほうが休職制度の趣旨に合致するという考え方が主流です)
2、休職期間中の賃金支払いについて定めること
休職期間中は労働実態がないため、賃金支払いはなくてもかまいません。
大企業の場合、休職後一定期間所得保障のため賃金支払いをすることもあります。
ただ、健康保険の傷病手当金をうまく活用して休職者の所得保全をする方法はあります。
3、休職期間満了時の取り扱いについて定めること
休職期間が終わった後どのように取り扱うか、復帰させるとしたらその判断根拠はどこにあるのか、などを定める必要があります。中小企業では、病気による休
職の場合、休職期間満了時に傷病の状態が勤務復帰に足るほど回復していない場合、退職扱いとすることが多いようです。
休職については、労働者としての地位に関わる部分であり、とかくトラブルの種になります。
気をつけて管理をしましょう。