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GOLGOのひとりごと

通信手段の今昔(出版社時代の思い出)

2020.06.06

ビジネスシーンにおける通信手段は手紙→電話→FAX→e-mail→SNSと変化を遂げてきました。最近はこれに加えてzoomなどのテレビ電話も新型コロナウイルスの影響もあって普及してきました。

通信手段ということで思い出すのは、私が最初に就職した出版業界のことです。90年代前半の当時、既にFAXは普及していましたがそれでも「原稿取り」という仕事が編集者の業務の中に残っていました。


当時の先輩からは作家や漫画家さんの自宅へ、わざわざ電車やバスを乗り継いで原稿を取りに行く作業がいかに大切かを教えられたものでした。


(当時の作家はそういう事情もあってか、なぜか東京近郊に住んでいる方がほとんどでした)確かにそうやって時間をかけて原稿を頂きに行くことで、相手も「わざわざ来てくれた」と感謝してくれて、編集者を大事にしてくれたり、信頼関係が構築できたりしたことがありました。


ある漫画家さんの場合、私が原稿を取りに行った時にまだ完成していなかったため、お部屋で待たせて頂いたことがありました。その日、たまたま私が徹夜明けであることが話に出たせいか、その方はわざわざ布団を敷いてくださり「完成するまでお休みしててください」と私を寝かせてくれたのです。サービス残業が当たり前の会社でしたが、勤務時間中に2時間も熟睡してしまったことは会社には内緒でした(笑)。


また別のライターさんは、業界でも筆が遅いことで有名な方で、それでもとても良い記事を書くため読者からは絶大な人気のある方でした。ある時、私の担当していた雑誌で初めてその方に記事をお願いすることになったのですが、最初は他の人が担当してました。ところが前任者は約束を一切守ってくれないそのライターさんにあきれてしまい、編集長の命令で私が後を引き継ぐことになったのでした。担当者が私に代わっても、その方は当然のように締め切りをブッチし、電話にも出てくれません(当時はようやく携帯電話が普及し始めた頃でした)。一体何を考えているのかと、途方に暮れたのは言うまでもありません。


雑誌の発行期日は予め決められており、どんなにギリギリまで頑張ったとしても、物理的に発行期日に間に合わなければ掲載することはできなくなります。その場合は代替原稿などを用意して誌面を埋めるわけですが、当然のことながらクオリティは低下し、読者の不興を買うこととなります。雑誌を販売して利益を上げるのが出版社ですので、そうした事態が経営に与える影響は甚大です。


普通なら、そんな信用できない人に依頼しなければいいということになるのですが、そう一筋縄ではいかない事情がありました。やはりそのライターさんは絶大な人気を持つだけあって、いい記事を書くのです。締め切りとの戦いの中でギリギリまで自分を追い込んで書くからこそ、良いものが書ける。クリエイターとは、そういうものなのでしょう。だから、編集長の命令はなんとかして原稿を貰ってこい!というものでした。


編集者とは名ばかりの当時20代の駆け出し小僧だった私は、そこで考えました。この人は普通のやり方では原稿を書いてくれないだろう。一体どうすれば原稿を書いてもらえるだろうか?


締め切りの迫ったいよいよという日、私は家に帰るのを諦めて池袋にあったライターさんの事務所(アパートの一室)の前で待ち伏せをすることにしました。「こんな芝居じみた効率の悪い事、なんだかドラマみたいだなあ」と思っていたのですが、一時間おきに公衆電話からライターさんの携帯に電話を掛けつつ、待つこと数時間、真夜中になってその方が帰ってきたのです。


用件は百も承知です。約束を破られ続けた私はその時怒ってもよかったのですが、あえてそうせず「何とか原稿を書いて頂けないでしょうか?」と逆に頭を下げてお願いしました。異次元の考え方の持ち主に対しては、自分も常識を捨ててかかる必要があると考えたのです。

するとその方は初めて申し訳なさそうな顔をして「必ず明日の朝までに書くから」と言ってくれたのでした。もちろんそれまでも、電話で同じ趣旨のことを言われて、当たり前のようにそれをブッチされてきていたので、今回も空手形かな?と警戒しないわけではありませんでしたが、なぜか私もその時ばかりはライターさんを信じられるような気がしたのでした。


そして翌朝、私はその出版社で初めてその方から原稿を頂いた編集者になったのでした。

見ず知らずの小僧が人気者のライターさんから認められるまでには、そのような出来事がありました。最初は、その方のことを「何てひどい人なんだろう」と思っていたのですが、そのようにして打ち解けた後はその方がとても人間味あふれる熱いハートを持った人だということがわかりました。才能があり、やる気があるからこそ、逆に締め切りが守れず約束をブッチしてしまう。見ようによってはただの困った人なのですが、信じて待つ人の存在だけがこのライターさんを突き動かす鍵だったのでした。信頼を得た後も相変わらず締め切りを守ってはくれませんでしたが、相手との間に一本の糸ができたのを感じました。


当時は手書きの原稿用紙を直接手渡されたものでしたが、出版社も今ではメールやラインで原稿を受け取っていることでしょう。通信手段が便利になれば、言葉そのものは簡単に伝わりますが、人の思いは逆に伝わりにくくなっているような気がします。

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