GOLGOのひとりごと
【会社を守る!・リスク管理】記事一覧
- 2024.08.10
- プロフェッショナルに労基法はいらない
- 2024.06.18
- ついに51人以上の企業のパートに社会保険の適用が拡大されます
- 2024.05.20
- 業務効率の悪い社員には残業手当を払わなくても良いか?
- 2024.05.15
- ホテル時代の元上司の話
- 2023.02.27
- 労働時間の把握ガイドライン(自己申告の場合の措置)
- 2023.02.20
- 労働時間の把握ガイドライン(把握の方法)
- 2023.02.14
- 労働時間把握のガイドライン(労働時間とは)
- 2023.02.14
- パワハラ対応におけるTOC
- 2023.02.06
- 割増賃金計算に算入すべき手当、除外可能な手当の実態とは
- 2023.01.30
- 割増賃金計算に算入すべき手当、除外可能な手当の概要
- 2023.01.25
- パワハラ対応で感じたこと
- 2023.01.04
- 複数の事業所で雇用される場合の社会保険
- 2022.08.30
- 退職の種類
- 2022.08.25
- 問題社員への退職勧奨を行う前に気を付けること。
- 2022.07.26
- 中小企業におけるパワハラ防止措置義務
- 2022.07.19
- 労働組合の団体交渉とは
- 2022.07.11
- 労働審判という制度について
- 2022.06.13
- 固定残業手当の注意点
- 2022.04.01
- ハラスメントをしてしまうのは悪者よりも愚か者
- 2022.02.04
- 罰金制度の注意点
- 2021.10.26
- 労災保険の費用徴収
- 2021.10.11
- 問題社員を解雇する方法
- 2021.09.13
- リモートワークでの労働時間の管理方法
- 2021.09.06
- 退職が決まっている社員の賞与
- 2021.07.05
- 社員が濃厚接触者となった場合の取扱い
- 2021.03.29
- 副業・兼業の促進に関するガイドライン
- 2021.02.26
- 労働基準法上の賠償予定の禁止
- 2021.02.22
- 労働保険料等の納付猶予
- 2021.01.10
- 就業規則の持ち出しを禁止してもよいか?
- 2021.01.06
- 不当労働行為
- 2021.01.03
- テレワーク時の時間管理について①
- 2021.01.02
- 会社都合で1日の所定労働時間の一部を休業させた場合の休業手当
- 2020.12.24
- 整理解雇の4要件を知ってますか?
- 2020.12.01
- 妊娠中の軽易な業務への転換
- 2020.11.12
- 業務上のミスで発生した損害を折半することを約束した労働条件は無効か
- 2020.11.09
- 退職者が引継ぎをせず、有給消化を申請した場合の対応
- 2020.11.05
- 社会保険の適用事業所と加入者について ~その2~
- 2020.11.01
- 源泉所得税の甲欄乙欄
- 2020.10.08
- 給与から控除できる項目
- 2020.10.05
- 雇用契約と業務委託契約
- 2020.09.21
- パワハラ防止指針
- 2020.09.09
- お上はある日突然動く!
- 2020.09.04
- 労働保険料申告手続きを忘れたら?
- 2020.08.25
- 労災給付の申請書に医師証明書をもらう場合の診断書料について
- 2020.08.04
- 未払い残業代を遡って支払った場合の社会保険料
- 2020.07.14
- 求人票に固定残業代を記載する時の注意点
- 2020.05.26
- セクハラと労災
- 2020.05.19
- 未払い残業代請求訴訟における「付加金」
- 2020.05.19
- コロナで労災申請はできるか?
- 2020.04.16
- 給与を取り来ない従業員がいた場合の対処方法
- 2020.04.09
- もしも従業員がコロナに感染したら?
- 2020.04.03
- 使用人兼務役員の年次有給休暇の取扱について
- 2020.03.05
- 新型コロナウイルスについてのQ&A
- 2020.02.10
- 転籍は拒否できるか
- 2020.02.07
- 精神障害の労災認定基準
- 2019.12.20
- 育児休業を開始する社員に対し、職場復帰を確約する誓約書を提出させることはできるか。
- 2019.12.16
- 通勤災害は労災か自賠責かどちらがいいか?
- 2019.12.06
- インフルエンザに社員が掛かったら?
- 2019.11.08
- 以前の保険証を使って医者にかかった場合
- 2019.10.18
- 労災発生時の対応
- 2019.10.11
- 管理職の残業手当
- 2019.10.07
- 解雇とは?
- 2019.10.04
- 賃金台帳と労働者名簿
- 2019.09.30
- 労働時間の適正な把握&措置
- 2019.08.26
- 仕事中の熱中症は労災か?
- 2019.08.19
- 連絡の取れない無断欠勤中の従業員への対応
- 2019.07.01
- 私生活の素行の悪さについて
- 2019.06.16
- 海外療養費
- 2019.06.06
- 労働組合
- 2019.05.30
- 有給休暇の理由を聞いてもいいか?
- 2019.05.26
- 従業員のメールやパソコンを監視して良いか
- 2019.05.23
- 会社主催の宴会で暴行事件が起きたら
- 2019.05.15
- 均衡待遇と均等待遇の違い
- 2019.04.22
- 妊産婦、育児中の労働者の取り扱い
- 2019.04.18
- 「社内恋愛禁止令」は有効か?
- 2019.04.12
- 賞与を支給する対象者は会社が決められる?
- 2019.02.19
- 社内恋愛を禁止できるか?
- 2019.02.15
- 従業員の業務外の非行
- 2019.01.31
- 社員を雇った時の書類
- 2019.01.15
- 通勤手当の不正受給
- 2018.12.28
- 社内不倫と解雇
- 2018.12.26
- セクハラ防止と対応方法
- 2018.12.18
- ブログやツイッターに会社の悪口を投稿したらクビになる?
- 2018.12.14
- 茶髪や派手な服装での出社をやめてほしい
- 2018.11.16
- 始末書の目的と役割
- 2018.10.22
- 在宅勤務中の労災
- 2018.09.17
- 労災保険のメリット制
- 2018.09.12
- 労災の業務起因性と業務遂行性②
- 2018.09.10
- 労災の業務起因性と業務遂行性①
- 2018.09.03
- 労働条件の不利益変更
- 2018.08.27
- 社員に損害賠償を請求できるか?
- 2018.07.09
- 建設業の労災保険
- 2018.06.18
- 休職制度は必要か?
- 2018.06.12
- 算定基礎届・年金事務所の調査
- 2018.03.26
- 固定残業制度
- 2018.03.19
- 過労死と会社の責任
- 2018.03.06
- 資金繰りとキャッシュフロー計算書の目的
- 2018.01.26
- 仕事の後の飲み会は残業扱いになるか
- 2017.12.30
- 年金事務所の調査のポイント
- 2017.12.03
- 精神疾患のため休みがちな社員への対応
プロフェッショナルに労基法はいらない
ゴルゴ13が依頼人と結ぶ契約は?
①労働契約
②請負契約
答えは②請負契約です。
どちらもいわゆるシゴトをするという点では共通していますが、シゴトに対する責任の負い方が異なります。
①労働契約は使用者の指揮命令に従うことが絶対条件です。シゴトをどういう風にやるかは使用者が決めて指示します。カラシニコフを使うのか?M16か?それともナイフか?は、使用者がいちいち指図します。その代わり、うまくいかなかったり、時間がかかってしまったとしても使用者はその時間分の賃金を支払う義務があります。
②請負契約は仕事の完成を目的とする契約です。ある国の要人を暗殺するという目的のために、ゴルゴ13が1年間時間を掛けたとしても、結果が失敗であれば報酬は発生しません(実際には着手金という形で発生はするのですが、ざっくり言えばそういうことです)。請負契約とはプロフェッショナルにしか結べない契約です。
これらは民法という法律で定められているのですが、ではなぜこのように定められているのでしょうか?
法律にも必ず思想があるはずです。このように定めた方が世の中がうまく回るんじゃないか?とか、多くの人が幸せになるように考えられているはずなのです。
そこで出てくるのが「プロフェッショナルに労基法はいらない」という思想です。
逆の言い方をすれば、「アマチュアには労基法による保護が必要」です。
プロフェッショナルの代名詞といえばゴルゴ13。これはもう説明不要です。
どんな仕事も完璧にこなし、高い報酬を要求する。誰の指図も受けない。
一方で、雇用契約の対象となるのはアマチュアです。スポーツ選手によく用いられる言葉ですが、要するにプロではない人のこと。
使用者の指揮命令に従って働くのが雇用であり労働です。
その代わり、プロではありませんから、結果が出ないことも十分にあり得ます。
このような場合に、使用者は報酬を払うのを渋りたくなるかもしれません。
そのために、そのようなことから労働者を守るのが労働基準法です。
たとえ結果が出なくても、約束した時間、使用者の指揮命令に従って働いたのであれば、予め定めた賃金を払う義務があります。
だから「私、失敗しないので!」という外科医・大門未知子のようなプロフェッショナルには労働基準法は必要ないわけです。
これが原則的なものの考え方です。
では、実際の労働者を考えた時に、その人たちがみんな一律なアマチュアかというとそうではないと思います。
学卒の新入社員もいれば、この道10年のベテランもいます。
新入社員は純粋なアマチュアであり、ベテランはよりプロに近くなるはずです。
労働基準法の中には、管理監督者やフレックスタイム制や裁量労働制などベテラン向けの制度がいくつか決められています。
ベテラン向けの制度では、労働を量ではなく質で評価する考え方をします。
新入社員に対して「自由に仕事していいから残業代はなしね」と言ったりするのは酷ですよね。
私は固定残業手当もどちらかというとベテラン向けの仕組みだと思います。
アマチュア=労働者性が強い人
肉体労働の現場作業員などがそうかもしれません。
こういう仕事は定量的な仕事です。一定の成果を出すためには誰がやっても、同じくらいの労力が掛ります。こういう仕事では、働いた時間分だけ給与が貰える仕組みの方がモチベーションが上がります。
ベテラン=プロに近い人
頭脳労働やクリエイティブな仕事がこれに該当します。やる人によっては生産性が10倍違ったりする。営業の仕事もこれに近いと思います。こういう仕事ではインセンティブのような、より成果主義的な仕組みが相応しいと思います。逆に労働の量はあまり意味がありませんから、裁量労働制のように何時間働いても給与は一緒、という仕組みでもいいと思います。
雇用契約のよくある間違いは、アマチュアに対してプロ向けの仕組みをあてがってしまうことです。
成果の出せないアマチュアに対して、成果だけを求めても悲劇しか生まれません。
それよりも効果的な指揮命令が必要です。その例はマクドナルドやディズニーランドでしょう。何も知らないアルバイトでも、マニュアルという指揮命令によって見事に戦力化されています。
アマチュアというのは手間が掛かりますね。
プロフェッショナルとの契約は単純明快ですね。
どちらにもメリットとデメリットがあると思います。人を雇う上では大事なことです。
ついに51人以上の企業のパートに社会保険の適用が拡大されます
事業主の皆さん、今年の10月からパート労働者への社会保険の適用拡大が更に進むのを御存じですか?
2022年10月から101人以上の企業に対して適用拡大が行われましたが、今度は51人以上の企業に対して適用拡大が行われます。
まずはこの従業員数51人のカウント方法が気になりますね。
従業員数=フルタイムの労働者数+週所定労働時間がフルタイムの3/4以上の労働者数
よくある勘違いはこれですね↓↓↓
従業員数=その会社の全ての労働者数
普通は従業員数といったらこちらを思い浮かべるのではないでしょうか。
週所定労働時間がフルタイムの3/4以上の労働者のことを仮に準フルタイムと呼ぶことにします。
労働基準法での週所定労働時間は40時間が限度なので、準フルタイムは週30時間以上の人と考えればイメージしやすいと思います。
なので、フルタイムと準フルタイムは適用拡大前から社会保険に入るべき人です。
では適用拡大とは何かというと、週20時間~30時間の労働者も社会保険に入れるということです。
2024年10月からの適用拡大をわかりやすく言うと、
フルタイム+準フルタイムの人数が51人以上の企業に在籍している週の労働時間が20時間以上の人も社会保険に入らなくてはならなくなる、ということです。
ある程度の規模の企業では、それらの労働者を社会保険に加入させる(保険料を負担させ、会社も保険料を負担する)しか仕方ないでしょう。
ですが、フルタイム+準フルタイムの合計人数がギリギリで51人になってしまったり、100人弱までの企業なら、もう一社法人を作るという手もあります。
厚生労働省のパンフレットによれば、人数のカウントは法人番号が同一の企業を合計するということですので、法人番号が別の法人をもう一社作って人数を振り分けて、別会社からの派遣や請負という形にするのも可能だと思います。
(ただし、専ら派遣は禁止されていますので、派遣を行う場合には派遣法を遵守する必要があります)
この改正に伴い、2024年10月以降は年金事務所の調査も増えると思われます。会社にとってもパート労働者にとっても大きな影響があると思われますので、注意が必要です。
業務効率の悪い社員には残業手当を払わなくても良いか?
実はこれも私の実体験である。
「オメエらの訓練のために掛った時間は残業つけないからな!」
ホテル時代のアル中上司から入社日に言われたことだ。
要するに実際に掛った時間ではなく、その日の仕事量を勘案して残業時間を記録するということだ。不慣れな新人が何度もやり直したりして時間が掛かったとしても、それに対しては時間外手当を支給しないというのだ。
はたしてこれは合法か?
(当時の私は何の知識も無いおバカだったので、そういうものかと納得してしまっていた)
もちろんアウト!である。ベテランが一時間でできる仕事を、新人が二時間かかったとしたら、二時間分の賃金を支払う必要がある。
ちなみにこれが雇用契約でなく、請負契約であったならば問題はない。
つまり、雇用契約とは、働くことそのものが契約上の義務であり、その結果がどうであろうとその時間、指揮命令に従ってさえいれば契約を守ったことになるから、賃金を受け取る権利が生まれることになる。
ちなみに、請負契約とは、仕事の結果に対して義務を負う契約である。
例えば、家を建てるという契約であれば、実際に家が出来上がらなかったら工賃を請求することはできない。
なので雇用契約を結ぶときは雇う側は気を付ける必要がある。
その労働者がどんなにデキなかったとしても、指揮命令に従ってさえいれば、たとえ業務効率が使用者の求める水準に達していなくても、約束した賃金を支払わなければならないからだ。
雇う以上は、結果が伴わなくても給与を払わなくてはならないのだから、上手に指揮命令したり、教育訓練を行ったりして、結果を出させる必要がある。
経営者は労働者が結果を出せないことを、人のせいにできない。
その代わり、誰を雇うかは経営者の自由である。
しっかりと見極めて、用意周到な雇用契約(試用期間やインセンティブなど)を結び、成果を出させる工夫をするしかない。
誰を雇うかを決めるのも社長、指揮命令するのも社長、雇用条件を決めるのも社長なのだから、全ては社長の責任!
ホテル時代の元上司の話
もう20年も前、私はあるお役所系のホテルに就職した。在籍していた3年間、私の上司だった人物がいる。ホテルの頭文字をとって仮にH氏としておこう。
彼は私よりふたつくらい歳上の人で、宴会部門の責任者だった。
私が30歳くらいだったから、彼もまだ30代前半だったと思う。
若くして現場を任されるのだからそれなりに優秀だったのだろう。
彼は宴会部門を我が物顔で取り仕切っていた。
新入りは彼からパワハラを受けるのが恒例だった。
私の前に入社した先輩が散々目の前で搾られるのを見ていたので、薄々予感はしていたが、その先輩が辞めてしまうと、やはり順番が回ってきた。
例えば宴会場のテーブルの並べ方が1センチずれている、といった理由で何時間も無駄に残業させられる。もちろん残業代など出ない。すべてサービス残業だ。
やれ教育だ!自己研鑽だ!何かと理由を付けて長時間労働させられる体質の職場だった。
宴会部門の仕事の流れは、昼間は会議をやり、夜は宴会をやり、宴会が終わると翌日のセッティングをするといった感じだ。週末には婚礼もある。
ようやく宴会場の仕事が終わると、今度は勉強の為と称してレストランの手伝いをさせられる。
レストランがクローズすると、今度は事務所で酒盛りが始まる。
どこからお酒を調達するかといえば、宴会場の冷蔵庫からだ。
その為に飲み放題プランの時は、実際に出た本数よりも多く伝票を切るようにH氏から固く指示されていた。
私は酒が弱いのでいつもウーロン茶しか飲まなかったが、宴会部門は酒の強い人が多く、毎晩ひとり5本くらいはビールを飲んでいたと思う。
冷蔵庫から運んでくる役割は当然新入りの仕事だった。
H氏の名誉のために補足するが、こうした悪習は彼だけの責任ではない。
このホテルでは、ずっと前から行われてきた事だからだ。それこそ昭和の時代から。
お役所が経営しているホテルだったから、コンプライアンスが行き届いているかというと、そうではない。
国のお金で経営されているホテルには、経営者がいない。支配人という人が全体の責任者だが、おそらくどこかの省庁からの天下りで、2~3年ごとに入れ替わる。
だから社員が不正をしても誰の懐も痛まないのだ。
要するにやりたい放題だった。
共産主義国家で官僚の腐敗が起こる構造もこれと同じだ。
(少子高齢化で年金の財源が足りないなどと言われているが、年金を財源にして建てられたホテルというのは、大体こんなふうに運営されていたのだから、赤字になるのも当然だ。この会社に入る前にも、いくつかのホテルでバイトした経験があるが、○○年金会館みたいな所では仕事終わりに酒を飲む事が慣習になっていた)
結婚式を担当すると、よく新郎新婦の両親から一万円くらいのチップを貰ったが、それも担当者コンビで山分けするのがしきたりだった。最近のホテルではそれも会社に差し出すようになったと聞く。
ちなみになぜかH氏と組んだ時にはチップを分け合った記憶がない。たまたまチップが貰えなかっただけかもしれないが。。。
このホテルは酒好きの人にとっては良い職場かもしれないが、私には苦痛だった。
中途採用で簡単に入れた割に給料はそこそこ良かったのはそういうわけだった。当然社員の定着率は低い。
当時私は新婚で、長男が生まれたばかりの頃だったのに帰りは毎晩終電だった。
更に辛いのは酒盛りに何時間も付き合わされる上に、食べる物が全く無いのだ。
どうせ酒盛りをするのなら、宴会の料理も残しておけばいいのに、と思ったがそれは許されていなかった。
多分、H氏は飲む時は食べないタイプの人なのだろう。本当の酒好きはそうらしいから。
ちなみにH氏が休みの日は、みんなで示し合わせてさっさと帰ったものだった。
今から思うと、H氏がみんなを帰らせないようにしていたのは、教育のためというよりは、酒盛りのためだったのではないだろうか?
宴会部門の人間たちが夜、酒を飲んでいることはフロントや営業の人たちは黙認していた。とはいえ、共犯者が少ないと内部告発されるリスクがある。早番の人間が先に帰ることはそういう点で不都合だったのだ。つまり、みんなを共犯にする事で、自分が安全にタダ酒を飲めるようにする事が真の目的だったのではないか?
そんな職場に三年もいたのだから、あの頃の自分はよく我慢したと思う。
人間というのは結婚して、子供が生まれれば人はモチベーションが上がるものなのだろう。
そのやる気を逆手にとってパワハラが行われるのだから、実に悲惨な状況だったと思う。
今でいう、やり甲斐搾取という奴だ。
もちろん会社にとっての損失も大きかったことだろう。
そんなわけで、私はホテルを辞めて、別の道を進んだのだが、後日談がある。
最近、そのホテルを定年退職した人に会う機会があったのだ。
あの人はどうしたとか、あの時はこうだったとか、思い出話に花が咲いた。
そんな中でH氏の話も聞いた。
あの職場を牛耳っていた人なのだから、さぞや出世したのではと思いきや?
・・・なんとH氏は退職したらしい。
当時は組織ぐるみでやりたい放題だったあの職場にも、その後メスが入る時が来たそうだ。
毎晩のように深夜までやっていたタダ酒飲み放題に、ついに禁止令が出た。
禁止令に逆らって酒瓶を事務所に運び、以前のように酒盛りを復活させようと抵抗するH氏。
そんな彼を最初のうちは庇って注意していた仲間たちだった。
確かにそれまでは、みんなが共犯していたのだから、彼の気持ちもわかるのだろう。
ところが今度はH氏は酒瓶を鞄に詰めて持ち帰るようになってしまったという(さぞ重かったろうに)。
こうなってしまうと後の祭りだ。
若くして宴会部門の責任者になり、職場では一時代を築いたH氏だったが、最後は懲戒解雇されてしまった。
優秀な彼がなぜそんな愚かな行動に走ったのか?
おそらく原因は酒だろう。
長年の習慣が彼の体をアルコール無しではいられなくしてしまったに違いない。
私にとってはつらいパワハラの相手だが、会社にとっては有用な人材だったはずである。
そんなH氏が、アルコール中毒患者になってしまった原因は、間違いなくあのタダ酒だったと思う。
そしてパワハラの原因もその環境にあると言って良いだろう。
H氏は経営者ではないので、社員にサービス残業をさせる事にインセンティブは本来働かないはずだ。
ところがこの会社ではタダ酒を安全に飲むために共犯者を増やすというインセンティブが働いていた。
結局のところ、不正がパワハラやサービス残業を生んでしまっていたことになる。
労働時間の把握ガイドライン(自己申告の場合の措置)
自己申告制により行わざるを得ない場合、 厚労省のガイドラインによると以下の措置を講ずることとされています。
(ア) 自己申告制の対象となる労働者に対して、本ガイドラインを踏まえ、 労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと。
(イ) 実際に労働時間を管理する者に対して、自己申告制の適正な運用を含め、本ガイドラインに従い講ずべき措置について十分な説明を行うこと。
→これらは、当事者たる労働者及び使用者(会社)に対して「自己申告制については注意すべきだからガイドラインをしっかり説明するように」という牽制がなされているものです。
(ウ) 自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。
特に、入退場記録やパソコンの使用時間の記録など、事業場内にいた時間の分かるデータを有している場合に、労働者からの自己申告により把握した労働時間と当該データで分かった事業場内にいた時間との間に著しい乖離が生じているときには、実態調査を実施し、所要の 労働時間の補正をすること。
→ここでは使用者に対して、自己申告制により労働時間が適正に把握されているか否かについて「定期的に実態調査を行い、確認すること」を求めています。 特に、労働者が事業場内にいた時間と、労働者からの自己申告があった労働時間との間に著しい乖離が生じているときは、労働時間の実態を調査するようにしてください。
(エ) 自己申告した労働時間を超えて事業場内にいる時間について、その理由等を労働者に報告させる場合には、当該報告が適正に行われているかについて確認すること。
その際、休憩や自主的な研修、教育訓練、学習等であるため労働時間ではないと報告されていても、実際には、使用者の指示により業務に従事しているなど使用者の指揮命令下に置かれていたと認められる時間については、労働時間として扱わなければならないこと。
→(エ)については、会社からの「なんでそんなに時間オーバーしたんだ!?内容を報告せよ」という行為そのものが労働時間を短く申告させる原因になり得るということに言及しています。時間が乖離している理由を報告させること自体は悪くないですが、プレッシャーを与えて事実を捻じ曲げることのないように注意しなさいということが述べられています。
(オ) 自己申告制は、労働者による適正な申告を前提として成り立つものである。このため、使用者は、労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めない等、労働者による労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと。 また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること。さらに、労働基準法の定める法定労働時間や時間外労働に関する労使協定(いわゆる36協定)により延長することができる時間数を遵守することは当然であるが、実際には延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、実際に労働時間を管理する者や労働者等において、慣習的 に行われていないかについても確認すること。 自己申告による労働時間の把握については、あいまいな労働時間管理となりがちであるため、やむを得ず、自己申告制により始業時刻や終業時刻を把握する場合に講ずべき措置を明らかにしたものです。
→これは「時間外労働は◯◯時間までで、その後は認めない」「固定残業手当以上の残業代は払わない」などといった社内ルールがあることが正確な時間管理を阻害する可能性があることについて言及しています。
労働時間の把握ガイドライン(把握の方法)
労働時間の適正な把握は使用者(会社)の義務です。自己申告に任せて出勤時間管理をするだけでは十分ではないことに注意が必要です。以下厚生労働省が示したガイドラインをもとに解説します。
2、労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置
①始業・終業時刻の確認・記録
使用者は、労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごとの始業・ 終業時刻を確認し、これを記録すること。
使用者には労働時間を適正に把握する責務があります。
労働時間の適正な把握を行うためには、単に1日何時間働いたかを把握するのではなく、労働日ごとに始業時刻や終業時刻を使用者が確認・記録し、これを基に何時間働いたかを把握・確定する必要があります。
つまり、会社は労働者の時間管理を「日毎に」「いつからいつまで働いて」「休憩をいつからいつまでとったか」を確認しておかなければならないということです。
始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法
使用者が始業・終業時刻を確認し、記録する方法としては、原則として次のいずれかの方法によることとされています。
(ア) 使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること。
(イ) タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること。
(ア)について 「自ら現認する」とは、使用者自ら、あるいは労働時間管理を行う者が、直接始業時刻や終業時刻を確認することです。なお、確認した始業時刻や終業時刻については、該当労働者からも確認することが望ましいものです。
(イ)について タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を 基本情報とし、必要に応じて、例えば使用者の残業命令書及びこれに対する報告書など、使用者が労働者の労働時間を算出するために有している記録とを突き合わせることにより確認し、記録して下さい。
労働時間把握のガイドライン(労働時間とは)
労働時間の適正な把握は使用者(会社)の義務です。自己申告に任せて出勤時間管理をするだけでは十分ではないことに注意が必要です。以下厚生労働省が示したガイドラインをもとに解説します。
1、労働時間とは
使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示的・黙示的な指示により労働者が業務を行う時間は労働時間にあたります。労働時間に該当するか否かは、労働契約や就業規則などの定めによって決められるものではなく、客観的に見て、労働者の行為が使用者から義務づけられたものといえるか否か等によって判断されるとガイドラインでは定めています。
たとえば、ガイドラインによると次のような時間は労働時間に該当するとされます。
①使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間
→労働紛争においてしばしば争点になりますが、営業開始前の掃除時間は労働時間と判断される可能性が高いものです。
②使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間 (いわゆる「手待時間」)
→昼休憩中に電話番を兼ねている場合などがこれにあたります。また、美容室など接客業における待機時間も労働時間と判断されます。
③参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間
→会社が実質的に強制している研修や社内イベントは労働時間と判断されます。
パワハラ対応におけるTOC
今回のパワハラ対応で役に立ったのはTOC(制約条件理論)という考え方です。
・ものごとはそもそもシンプルである
・どんな対立も解消できる
・人は常に善良である
TOCでは、どんなシステムであれ、常にごく少数の要素または因子によって 全体のパフォーマンスが制限されているという考え方をします。
例えば、パワハラ問題などは人と人との問題ですので、感情がからんで誰かを悪者にしてしまったりしがちです。
確かに人が人を傷つけてしまうということは事実なので、人に罪を着せたくなる気持ちはわかりますが、実際には加害者の方も悪意があってやってしまうというケースは稀です。
加害者を悪者にするだけでは結局根本問題を解決することはできないと思うのです。
それよりも、加害者にパワハラをさせてしまっている根本の原因を全体をひとつのシステムとして捉えて考えます。
・被害者は加害者からパワハラを受けた
・加害者は仕事熱心であり、会社の発展を願っている
・加害者は他の社員からもぶっきらぼうな物言いなどで反感を買っていた
・加害者は確かにぶっきらぼうな面もあるが、ふたりで話してみるといい人だという意見もある
・加害者自身も自分が周囲からのけ者にされているという感覚を持っていた
・昔はみんなで旅行に行ったり、食事をしたりする機会があったが、コロナが流行ってから社内でのレクリエーションができなくなったという意見があった
・あと少し突っ込んで確認できていれば誤解を生まずに済んだような問題や行き違いが数多く発生していた
これらひとつひとつを見ればそれぞれが別々の問題のように見えますが、全体をひとつのシステムとして捉えることでバラバラの問題に個別に対処するのではなく、それらがなにかひとつの要因によって引き起こされているのではないかという洞察を行うことが可能になります。
今回の場合はある方法を使ってコミュニケーションを増やすという結論になりました。
TOCのいいところは、人を悪者にせず、物理的制約や市場制約、方針制約に着目して変えられるものを変えることで問題を解決できるところです。
誰かに考え方を変えてもらうというのは至難の業ですが、そんなことせずにただコミュニケーションを増やすだけであれば、誰も反対はしないはずです。
ニューヨーク地下鉄の割れ窓理論とよく似ていて、直接関係ないような要素に働きかけることによって、それが結果的に問題を解決することに繋がっていきます。
割増賃金計算に算入すべき手当、除外可能な手当の実態とは
割増賃金計算に算入すべき手当と除外可能な手当は限定的に列挙されていますが、たとえ列挙されている手当であっても実態によって除外できないことがあります。
通勤手当
通勤手当については、一定額までは距離にかかわらず一律に支給するような場合には、この一定額部分は通勤手当ではないとされ、割増賃金の算定基礎に含まれることになります。
別居手当
別居手当は、通勤の都合により単身赴任など同一世帯の扶養家族と別居を余儀なくされる労働者に対して、世帯が二分されることによる生活費の増加を補うために支給される手当を指し、単身赴任手当・子女教育手当等と呼ばれることもあります。別居手当、単身赴任手当については「別居・単身赴任をしているか否か」というわかりやすい支給基準がありますので、その条件に合っている限り割増賃金算定に加えなくても良いでしょう。
住宅手当
住宅手当について基礎賃金から除外するためには、「実費に応じた手当であること」を満たす必要があります。つまり、住宅に要する費用に応じて①費用に定率を乗じた額とすることや、②費用を段階的に区分し、費用が増えるに従って額を多くすることなどでなければなりません。
典型的なN Gの例としては「実費用に関わらず一律に支払われる住宅手当」や、「賃貸住宅2万円、持ち家居住者1万円という定額支給」などで、この場合は基礎賃金から除外することはできません。(この点給与計算の間違いは多く見られます)社宅であるか、賃貸であるか、持ち家であるかといった住宅の形態ごとに一律に定額で支給されるものや、あるいは、管理職であるか、一般社員であるかといった住宅以外の要素に応じて支給されるものは該当ないことに注意が必要です。
割増賃金計算に算入すべき手当、除外可能な手当の概要
通常の労働時間の賃金の中には、家族手当、通勤手当のように、労働と直接的な関係が薄く、個人的事情に基づいて「実費弁償的に」支払われる賃金があり、これらをすべて、割増賃金の基礎にするとすれば、家族数、通勤距離等個人的事情に基づく手当の違いによって、それぞれに差が出てくることになります。
例えば通勤手当も割増賃金計算に算入した場合、遠くから通い通勤手当を多くもらっている労働者の方が近場の労働者よりも多くの残業代を受け取ることになります。
このことから、労働基準法施行規則21条では、割増賃金の時間単価を計算するときの基礎賃金から、除外することができる手当について次のように規定されています。
「法第37条第5項の規定によって、家族手当及び通勤手当の他、次に掲げる賃金は、同条第1項及び第4項の割増賃金の基礎となる賃金には算入しない。」(労働基準法施行規則21条)
・家族手当
・通勤手当
・別居手当(単身赴任手当)
・子女教育手当
・住宅手当
・臨時に支払われた賃金
・1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金
これらは単なる例示ではなく「限定列挙」と呼ばれ、これらに該当しない賃金は逆に全て割増賃金の基礎賃金としなければなりません。また、上記の手当が支払われていた場合であっても、実際にこれらの手当を除外するにあたっては、単に名称によるものでなく、その実質によって取り扱うべきものとされている点に注意が必要です。
家族手当
家族手当とは「扶養家族数又はこれを基礎とする家族手当額を基準として算出した手当」を指し、被扶養配偶者一人◯◯円、子供一人◯◯円などと定められているものを言います。そのため、扶養家族がいなくても一律に支給されている家族手当は残業割増単価から除くことができません。
パワハラ対応で感じたこと
お客様からのご依頼で、パワハラ対応をさせて頂きました。
関係者全員のお話を直接一対一で聞かせて頂き、問題のありかを探り、私自身の意見もお伝えさせて頂きました。当事者の方は、案外と素直に受け止めて頂けたように思います。
今回、大まかな問題点については事前にお聞きしていましたが、落としどころをどこに持っていくか、誰を何と言って説得するか、といった目算は何もありませんでした。
台本も無し、想定問答も無しでした。
それでも大きな不安なく、このお仕事を受けることができたのは、長年お付き合い頂いているお客様であることと、経営者の方を深く信頼していたからでした。
どう転んでも悪い方へは行かないであろうという予感があったのです。
そして任せて頂けることに大きなやりがいを感じました。
面談にあたっては、特に構えることなく、素直に誠実にお聞きするという自然な態度でした。人は善なる存在であるというY理論の考え方はMGを通して身に付いた思想ですが、こういった時にも変わることはありません。
ご挨拶、雑談から始まって、お仕事の状況などをお聞きして、打ち解けたあたりで問題について話して頂くという流れに自然になってゆきました。
どの方も真摯に仕事に取り組んでおられて、面談の中で感情的な場面は一度もありませんでした。
ただし、パワハラ問題に関しては当事者の方以外が一致した見解を持っておられました。
当事者の方も、自身でコミュニケーションが苦手だと認識しておられました。
当事者の方に悪気はなく、周囲の方もそれをある程度理解しておられました。
それでも被害を受けた方は大きなダメージを負っていました。
また当事者の方も、組織内で疎外感を感じておられました。
パワハラは多くの場合、職責上上位にある者が加害者となります。
職場におけるパワー(影響力)は上位から下位に対して強く働きやすいからです。
当事者の方は上位で、被害者の方は下位の方でした。
実は私も過去パワハラを受けたことがありました。
職場での力関係は今回と同じでした。
この場合、下位の者が直接上位の者を正すというのは不可能です。そんなことをしたら職場秩序への反逆行為と見なされてしまう可能性があるからです。問題を解決するには周囲の人の協力が必要ですが、それは簡単な事ではありません。
中立の第三者としては、やはり上位の方に配慮をお願いすることが必要だと感じました。
幸いなことに当事者の方も、自身がコミュニケーションが苦手なせいで疎外感を感じており、問題意識を持っておられました。パワハラが起きた原因も、職人的な職場風土のせいで、上下の意思疎通が効かなくなっていることが根本原因だというのが私の見解でした。様々な問題の根っこにある根本原因は、コミュニケーション不全であると。それを難しくしてしまっているのが、当事者の方の苦手意識でした。
私は当事者の方のあるべき姿について、丁寧に説明することにしました。
上位の者が変わらなければ下からは変えられないということ。
職責上位の方が黙っているだけで、当人が普通にしていると思っていても、周囲からはむしろ不機嫌に映ることもあるということ。
職場でコミュニケーションを生みやすい雰囲気を作るためには上位の者からのアクションが重要であること。
そして何よりも、職責上位の者こそが、主体的に会社全体にとって何が必要かを考えるべき立場にあるということをお伝えさせて頂きました。
当事者の方はしきりと「そういうことが苦手だ」と仰りましたが、「これが職場の大問題なので本気で努力してほしい」旨をお伝えした所、最後には理解して頂けたようでした。
今回のパワハラは、仕事のやり方について見解の相違があったことが原因でしたが、それについて話し合いで結論を出すことができず、問題が放置されている状態でした。これは品質不全にも繋がりかねない問題でした。技術的な方針をどう決めるかについて、組織として責任ある判断ができていないとすれば、それは将来重大な問題を引き起こす可能性があるという危惧をお伝えしたところ、技術者であるその方にはコミュニケーションの重要性について理解しやすかったようでした。そうなってしまったら、たかが人間関係などとは言っていられなくなると気付かれたのでしょう。
ご本人に悪意はなく、真剣に会社の発展を願って勤務している方なのですから、会社にとって何が本当に大切かが理解できれば行動もきっと変えて頂けることと信じています。
また、それとは別に委員会を作ることも提案させて頂きました。
上位にある者が常に正しい判断ができるとも限りません。上位の者が間違った判断をした時に、それを正す仕組みが必要です。ひとりの判断よりも、複数の委員の判断の方が、間違える可能性は低いであろうという考え方です。人間である以上、誰だって間違うことはある。問題は組織がどうやってそれを防ぐか?そういう仕組みが必要だと思います。
2022年4月から法制化されたパワハラ防止規程についても、改めて周知して頂けるようにお伝えしました。
会社全体として、パワハラを防ごうとする基本姿勢を示すことが周囲の不作為を生まないために最も重要なことだからです。相談窓口の設置や通報者の保護なども規定する必要があります。
結局のところ、社労士には何の神通力もありません。
労働法に精通し、心理学、歴史、哲学などを日々学んでおりますが、同じ心を持ったひとりの人間に過ぎません。
努力はしておりますが、必ず正しい判断ができるとは限りません。
そもそも正解が存在しない問題も職場にはたくさんあります。
今回も私が申し上げた意見が全てではなかったと思います。
また、現実はそう簡単に変わらないかもしれません。
それでも、面談を終えた時、皆さんの表情が少しだけ明るくなっていたような気がしました。
人が勇気を持つきっかけができたのであれば、とても幸いに思います。
複数の事業所で雇用される場合の社会保険
過去に厚生労働省が副業・兼業の促進に関するガイドラインを出した経緯もあり、複数の事業所で雇用されている人が増えてきたと思います。また、令和4年10月からは短時間労働者への社会保険適用が拡大されますので、短時間労働者=保険未加入者ではなくなっていきます。各保険の取り扱いについて見ていきます。
例:A社で週30時間勤務、B社で週10時間勤務のケース(両社とも雇用契約)
1、労災保険について
労働者が、副業・兼業をしているかにかかわらず、事業所ごとに労災が適用されます。よって、A社で被災した際はA社の労災、B社で被災した際はB社の労災が適用されます。また、A社からB社への移動時に起こった災害については、B社においての通勤災害として扱われます。
2、雇用保険について
労働者が週20時間以上勤務する場合(その他にも要件あります)等で、該当事業所で雇用保険に加入します。今回のケースで言えば、A社のみで加入をすることになり、B社では加入しません。仮にB社でも週20時間以上勤務する場合は、「生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける雇用保険関係にある会社での加入」となりますので、やはりA社のみで加入をするのが妥当でしょう。
3、社会保険(健康保険・厚生年金保険)について
労働者が週30時間以上勤務する場合(その他にも要件あります)等で、該当事業所で社会保険に加入します。今回のケースで言えば、A社のみで加入をすることになり、B社では加入しません。仮にB社が「特定適用事業所(短時間労働者でも社会保険加入)」に該当し、かつ、週20時間以上勤務する場合(その他にも要件あります)等で、B社でも社会保険加入義務が生じる可能性があります。この場合、両社で社会保険に加入することとなり、主たる事業所の選択や、両社の報酬額に応じた保険料を納付することになります。
従業員が副業や兼業をしている場合、他社で何時間働く契約になっているかの把握や適切な保険加入を進めていけるとよいでしょう。
退職の種類
一口に退職と言っても、様々な種類があります。どのような種類があるか、以下で見ていきましょう。
- 自己都合退職
従業員からの申し出による退職です。従業員が希望した日が退職日となります。就業規則で退職は〇カ月以上前に申し出ること。といった規定を設けることは可能ですが、退職金制度のない会社では実効性はあまりありません。
- 雇用契約期間満了による退職
有期契約社員が雇用契約期間を満了した場合の退職です。雇用契約期間の満了日が退職日となります。雇用契約書の記載事項が重要です。
- 定年退職
会社が定めた退職年齢に達した場合の退職です。定年に達した日の属する月の末日などが退職日となります。
- 休職期間満了後の退職
会社が定めた私傷病による休職制度によるもので、休職期間が満了しても復職できない場合の退職です。休職期間満了日が退職日となります。
- 退職勧奨に合意したことによる退職
この場合は会社側からの働きかけによるものですので、雇用保険の給付は会社都合として給付制限を受けずに受給できます。退職金の上積みなどが行われる場合もあります。
- 解雇されたことによる退職
解雇とは労使の合意を経ず、会社からの一方的な雇用契約の解除のことです。日本では「解雇権濫用法理」があり、労働契約法16条において「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と規定されています。労働者側からの訴訟のリスクに注意が必要です。
- その他
死亡退職や長期欠勤後の退職、役員就任による退職等があります。
労使間では、退職事由や退職日を巡ってのトラブルが多く発生しています。会社の就業規則に退職事由や退職日を明記しておき、双方で認識のずれが生じないよう予め社内で周知しておくと良いでしょう。
問題社員への退職勧奨を行う前に気を付けること。
退職勧奨とは、「何らかの理由で退職することを提案する企業側からの行為」を指します。退職勧奨に合意した場合は、合意の内容に基づいて退職となり、その退職理由は「退職勧奨に合意したことによる退職」となります。
退職勧奨は提案であるため、労働者側はそれを拒否することができます。退職勧奨の際には「労働者の許諾の自由があったか」が重要な争点の一つになりますので、無理矢理合意させるような状況(合意するまで部屋から出さない等)は避けるべきです。
退職勧奨の際に重要なポイントとして以下が挙げられます。
- 退職勧奨に相当する客観的な理由があるか
退職勧奨をせざるを得ない状況があるかを確認します。経営的な事情、個人の能力や成績による事情、個人の勤務態度に関する事情など、客観的に見て相当する理由があるかを確認します。
- 退職勧奨の相手としてその人を選ぶことに合理性があるか
退職勧奨という行為が公平なものであるかに注意します。例えば同じような問題行動が他の労働者にも見られる場合、その人だけを退職勧奨対象とすることは問題となることがあります。
- 退職勧奨の相手方の経済や家庭の事情はどんな状況か
退職勧奨をする相手がどういう家族構成で、懐事情がどんな状況かという情報も重要です。扶養家族がいれば経済的事情から退職勧奨に応じにくいことが多いでしょう。
中小企業におけるパワハラ防止措置義務
2020年6月から職場におけるハラスメント防止対策が強化され、パワーハラスメント防止措置が事業主の義務となりましたが、当初は大企業だけがその対象となっていました。
2022年4月1日からは中小企業についてもこの義務化の対象となりました。
義務化の内容
義務化の内容について、労働施策総合推進法(第三十条の二)に以下のように定められています。
1、事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
必要な措置とは具体的に以下のものを指します。
①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
②相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
③職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
2、事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
これは、パワハラの相談をしたことや事実確認のための面談での行動によって、労働者が不利益な取り扱いをされないことを求めたものです。
具体的な対応
具体的な対応としては「必要な措置をしてます」と対外的に説明できる状況を整えることが必要でしょう。例えば就業規則に運用ルールを規定したり、説明会や研修会を開催したり、相談窓口を設置したり、あるいはパワハラの疑いがあるときの調査方法のマニュアル化などでしょう。
当事務所でも「性善説によるパワハラ防止研修」を行わせて頂いております。ぜひご相談ください。
労働組合の団体交渉とは
昔、中学の公民の授業でこんな言葉を習ったことがありますね。
でも、普段の生活の中ではあまり関係ない話だと思っていらっしゃる方も多いと思います。
実は経営者はいつ何時、労働組合から交渉を挑まれるかわからない立場なのです。
中小企業には労働組合がある会社はほとんど無いと思われますが、世の中には企業外労働組合という組織があり、社員がそこに駆け込んだ場合には会社はその要求に対する交渉に応じる義務があるのです。
このように在職中の労働者または退職した労働者が加盟する労働組合から団体交渉を申し込まれることがあります。自社に労働組合がない企業にとっては、なぜ団体交渉されるのかわからないかもしれませんが、法律によって保証された交渉であり拒否することはできません。
団体交渉について解説します。
「団体交渉」の意味
団体交渉とは、労働組合と使用者(会社)が対等な立場で労働時間や賃金などの労働条件に関して交渉をすることを指します。労働組合のない企業についても、労働者が外部の労働組合に加入した上で団体交渉を要求されることがあります。
団体交渉権の保障
団体交渉権は、憲法または労働組合法において、保障されているため、交渉そのものを拒否することは明確に法律違反となり、「法律違反をした企業」としてその後の交渉が不利に働きます。そのため企業は適法な団体交渉については必ず交渉のテーブルにつく必要があります。
具体的に労組法では、「使用者が雇用する労働者」の代表者と正当な理由なく団体交渉拒否した場合を「不当労働行為」になると規定しています。
団体交渉の実際の相手方
団体交渉の実際の相手方は、労働組合の代表者又は労働組合の委任を受けた弁護士などです。社外の労働組合(ユニオン)は基本的には外部者であるため、あるユニオンが団体交渉を申し入れてきたとしても、当該ユニオンに企業の労働者が加入していることが明らかとならない限り、その団体交渉に応じる必要はありません。この場合労働者自身が団体交渉に参加することは稀で、労働組合委員長などが相手方となることが多いでしょう。
新型コロナウイルスにも様々な種類があるように、労働組合も穏健なタイプから過激なタイプまで様々な性質を持っていたりします。場合によっては他の社員に感染することもあり得ますので、専門家にご相談されることをお勧めいたします。
労働審判という制度について
労働審判とは、労働者と事業主との間で起きた労働問題を労働審判官1名と労働審判員2名が審理し、迅速かつ適正な解決を図ることを目的とする非公開の裁判手続きで、2006年から始まった比較的新しい制度です。
解雇や残業代請求などの労働紛争について、裁判官1名と労働関係の専門的知識と経験を有する労働審判員2名(1名が企業の人事部に長年所属していた人など、もう1名が労働組合の活動を行ってきた人などが選任されているようです。)で構成される労働審判委員会が、原則として3回以内の期日で事件を審理し、調停を試み、又は審判を行う制度です。
原則として3回以内というところがポイントで、従来の通常訴訟だと1年単位で解決までに時間がかかることと比較すると迅速な手続きを目指しています。短期間での解決を目指すことから、申立の約8割が金銭解決を中心とした和解的解決となります。
出頭は拒否できない
労使トラブル解決手段の一つである都道府県労働委員会の「あっせん制度」は、行政サービスのため出頭義務はありませんが、そのため相手方(多くは会社側)が出頭しないと話し合いが進まないという問題がありました。労働審判では出頭が強制され、拒否した場合は罰金が科されます。
労働審判後
調停が成立しない場合、審判が言い渡されます。これに対し、適法な異議申立がない場合、審判は裁判上の和解と同一の効力を持ちます。なお、審判内容に不服であれば、異議を申立てることが可能です。異議申し立てをした場合、労働審判は効力を失い,訴訟手続に移行します。
固定残業手当の注意点
残業代を固定的に支給するいわゆる「固定残業制度」は、運用方法を間違えるとそもそも「残業代である」という主張を否定される恐れがあります。会社の担当者の方は以下の注意点に気をつけましょう。
1、雇用契約書
労働者と個別に取り交わす雇用契約書や労働条件通知書において固定残業代が残業手当であることをきちんと記載しておきましょう。(具体的に何時間分の残業代なのかも含めて明記することが望ましいです)
また、契約書などに記載することに加えて、重要な箇所として読み上げて説明するなど本人への説明をした記録を残しておくと良いでしょう。
2、就業規則
就業規則(賃金規程)に固定残業手当について記載しておきましょう。また、その就業規則を労働者に「周知」したと言える状況にすることも大切です。普段誰も入らない社長室に飾ってあるだけでは就業規則を周知したとみなされない可能性が高いでしょう。例えば最近では誰もがアクセスできる社内イントラネットの中にP D Fデータを保管し、保存場所を広く通知するなどの気配りが必要です。
3、毎月の給与計算
給与計算をする際に「固定残業手当の額を実際に計算した残業手当が上回っていないか」を毎月検算しましょう。例えば固定残業代が20時間相当の残業代と定義されていた場合、実際の残業が23時間であったならば3時間分の不足があるはずで、その不足支払いをしていないと固定残業手当が形骸的なものとして残業代として認められず、単なる固定給という扱いになる恐れがあります。
当然、残業代の過不足を確認するためには毎月の残業時間を記録しておかなければなりません。出勤簿で勤怠管理をしていない場合、固定残業制度が否定される要因になり得ます。
ハラスメントをしてしまうのは悪者よりも愚か者
2022年4月から中小企業にもパワハラ防止法が適用されました。
社員に対する安全配慮義務として、会社はハラスメントを防ぐ必要があります。
セクハラは分かっててやる奴は別として、大抵は不用意な人がやってしまいます。
このくらいいいだろうという思い込み。
これは相手がどう思うかが全てなんだから、可能性のあることは全て避けるしかないです。
パワハラは、自分が正しいと思っている人がやってしまう。
正しいと思うから怒っちゃうんです。
昔の自分がそうでした。
「なんでわかってくれないんだよ! キーッ!」
今なら言えます。お前は甘いと。
たとえ正しい事を言っていても感情的になってしまったら負けなんです。
弁護士はケンカのプロですが、優秀な弁護士は感情的になったりしませんから。
暴力はもちろん、机を叩いたり、大声出したりするのもパワハラ。
だからパワハラしないようにするためには、自分の感情をコントロールする技術が必要なんです。上司も部下も。
★性善説のハラスメント予防研修やってます!
ハラスメントを憎んでも何も解決しません。
むしろ自分がハラスメントしないようにするにはどうすればいいかを学ぶことこそが、社会を、職場を、家庭を良くすることにつながります。
ハラスメント防止規程つきです。
罰金制度の注意点
労働基準法第91条では次のように定められています。
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
減給の制裁、つまり制裁を与える目的で減給すること自体は違法ではありませんが、この条文にあるように上限が定められています。そのほか、罰金制度にはいくつか注意点があります。
1、罰金の目的
罰金の目的は、当然嫌がらせや報復、損害賠償などではなく「企業の秩序維持のため」でなければなりません。自社の罰金制度が、始末書や出勤停止、降格のような他の懲戒処分と同様、従業員を「制裁」し、企業秩序の回復を図ることを目的とするものであるかを確認しましょう。
2、罰金の上限
上限は「一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。」とあるように上限が定められています。
例えば平均賃金が10,000円の人に対して、1回の制裁事案に6,000円を差し引くような仕組みは違法になるほか、罰金の1ヶ月の総額が月給の10%を超えることも許されません。
ただし、会社が従業員に対し実損額に基づいて民法上の損害賠償請求を行うことは差し支えありませんので、過失により壊れた備品の修理費用の一部を罰金制度とは別に請求することはできます。
3、「罰金額」の相当性
また、罰金の対象となる「行為」と「罰金額」のバランスが取れていることも必要です。制裁対象となる行為がそもそも罰金にふさわしいものか、その金額は妥当かにも注意が必要です。
労災保険の費用徴収
労働者を1人でも雇用した企業については、労災保険に加入する義務があります。この義務があるにも関わらず労災に加入しない会社において労災事故が発生した場合、ペナルティーとして発生した費用の一部を会社が負担する場合があります。
費用徴収とは
費用徴収とは、労災保険給付した後において、保険加入者又はその他の者から保険給付に要した費用に相当する金額の全部又は一部を徴収する制度であり、労災保険法第12条の3の「不正受給者からの費用徴収」と同法第31条第1項の「事業主からの費用徴収」があります。
1、不正受給者からの費用徴収
偽りその他不正の手段によって、保険給付を受けた者は、その不正受給部分に相当する額を徴収することとなります。
2、事業主からの費用徴収
⑴事業主が労災保険の加入手続きを怠っていた期間中に労災が生じ、労災保険給付を行った場合、事業主から遡及して労災保険料を徴収するほかに、その保険給付に要した費用の全部または一部を徴収することとなっております。
具体的には以下の通りです。
①労災保険の加入手続きについて、行政機関から指導等を受けたにもかかわらず、手続きを行わない期間中に労働災害が発生した場合、保険給付額の100%が費用徴収となります。
②労災保険の加入手続きについて、行政機関から指導等を受けていないものの、労働者を雇用したときから1年を経過して、手続きを行わない期間中に労働災害が発生した場合、保険給付額の40%が費用徴収されます。
⑵事業主が労災保険料を滞納している期間中に労働災害が生じ、労災保険給付を行った場合、事業主からその保険給付に要した費用の一部 (最大40%)を徴収することとなっております。
(3) 事業主が故意又は重大な過失により生じさせた業務災害について、労災保険給付を行った場合、事業主からその保険給付に要した費用の一部を徴収することとなっております。この場合、保険給付額の30%が費用徴収となります。
なぜ費用徴収をするか
不正による場合は当然として、事業主からの費用徴収については、事業主間の公平性(真面目に申告納付している会社とのバランス)の確保、事業主の労働災害防止、意欲の促進を図るために設定されています。
問題社員を解雇する方法
よく知られているように、日本において解雇規制が厳しいため、余程の事情でないと解雇をすることは難しいですが、「協調性がない」ことを理由に解雇するにはどんなことに気をつければ良いでしょうか。
▷解雇できるが、ハードルが高い
協調性のなさを理由に解雇することは可能です。ただし、その「協調性のなさ」を解雇理由とするには、高いハードルをクリアしなければなりません。
▷要素1:程度
過去の判例によると、「単に職場の良好な人間関係を損なうという域を超えて、職場環境を著しく悪化させ、会社の業務にも支障を及ぼす」ほどのものであることが必要とされています。
例えば問題社員の暴言や暴力が原因で社員が退職に追い込まれている場合などが考えられます。逆に「自由参加のQ Cサークルに参加しない」などの行動は解雇理由としては適切でないでしょう。
▷要素2:継続性
協調性を欠くような行動がどの程度継続的に行われていたか、も重要な要素です。1、2回でなく何度も問題行動を起こしていることが求められます。
▷要素3:会社の指導
問題となる行動について、会社が注意や指導を行っていたか、も大切です。解雇をするならば事前に会社が労務管理上の注意・指導に尽くすことが必要です。
▷要素4:配置転換
問題を解決するために配置転換などの手段ができるか、また行っているかも押さえておきたいポイントです。例えば仲の悪い2人を一緒の職場に置かないように違う部署や支店に移動させるなどを試みたかどうかも求められます。
リモートワークでの労働時間の管理方法
リモートワークが普及するに伴って、遠隔地での労働時間管理方法について取り決めをしなければならない場面が増えました。一昔前に見られたような出勤のハンコだけを押す簡易な方法では足りないにしても、労働基準法上、どのような点に気をつければいいでしょうか。具体的に解説していきます。
1、労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置
労働基準法上、労働時間を適正に把握するためとして、次のことが義務付けられています。
①始業・終業時刻の確認・記録
「使用者は、労働時間を適正に管理するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録すること。」
使用者には労働時間を適正に把握する責務があります。
労働時間の適正な把握を行うためには、単に 1 日何時間働いたかを把握するだけでなく、労働日ごとに始業時刻や終業時刻を使用者が確認・記録し、これを基に何時間働いたかを把握・確定する必要があるとされています。よく「日毎の出勤・欠勤などを示すだけ」の出勤簿がありますがそれでは足りず、その日に「何時から何時まで働いたか」を記録しなければならないことを指します。テレワークの場合も同じく、ただ働いたか働いていないか以外に、開始終了の時刻もなんらか確認して記録しなければならないことになります。
なぜ管理の必要があるか
主に労働者の健康、安全のためです。労働時間の管理がずさんだと長時間労働などにより健康が脅かされる可能性があるため、使用者(会社)に管理義務を負わせています。
②記録方法
始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法について次のように定められています。
使用者が始業・終業時刻を確認し、記録する方法としては、原則として次のいずれかの方法によること。
(ア) 使用者が、自ら現認することにより確認し、記録すること。
(イ) タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録すること。
(ア)について
「自ら現認する」とは、使用者(会社の社長など)あるいは管理者が、「直接」始業時刻や終業時刻を確認することを指します。「直接」の考え方として、タイムカードなどを押す姿を一人一人直接目で確認するまでの厳格さは求められないまでも、事実の通り打刻されているかを時々確認するような姿勢が望ましいでしょう。なお、確認した始業時刻や終業時刻については、該当労働者からも確認することが望ましいとされています。
(イ)について
タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基本情報とし、必要に応じて、例えば使用者の残業命令書及びこれに対する報告書など、使用者が労働者の労働時間を算出するために有している記録とを突き合わせることにより確認し、記録して下さい。
なお、タイムカード、ICカード等には、IDカード、パソコン入力等が含まれるとされます。
つまり、記録方法の客観性をきちんと担保しなさい、という基準が示されています。
よく労働時間をめぐる裁判ではタイムカードやパソコンのログを資料として用いられますが、それらが客観性が高いとされているからでしょう。
テレワークをしている労働者の時間管理については物理的なタイムカード打刻はできないため、クラウド勤怠などのシステムを使って客観的事実を記録をすることが求められます。
③自己申告制により行わざるを得ない場合
自己申告制により行わざるを得ない場合、以下の措置を講ずるべきとされています。
・自己申告制を導入する前に、その対象となる労働者に対して、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと。
→これは、例えば労働者に対して「自己申告の時間は丸めたりせず、1分単位で事実の通り記録してください。私用で離席するときも分単位で記録してください」などルールを説明することを指します。逆に、「正直に分単位で記録したらマズいでしょ!空気を読みなさい!」などといった正しい申告を邪魔するような説明をしないこともこれにあたります。
・自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施すること。
→「必要に応じて」とは、例えば労働組合や労働者側から「不適切な労働時間管理だ」など指摘があった時などを指します。労働時間実態調査は、労働者への聞き取りやパソコンのログ、メール使用状況等から確認することです。
・労働者の労働時間の適正な申告を阻害する目的で時間外労働時間数の上限を設定するなどの措置を講じないこと。また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること。
→これは、「残業は月◯◯時間までだからな!出勤簿に書くなよ!わかってるな!」などの圧力で事実と異なる勤怠記録をしないように、という意味です。
退職が決まっている社員の賞与
新型コロナウイルス騒動で、厳しい経営を余儀なくされている企業もたくさんあることでしょう。人件費圧縮の目的で退職する社員に対して賞与を減らしたり、不支給としたりすることは可能でしょうか。
基本的な考え
賞与は法律で必ず支給すべき、と定めた法令はありません。賞与の支給義務は、法令でなく「就業規則・給与規程、慣例等による労使間の合意」により発生すると考えられます。
つまり、「賞与を支給する」と就業規則などで規定している場合は払わなければならないものとなるほか、例え就業規則などで明確に規定していなくても、今までの賞与支払い実績によっては義務となることがあります。
退職者に対する賞与
判例では支給日在籍を条件として定めること(「支給日に在籍していなければ賞与は支給しない」旨の定め)を合理的なものと認めているケースが多く、支給日に労働者が退職している場合には賞与を支給しなくても問題は無い、と解する判断が一般的な傾向です。つまり、退職者に対して賞与を減額または不支給とするには、就業規則で「支給日に在籍していなければ賞与を支給しない」「賞与は将来の貢献に対する期待が込められているため、退職予定者に対しては賞与の減額または不支給とする」などという定めを明示しておくことが必要と考えた方が良いでしょう。
賞与は賃金の後払い的性格?
一方裁判例では、「賃金の後払い的性格」を根拠に、正当な理由なく基準額を減額あるいは不支給とすることを否定したものがあります。これは、賞与を「在籍期間の貢献に対する報酬を後払いにしたもの」と解釈する考え方です。退職者が不支給または減額に不満を持つ場合、多くはこの「賃金後払い説」を根拠に権利主張をしてくることになります。
賞与の計算方法がこの「賃金後払い説」を裏付けるようなものであった場合(例えば在籍期間の業績をもとに機械的に賞与計算をする場合など)は、ただ「就業規則に退職者不支給を謳ってある」だけでは賞与不支給が認められない、というパターンもあるでしょう。
いずれにせよ、今回のコロナのような経済事情の変化は、「賞与減額等止むなし」と判断されうる事態ですが、それでも退職者だけ不支給とする行為は注意しておかなければならないでしょう。
社員が濃厚接触者となった場合の取扱い
新型コロナウイルスの濃厚接触者となった社員については、どのように判断すれば良いでしょうか。以下順を追って説明します。
前提 濃厚接触者とは
濃厚接触者とは、新型コロナウイルスに感染していることが確認された方と近距離で接触、或いは長時間接触し、感染の可能性が相対的に高くなっている方を指します。
濃厚接触かどうかを判断する上で重要な要素は上述のとおり、1.距離の近さと2.時間の長さです。
必要な感染予防策をせずに手で触れること、または対面で互いに手を伸ばしたら届く距離(1m程度以内)で15分以上接触があった場合に濃厚接触者と考えられます。
濃厚接触者の決定は保健所が行います。
手順1:自宅など待機場所でも仕事ができるかを考える
まずはテレワークにより自宅でも仕事ができるかを考えます。仕事ができるようであれば「仕事の場所が自宅に変わっただけで、会社を休んだわけではないので、通常の給与を支払うことになります。
手順2:テレワークができない場合
在宅ワークが難しい業種である場合、保健所のいう通り自宅待機をし会社を休むことになりますが、この休みは「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないと考えられますので、休業手当を支払う必要はありません。(保健所からの自宅待機要請期間より長く休業させる場合は、休業手当の支払いが必要となることがあります。)
ただし、濃厚接触者となった経緯が業務に関連している場合、会社が休業手当を支払うべき休業となることがあります。
濃厚接触者となった経緯を会社としても把握する必要があるでしょう。
手順3:実際の対応
濃厚接触者となった経緯が会社と関係ないものである時、会社の対応としては
⑴欠勤扱い
⑵有給の消化
⑶休業手当支払い義務はないけど払う
の三択です。
2021年7月現在、休業手当を支払った場合雇用調整助成金で大半が補填されるという意味では⑶でいいのかもしれません。
2、自宅待機中に仕事をさせるか
休業日に仕事はやらせない方がいいでしょう。 なぜなら休みの日に業務を指示すると仕事となり、賃金支払い義務が出てきます。
副業・兼業の促進に関するガイドライン
厚生労働省から「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が改定のうえ公開されています。昨今の副業・兼業希望者の増加を受けて、労働時間管理や健康管理等について示したものとなります。以下、実務に影響がありそうな箇所をピックアップして紹介します。
1、労働時間の通算
・副業・兼業を行う労働者を使用するすべての使用者は、労働時間を通算して管理する必要がある。
・労働時間の通算は、自社の労働時間と、労働者からの申告等により把握した他社の労働時間を通算することによって行う。
・ 副業・兼業の開始前に、自社の所定労働時間と他社の所定労働時間を通算して、法定労働時間を超える部分がある場合には、 その部分は後から労働させる会社の時間外労働となる。
・ 副業・兼業の開始後に、所定労働時間の通算に加えて、自社の所定外労働時間と他社の所定外労働時間を、所定外労働が 行われる順に通算して、法定労働時間を超える部分がある場合には、その部分が時間外労働となる。
2、時間外労働の割増賃金の取り扱い
・上記1の労働時間の通算によって時間外労働となる部分のうち、自社で労働させた時間について、時間外労働の割増賃金を支払う必要がある。
3、健康管理
・ 使用者は、労働安全衛生法に基づき、健康診断、長時間労働者に対する面接指導、ストレスチェックやこれらの結果に基づく事後 措置等を実施しなければならない。
・ 使用者の指示により副業・兼業を開始した場合は、原則として他社との情報交換により、難しい場合には労働者からの申告により 他社の労働時間を把握し、自社の労働時間と通算した労働時間に基づき、健康確保措置を実施することが適当である。
4、労災保険の給付について
・ 複数就業者について、非災害発生事業場の賃金額も合算して労災保険給付を算定する。
・ 複数就業者の就業先の業務上の負荷を総合的に評価して労災認定を行う。
・ 副業先への移動時に起こった災害は、通勤災害として労災保険給付の対象となる。
労働時間以外の時間の利用方法は労働者の自由とされているため、副業そのものを禁止することは難しいです。原則的には認める方向で、会社としての副業ルールを明確化しておいた方が良いでしょう。
労働基準法上の賠償予定の禁止
労働基準法では、労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額を予定する契約をしたりしてはならない、と定めてあります。
労働契約の不履行における違約金の例)
「途中で辞めたら、○○円の違約金を払え」
損害賠償額の予定例)
「会社に損害を与えたら○○円払え」
禁止の理由
その理由は、あらかじめ会社側から従業員に対して、業務の不履行について賠償額を定めることは、実際に発生した会社の損失よりも大きな損失を設定する可能性が高く、従業員にとって不利な契約となる恐れがあるからです。
また、場合によっては、従業員がその会社で働くことを強制することに繋がりかねず、従業員を不当に拘束する可能性もあります。
(注)あらかじめ金額を決めておくことは禁止されていますが、現実に労働者の責任により発生した損害について賠償を請求することまでを禁じたものではありません。
教育費用の返還について
会社負担で教育を受けさせた労働者が退職する際に、しばしばこの条文に関する問題が表面化します。会社としてはある程度の期間勤続して投資を回収したいわけですが、「辞めたら教育費用を返還せよ」という決まりがこの損害賠償の予定に該当するのではないか、という点で争われます。
ポイントとしては、⑴その教育を受けることが労働者の自由意思に基づいているか⑵会社が費用を「負担」したのか、それとも本人に「貸付」したのか、⑶その約束が労働者を不当に拘束する内容であるか、などがあります。これらに注意して教育費用負担については定める必要があるでしょう。特に⑶の部分が重要です。
労働保険料等の納付猶予
新型コロナウイルス感染症の影響により、事業に係る収入に相当の減少があった事業主の方にあっては、申請により、労働保険料等の納付を、1年間猶予することができます。
この納付猶予の特例が適用されると、担保の提供は不要となり、延滞金もかかりません。
猶予の要件
以下のいずれも満たす事業主の方が対象となります。
① 新型コロナウイルスの影響により、令和2年2月以降の任意の期間(1か月以上)において、事業に係る収入が前年同期に比べて(※1)概ね 20%以上減少していること
② ①により、一時に納付を行うことが困難であること(※2)
※2 「⼀時に納付を行うことが困難」かどうかの判断については、少なくとも向こう半年間の事業資金を考慮に入れるなど、申請される方の置かれた状況に配慮し適切に対応します。
③ 申請書が提出されていること
なお、「前年同期比概ね 20%以上の収入の減少」という基準の適用については、現に収入の減少が 20%に満たないことのみをもって一概に特例の適用を否定するものではなく、収入の減少が 20%に満たない場合でも、今後、さらに減少率の上昇が見込まれるときなどは、これを勘案して総合的に判断されます。
猶予対象となる労働保険料等
令和2年2月1日から令和3年2月1日までに納期限が到来する労働保険料等が対象となります。
なお、特例猶予が認められない場合であっても、他の猶予制度(換価の猶予等)を利用できる場合がありますので、都道府県労働局にご相談ください。
就業規則の持ち出しを禁止してもよいか?
従業員から就業規則を社外に持ち出ししたいと申し出があった場合、
会社として、その要望を認めるか否かは会社の自由意思になります。
労働基準法106条および施行規則52条の2によると、
①各作業場(休憩室や事業所共用部等)への掲示・備え付け
②書面を労働者へ交付すること
③磁気テープ、ディスク等に記録、その記録内容を常時確認できる機器の設置
(会社パソコンや共有フォルダ内に就業規則を保管、全従業員が常にアクセスできる状態等)
以上、3つの方法により、周知することを規定します。
従いまして、3つのいずれかによって、周知をすればいいのであり、社外への持ち出しについては法律では何ら定めておりません。
就業規則を社外秘としたい場合はあらかじめ、就業規則に定め、あくまでも会社内で閲覧可能と規則で設定することも一つの手でしょう。
ただし実際には、社外秘と制定する重要度よりも、社外に持ち出したいと申し出があった場合には、その理由を特定することの方が大切でしょう。
育児休業のルール等を詳細に知りたい等の理由の場合は、従業員が知りたい情報についてあらかじめヒアリングをし、解説や案内パンフレット等を用意するのも手でしょう。
しかしながら、万が一会社に違法状態があり、労働基準監督署に駆け込んだり、労働組合に加入したり、弁護士などの第3者に相談するために就業規則の持ち出しを希望する場合、徒らに持ち出し禁止を謳っても余計に従業員の反発を煽ってしまう可能性もあるでしょう。
持ち出し禁止を規則として設けたい場合は、どうして持ち出しを禁止したいかの理由付けを一度整理してみる必要があるかもしれません。
不当労働行為
労働組合の組合員数、および組織率は総じて低下していますが、一方でパート労働者などの労働組合の組織率は近年上昇しています。不安定な働き方の人ほど、労働条件に不満を持って組合に加入するという図式がありそうです。
さて、労働組合の組合活動は法律で保障されています。労働組合の交渉を無視したり、組合員にならないよう会社が働きかけることなどを「不当労働行為」といい、厳しく禁じられています。会社の担当者は以下の禁止行為の内容を確認、理解してください。
〔不当労働行為として禁止される行為〕
⑴組合員であることを理由とする解雇その他の不利益取扱いの禁止(第1号)
①労働者が、
・労働組合の組合員であること、
・労働組合に加入しようとしたこと、
・労働組合を結成しようとしたこと、
・労働組合の正当な行為をしたこと、
を理由に、労働者を解雇したり、その他の不利益な取扱いをすること。
②労働者が労働組合に加入せず、又は労働組合から脱退することを雇用条件とすること(いわゆる黄犬契約)。
⑵正当な理由のない団体交渉の拒否の禁止 (第2号)
使用者が、雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを、正当な理由なく拒むこと。
※使用者が形式的に団体交渉に応じても、実質的に誠実な交渉を行わないこと (「不誠実団交」)も、これに含まれます。
⑶労働組合の運営等に対する支配介入及び経費援助の禁止 (第3号)
①労働者が労働組合を結成し、又は運営することを支配し、又はこれに介入すること。
②労働組合の運営のための経費の支払いにつき経理上の援助を与えること。
⑷労働委員会への申立て等を理由とする不利益取扱いの禁止 (第4号)
労働者が労働委員会に対し、不当労働行為の申立てをし、若しくは中央労働委員会に対し再審査の申立てをしたこと、又は労働委員会がこれらの申立てに関し調査若しくは審問をし、若しくは労働争議の調整をする場合に労働者が証拠を提示し、若しくは発言したことを理由として労働者を解雇し、その他の不利益な取扱いをすること。
テレワーク時の時間管理について①
新型コロナウイルスの感染拡大により、にわかにテレワークが普及してきましたが、時間管理に悩むケースが少なくありません。
テレワークをしている場合の労働者の時間管理はどのようにすれば良いでしょうか。
厚生労働省のガイドライン
厚生労働省は、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を公表しています。以下のガイドラインを参考にしながら時間管理方法を検討しましょう。
【労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置】
1、労働時間とは使用者の指揮命令下に置かれている時間であり、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たること
2、使用者は、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、適正に記録すること
(1) 原則的な方法
・使用者が、自ら現認することにより確認すること
・タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること
(2) やむを得ず自己申告制で労働時間を把握する場合
① 自己申告を行う労働者や、労働時間を管理する者に対しても自己申告制の適正な運用等ガイドラインに基づく措置等について、十分な説明を行うこと
② 自己申告により把握した労働時間と、入退場記録やパソコンの使用時間等から把握した在社時間との間に著しい乖離がある場合には実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること
③ 使用者は労働者が自己申告できる時間数の上限を設ける等適正な自己申告を阻害する措置を設けてはならないこと。
さらに36協定の延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、労働者等において慣習的に行われていないか確認すること
続く
会社都合で1日の所定労働時間の一部を休業させた場合の休業手当
労働基準法第26条によれば、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。」と規定されております。
1日休業させる場合は平均賃金の60%以上を支給すれば法律違反にはなりません。
但し、一部働いた場合には実労働時間の賃金の他に、休業時間部分について休業手当の支払い義務が生じるのか、支払うとしたら時間単位での休業手当を支払う必要があるのか明確ではありません。
この点、以下の行政通達が出ております。
「1日の所定労働時間の一部のみ使用者の責めに帰すべき事由による休業がなされた場合にも、その日について平均賃金の百分の六十に相当する金額に満たない場合には、その差額を支払わなければならない。」(昭和27年8月7日基収第345号)
つまり、実際に労働した時間分の賃金が、休業手当を下回る場合のみ、差額分を支給する義務が生じることになります。実際に支給する賃金が休業手当の額より多い場合には、会社には一部休業した時間分の賃金の支払い義務はありません。
整理解雇の4要件を知ってますか?
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、
1、人員整理の必要性
2、解雇回避努力義務の実行度合い
3、被解雇者選定の合理性
4、説明責任・手続の妥当性
妊娠中の軽易な業務への転換
妊娠中の従業員から、従来の業務内容では、業務遂行が難しいと相談を受けた場合、
原則として、会社は他の軽易な業務に転換させなければ、なりません。
「使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。」(労働基準法第65条第3項)
妊娠中の業務内容の転換ですが、あくまでも女性従業員からの請求があった場合に限られます。もし従業員からの要望がなかった場合、会社が対応をしなくても、法律違反とはなりません。
ただし、業務内容の変更について、中小企業や小規模事業場では必ずしも、転換できる業務があるわけではありません。転換できる業務が存在しない場合において、「新たに業務を創設して与える義務までは課していない」との通達がでております。
「労働基準法第65条第3項は原則として女子が請求した業務に転換させる趣旨であるが、新たに軽易な業務を創設して与える義務まで課したものではないこと。」(昭61.3.20基発第151号、婦発第69号)
新たに業務を作り出す必要はございませんが、このような場合には業務の中で負担を減らすように約束したり。仕事量を減らす、休憩時間を別途設ける等の策を講じる必要はあるでしょう。
業務上のミスで発生した損害を折半することを約束した労働条件は無効か
【損害賠償を予め明示することについて】
労働基準法16条によれば、会社は労働契約の不履行について違約金もしくは、損害賠償額を実害の有無にかかわらず一定金額を定めることを禁止しています。
5割と一津に定めてしまうと、16条に抵触する恐れが非常に高いといえるでしょう。
もっとも、現実に損害が発生した場合について、損害賠償を従業員にさせること自体を禁止しているわけではありません。
したがって、労働者に入社の際、業務上のミスによっては損害賠償を求める場合があることを伝えた場合にただちに違法とはなりません。(就業規則等にも定めておきましょう)
※折半することを決定事項とせず、あくまでも「損害賠償を請求する場合がある」にとどめておくことが重要です。
【損害賠償の程度】
実損害額を労働者に負担させることがただちに違法ではないことは上述の通りですが、その賠償責任の程度には留意が必要です。
民法の基本理念において「損害の公平な分担」が挙げられますが、その観点からしますと、労働者の業務遂行時に発生することが予測されるようなミス、気を付けていても防げないようなミス、労働環境に起因するようなミス等での損害の場合は、「会社が負担すべき損害」と認められる場合がございます。
仮に労働者に大きな過失が認められたとしても、全額負担は難しいでしょう。過去におきましても4分の1を限度として示した判例もでております。
実際の運用についても、安易に損害額を決定せず、都度、労働者の過失の割合を吟味したうえで慎重に決するべきであり、予め労働条件として組み込むことはしないようにしましょう。
退職者が引継ぎをせず、有給消化を申請した場合の対応
退職を申し出た社員が、その後有給休暇を取得した場合、退職まで出勤しないことにより、引継ぎが出来ない状態になります。こうした場合でも有給休暇を認めなければならないのでしょうか?
【退職前の有給消化申請拒否は難しい】
有給休暇については、原則的には、自分の好きなタイミングで取得できる権利があります。(時期指定権)例外的に会社の運営に支障をきたす場合には取得日を変更する権利が(時季変更権)あります。
しかしながら退職の場合、退職日以後の時季変更は一般的に許されておりません。したがって有給の申し出があれば会社が拒否するのは厳しいでしょう。
【就業規則でのルール化】
上記のようなトラブルが起こらない為に、就業規則において、業務の引継ぎを義務化を明示することを盛り込むことが有効です。違反した場合には懲戒処分の対象となること明記することで抑止力にもなるでしょう。
【引継ぎマニュアルの用意】
とはいえ、民法上原則として申し出から14日以上経過をすれば、従業員は退職をすることが可能となります。十分な引継ぎが完了せず、退職してしまうケースも出てくるかと思います。未然にトラブルを防げるよう、予め会社側で引継ぎ項目を例示するなど引継ぎマニュアルを整備することも重要でしょう。
社会保険の適用事業所と加入者について ~その2~
前回は、社会保険の適用事業所要件について解説しました。今回は、適用事業所における社会保険加入者について確認していきましょう。
■加入すべき人(全ての企業)
・法人の役員等
・正社員
・パート・アルバイト等(正社員の3/4以上の所定労働時間・日数)
例えば、正社員の週所定労働時間が40時間だった場合、30時間以上働くならば加入者になります。
■加入すべき人(従業員501人以上企業)
パート・アルバイト等が正社員の3/4未満労働であっても、以下4つの要件を全て満たすなら加入しなければなりません。
1)週の所定労働20時間以上
2)勤務期間が1年以上見込まれる
3)月額賃金が8.8万円以上
4)学生以外
こちらは、従業員501人以上の企業が対象になりますが、500人以下の企業でも労使の合意があれば対象とすることができます。
■適用除外者
以下に該当する人は、社会保険の被保険者から除外されます。
・日々雇い入れられる人
・2か月以内の期間を定めて使用される人
・季節的業務に4か月以内の期間を定めて使用される人
・臨時的事業の事業所に6か月以内の期間を定めて使用される人
・所在地が一定しない事業所に使用される人
最近では、パート・アルバイト等の短時間労働者の社会保険加入要件を緩和する方向で話が進んでいます。例えば、月額賃金を8.8万から6.8万への引下げ、企業の従業員人数要件の引下げがされる等です。要件次第では、社会保険加入者がたくさん出てくる企業もあると思います。法改正の動向には注意した方がよいでしょう。
源泉所得税の甲欄乙欄
給与計算の際、社員の給与から所得税を引きますが、区分が「甲乙丙」に分かれています
国税庁が定める源泉徴収税額表には、上部に「甲」、「乙」、「丙(日額表のみ)」と書かれてあります。
1、甲欄
「甲」欄は、「給与所得者の扶養控除等申告書」の提出がある方に適用されます。
「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出した会社が、主たる給与の支払先となり、その会社の源泉徴収税額は「甲」欄が適用されます。
複数の会社で働いている場合、この書類は一箇所のみに提出します。この書類を出すことは、「ここの会社がメインの給与なので、甲欄で所得税を引いてください」という給与所得者の意思表示であるともいえるでしょう。
ちなみに、給与所得者の扶養控除等申告書には税法上の扶養家族の情報を記入します。所得税計算の際には、税法上の扶養家族がいるほど所得税が安くなります。
2、乙欄
「乙」欄は、「給与所得者の扶養控除等申告書」の提出がない方に適用されます。
2か所以上から給与を貰っていて、別の会社で「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している方の場合に適用して下さい。甲欄と比べて、乙欄の方が税率・税額が高く設定されています。つまり、「副業の給与など乙欄控除の場合高めに所得税を取るから、正直に確定申告しないと取られ損になる」という仕組みなっていると言えます。
3、丙欄
「丙」欄は、日額表だけにあり、日雇いの人や短期間雇い入れるアルバイトなどに一定の給与を支払う場合に適用します。課税対象額9300円未満の日額の場合源泉徴収はありません( 2020年1月時点)。
給与から控除できる項目
毎月の給与を支給する際、その全額を支給せず、所得税・保険料や住民税、会社によっては旅行積立金や社宅家賃等を控除したうえで支給しているところが多いと思います。この控除項目については、勝手に控除して良いわけではありません。法律によって控除することが認められている「法定控除」と、労使協定を結ぶ事で控除できる「協定控除」があります。
賃金支払いの5原則
まず、前提として、賃金の支払いは労働基準法第24条で定められている以下5つの原則に従わなければなりません
1、通貨払いの原則(賃金は、通貨で支払わなければならない)
2、直接払いの原則(賃金は、直接労働者に支払わなければならない)
3、全額払いの原則(賃金は、その全額を支払わなければならない)
4、毎月1回以上払いの原則(賃金は、毎月1回以上支払わなければならない)
5、一定期日払いの原則(賃金は、一定の期日を定めて支払わなければならない)
上記3の「全額払いの原則」に従うならば、賃金からは何も控除してはいけなくなります。
ただし、この原則には例外が設けられており、以下に該当する場合は控除しても良いとされています。
法定控除
法律で定められている控除項目です。所得税・住民税・健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料・雇用保険料等が該当します。
協定控除
労働者の過半数で組織する労働組合がない場合、労働者の過半数代表者と書面による協定(労使協定)を結んだ控除項目です。例えば、旅行積立や社宅家賃等が該当します。
法律で認められている法定控除以外を控除したい場合は、労使協定を結んでいなければ本来控除してはいけません。また、労使協定をだいぶ前に結んでいる場合、現状の控除項目と一致してない可能性もあります。自社の控除項目、協定については改めて確認した方が良いでしょう。
雇用契約と業務委託契約
先日、健康機器メーカーのタニタが、働き方改革の一環として雇用契約から業務委託契約への移行制度を導入している事がニュースで取り上げられました。雇用契約と業務委託契約では具体的にどのように違ってくるのでしょうか。
雇用契約とは
労働の対価として報酬を与える契約のことを言います。雇用契約を結んだ場合には労働基準法(労働者保護の法律)が適用され、労働時間の管理や、残業した場合は残業代等の支払いが必要になります。また、働く時間によっては雇用保険や社会保険に加入させなければなりません。
業務委託契約とは
仕事の処理を約束することの対価として報酬を与える契約を言います。取引業者のひとつとなるため、労働基準法は適用されず、残業代等の支払いが不要となります。また、雇用保険や社会保険の加入も不要です。
ただし、実態としてどのような取り扱いがされているかが重要で、主に以下項目に該当するならば業務委託契約と判断され、該当しないならば雇用契約と判断される可能性が高いです。
・仕事の依頼を拒否できる
・勤務場所や勤務時間が指定されていない
・仕事の成果に対して報酬が支払われている(労働時間に対してではない)
・業務に使用する器具の費用負担をしている
・源泉徴収をされていない
等
企業側から見れば、業務委託契約にすることによって経済的なメリットが大きいと言えます。また、労働者側から見れば、労働時間に縛られるよりも、成果報酬型の方が時間に自由度があり魅力的に見えるかもしれません。業務委託契約を導入する場合は、運用に十分注意しましょう。
パワハラ防止指針
先日、厚生労働省より「職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針に関する素案」が公表されました。あくまで素案ではありますが、以下のようにパワハラに「該当すると考えられる例」が示されております。
なお、以下の例は、行為者と当該言動をうける労働者の関係性を個別に記載してないが、優越的な関係を背景に行われたものであることが前提であるとの事です。
■暴行
・傷害(身体的な攻撃)
・殴打、足蹴りを行うこと。
・怪我をしかねない物を投げつけること。
■脅迫
・名誉棄損
・侮辱
・ひどい暴言(精神的な攻撃)
・人格を否定するような発言をすること。(例えば、相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な発言をすることを含む。)
・業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと。
・他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと。
・相手の能力を否定し、罵倒するような内容の電子メール等を当該相手を含む複数の労働者宛てに送信すること。
■隔離
・仲間外し
・無視(人間関係からの切り離し)
・自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅研修させたりすること。
・一人の労働者に対して同僚が集団で無視をし、職場で孤立させること。
■業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
・長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接関係のない作業を命ずること。
・新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責すること。
・労働者に業務とは関係のない私的な雑用の処理を強制的に行わせること。
■業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
・管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な業務を行わせること。
・気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えないこと。
■私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
・労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりすること。
・労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること。
ただし、個別の事案の状況等により判断が異なる場合はあり得る、また、上記例は限定列挙ではないことに留意が必要との事です。
職場におけるハラスメント系の問題は、パワハラの割合が多いのではないでしょうか。上司の熱心な指導が誤解を招くケースもあると思います。正式に指針が出た際は、社内において該当するような言動がないかチェックした方が良いでしょう。
お上はある日突然動く!
公正取引委員会がコンビニフランチャイズ本部と加盟店との間の力関係(24時間営業の強要など)に独占禁止法の疑いがあるとの判断を示しました。
これにより、フランチャイズ本部は大揺れになったことでしょう。
これまでは本部と加盟店との間の力関係は明らかで、加盟店は本部の言う事に逆らえず、苦しい経営を強いられていた店舗もあったようですが、その関係にメスが入りました。
これって、労使関係と似てますね。
契約自由の原則に対して、国家が介入してきたわけです。
もちろんそれは、独占企業が自由に振舞ってしまうと社会全体にとって悪影響があるという観点から修正が加えられているわけですが、企業にとっては一大事ですね。
このようにお上(役所、行政)というのは、ある日突然動きます。
「これまでは何も言わなかったじゃないか!」などと文句を言ってもはじまりません。
企業の側は、こうしたお上の動きを敏感に嗅ぎ取って先手を打っておかないと、ある日大変なことになります。
消費者金融が2010年の改正貸金業法施行により過払い金返還を迫られたのは記憶に新しい事ですね。
世の中のルールは時代と共に変わる!
お上は黙っているフリをしていても、ある日突然動く!
勝手に変えられたルールであっても、企業は従わなければならない!
例えば、雇用調整助成金。コロナで世間が騒いでいる間は、マスコミに叩かれるのを恐れているのか?あまり調査とかせずにバンバン助成金を出してるように見えますが、これがもしコロナが終息したら何が始まると思いますか?
当然、これまで支給した助成金に対して不正がなかったかどうかを調べに来ると思われます。
かつてのリーマンショックの時もそうでした。何年もたって、会社側も忘れた頃に調査が入るのです。
調査では何をどこまで調べられるかはわかりませんが、会社として不正を疑われないための予防策を講じておくことはある程度できると思います。例えば長期間休業している社員との連絡の記録を残しておいたり、休業日報を付けさせることです。メールやSNSでやり取りした内容を記録しておけば、その時どんな状況だったか振り返ることができます。
何年も経ってしまえば人間の記憶などは当てになりませんし、当の本人が退職してしまうこともあり得ますので、その時どうだったか?ということを記録しておくことは、思わぬ役に立つかもしれません。逆に不正をしている場合には、そうした記録を調べられる可能性もあると思われます。
お上というものは、そういう勝手な存在だと思って注意を怠らないことが肝心です。
労働保険料申告手続きを忘れたら?
毎年7月10日までに労働保険料の申告納付をします。
通常は5月下旬から6月上旬にかけて労働保険申告のための書類が会社宛に届いて、その申告書を用いて申告します。
申告時には、
もし、
1、申告しないと勝手に決められる
労働保険法19条4項と5によれば、
つまり労働保険料の前年度の確定額と今年度の見込額を申告しない
政府が労働保険料の前年度の確定額と今年度の見込み額を決定(
納入告知書により通知が行われ、通知を受けた日より、
例えば、
2、追徴金が課せられることもある
この認定決定により、
認定決定された労働保険料の10%の『追徴金』が科せられ、
これを通知書に指定された納期限までに納付しなければならなくな
3、実務上の処理
実際に追徴金の処分が下されることは多くありません。
未提出事業所に対して、労働局から催促通知が行われます。
催告に定める期限までにきちんと手続きを済ませれば追徴金はかか
労災給付の申請書に医師証明書をもらう場合の診断書料について
労災、
基本的には診断書料も給付対象となりますが、
1、障害請求書
様式第10号(障害請求書)
労災で治療が全て終了した時点で後遺障害が残った場合には、
この際、
この診断書作成にかかる文書料は労災から給付されます。
2、傷病(補償)年金(様式第16号の2)の場合
傷病(補償)年金においては、
また、「傷病の状態等に関する届」を提出する際には、
こちらの診断書も診断書の様式が決められており、
3、休業(補償)給付(様式第8号)の医師証明料について
様式第8号(休業請求書)とは、
様式第8号は業務災害時に使用し、
休業補償を請求するには請求書に医師の証明が必要になります。
この場合、様式第8号(休業請求書)にかかる医師証明料2,
4、療養(補償)給付たる療養の費用の支給(様式第7号)
様式第7号(費用請求書)とは、労働者が業務、
様式第7号は業務災害に使用し、
費用請求には、請求書に医師の証明が必要です。しかし、
様式7号について証明料がかかる場合、
診断書料は原則として立て替え払いをし、のちに療養(補償)
未払い残業代を遡って支払った場合の社会保険料
未払い残業代への関心は、年々高まっており、従業員より未払い残業代の請求をされている会社が多く見受けられます。
労働基準監督書が調査を行う際には、タイムカードと賃金台帳を見比べたり、パソコンの記録の確認も行われるようになりました。
労働基準監督署の調査において、実際に未払い残業代があったことを指摘され、遡って残業代を支払うことがあります。
その際、社会保険料の取扱いはどうなるのかが問題となりますが、これについて日本年金機構では以下の取扱いを行うよう疑義照会として明示されています。
Q:労働基準監督署の是正勧告により未払い残業代が遡って支払われることになった際、各月それぞれの支給額を確認したうえで、算定基礎届等の訂正が必要となるのか。また、未払い分が一時金として支給される場合において、各月それぞれの支給額を算出することが困難な際はどのようにすべきか。
A:各月それぞれの支給額を確認したうえで、算定基礎届の訂正が必要となります。ただし、未払い分を一時金として支給する場合において、各月それぞれの支給額を算出することが困難な場合には、当該一時金に対する賞与支払い届の提出が必要となります。
未払い残業代を支払う必要がない体制作りが1番ですが、仮に支払うことになった際は、社会保険料も考慮しなければなりません。
社会保険料は本人負担分もありますので、徴収方法は本人と相談するなどの対応も必要になるでしょう。
求人票に固定残業代を記載する時の注意点
「固定残業代手当」を導入している企業がハローワークへ求人票を提出する場合、以下について明示することが求められています。
・固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法
・固定残業代を除外した基本給の金額
・固定残業時間を超える時間外労働
・休日労働及び深夜労働分についての割増賃金の追加支払う旨
固定残業代とは
名称によらず、一定時間分の時間外労働、休日労働及び深夜労働に対して定額で支払われる割増賃金のことを言います。
求人票の手当欄には、具体的には以下のよう記載します。
【a】 基本給又は時間額欄
基本給には固定残業代など、各種手当は含めず記載
【b】 定額的に支払われる手当欄
固定残業代が、時間外労働の有無に関わらず固定的に支給されるものである
こと、超過分が法定どおり追加で支給されることを明記することを条件に、 固定残業代等を「b 定額的に支払われる手当」欄に記載
なお、他の「定額的に支払われる手当」に固定残業代が含まれる場合には、 固定残業代分の金額を分けて記載
【c】 その他の手当等付記事項欄
b欄に固定残業代手当と記載した場合には、「c その他の手当等付記事項」 欄に、「時間外手当は時間外労働の有無に関わらず、固定残業代として支給 し、○○時間を超える時間外労働分は法定どおり追加で支給」と記載
残業代対策として、固定残業制度を導入する企業が多くなってきています。ただ、適切に運用できていないと制度そのものが違法と判断されますし、従業員が内容を知らず入社してきた場合には労使のトラブルに繋がる恐れがあります。
ハローワークへの求人票提出に限らず、固定残業制を導入する場合は、金額や時間数等を明確にしたうえで募集をかけるようにしましょう。
セクハラと労災
セクハラによる被害についても場合によって労災認定されることがあります。以下の① ② ③ の要件を満たす場合、業務上として労災認定されます。
① 認定基準の対象となる精神障害を発病していること:業務に関連して発病する可能性がある精神障害の代表的なものは、「うつ病」や「急性ストレス反応」などです。
② 精神障害の発病前概ね6ヶ月間に、業務による強い心理的負荷が認められること:セクハラは継続的に繰り返されるものもあるため、その場合は6ヶ月に限らず始まった時点からの心理的負荷を評価します
③ 業務以外の心理的負荷や個体的要因により精神障害を発病したとは認められないこと:私的な出来事(離婚や身近な人の死亡など)が影響していないかを確認されます。
「業務による強い心理的負荷」とは
強姦や、本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為などの特別な体験がある場合、因果関係は強いとされます。逆にヌードポスターを会社に貼るなどの環境型セクハラの場合はその程度は弱いとされます。詳しくは、「セクシュアルハラスメントの内容、程度等や継続する状況」「セクシュアルハラスメントを受けた後の会社の対応および内容、改善の状況、職場の人間関係など」をもとに判断されます。
ただし、セクハラの内容が軽度であっても、長時間労働などの事情が別途ある場合は、複合的にみて労災認定されることがあります。
セクハラについて労災の相談があった場合、企業側はまずプライバシーに配慮しながら事実確認をし、上記の3つの要素について専門家を交えて検討しましょう。
未払い残業代請求訴訟における「付加金」
働き方改革により残業についてますます厳しい目が向けられています。未払いの残業代請求の訴訟が起きるときには、未払い残業代以外にも「付加金」と言う制裁金を請求されることがあります。
付加金とは?
付加金について、労基法では以下のように定めています。
労働基準法 第114条
裁判所は、第20条、第26条若しくは第37条の規定に違反した使用者又は第39条第7項の規定による賃金を支払わなかった使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。
付加金の対象となる手当は次の通りです。
解雇予告手当(労基法20条)
使用者の責に帰すべき休業の場合の休業手当(労基法26条)
時間外労働に対する割増賃金(残業代。労基法37条)
法定休日労働に対する割増賃金(休日手当。労基法37条)
深夜労働に対する割増賃金(深夜手当。労基法37条)
有給休暇中の賃金(労基法39条7項)
付加金の判断は裁判所が行う
付加金の支払いは必ず命じられるものではなく、あくまで、裁判所が支払いを命じることが「できる」と規定されています。裁判所が内容の悪質性や労働者の損害の程度などを検討して総合的に判断されるものと思われます(判断基準は明示されていません)。
いずれにせよ「未払い残業代と合わせて倍額支払わなければならない可能性」があることが会社側の抑制することになるので、裁判が長期化せず和解によって紛争解決をすることを促すために付加金があるとも考えられます。
コロナで労災申請はできるか?
従業員の方がもし仕事中にコロナに感染した場合、労災保険は使えるのでしょうか?
労災保険を使うためには業務遂行性と業務起因性が必要となります。
多くの場合、従業員がPCR検査などで陽性となっても、その感染経路は不明ですので、業務遂行性や業務起因性を認められることは少ないです。
ですが、医療従事者の場合であって、実際にコロナに感染していることが明らかな患者の世話をしていたなどの具体的な因果関係が想定できる場合には、労災保険を使用することが可能です。
医療従事者でなかったとしても、職場で複数の従業員がコロナに感染するいわゆるクラスターが発生した場合などでは、これを業務上災害として取り扱われる可能性があります。
https://www.mhlw.go.jp/content/000627234.pdf
統計を見る限り、認定は決して多くはありませんが、認められているケースもあるようです。
従業員がコロナに感染した場合には、それが業務上災害に当たらないかどうか、一応確認しておく必要があります。
給与を取り来ない従業員がいた場合の対処方法
入社したての従業員やアルバイト等、無断欠勤の後、退職をするケースがしばし見受けられます。
突然来なくなった従業員に対し、給与についてどのように対応すべきでしょうか?
給与を支払う義務があるかどうか?
突然来なくなり、やめた社員社員に対しても、会社は賃金の支払い義務はあるのでしょうか?
この点、労働基準法上、働いた分に対しての対価として労働時間に対する給与の支払いは必要となります。(給与の時効は3年となります。)
口座等の登録がされていなかった場合の対処法
近年、給与については従業員の指定口座への振込が主流となっておりますが、
入社したての場合やアルバイトの場合、口座登録がなされないまま、連絡が取れなくなってしまう場合も多く散見されます。
連絡もつかない、給与を取りに来ないといった場合、会社としてどのように対応すべきかといいますと、
① ご家族や身元保証人の連絡先が分かる場合、その方を通じて、ご本人に取りに来てもらう
⇒賃金は直接払いが法律で定められておりますので、代理者が受け取ることは出来ませんのでご注意ください。
② 本人の住所に現金書留にて送付する。
③ 供託制度を利用する
⇒民法494条により、法務局に対し、給与を保管してもらうことにより、会社としての債務を免除することが出来ます。
上記の手段等をとることにより、会社としての責任を全うすることになります。
連絡が取れなくなった社員がいた場合に、取りに来ないからと言って、給与を支払わず、放っておいた場合、給与未払いとして使用者責任が問われる場合もございます。
こういったケースになった場合は連絡がないからといって、放置するのではなく、早めに対応するようにしましょう。
もしも従業員がコロナに感染したら?
もしも自社の従業員がコロナに感染したら、どういうことが起きるのでしょうか?
感染者数が日ごとに増えていっていますので、経営者は早めに対応を考えておく必要があります。
1.拡散の予防
濃厚接触者を特定し、症状の有無に関わらず14日間の自宅待機を命ずる必要があります。
保健所に問い合わせたところ、感染者とマスク無しの状態で近距離で、ある程度の時間会話するなどをしていた人がいる場合、濃厚接触者と見なすとのことでした。この場合、感染者か接触者どちらかがマスクをしていれば必ずしも濃厚接触者とは見なされないとの見解でした。濃厚接触者とは、飛沫感染が疑われる方という考え方です。
次に、感染者が出入りしていた施設の環境消毒を行う必要があります。これを行うことで、濃厚接触者以外の人が接触感染(手すりやドアノブなどに付いたウイルスを体内に侵入させてしまうこと)するのを防ぎます。
感染者が発生したことだけをもって、保健所からの営業停止処分などは行わないとのことです。
2.休業する従業員への手当の支払い
従業員の休業が「使用者の責めに帰すべき休業」である場合には、平均賃金の60%以上の休業手当を支払う必要があります。
ただし、感染者本人については「使用者の責めに帰すべき休業」には該当しませんので、休業手当を支払う義務はありません。
それでは本人が生活に困るのではないかと心配されるかもしれませんが、健康保険の被保険者の場合には傷病手当金を申請することが可能です。
濃厚接触者を自宅待機させる場合には、「使用者の責めに帰すべき休業」に該当します。
濃厚接触者を自宅でテレワークさせる場合には、当然ですが通常の賃金を支払う必要があります。
3.助成金の申請
従業員を休業させる場合に雇用調整助成金の申請が可能な場合があります。
「場合がある」ということは、逆に言えば助成金が貰えない場合もあるということです。
雇用調整助成金には、売上高の減少要件や休業延日数割合の要件などがあり、それらの要件にたまたま合致している場合だけ、助成金を受給することが可能です。
雇用調整助成金の要件に該当しない場合、感染者本人は傷病手当金が申請できますので問題ありませんが、濃厚接触者については今のところ企業に対する補償がない状況ですので、注意が必要です。当然のことながら、日頃からマスクを着用するなどして、万が一感染者が出た場合にも濃厚接触者として自宅待機しなくて済むようにしておくことが重要です。
4.コロナかどうか分からないが、コロナの可能性がある場合
発熱などの症状があり、コロナかどうか分からないが、コロナだったら大変なので、従業員を休ませざるを得ないというようなケースはよくあることです。
このような場合の扱いは2パターン考えられます。
・傷病手当金を申請できる場合
コロナかどうか分からないとしても、一定の症状がある場合には、医師が労務不能と認めた場合には傷病手当金を申請することが可能です。
・休業手当の支払いが必要な場合
同じような状況であっても、医師が労務不能と認めていないときに、会社が休業を命ずる場合には休業手当の支払いが必要となります。
もちろんこの他のパターンとして、会社から休業を命じなくても労働者側が自主的に休む場合は通常の欠勤として扱うことができますし、有給休暇の取得も可能です。症状があるにも関わらず、従業員が出勤を希望した場合にはじめてこの問題が生じることになります。
使用人兼務役員の年次有給休暇の取扱について
法人の役員の場合、会社と役員の関係性は雇用関係ではなく、委任契約であるため、役員に対しては労働基準法の適用はありません。
有給休暇制度は労働基準法上の制度であるため、役員の場合には、有給休暇が付与されないのが原則です。
ただし、取締役営業部長や取締役工場長などといったような使用人兼務役員の場合ですと、雇用契約を結んでいる場合や雇用保険に加入している場合もあります。
このような使用人兼務役員の場合、有給休暇の付与する必要性が生じる場合もあります。
昭和23年3月17日基発461号で以下のような通達が出されております。
「法人の重役で、業務執行権又は代表権を持たない者が、工場長、部長の職にあって賃金を受ける場合は、 その限りにおいて法(労働基準法)第9条に規定する労働者である。」
使用人兼務役員であっても、その実態が労働者性の要素が強い場合、労働者とみなす、ということになります。
労働者であると認められますと、必然的に労働基準法の適用対象となりますので、有給休暇の付与が必要となります。
では、労働者性の判断基準については、どのように考えればいいでしょうか?
この点、残念ながら使用人兼務役員の有給休暇の取り扱いについて労働基準法上明文化はされておりません。
あくまでも労働の実態に基づきケースバイケースでの対応になります。
新型コロナウイルスについてのQ&A
世間を賑わせている新型コロナウイルスついて、企業の方向けのQ&Aが厚生労働省のHPにて公開されております。以下抜粋のうえご紹介します。
Q:新型コロナウイルスに関連して労働者を休業させる場合、どのようなことに気をつければよいか。
A:新型コロナウイルスに関連して労働者を休業させる場合、欠勤中の賃金の取り扱いについては、労使で十分に話し合っていただき、労使が協力して、労働者が安心して休暇を取得できる体制を整えていただくようお願いします。
なお、賃金の支払いの必要性の有無などについては、個別事案ごとに諸事情を総合的に勘案するべきですが、法律上、労働基準法第26条に定める休業手当を支払う必要性の有無については、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当するかどうかによって判断されます。
※なお、休業手当を支払う必要がないとされる場合においても、自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分検討するなど休業の回避について通常使用者として行うべき最善の努力を尽くしていないと認められた場合には、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当する場合があり、休業手当の支払が必要となることがあります。
Q:労働者が発熱などの症状があるため自主的に休んでいます。休業手当の支払いは必要ですか。
A:新型コロナウイルスかどうか分からない時点で、発熱などの症状があるため労働者が自主的に休む場合は、通常の病欠と同様に取り扱っていただき、病気休暇制度を活用することなどが考えられます。一方、例えば熱が37.5度以上あることなど一定の症状があることのみをもって一律に労働者を休ませる措置をとる場合のように、使用者の自主的な判断で休業させる場合は、一般的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当てはまり、休業手当を支払う必要があります。
Q:新型コロナウイルスに感染している疑いのある労働者について、一律に年次有給休暇を取得したこととする取り扱いは、労働基準法上問題はありませんか。病気休暇を取得したこととする場合はどのようになりますか。
A:年次有給休暇は、原則として労働者の請求する時季に与えなければならないものなので、使用者が一方的に取得させることはできません。事業場で任意に設けられた病気休暇により対応する場合は、事業場の就業規則などの規定に照らし適切に取り扱ってください。
企業担当者として気になるポイントは、「疑わしい人に休んでもらう時に休業手当を支払う必要があるか?」ではないでしょうか。
これについて、現段階の見解では、使用者側の判断により予防的に休業を命じる場合は「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しますので、休業手当の支払いが必要としております。逆に、労働者側の判断による欠勤の場合は、通常の欠勤控除や有給消化等での対応となります。
転籍は拒否できるか
転籍は拒否できるか?
子会社に転籍をさせたい従業員がいた場合、会社は無条件に社員に対し、転籍命令を出せるでしょうか? 従業員が拒否した場合にはどうなるでしょうか?
転籍とは、従来雇用関係のあった会社との労働契約を終了し、新たなに別の会社と労働契約を結びなおすことが同時に行われることを言います。
【転籍は本人の同意が必要】
「転籍」を命じる場合、法律上は労働者の同意(承諾)なくして別の会社の指揮命令下のもとで働かせることは出来ない、とされています。(根拠:民法625条)
就業規則、労働契約等で「転籍」に関する規定があったとしても、本人の個別の同意がない限り転籍をさせることが出来ないというのが、裁判所の見解です。
転籍には労働者個別の同意が必要、というのが大原則となります。
これはあくまでも、転籍は移転先との労働契約の成立を前提とするため、元の会社が規則等により定めていても、労働者は元の会社の規則で制限することは出来ず、元の会社規則等を根拠に転籍を命じることができない、という理論になります。
・労働者本人の同意が得られない場合は?
上記はあくまでも原則論になります。原則としては個別の同意が必要となりますが、以下の条件を満たす場合には個別の同意を必要としない、とされています。
① 親会社の入社案内に子会社が勤務地の1つして明示され、
② 採用面接時に転籍があり得る旨の説明、労働者がそれに同意、
③ 更に転籍によって労働条件が不利益にならず
④ 転籍といっても、実質的には親会社の一部門として扱われており、永年転籍も配転と同様に扱われてきた
上記要件を全て満たす場合には、個別の同意なく、転籍を命ずることが出来ると過去に認められた判例があります。
グループ会社であり、グループ内における雇用調整のための転籍が慣習的に定着している場合には、例外的に認められるケース場合があります。
ただし、この場合でも、転籍後の労働条件の保障は特に重要な要素となりますので、注意が必要です。
・まとめ
「転籍」を命令する場合、原則としては労働者の同意が必要不可欠です。同意が得られないまま、勝手に転籍をさせることは出来ません。
例外的に同意を必要としない場合もありますが、認められる余地は非常に小さいです。
実際に「転籍」命令の同意を得られなかった場合には、従業員との労働条件の擦り合わせをし、同意をもらう方向性に話し合いをする、もしくは出向や配転など別形態での人事異動を模索することになるでしょう。
精神障害の労災認定基準
近年、ハラスメントによるうつ病等の精神疾患にかかる労働者の増加や自殺など社会的に関心が高まっています。労働者が精神疾患にかかった場合の労災認定の要件について解説します。
精神障害の発病についての基本的な考え方
そもそも、一般的にうつ病などの精神疾患を患う場合、外部からのストレス(仕事や私生活など種類は様々)と個人のストレス耐性との関係により精神障害を疾患すると考えられます。
仕事によるストレスが原因であったとしても、同時期に私生活において強いストレスを感じていた場合、または、アルコール依存や本人の精神障害の既往歴がある等、他の要因が深く関係していると認められる場合には、その精神障害の原因がどこにあるか、医学的に慎重に判断されることとなります。
労災認定のための要件
① 認定基準の対象となる精神障害を発病していること。
② 認定基準の対象となる精神障害の発病前概ね6ヶ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
③ 業務以外の心理的負荷や個体的要因により発病したとは認められないこと
以上が厚生労働省が公にしている認定基準となります。
① については、「ICD-10 精神および行動の障害」の分類に基づいて、診断されます。認知症やアルコール及び薬物による障害を除く精神障害が対象となります。業務に関連して発病する代表的な疾患のうつ病・統合失調症・急性ストレス障害等は当然認定対象となります。
② 強い心理的負荷の具体的認定基準ですが、業務による心理的負荷を「弱」「中」「強」の3段階に分類したうえで、そのうち「強」と認められる場合には労災として認められます。
ただし、心理的負荷を判断するための「特別な出来事」が複数生じた場合、その関連性に応じ、総合判断することがあります。
《例》「中」+「中」⇒強または「中」 「中」+「弱」=「中」
「特別な出来事」の具体事例としましては、
【強】
・会社経営に影響するなどの重大な仕事上のミスをし、事後対応にも当たった
・退職を強要された
【中】
・達成困難なノルマが課された
・顧客や取引先から無理な注文を受けた
・配置転換があった
等が挙げられます。
詳細につきましては、厚生労働省パンフレットをご覧ください。
(http://ur0.link/Yvl6)
なお、心理的負荷の強度の評価方法については、
精神障害を発病した労働者がその出来事とその後の状況を【主観的に】どう受け止めたかではなく、同種(職種、職場における立場や職責等が類似)の労働者が【一般的に】どう受け止めるか、という観点から評価しますのでご注意ください。
育児休業を開始する社員に対し、職場復帰を確約する誓約書を提出させることはできるか。
育児休業制度とは、もともと労働者が仕事を継続しながら育児に専念するために休業できる制度であり、休業後、もとの職場へ戻ってこられるように配慮した職場復帰を前提とした制度といえます。
その観点からすれば、退職の意思がはっきりとわかっている社員については会社は該当社員が育児休業の申し出をした場合、育児休業の申し出を拒否することが出来ます。
実際、育児休業給付金の支給要件の1つとして、育児休業終了後に退職を予定しないこと(子どもの1歳の誕生日以降も引き続き雇用されることが見込められる)が育児・介護休業法第5条にも明確に定められています。
退職の意思が明確である場合にはトラブルとなりませんが、育児休業開始時点に復職予定もしくは退職の意向を表していない場合、社員に対し、職場復帰を確約させる誓約書を提出させることはできるのでしょうか?
答えとしては、違法にはなりませんが、好ましくはない、ということになります。また誓約書を取り交わしたからと言って、法的拘束力が否定される可能性が高いでしょう。
育児休業給付金の要件として職場復帰を上げているものの、厚生労働省は誓約書を取り付けることまでは要求しておりません。(たとえ育児休業開始時に職場復帰の意思があり、やむを得ず、休業中に退職をした場合でも不正受給には該当しません) 誓約書まで求めてしまうとかえって労働者を不当に拘束してしまう可能性が高くなります。社員に対し、過度なプレッシャーを与えることはスムーズな職場復帰を阻害することに繋がり兼ねず、そもそもの育児・介護休業法の趣旨にも反してしまう可能性も高いでしょう。
仮に誓約書を設けて、該当社員が育児休業後、退職をしたとしても、誓約書を理由に社員の債務不履行を請求することは難しいです。 これは民法627条及び憲法22条によって、労働者の退職の自由及び職業の自由が保障されているからです。かかる法に違反する誓約書を結んだところで、法的拘束力は否定される可能性は高くなります。
通勤災害は労災か自賠責かどちらがいいか?
仕事や通勤中に交通事故に遭うことは自動車を利用する労働者にとって決して他人事ではありません。
実際、通勤・業務中に交通事故に遭い被害者となった場合、全ての車両に強制加入が義務付けられる自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)と労働者災害補償保険(労災保険)を使用することができます。
自賠責保険・労災保険の併用はできるか?
通勤・業務中に交通事故に遭った場合、二通りの請求権を有することは上述の通りですが、基本的に双方の併用は認められておりません。
双方とも管轄は違えど、国が補償する制度(労災:厚生労働省、自賠責:国土交通省)のため、重複して損害の補填がなされないよう支払の調整を行っているためです。
(ただし、補償範囲が被らない場合、自賠責の限度額を超える部分については労災保険との併用請求ができる場合もあります)
自賠責保険と労災保険どちらを優先して請求すべきか
保険の選択の優先順位に関して、厚生労働省は以下のような通達を出しています。
「労災保険の給付と自賠責保険の損害賠償額の支払との先後の調整については、給付事務の円滑化をはかるため、原則として自賠責保険の支払を労災保険の給付に先行させるよう取り扱うこと」(昭41年12月16日付け基発1305号)
しかしあくまでも通達であるため、「推奨」に留まり、法的拘束力はありません。つまり労災保険と自賠責保険の選択権は被災者にあります。
選択する自由が与えられていたとしても、それではいったいどちらを優先して使用すればいいかという問題になります。
一般的には、自賠責保険の方が労災保険に比べ、仮渡金制度や内払金制度など損害補償額の支払いが事実上速やかに行われること、補償範囲が幅広い(慰謝料や療養費の対象等)為、有利と言われています。
労災保険を優先した方がいいケース
一般的には自賠責を優先させた方が有利ですが、中には労災を優先させた方がいいケースもあります。
① 自分の過失割合が大きい場合、過失割合において争いがある場合
自賠責保険において、交通事故における過失責任が7割以上となるばあいについては自賠責保険の支払額が減額されます。
一方で、労災保険に過失責任の概念はなく、過失割合に応じての減額がなされないため、過失割合が7割以上と認められる場合、相手方と揉めている場合は労災を適用したほうが良いでしょう。
② 相手が無保険、もしくは対人補償が不十分な場合
何らかの理由で相手が無保険である場合、自賠責保険の適用はありません。また自賠責保険の限度額があり、限度額を超える場合、相手の任意保険にも請求ができます。ただし相手方の任意保険の限度額での補償しか受けることができないので、その場合には労災保険を優先させた方がいいでしょう。
インフルエンザに社員が掛かったら?
インフルエンザと診断された従業員を出社させると、他の従業員に感染が拡大してしまい、会社の業務に支障が出るかもしれません。
感染拡大を防ぐ為、数日間は自宅療養を命じるケースが多く見られますが、判断に迷わないように病欠の場合のルールは就業規則などで明確にしておきたいところです。
では出勤停止に対する対応は?といいますと注意すべき点は新型インフルエンザと一般の季節性インフルエンザとによって変わってくる事です。
新型インフルエンザは、2類感染症に指定されており、都道府県知事の就業制限があるとされており会社は新型インフルエンザにり患した労働者に対し、就業禁止を命ずることができ、その際は、自己の健康管理の不備により労務の提供を行う義務を果たせないことになり、賃金や休業手当を支払う必要はありません。
一方、季節性のインフルエンザの場合は、5類感染症に指定されているため、労働安全衛生法上も就業制限の対象とはされておらず就業規則の規定や業務命令により自宅待機させた場合は、会社の都合による休業となり、賃金又は休業手当の支払いが必要になります。有給休暇の取得も可能ですが。有給休暇請求権が本人にある以上、就業規則で一律に定めることはできず、話し合いのうえで決定される事でしょう。
予防接種を取り入れている企業では受診したか否かで、感染した場合の休業手当の支払い義務についても定めておくと良いでしょう。
以前の保険証を使って医者にかかった場合
以前に国民健康保険に加入していたが就職や会社の事情で、社会保険加入に至った時などに起こりやすい事案として、本人の手元には健康保険被保険者証が届いていない状態で医療機関にかかり前の国民健康保険の被保険者証で受診してしまったというケースがあります。
この場合は国民健康保険へ医療費の返納を行い協会けんぽ又は健康保険事務組合に請求をするという流れになります。
具体的にどのような手続きかといいますと加入していた国民健康保険へご相談のうえ、国民健康保険(各自治体の役所)に医療費を返納したあと、国民健康保険に返納した際の「納入通知書兼領収書」と国民健康保険から受領した「診療報酬明細書(レセプト)」を添付のうえ、新たに加入した協会けんぽ各支部へ療養費支給申請書を提出します。
ちなみに診療報酬明細書(レセプト)は開封厳禁となっていますので封をしたままの提出となります。
なお、以前加入していた健康保険(保険者)によっては、個人にレセプトを手渡されないケースもあります。その場合は、協会けんぽから診療報酬明細書を取り寄せます。
療養費支給申請書と先の領収書と明細書を新しく加入した協会けんぽ又は健康保険組合に提出しますが、通常本人に医療費が戻るのはそこから1月くらいはかかります。
払い戻しに時間と手間がかかるので入社後社保加入の手続は早目に届出をし、入社された社員への周知も行っておくことが大切です。
労災発生時の対応
管理職の残業手当
管理職(管理監督者)の地位にある従業員対しては時間外手当、休日手当を支払う必要はありません。
しかし、ここでいう管理監督者とは「労働条件の決定その他の労務管理について経営者と一体的な立場にある者」とされており、「部長」「営業部長」といった肩書きではなく、実態により判断します。
例えば、「地位に応じた相応の賃金が支払われている」といった待遇とともに「部下の採用、給与の決定など人事管理の権限を持つ」「出退勤時間が本人の裁量に任されている」といった立場にあることが必要です。営業上の理由で全員に「課長」という肩書が与えられている部署があったとしても、その従業員がこのような立場になければ管理監督者とは言えません。
管理職の地位に当たる従業員は、会社への評価を一番に考えたりと一般の従業員とは違う思考が多いためか申し出が少なかったりもします。しかし労働基準法でも定められておりトラブルに発展するケースも考えられます。
給与計算を行なっている経営者はもちろん、担当者であっても特に人事関連も任されている方は、「○○さんは、管理職だから残業代は出ない。」と決めつけるのではなく、労働基準法で定められている管理監督者の要件にしっかりと該当しているかどうかを一度チェックした方が良いでしょう。
なお、深夜手当は管理監督者に対しても支払う必要があります。
解雇とは?
解雇とは、使用者の一方的な意思表示により労働契約を終了させる事です。
解雇の種類には大まかに下記の3通りがあります。
●普通解雇 ・勤務成績が著しく悪く、指導を行っても改善の見込みがないとき ・健康上の理由で、長期にわたり職場復帰が見込めないとき ・著しく協調性に欠けるため業務に支障を生じさせ、改善の見込みがないとき 労働契約の継続が困難な事情があるときに限られます。
●整理解雇 ・人員削減を行う必要性 ・できる限り解雇を回避するための措置を尽くすこと ・解雇対象者の選定基準が客観的・合理的であること 会社の経営悪化により、人員整理を行う為の解雇で労働組合との協議や労働者への説明を行うとともに、慎重に検討を行う事が重要です。
●懲戒解雇 従業員が極めて悪質な規律違反や非行を行ったときに懲戒処分として行う為の解雇で、就業規則や労働契約書にその要件を具体的に明示しておくことが必要です。 労働契約法第16条では「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定めています また労働基準法上では解雇予告について定められており、少なくとも30日前までにその予告をしなければならなりません。また、予告をしないで即時に解雇しようとする場合には、解雇と同時に平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払う義務があります。解雇しようとする日まで30日間無い場合は解雇予告をした上で30日に不足する日数分の解雇予告手当を支払うことになります。
解雇と勘違いしやすいもののひとつに、退職勧奨というものがあります。
退職勧奨とは、会社側から労働者に対し、退職してもらいないか?ということを打診し、労働者がこれを受諾して退職する場合に、退職勧奨による退職という形になります。
解雇と退職勧奨による退職の違いは、労働者側の合意があるかどうかです。解雇とは、労働者の意思とは関係なく会社側から一方的に雇用契約を解除することを意味します。
この、合意があるかどうか、という点が非常に重要です。ですから、退職勧奨に合意してもらった場合には、必ずそれを書面で確認しておく必要があります。書面が無ければ、そこに合意があったという事実を後から確認しようがないからです。書面が無ければ、労働者側に「合意してない。解雇だ」と言われても証明する術がありません。なら、解雇でいいじゃないかと思われるかもしれませんが、解雇と退職勧奨とでは天と地ほど意味が違うのです。
・雇用保険上の取り扱いはどちらも同じで会社都合による退職として取り扱われる(給付日数の上で労働者に有利)
・解雇の場合は30日分の解雇手当または解雇予告が必要となる(退職勧奨に合意した場合は、即日退社でも解雇手当は発生しない)
・解雇の場合は訴訟を起こされる可能性があり、裁判の結果「客観的に合理的な理由」が無いと判断されれば、解雇が無効となってしまい、裁判に要した期間分も含めて給与を支払わなくてはならなくなる可能性がある
解雇手当は数十万円で済む話ですが、解雇無効となると数百万円以上の損害の可能性があります。やむを得ない場合は別として、安易に解雇を行わず、金銭的な補償を併用してでも退職勧奨に合意してもらう意味はそこにあります。
賃金台帳と労働者名簿
使用者は事業場ごとに各労働者の賃金台帳(法第108条)と労働者名簿(法第107条)を作成しなければなりません。 記入を必要とする事項は下記の通りです。
賃金台帳の記載事項・・・最後の記入をした日から3年間保存
① 氏名
② 性別
③ 賃金計算期間
④ 労働日数
⑤ 労働時間数
⑥ 時間外、休日労働時間数及び深夜労働の時間数
⑦ 基本給、手当その他賃金の種類ごとにその額
⑧ 賃金控除の額
労働者名簿の記載事項・・・退職日から3年間保存
① 氏名
② 生年月日
③ 履歴
④ 性別
⑤ 住所
⑥ 従事する業務の種類(常時30人未満の事業場では不要)
⑦ 雇入れの年月日
⑧ 退職の年月日及びその事由(退職の事由が解雇の場合はその理由)
⑨ 死亡の年月日及びその原因
基本的に全ての記載が必要となります。 記載項目を満たしていれば様式は問われませんので例えば賃金台帳と源泉徴収簿を合わせて調製しても構いません。 いずれの台帳も電子データで記録・保存することができますが、労働基準監督官から求められたときはすぐに表示ができる事、写しを提出できるようにしておかなければなりません。
労働時間の適正な把握&措置
使用者には労働時間を適正に把握する責務がありますので下記のような措置を講じなければなりません。
使用者は労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、適正に記録すること
原則的な方法
・使用者が自ら現認することにより確認すること
・タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録する事 やむを得ず自己申告制で労働時間を把握する場合
・自己申告を行う労働者や、労働時間を管理する者に対しても自己申告制の適正な運用等ガイドラインに基づく設置等について、十分な説明を行うこと
・自己申告により把握した労働時間と、入退場記録やパソコンの使用時間等から把握した在社時間との間に著しい乖離がある場合には実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること
・使用者は労働者が自己申告できる時間数の上限を設ける等適正な自己申告を阻害する措置を設けてはならないこと。さらに36協定の延長することができる時間数を超えて労働しているにも関わらず、記録上これを守っているようにすることが労働者等において慣習的に行われていないか確認する事。
賃金台帳の適正な調整
・使用者は、労働者ごとに、労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間といった事項を適正に記入しなければならない事
労働時間とは使用者の指揮命令下に置かれている時間の事を言います。業務上義務付けられている研修、教育訓練等も該当しますのでしっかりと把握する責務を果たしましょう。
仕事中の熱中症は労災か?
連日、熱中症により病院へ搬送されるといった報道を目にします。
まずは予防対策をしっかりと講じましょう。
労働契約法第5条において、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と使用者に安全配慮義務を課しています。
判断が難しい熱中症が労災として認定されるには、次の一般的認定要件または医学的診断要件のいずれかに該当していることが必要です
1.一般的認容要件
① 仕事をしている時間帯や場所に、熱中症となる原因があること(当日の気温・作業環境など)
② その原因と熱中症との間に因果関係があること(症状や発症までの時間など)
③ 仕事と関係ない、他の原因によって発症したものでないこと(持病などではない)
この3つの条件を満たすことで、熱中症が労災として認められます
2.医学的診断要件
① 作業の内容、温度や湿度等の作業環境
② けいれんや意識障害等の有無、体温の測定
③ 脳貧血や、てんかん等による意識障害との判別
この医学的要件は簡単に言えば、医師によって「熱中症である」と診断された事実のことです。
一般的認定要件は表現がわかりづらいのですが、仕事をしている時間・場所が熱中症を引き起こす明確な原因が存在していること、その原因により熱中症に至ったという因果関係があること、仕事に関係しない他の原因により発症したものではないことに該当するかということになります。
連絡の取れない無断欠勤中の従業員への対応
無断欠勤には連絡の取れる従業員と連絡の取れない従業員とで大きな違いが生じます。
連絡の取れる従業員へは話し合いさえできればその原因がトラブル(体調不良込)なのか出社拒否なのか寝坊、二日酔いなどのちょっとした素行の悪さなのかが把握できます。
もちろん就業上良い事ではありませんが会社は一安心できるかと思います。
問題なのは連絡が取れない無断欠勤中の従業員です。その期間が続くようで有り、連絡を待つだけとなってしまった場合にはどのように対処していけば良いのでしょうか
1.連絡をした履歴を管理する。(最近ではLINEのような既読通知機能のあるツールが便利とされています)
2.自社の就業規則を確認し無断欠勤への懲戒、解雇条項等を確認しておく。(大体の企業の就業規則では2週間とされています)
3.就業規則に則り「〇月〇日まで連絡もしくは出社の無い場合は、働く意思が無いものとみなし退職の手続きをすすめる」旨の意思表示をメール、LINE、書面等で公示する。
4.期日になっても進展がないようであれば資格喪失手続きを開始する。
◆ポイント
・無断欠勤開始~資格喪失手続きの間に賃金支払い日が来る時は「賃金一定期支払」の法律がある為、給与の支給は行う。
・「解雇」は通知、予告などが本人に到達しないとできないので「働く意思のないもの」とみなし「自然退職」を促す方向ですすめる。
いざというときの為にも緊急連絡先を控えておくのも対策の一つです。
私生活の素行の悪さについて
私生活での行動について、会社は懲戒処分を行うことができるのでしょうか。
たとえば社員が何らかの事由で逮捕されたとき、会社は直ちに解雇などの処分をすることができるでしょうか。
労基法の定め
労働契約法15条は「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は無効とする」
と定めています。
そのため、たとえ就業規則などで「逮捕されたり刑罰法規等に該当する場合に、その従業員を懲戒できる」旨の規定を設けていたとしても、私生活上の非行について懲戒することに合理性・社会的相当性がなければ、その懲戒は無効となります。
判例
裁判では、「私生活だろうとも、会社の信用を落とす行為は懲戒の対象となる」という判断をした場合もある一方で、「会社と関係のない部分について、会社に咎められるいわれはない」という判断がなされたこともあります。
基本的な考え方としては、「私生活上で行われた行為については、原則として企業秩序の問題とは無関係なものとして懲戒処分の対象とならず、ただし例外的に、企業秩序に影響を及ぼす場合に限って、懲戒の対象となりうる」という風になるでしょう。
たとえば逮捕された場合であっても、法律上有罪判決が確定するまで「無罪の推定」が働区ため、従業員が逮捕されたからといって直ちに懲戒処分を行うという判断をするのではなく、事件の内容や経緯を考慮してそれが企業秩序に悪影響を与えた程度を元に懲戒処分を慎重に判断する必要があります。
海外療養費
海外療養費制度は、海外旅行中や海外赴任中に急な病気やけがなどによりやむを得ず現地の医療機関で診療等を受けた場合、申請により一部医療費の払い戻しを受けられる制度です。(ただし、海外で仕事中あるいは仕事が原因で怪我や病気をした場合はこの限りではありません。)
・給付の範囲
海外療養費の支給対象となるのは、日本国内で保険診療として認められている医療行為に限られます。そのため、美容整形など、日本国内で保険適用となっていない医療行為や薬が使用された場合は、給付の対象になりません。
また、療養(治療)を目的で海外へ渡航し診療を受けた場合は、支給対象となりません。日本で実施できない診療(治療)を行った場合でも、保険給付の対象とはなりません。
・支給金額
日本国内の医療機関等で同じ傷病を治療した場合にかかる治療費を基準に計算した額(実際に海外で支払った額の方が低いときはその額)から、自己負担相当額(患者負担分)を差し引いた額を支給します。
日本と海外での医療体制や治療方法等が異なるため、海外で支払った総額から自己負担相当額を差し引いた額よりも、支給金額が大幅に少なくなることがあります。
外貨で支払われた医療費については、支給決定日の外国為替換算率(売レート)を用いて円に換算して支給金額が算出されます。
・手続きに必要な書類
海外療養費の申請については、以下の申請書と添付書類が必要です。海外の場合、翻訳文なども添付しなければならず、手続きは煩雑になります。
1.海外療養費支給申請書・・・ア
2.診療内容明細書(様式A)・・・イ
3.領収明細書(様式B)・・・ウ
4.現地で支払った領収書の原本
5.各添付書類の翻訳文
※翻訳文には、翻訳者が署名し、住所および電話番号を明記してください。
6.受診者の海外渡航期間がわかる書類
(パスポート・ビザ・航空チケットなど当該渡航期間がわかる部分のコピー等)
※パスポートの場合は、①氏名・顔写真と②出入国スタンプのページの両方のコピーを添付して下さい。(診療を受けた期間に渡航先に滞在していたことが分かるよう目印をつけて下さい。)
7.同意書(様式D)…オ
具体的な診療内容等について、診療等を受けた医療機関に照会するため、療養を受けた方の同意書を添付して下さい。
その他 (条件に該当する場合に必要)
労働組合
企業内の労働組合が組織されているケースは多くありませんが、労働組合を作ることは法律上強固に保護されています。
労働組合は「団体交渉を通じて労働者の労働条件ないし経済的地位を向上させる機能」を認められている団体で、こうした労働組合への法的保護は労働組合法(以下「労組法」という)により定められています。
根拠は憲法
労働組合法の根拠は「憲法28条」です。憲法28条は、「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。」と定めており、⑴団結権・⑵団体交渉権・⑶団体行動権の保障を定めています。
団体で交渉する権利
労働組合の団体交渉その他の行為であって正当なものは、刑法35条により正当な行為として扱われるとしています。この規定がないと、「給料を上げろ」などと求める団体交渉は刑法上の強要罪等に当たることがありえますし、ストライキは業務妨害罪などに当たることがありえます。
民事の損害賠償からの免責
また、労働組合の正当な組合の行為により会社が損害を受けたとしても、労働組合またはその組合員に対し賠償を請求することができないと定めています。争議行為が正当なものである限り、争議行為によって会社の運営が阻害されたからといって、労働組合に損害を賠償させることができないということです。
不利益取り扱いの禁止
さらに、労働組合に加入したことや正当な組合行為を行ったことを理由とする不利益取り扱いは「不当労働行為」として禁止されています。
以上のことから、労働組合からの団体交渉は法律で保証されている交渉であることに十分留意し、真摯に対応する必要があります。
有給休暇の理由を聞いてもいいか?
「有休を取るのに理由はいらない」、「上司から有給を取得する理由を尋ねられたとしても、答える義務はない。」という考え方がありますが、従業員から有給取得の申し出があった場合はどんな時も理由を聞いてはいけないのでしょうか。
・時季指定権
労働者が有給を請求するのはいわゆる「時季指定権」という権利として労基法で補償されています。この権利が常に優先するなら、理由によらず労働者は有給を取れることになりますが、実際には会社にも「その時期は忙しいから別の日に変えてくれ」という権利(時季変更権)があります。また、一方で民法1条3項には「権利の濫用は、これを許さない。」とあります。
つまり、会社側の時季変更権の優先度が高いかどうか、並びに労働者の有給休暇の時季指定権が権利の濫用かどうかを判断する場面では、理由を聞くことが認められることもあるでしょう。
(ちなみに、労働基準法には、労働者から会社に「理由を聞かれても答える義務がない」のも確かですが、「理由を聞いてはいけない」という規定があるわけでもありません。ケースバイケースということです)
有休の理由を聞く意味
有給休暇の理由を尋ねる一つの基準としては、申請期限を過ぎて直前で申請してくる場合でしょうか。
多くの会社では就業規則で、有休を取る際は1週間とか10日前までに申請するよう定めているかと思いますが、そうした期限を無視して有給申請をしてくる場合は、労使の信義則により理由を尋ねても良いのではないでしょうか。
従業員のメールやパソコンを監視して良いか
今やパソコンやスマホなどのデジタルデバイスは仕事に欠かせないものです。しかし、便利な機械ゆえに仕事とは関係のないこと(ゲームや金融投資、ネットサーフィン、プライベートな連絡など)も手元で手軽にできます。勤務時間に業務と関係のないことをしないように会社としては監視をしたいところですが、法律的に社員のパソコンを監視することは可能なのでしょうか。
プライバシーとの問題
近年の個人情報に関する権利意識の強まりもあるために、社員のデジタルデバイスのモニタリングをする場合には注意が必要です。
就業規則への記載と周知
まずは就業規則への根拠の記載が必要でしょう。
メールやウェブアクセスの監視に関する規程や就業規則への記載をしましょう。そして、就業規則に基づいてモニタリングをする可能性があることをしっかしとした形で周知しておくことも大事なことです。就業規則への記載がなかったり、従業員にその内容が周知されていなかったりすると、たとえ業務に使用するパソコンであったとしても「プライバシーの侵害」とみなされる場合があります。
理由の説明
モニタリングをする必要がある理由をしっかりと説明することもトラブル予防のためには大切なことです。営業秘密情報を漏れないようにするため、業務効率化をして早く帰れるようにするため、ガバナンスのためなど合理的な理由を説明し、業務と関係のないことをしないよう労働者に対して牽制をしてトラブル予防をしましょう。
実際にモニタリングをするとなるとそこに人的コストがかかります。社内のモラルをしっかりと保ちましょう。
会社主催の宴会で暴行事件が起きたら
会社の仲間で開催した飲み会で、酒に酔った社員同士による暴力事件が起こったとき、会社はどのように対応すべきでしょうか。
・飲み会の会場は「職場」か?
まず、会社としては、その飲み会が①会社が出席を命じたものなのか②自由な友人・知人関係の中で催されたものなのかを確認しなければなりません。
会社が出席を命じ、不参加に対して何かしらの不利益取り扱い(給与査定に響く、接し方などの人間関係に影響があるなど)があるならば、宴会は業務の一環として労働時間扱いとなります。労働時間中に起きた怪我であれば労災の可能性が出てきます。
会社全体で出席を命じていなくても、上司部下などの関係で実質的な強制性があったときはやはり労働時間とみなされるこちがあります。
・暴力はどうして起こったか
暴力事件社内の人間同士の出来事である場合、両者から、あるいはそれを見ていた他の目撃者から状況をよく確認することです。
業務との因果関係がある場合、例えば度重なる叱責に耐えきれずに逆上したなど仕事上のことが原因であれば労災の可能性がありますが、例えば普段から、おりあいが悪く私怨などが原因の場合には、基本的には労災とはなりません。
軽微な怪我の場合はお互い穏便に済ませることもあるでしょう。しかし頭部を強打したなど後遺障害につながりかねない事案の場合は慎重に対応しなければなりません。会社として、状況を正しく把握した上で、場合によっては労災申請(第三行為の労災申請)などをすることも検討しましょう。
均衡待遇と均等待遇の違い
働き方改革の一環として、「同一労働同一賃金」の実現に向けた取り組みがあります。正社員とかパートとか派遣社員とか、色々な働き方がある中で、雇用形態が違うだけで給与などに不公平な取り扱いをすることがないように、法律の整備がされています。
改正の目的
「正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(パートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者)との不合理な待遇の差をなくすこと」とされています。
規定の整備
同一企業内において、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で、基本給や賞与などの個々の待遇ごとに、「不合理な」待遇差を設けることが禁止されます。
正社員と同じ仕事をしているのに契約社員だから給与が低いなどの取り扱いは、今後は問題視されます。
「均衡待遇」規定とは
働き方が違う場合、「その違いに応じてバランスをとった」待遇にすることを言います。下記3点の違いを考慮した上で、不合理な待遇差が禁止されます。
①職務②職務内容・配置の変更の範囲、③その他の事情
「均等待遇」規定とは
同じ仕事をしている場合に、雇用形態が違うだけで差をつけることを禁止する規定を言います。下記2点が同じ場合、差別的取扱いを禁止されます。
①職務内容※2、②職務内容・配置の変更の範囲
※2 職務内容とは、業務の内容+責任の程度をいいます。
問題
同一労働同一賃金は、待遇に不満を持った非正規雇用社員から訴えられる可能性が高いでしょう。待遇が「均衡・均等」という要素を満たしているか今一度確認してください。
妊産婦、育児中の労働者の取り扱い
従業員が婚姻、妊娠、出産等をしたこと並びに育児休業等の申出をしたこと及び取得したことにより、従業員に不利益な取扱いをすることは法律により禁止されています。
育児の不利益な取扱いの例として、
育休等を取ることで、事業主側がその対象者を
・解雇すること。
・期間を定めて雇用されていた場合、契約の更新をしないこと。
・退職又は正社員だった場合、パートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと。(表面上、労働者同意を得ていたとしても、これが労働者の真意に基づくものではないと認められる場合も、これにあたります。)
・自宅待機を命ずること(事業主が、育児休業や介護休業の終了予定日を超えて休業することや、子の看護休暇取得の申出に係る日以外の日に休業することを労働者に強要したりすること)
・労働者が希望する期間を超えて、その意に反して所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限又は所定労働時間の短縮措置等を適用すること。
・降格させること。
・減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと。(育児休業、介護休業期間等、現に働かなかった期間を超えて、賃金を支払わなかったりすることなど。)
・昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと
・不利益な配置の変更を行うこと
通常の人事異動のルールからは十分に説明できない職務又は就業場所の変更を行うことにより、その従業員に相当程度経済的又は精神的な不利益を生じさせること
これらのものがあります。これらの会社の行動は法律違反となることがありますので注意が必要です。、ここに掲げていない行為についても個別具体的な事情によっては不利益と捉えられることがあります。
労働力人口が減少する今後の事情を鑑みると、出産育児中、または復帰後の労働力も積極的に活用していくよう考えていくと良いでしょう。
「社内恋愛禁止令」は有効か?
業務上の都合から社内恋愛を禁止している会社は存在しているようです。
社内恋愛を禁止する会社としては、社内恋愛を禁止することにより企業秩序や風紀を維持したいという意図があります。
例えば上司と部下が社内恋愛中だとして、不公平な査定が行われたり、経営上の重要な事項が漏れてしまったりという問題が発生することもありえます。また、交際が終わった場合には、気まずい関係性が仕事にも支障をきたしたり、場合によってはどちらかが退職、さらにはセクハラやストーカーなどといったより重大な事態を招いてしまう恐れさえあります。
さて、表題の「社内恋愛=クビ」という社内ルールに問題があるかという点についてですが、就業規則などに社内恋愛を禁止する規定をすることは前述した通り全く不合理であるとは言えないため可能だが、その規定があるから即ち解雇にすることには問題がある。」というのが答えになるでしょう。実際に社内恋愛により業務上の支障がある場合には、指導をしたり配置転換をしたりして問題解決を図るというのが現実的な対処方法でしょう。
配置転換:
公然とベタベタしていて仕事が進まない、目に余る様子で職場に悪影響が発生し出すと、「業務上の支障がある」という理由で配置転換ができるでしょう。ただし、会社としては、配置転換を行う前に十分な注意や指導を行っておくのが望ましいでしょう。
懲戒:
懲戒権の行使については、就業規則で懲戒処分を下すことができる旨の取り決めがあったとしても、社内恋愛発覚=即処分というわけにはいきません。
日本国憲法第19条
思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
恋愛も思想のひとつですから、両者が合意して付き合うこと自体は会社が介入できることではありません。
社内恋愛をしても、それが単に私生活上のものとして行われているぶんには問題ないわけで、それが公知の事実となっていろいろな問題が顕在化し、業務が円滑に運営できなくなった場合に限って懲戒処分ができます。つまり、恋愛そのものではなく、恋愛の結果として起こる業務上の不都合を招くような行為を禁止することであれば可能です。
賞与を支給する対象者は会社が決められる?
賞与はボーナスや一時金などども呼ばれ、毎月決まって支給される賃金とは別に、夏休み前や年末、事業年度末などに支給されるものです。
賞与の意味合いは様々です。個人の業績評価的な意味合いのこともあれば、会社全体の利益分配のためであることもあります。年俸の一部としてあらかじめ支給額が決まっている場合もあるでしょう。
上記のうち年俸制により確約されているものを除けば、賞与は必ず支給しなければならないものではなく、その支給基準、支給対象者、支給額、支給日などは原則として労使間の就業規則や賃金規程などで自由に決めることができます。つまり、基本的に「支給日に在籍していること」を賞与の支給要件とすることは法的に差し支えないと判断され、支給日在籍者にのみ賞与を支給しても問題ないと判断できます。
ただし、支給日在籍者だけに限定するとしても、退職日を自ら選択できない定年退職者や解雇の場合などは、特別に支給対象者とするなどのケアをすることが望ましいでしょう。
また、営業成績に連動するよう計算式が明確になっている場合は、「その期間に在籍して営業成績を出したのだから、途中でやめるまでの賞与をもらう権利がある」という労働者側の主張を許すことになります。賃金規程などで「支給日当日に在籍していないと支給しない」と明文化して起きトラブルを防ぎましょう。
社内恋愛を禁止できるか?
会社として、社員同士の恋愛を禁止としたい場合があります。社内恋愛によるデメリットとしては以下のようなものが挙げられます。
・付き合っていることでイチャイチャして周りの社員が不快に思う
・スタッフ同士の交流に公平性がなくなる
・痴話喧嘩が元で会社の運営に支障をきたす
・別れる時に片方または両方が退職する
・お客様が不快に思う
特に退職は重要な問題で、企業が多くの投資をして雇った社員が退職してしまうのは痛手です。会社は社内恋愛の禁止をすることができるでしょうか。
原則としては恋愛禁止はダメ
本来、恋愛は個人の自由で行われる私生活上のものであり、会社が過度に干渉することは許されません。個人間の恋愛は禁止したからといって抑止できるものではありません。
企業秩序の維持のために懲戒が認められることもある
ただし、社内恋愛行為が結果として会社に迷惑をかけていることが明らかであれば、何らかのペナルティーを与えることは可能でしょう。たとえば女性が接客をするサービス業においては、社内恋愛は女性の商品価値を貶めるかもしれません。また、社内恋愛関係にある二人がお互いを明らかにえこひいきして営業成績をよくするなどの行為も秩序を乱していると言えそうです。
社内恋愛による悪影響が客観的に見て相当重大である場合や、会社の信用を著しく失墜させた場合であれば、懲戒や配置転換も可能でしょう。
ただ、社内恋愛をしたから減給するとか、配置転換をするというのは、「よっぽどの悪影響がある」場合に限られます。その悪影響を立証することができない場合は、懲戒が不当となります。
従業員の業務外の非行
労働者と会社の契約上は、あくまで「所定労働時間内において会社の命令で働く」と決まっているだけですから、とたとえば社員が勤務時間外に飲酒運転し警察に捕まってしまったなどの場合、会社は何らかのペナルティーを与えることができるでしょうか。
1 原則としてはペナルティーを与えることができない
原則的には、従業員の業務外の非行に対して、会社が懲戒処分することはできません。
なぜなら、懲戒は、労働者と使用者(会社)との労働契約に基づき、当該労働契約に違反したときにのみ行うことができるものだからです。
労働契約とは双方に次の義務を負う約束です。
会社:給料を払う、労働基準法上の権利を保証する
労働者:会社の命令をきいて労務を提供する(働く)
例えば、「ギャンブルにハマる」「泥酔して街でトラブルを起こす」などの行為は社会通念(道徳)上好ましくない行為かもしれませんが、それらは前述の義務とは別の話なので、それらに対して、ただちに会社がペナルティーを課すことはできません。
2 会社に迷惑が及ぶ場合は懲戒できることも
しかし、業務外での行為でも、社会的に影響を与えるような行為であって、会社の信用を失墜させたり、名誉を著しく汚すような行為を行った場合にはその程度に応じて懲戒をすることができます。
近年は飲酒運転に対して大変厳しい世間の評価がありますから、特に車を運転する業務がある場合は厳しい対処も可能でしょう。また、就業規則などで 「社員が刑法上の犯罪を犯したときなどには、それが業務外の行為であっても、懲戒する」と規定しておくことで、場合によっては懲戒解雇などの厳しい処分に付することもできるでしょう。
社員を雇った時の書類
近年、働く社員からの権利主張をされる事が多くなりました。「言った 言わない」で揉めないように、雇った時に書面を交付してトラブルを予防しましょう。
労働基準法第15条
労働基準法15条によると、会社が労働者を雇用するときは、賃金や労働時間等の労働条件を書面などで明示しなければならないとされています。明示された労働条件が事実と相違する場合、労働者は即時に労働契約を解除することができます。さらに労働条件が違う場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合、使用者は必要な旅費を負担しなければならないと決められています。
内容として、「書面で交付するもの」と「口頭で良いいもの」があります。
書面の交付による明示事項
(1)労働契約の期間
(2)就業の場所・従事する業務の内容
(3)始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務をさせる場合は就業時転換(交替期日あるいは交替順序等)に関する事項
(4)賃金の決定・計算・支払方法、賃金の締切り・支払の時期に関する事項
(5)退職に関する事項(解雇の事由を含む)
中小企業では、特に有給休暇、労働時間、賃金が揉め安い箇所でしょう。
転勤があるかないか、賞与についても気をつけたほうが良さそうです。
口頭の明示でもよい事項
(6)昇給に関する事項
(7)退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払の方法、支払時期に関する事項
(8)臨時に支払われる賃金、賞与などに関する事項
(9)労働者に負担させる食費、作業用品その他に関する事項
(10)安全・衛生に関する事項
(11)職業訓練に関する事項
(12)災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
(13)表彰、制裁に関する事項
(14)休職に関する事項
なお、(1)~(6)は必ず明示しなければならない事項で、(7)~(14)は制度を設ける場合に明示しなければならない事項です。
通勤手当の不正受給
通勤手当の不正受給とは、電車やバスで通勤すると申告しておきながら、実際には自転車や徒歩で通勤して、交通費を浮かしたり、 転居して会社までの距離が近くなった(交通費が安くなった)にもかかわらず、従前の遠い距離のままの交通費をもらうなどの労働者の行為を指します。給与総額が低い場合にこのような不正申告がおこる可能性が高まると言われています。この不正に対してどのように会社は対応すべきでしょうか。
通勤手当は義務か
そもそも、法律上、会社は必ず従業員に通勤手当を支払う必要はありません。通勤手当はゼロであっても問題ありません。ただし実際は、「通勤手当は当然払うもの」という慣習に従っている会社が多く、就業規則や給与規定などで通勤手当を支払う旨を規定しているから、通勤手当を支給する義務が生じているのです。
不正への対応
1 実費を超える金銭を返還させる
会社の規則で「実費を支給」といっている場合、実際には電車を利用せずに費用がかかっていないなら、電車代を支給する必要はありません。すでに支給してしまったものは、民法703条の「不当利得の返還義務」により、返還させることができ、民法167条「債権等の消滅時効」により、時効は10年ですから会社は、10年前までさかのぼって返還させることができます。
2 懲戒処分
徒歩や自転車で通勤していながら、会社には電車通勤と申請して電車代をもらうのは、故意に会社に金銭的損害を与えることになりますから、就業規則などに明確に記入してあれば、規定に従って懲戒処分(ペナルティーを与えること)できます。不正な通勤手当受給を「なあなあ」にして懲戒をしないでいると、いざ悪質な不正があった時に「過去には懲戒をしなかった事」が会社にとって不利になる事があります。しっかりと懲戒し、戒める方が良いでしょう。
社内不倫と解雇
男性従業員(既婚)と女性従業員が不倫関係にあるとの噂が職場内に広まっている場合、会社はどのように対応すれば良いでしょうか。
通常の社内恋愛ならばともかく、不倫ということで、社内風紀への影響も考えられます。会社として何らかの措置が必要なのか?また解雇も可能なのでしょうか?
・事実の確認
まずは事実確認が必要です。ただの噂なのか事実なのかを、プライバシーにも留意し、当事者に状況を確認してください。
・会社への悪影響を検討
事実であったとしても、その不倫が必ず会社の運営に悪影響を与えるとは限りません。まったく職務に影響はなく、プライベートな問題と言い切れる程度、犯罪行為などに該当しない限りは会社に与える影響も小さいと考えられ、社内不倫ということだけでは解雇などの重い懲戒処分とすることは難しいでしょう。
一方で、例えば不倫が社外にも漏えいし、会社のイメージダウンにもなる場合や、不倫相手の配偶者が会社に怒鳴り込んできて刃傷沙汰に発展したりすれば、会社は当事者を厳しく懲戒与えることも検討して良いでしょう。
・セクハラとの関係
また、勤務時間中の不倫行為を目撃し、周りの従業員が性的に嫌な思いをすれば「セクハラ」との関係も出てきます。不倫行為が性的不快行為となるものであれば、会社は職場環境を健全に保つ為に、当事者に懲戒を行うなどが必要でしょう。
・就業規則に基づく懲戒
不倫関係(行為)が会社に悪影響を及ぼしていたら就業規則の定めによって、軽い順から譴責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇などの対象になります。
たしかにいきなりの解雇は困難ですが、まずは口頭で注意。それでも改善されなければ、段階的に処分を科していけば解雇も認められやすくなるでしょう。
セクハラ防止と対応方法
女性が被害にあうと思われがちなセクシャルハラスメントですが、近年では男性が被害者になることも少なくはありません。
セクハラは体に触るなどの物理的なものだけでなく,下ネタを言う、セクシーなポスターや画像などを見える場所に置くなどの行動も場合によっては該当します。嫌なら嫌と拒否することができれば良いですが、パワハラ同様、立場が上の人からのセクハラにはなかなか意見しにくく、特に被害が深刻化することがあります。
セクハラの問題は、プライベートの問題のように見えますが、職場で起こるセクハラ問題について、会社として、「放置」という対応には問題があります。なぜなら会社には雇用する労働者を、職場で、健康かつ安全に働いてもらうよう配慮する「安全配慮義務」義務があるからです。
職場における男女の差別を禁止し、あらゆる面で男女とも平等に扱うことを定めた「男女雇用機会均等法」という法律があり、その中で、セクシャル・ハラスメント防止のため、事業主に対して雇用上の管理を義務づけています。
そのため会社側は個人の問題として扱うのではなく、会社の大きな問題の一つとして、就業規則などにセクハラ防止を規定するなどセクハラに関する以上の方針を明確にし、同時に相談窓口を作るなど、あらかじめ、労働者に対して周知、啓発をしておくことが大切です。
それでもセクハラが起こってしまったときは、そのセクハラの事実関係を、迅速かつ正確に把握する必要があり、事実であった場合は速やかに、被害者の安全を確保し、また加害者に対する懲戒を検討するなどして事態の改善を図ってください。
ブログやツイッターに会社の悪口を投稿したらクビになる?
ブログやツイッター、フェイスブックなどのSNSで会社の不満や、悪口の投稿をした場合、会社は罰則を与えることはできるでしょうか。
規定があれば原則は可能
原則として、就業規則に定めてあれば懲戒を行うことは可能です。例えば、「会社の信用を落とす言動や発信をしたら懲戒します」「会社の信用を損なう言動の結果発生した損害については損害賠償請求をします」と就業規則に規定してあれば、それを根拠に懲戒を行うことは可能でしょう。
会社の悪事を通報した場合は別
ところが、その投稿内容が「会社の悪事を通報した場合」は話が違います。
例えば飲食店において、「○○さんが床に落とした食品を戻してそのまま調理した。」という投稿をした場合、「会社の衛生管理上の問題や不正を世に知らしめた」という点においては公益になる通報である為、法律でその通報行為が保護されます。
賞味期限切れの食肉を販売している企業の行為が社会的に問題になったことがありましたが、内部からの通報により会社の不正が明るみになった事例です。実際にその投稿が「内部告発」なのか「悪意のある悪口」なのかの判断は公益通報者保護法に規定された要件を満たすことを証拠に基づいて証明する必要があります。根拠の明確でない会社の悪口はやはり懲戒対象となるでしょう。
おふざけ投稿、プライベートな情報の公開は厳しく罰するべき
一方で、会社の設備や在庫物品を使って悪ふざけをしている場合、それは会社の営業に甚大な被害を与えかねません。コンビニ店員が冷凍庫に入ったり、ピザ屋のアルバイトがピザ生地を顔に貼り付けたりする悪ふざけによって営業停止や廃業になる場合もあります。
上司や同僚の趣味思考や恋愛事情をいたずらに公開する行為もプライバシーを侵害するものである為、会社としては注意指導をした方が良いでしょう。
茶髪や派手な服装での出社をやめてほしい
近年では性別に関係なく、茶髪やピアス、ときにはタトゥー(刺青)を入れたりすることもファッションとして取り入れ、楽しむ人が増えています。
ファッションを楽しんでいるんだから、個人の自由でしょ?と言われればそうなのかもしれません。
また職種によってもさまざまです。美容師さんにはトレンドのヘアスタイルやカラーであって欲しいだろうし、アクセサリー販売員の方にはピアスなどの装飾品を身に着けていたほうが、お客様との会話も弾むかもしれません。
しかしながら、学校の先生や銀行員などの場合、職業柄自由すぎる格好が問題になることもあります。
それでは、労働者が茶髪や派手な服装での出社を続けた場合、会社は解雇することができるのでしょうか?
基本的には可能です。例えば、就業規則の懲戒解雇事由として「茶髪や派手な服装は認めない」という取り決めがある場合には、このような就業規則の定めによって従業員の茶髪や派手な服装を注意し、それに従わない場合は懲戒解雇が可能になります。
仮に、「茶髪や派手な服装を禁止する」といった規定がない会社でも、「会社の指示・命令に背き改悛しないとき」といった懲戒解雇事由が定められている場合には、その就業規則の規定が間接的に茶髪や派手な服装を禁止する根拠となるでしょう。
ただし、会社が労働者に対して「こういう格好をしなさい」「こういうファッションは許さない」と指揮命令をすることができるのは、あくまで業務に関すること、あるいは業務に影響を与える範囲に限られると考えてください。そしてその指導をする場合でも、なぜその格好が業務上問題なのかをしっかり説明して理解をえると良いでしょう。
始末書の目的と役割
労働者が会社の規則違反や不祥事を起こした時に始末書を書かせることがありますが、法律的にはどのような意味があるでしょうか。
主たる理由:証拠
最も重要な目的は、規則違反や不祥事についての事実を本人が直筆で書面として書いたという証拠を確保することです。5W1H(誰が、いつ、どこで、何を、なぜ(どんな事情があって)したのか、再発を防止するためにどのように改善するのか)に従って本人が記入することで、規則違反や不祥事が事実としてあり、それを本人も認めているということに意味があります。
証拠の使い方
始末書の実際の使い道として以下のものが考えられます。
1、 さらなる懲戒や解雇の根拠として使う
2、 評価や指導の実績として使う
1、 さらなる懲戒や解雇の根拠として使う
日本においては解雇権濫用法理があり、「客観的合理性があり、社会通念上相当出ない解雇は無効である」とされるため、客観的合理性を説明する根拠の一つとして用います。解雇が会社の自分勝手な処分でなく、非が労働者側にあると会社が主張するときに、始末書の内容及び記録が重要になるというわけです。
2、 評価や指導の実績として使う
始末書を「反省文や謝罪文」と混同して使われるケースがありますが、本来は「謝らせること、辱めること」が始末書の目的でなく、事実の記録が主たる目的ですから、反省の弁や「二度としません」と言った決意はなくても良いでしょう。むしろ、再発防止アイデアを出させて、上司がコメントした事実を日付と共に記録しておいた方が合理的であるといえます。
また、始末書の存在を持って人事評価の参考とすることも可能でしょう。
在宅勤務中の労災
在宅勤務をしている社員が怪我をしたら、労災の適用になるのでしょうか。
例えば、仕事のファイルを取りに行く時に転んで怪我をした場合、労災の対象として認められるかがきになるところです。
回答
在宅勤務中であっても労働者である以上、労災保険の補償対象となります。
ただし、私的行為との境界線が見えにくいので、オンオフがわかりやすい管理をした方が良いでしょう。
解説
労災保険法の適用に関しては、 「業務が原因である災害については、 業務上の災害として保険給付の対象となる」 とされる一方で、 「自宅における私的行為が原因であるものは、業務上の災害とはならない」とガイドラインで定められています。 私的な行為をしている場合は労災対象外になってしまうので、仕事中の事故であることを証明できるように準備が必要ということになります。
例えば、時間的に「仕事時間」と「指摘時間」を区別するよう管理すること。これは日報やタイムシートなどで作業時間の報告管理をするようにする必要があります。
また、場所的な管理も場合によっては必要かもしれません。「自宅以外の作業を禁止する」というルールがあれば、自宅作業の業務遂行性を証明しやすくなります。
予想される労災
在宅勤務をしていて起こりうる労災は次のようなものがあります。
・文房具で手を切る
・転倒する
・郵便物を出しに行く時に交通事故にあう
・座りっぱなしで腰痛になる
・パソコンの画面を見続けることによる目の疲労
このうち、腰痛や目の疲労については業務との因果関係を証明するのが簡単でありません。
労災保険のメリット制
自動車保険では、事故により等級が変化することがあります。安全運転でゴールド免許の優良ドライバーは事故を起こす可能性が少ないので、保険料を安く抑えるご褒美があるということです。
一方、労災保険においては、事業の種類ごとに災害率等に応じて保険料率が定められていますが、実際には事業の種類が同一であっても①作業工程、②機械設備あるいは③作業環境の良否、④事業主の災害防止努力の如何等により事業ごとの災害率に差があるため、事業主負担の公平性の観点から、さらに、事業主の災害防止努力をより一層促進する観点から、当該事業の災害の多い少ないなどの状況に応じ、労災保険率又は労災保険料を上げたり下げたりする制度があります。これを「労災保険のメリット制」と言います。
継続事業のメリット制
メリット制が適用される会社とは
連続する三保険年度中の各保険年度において、次の(1)~(3)の要件のいずれかを満たしている事業であって、当該連続する三保険年度中の最後の保険年度に属する3月31日(以下「基準となる3月31日」という。)現在において、労災保険に係る保険関係が成立した後3年以上経過している事業についてメリット制の適用がある。
(1). 常時100人以上の労働者を使用する事業
(2). 常時20人以上100人未満の労働者を使用する事業であって、その使用労働者数に、事業の種類ごとに定められている労災保険率から非業務災害率(通災及び二次健診給付に係る率:0.9厘)を減じた率を乗じて得た数が0.4以上であるもの
(3). 一括有期事業における建設の事業及び立木の伐採の事業であって、確定保険料の額が100万円以上であるもの
メリット収支率
労災保険率を上げ下げする基準は、基準となる3月31日において当該連続する三保険年度の間における当該事業の一般保険料の額から非業務災害率に応ずる部分の額を減じた額に調整率を乗じて得た額と、業務災害に係る保険給付及び特別支給金の額との割合により算出される収支率(メリット収支率)によります。
メリット収支率
(当該連続する三保険年度間における業務災害に対して支払われた保険給付及び特別支給金の額)÷(当該連続する三保険年度間における保険料額(非業務災害分を除く)
つまり、払った保険料と、労災事故によりかかった費用を比べるわけです。
効果
収支率の結果により、保険料率が4割の範囲で上下します。
労災の業務起因性と業務遂行性②
業務遂行性とは:
労災の対象となるためには、「仕事中であった」ということを証明できる状態にある必要があります。これを業務遂行性と言いますが、業務遂行性は次のように判断されます。
(a)事業主の支配・管理下にあって業務に従事している場合
この場合、災害は被災労働者の業務としての行為や事業場の施設・設備の管理状況などが原因となって発生するものと考えられますので、他に業務上と認め難い事情がない限り、業務上と認められます。
業務上と認め難い特別な事情としては次のような場合などが考えられます。
・被災労働者が就業中に私用(私的行為)又はいたずら(恣意的行為)をしていて、その行為が原因となって災害が発生した場合
・労働者が故意に災害を発生させた場合
・労働者が個人的なうらみなどにより、第三者から暴行を受けて被災した場合など
(b)事業主の支配・管理下にあるが業務に従事していない場合
出社して事業場施設内にいる限り、労働契約に基づき事業主の施設管理下にあると認められますが、休憩時間や就業前後は実際に仕事をしているわけではないので行為そのものは私的行為であり「業務を遂行している」わけではないです。
この場合、私的な行為によって発生した災害は業務災害とは認められません。
休憩時間に同僚と相撲をとっていて腰を痛めた場合やキャッチボールをしていた時に負傷した場合など。
(c)事業主の支配下にあるが、管理下を離れて業務に従事している場合
出張などの事業場施設外で業務に従事している場合は事業主の管理下を離れているが、労働契約に基づき事業主の命令を受けて仕事をしているわけですから、途中で積極的な私的行為を行うなど特段の事情がない限り、一般的に業務遂行性が認められます。さらに業務起因性についても特にこれを否定すべき事情がない限り、業務災害と認められます。
労災の業務起因性と業務遂行性①
労災保険は仕事中のけがや、仕事が原因の病気が起きた時に必要な補償を行うものですが、詳しくは「業務起因性」と「業務遂行性」があるかどうかで労災補償の対象とするか否かを決めます。
業務遂行性とは:
業務上と認められるためには業務起因性が認められなければならず、その前提条件として業務遂行性が認められなければなりません。この業務遂行性は次のような3つの類型に分けることができます。
(1)事業主の支配・管理下で業務に従事している場合
担当業務、事業主からの特命業務や突発事故に対する緊急業務に従事している場合
担当業務を行ううえで必要な行為、作業中の用便、飲水等の生理的行為や作業中の反射的行為など
(2)事業主の支配・管理下にあるが、業務に従事していない場合
休憩時間に事業場構内で休んでいる場合、事業附属寄宿舎を利用している場合や事業主が通勤専用に提供した交通機関を利用した場合など
休日に構内で遊んでいるよう場合は、事業主の支配・管理下にあると言えません
(3)事業主の支配下にはあるが、管理下を離れて業務に従事している場合
出張や社用での外出、運送、配達、営業などのため事業場の外で仕事をする場合
事業場外の就業場所への往復、食事、用便など事業場外での業務に付随する行為を行う場合など
出張の場合は、私用で寄り道したような場合を除き、用務先へ向かって住居又は事業場を出たときから帰り着くまでの全行程に亘って業務遂行性が認められます。
労働条件の不利益変更
労働条件は会社と社員が対等に合意したものであるため、会社が一方的に条件を不利益に変える行為は制限されます。しかし、経済事情や会社の財務状態、社員の不公平是正などの必要から不利益な変更をしなければならない場合もあるでしょう。どのような場合に不利益変更が認められるのでしょうか。
ポイント:
不利益変更に関するポイントは以下の通りです。
① 労働者の同意を得ずに、労働条件を一方的に不利益に変更することは原則としてできません。
② ただし、労働条件を不利益に変更することについて合理的な理由がある場合には、有効とされることがあります。社員全体に影響する事案の場合、不利益変更が合理的なものであれば、これに同意しない労働者も拘束されます。
合理的とはどういうことか:
「当該規則条項が合理的なものであるとは,当該就業規則の作成又は変更が,その必要性及び内容の両面からみて,それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても,なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものであることをいうと解される。特に,賃金,退職金など労働者にとって重要な権利,労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については,当該条項が,そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において,その効力を生ずるものというべきである。」
このように言われています。
合理的かどうかを判断する方法:
上記の合理性の有無は,具体的には,次の事情等を総合考慮して判断すべきである。
l 労働者が被る不利益の程度
l 使用者側の変更の必要性の内容・程度
l 変更後の就業規則の内容自体の相当性
l 代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況
l 労働組合等との交渉の経緯,他の労働組合又は他の従業員の対応
l 同種事項に関する我が国社会における一般的状況等
社員に損害賠償を請求できるか?
大手コンビニチェーンにおいて、レジの誤算があった時に罰金をとった企業の行為が非難された事件がありました。
社員に対して弁償をさせることは問題なのでしょうか。
ポイント
社員への損害賠償について、ポイントは以下の通りです。
・実際に発生した損害に対して賠償請求をすることは不可能でない
・ただし、労働者が業務の遂行に当たり会社に損害を与えた場合、ワザとである場合を除き、労働者の損害賠償責任は制限されるのが一般的である。
会社と社員は「労働契約」を結んでいる状態です。労働契約においては「給料を払う義務」と「働く義務」を交換している状態ですから、社員が職務の遂行にあたり、必要な注意を怠って労働契約上の義務に違反したような場合、契約違反として損害賠償を請求することはできます。
ただし、事業活動によるリスクはそれにより利益を得ている会社が負うべきであるという理屈もあります。つまり、社員がミスすることも織り込み済みで人を雇いなさい、というわけです。
そこで裁判所では、弱い立場の労働者を守るため、会社から労働者に対する損害賠償請求に制約を加えるという考え方をとっています。実際には、よっぽどの背任行為や、重大な過失があった場合でなければ、弁償をさせることは難しいでしょう。また仮に弁償が認められたとしても全額というわけにはいかない場合がほとんどでしょう。
軽はずみに弁償を求めたりしないよう注意してください。
建設業の労災保険
建設業の労災保険料を決める時には、一般の事業と異なる取り扱いをします。
ルール1:継続一括と単独労災
労災保険における単独有期事業と一括有期事業の違い
建設業の労災は、現場ごとにかかります。マンションAの工事現場と河川B
の土木工事現場は別々に保険料を計算して納付します。
一括有期事業とは、有期事業のうち労災保険料の概算見込額が160万円(または確定保険料100万円)未満で、かつ、請負金額1億9千万円未満のものをいいます。この場合、下記の要件を満たせば、それらの工事を取りまとめて一つの保険関係で処理することができます。つまり、小規模の工事現場を継続的に複数行う場合、労災保険料は年度ごとにまとめて申告することができます。
一方、単独有期事業とは、一括有期事業に該当しない有期事業をいい、工事ごとに工事現場の所在地を管轄する労働基準監督署において保険関係を成立させ、工事終了の都度、保険料の精算を行います。
ルール2:建設工事の労災保険料の計算方法
建設業における労災保険料の計算方法は、一般事業とは異なり、下記の計算式で算出することになっています。
労働保険料=請負金額×労務費率×労災保険率(注1)
労務比率とは、「請負金額の何%が人件費か」という比率です。労災保険料率は、危険度の高い現場ほど高く設定されています。
休職制度は必要か?
休職とは
休職とは、従業員が病気・留学等で仕事ができない場合に、労働契約を「維持したまま」一定期間、勤務を免除する制度です。
この休職制度については多くの企業で規定されていますが、実は労働基準法や労働契約法上、休職制度を設けることは義務付けられていません。休職制度を設けるかどうか、どのくらいの長さの休職を認めるかは、会社の判断で自由に決められます。
休職制度を作るメリットとデメリット
休職制度があるメリットは、社員の安心でしょう。病気になっても雇用が守られることで社員は安心して働くことができるでしょう。
一方で、休職期間中、会社は社会保険料を負担し続けないといけませんし、周りの従業員が抜けた従業員の仕事のフォローをしなければならないため負担が増えることはデメリットかもしれません。
休職制度がない会社で病気になった時
休職制度がない会社で社員が病欠する場合、①有給休暇を使う②欠勤として取り扱う③働けないから解雇となるなどの選択肢があります。病気だからすぐに解雇するのは無慈悲に思いますが、「労務を提供することができない=労働契約に定めた債務不履行の状態」ですから、契約解除の理由になります。
ただし、解雇をするとなると解雇の予告も必要ですし、解雇の合理性を巡ってモメる可能性もあります。休職制度は、一定期間、解雇を猶予する制度と考えることができます。一方、解雇のトラブルを防止できるという大きなメリットがありますので、数ヶ月なら乗り切れるという会社であれば、休職制度を設けることを検討することに意味はあると思います。
算定基礎届・年金事務所の調査
社会保険の算定基礎届を毎年7月10日までに提出しますが、書類の提出だけでなく補助書類を持って年金事務所に行かなければならない場合があります。これを「定時決定時の調査」と言います。
調査の目的
調査の目的は大きくわけで2つです。
① 社会保険に入るべき人が入っているか
② 社会保険の等級は実態とあっているか
③ 月変漏れはないか
社会保険関係の書類は事業主が書いた通りに登録されるため、不正に、あるいは勘違いにより正しく手続きをしていないかを確認し、間違っている場合は是正をすることを目的にしています。
調査の背景
年金事務所はこれまでも事業所をランダムに選んで調査を実施してきました。「適正な手続きができているか」を確認するのが狙いでしたが、アトランダムに実施するとなると調査から外れる企業も多く、不正や怠慢を防ぐ「抑止」効果が見込みにくいということで、3年ほど前から、どの事業所も4、5年に1回は必ず調査対象となる現在の呼び出し調査を実施することになりました。この調査は、毎年行われる算定基礎届の提出時期に合わせて実施されます(注)。
注: 管轄する事業所が多い年金事務所の場合は、算定基礎届の提出期限である7月10日を過ぎても(7月いっぱいくらいまで)、調査を実施していることがあります。
調査対象となったときに持参するもの
調査で求められるものは、おおよそ次の7、8種類です。
1. 算定基礎届
2. 厚生年金保険70歳以上被用者.算定基礎届(対象者がいる場合)
3. 算定基礎届総括表
4. 算定基礎届総括表附表(雇用に関する調査票)
5. 賃金台帳、出勤簿(タイムカード)
6. 源泉所得税領収証書
7. 提出済の適用関係諸届(注)
8. 事業主印
固定残業制度
残業についての社会的な関心もあり、最近は特に「定額残業制度」についての整備は必要な場合が多いでしょう。
「月額の給与に残業代も含んでいる」と言えるようにするためにはどのような要件があるでしょうか。
要件1
就業規則に固定残業制度について規定されていること
まずは会社のルールブックである就業規則(賃金規程)に固定残業制度が規定されている必要があります。その際、「定額残業で定める時間数を超えて残業した場合は差額を支給する」という文言も必要です。
要件2
雇用契約書にも記載されてあること
就業規則が会社全体の約束事であることに対し、雇用契約書は個別の労働者と労働条件について合意している証拠です。その雇用契約書に「定額残業代部分が、それ以外の賃金と、明確に区分されていること」「定額残業代部分には、何時間分の残業代が含まれているのかが、明確に定められていること」が必要です。
要件3
時間外労働(残業)時間が、要件2で定めた時間を超えた場合は、別途割増賃金の支払うこと
固定残業制度=残業管理をしなくて良い訳ではなく、毎月差額が発生するか否かをチェックしている実態が必要です。
要件4
給与明細でも基本給と固定残業手当が分離して表記してあること
社員の手元に届く給与明細でも分離して表記してなければなりません。就業規則だけでは不十分です。
過労死と会社の責任
過労死に限ったことではありませんが、労働者の健康に対する注意を怠った場合、損害賠償の支払い義務が生じることがあります。なぜなら、会社は労働者の生命や体を危険から保護するよう配慮する義務を負っているためです。
過労死とは
過重労働などが原因で脳梗塞や、心筋梗塞などを起こして死亡に至ることを言います。過労死の認定基準は平成7年に設けられ、平成13年に改正がなされています。
具体的な認定基準は、以下の通りです。
(1)発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的および場所的に明確にしうる異常な出来事に遭遇したこと
(2)発症前おおむね1週間で特に過重な業務に就労したこと
(3)発症前おおむね6ヵ月にわたり著しい疲労蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと
また、(3)については
・発症前1ヵ月ないし6ヵ月にわたり概ね45時間を超える時間外労働がある場合は業務と発症との関連性が強まる
・発症前1ヵ月間に概ね100時間を超える時間外労働が認められる場合、発症前2ヵ月ないし6ヵ月間にわたり1ヵ月あたり概ね80時間を超える時間外労働が認められる場合は業務と発症との関連性が強い
等の目安が示されています。
会社の責任
社員の死亡が過労死とされ業務上災害と認められた場合、会社が「過労死の防止措置」をとっていたかが問題となります。 会社は、法で定められた健康診断を行わなければなりません。異常が発見された場合は再検査を行わせたり、業務量を減らしたりなど、社員の健康状態に注意を払う必要があります。
もし、健康診断を適法に受診させていない場合や異常発見の場合に何の措置も講じていなければ、遺族から損害賠償を請求された場合、拒むことが難しくなります。
健康上の異常が発見されない場合でも、長時間労働が慢性化している場合は注意が必要です。業務の省力化など、できる限りの対策を講じましょう。
資金繰りとキャッシュフロー計算書の目的
CFMGで取り扱う資金繰りとCF計算書。これらはどちらもキャッシュというものに焦点を当てていますが、それぞれの目的は異なります。
資金繰りとはキャッシュの出と入を把握して資金ショートを起こさないように管理すること。つまり目的はキャッシュの維持であり、経営者が第一に考えるべき課題です。
一方、CF計算書はキャッシュの動きを営業・投資・財務の3つに分類して、その会社のキャッシュの使い方からその会社の状態を知ることが目的です。これはむしろ金融機関や投資家が考えるべき課題です。
CFMGセミナーでは、資金繰り計画書を作成して資金をショートさせない範囲でできるだけ利益と長期的キャッシュの増大を図る計画を立てます。ここでは、CF計算書のようにキャッシュの分類をする必要はありません(CF計算書の見方については講義があります)。大事なのはトータルでキャッシュがうまく回るようにすることです。
経営者は企業の実態を知っている立場ですから、わざわざ過去のCF計算書から分析する必要はありません。むしろ未来の資金繰りを考えることの方が重要です。
資金繰りに失敗した会社は「信用」という無形財産を失うことになります。
経営というゲームからの退場、つまりゲームオーバーを言い渡されることになります。
今年のCFMGセミナーは7月と9月と11月に開催を予定しております。最低一回は通常版のMGセミナーを受講していることが参加条件となっておりますので、未経験の方は通常のMGセミナーのスケジュールもご確認の上、ご検討ください。
仕事の後の飲み会は残業扱いになるか
年末年始が近づき、忘年会や新年会の開催時期がやってきました。社内コミュニケーションを円滑にするためにも、全ての従業員には出席してもらいたいという願望が会社としてはあると思います。
ただし、参加者の集め方によっては、飲み会の時間が残業時間とされ残業代の支払が生じる可能性があるので注意が必要です。
会社命令の有無
残業時間か否かの判断は、飲み会の席に「行かなければならない」状況であったかが大きなポイントになります。上司から命令を明確に受けた場合であれば労働時間となるでしょう。同様に、強制はされていないが実質的には強制的であった場合も労働時間となる可能性が高いと言えます。
なぜなら、社員は労働契約によって会社の指示・命令に従い労務を提供する義務を負っていますが、契約時間の範囲を超えて拘束することはできないためです。
会社が業務の範囲を超えて指示・命令をするのであれば、必然的に労務の対価としての賃金を支払う義務も負うことになります。
残業代よりも労災が争点になる
この種類の事案では「残業代」ではなく「労災」を巡って争うことの方が多いでしょう。
労働時間であると判断された場合、その飲み会でケガをした場合労災として認められます。ただし、二次会、三次会と続いて、帰りに酔っぱらって転んでケガをした場合など、「もはや労働時間とは言えない段階でのケガ」であれば、労災対象にならないこともあります。
ちなみに、酒席に女性を意図的に同席させ、お酌をさせるなどの行為はセクハラやパワハラという別の問題が出てきますので注意が必要です。
年金事務所の調査のポイント
年金事務所から会社宛てに、社会保険調査の為の呼び出しがかかることがあります。
社会保険調査とは
年金事務所が会社に対して社会保険料を適切に納めているかを確認する調査です。加入漏れや給与変更に伴う保険料変更手続きのし忘れなどの不適切な処理を発見し、正しい保険料を徴収するために行われます。
調査で確認される主なポイントは①加入漏れと②報酬金額です。
①加入漏れの確認
まず、タイムカードから出勤状況がチェックされます。社会保険の加入基準は正社員の4分の3以上ですので、基準を超えて働いているパートがいないかチェックされます。一般に正社員は法定労働時間上限の「週40時間労働」のことが多く、この4分の3である「週30時間以上」働いている形跡がある場合、加入漏れの可能性を指摘されるでしょう。
②報酬金額の適性の確認
報酬金額が正しく届出されているかも要チェックです。例えば給与額が30万円でありながら社会保険の標準報酬月額が20万円であるなら、その10万円の差額は指摘を受けるでしょう。
未加入者が発見された場合、過去に遡って保険料負担が発生することがあります。保険料は本来、会社と社員が折半するものですが、会社の不手際で未加入であった場合、社員から折半の同意を得られるかはわかりません。
調査で指摘されたことを無視し続けた場合は、最悪財産を差し押さえられることもあります。無視をした以後は立ち入り調査の対象となり、目を付けられることもありますので注意してください。
精神疾患のため休みがちな社員への対応
最近では仕事のストレスなどからうつ病になるような事例が多く見られるようになりました。精神的疾患により、職場の人間関係が壊れたり、不定期な欠勤が繰り返されるなどの状況が見られたりする社員への対処法について解説します。
労務不能か否か:
例えば内臓の病気のため入院するのと同じように、精神的疾患も病気です。したがってその対応については、その他の病気と同じように「労務に支障があるものかどうか」を判断して対応します。主治医の診断で長期の自宅療養や入院が必要であれば、就業規則の休職制度による対応をすることとなります(休職制度がない場合は、欠勤として取り扱いながら主治医の診断書を基にして必要な対応を検討します)。
病気により労務不能であるかどうかは医学的に確認したいところですが、主治医の診断書の内容について、会社から本人を飛び終えて問い合わせることはやめたほうが良いでしょう。本人の同意を得た上で、診断書の内容について問い合わせをし、場合によっては面談(三者面談が望ましい)により確認を取った上で、今後の対応を検討することが望まれます。
本人や周囲の関係者との話し合い:
対応についてはまず、本人と状況について話し合いができるかを検討しましょう。本人との話し合いが困難な場合は、身元保証人、配偶者、両親などを交えて話し合いを行います。
社員は健全に労務を提供する義務がある:
労働契約とは、会社が賃金を支払う代わりに労働者が「健全な状態で労働力を提供する」契約ですから、私傷病により労務が提供できない労働者は債務不履行の状態にあるということができます。会社は当人が健全な労務提供ができる状態であるか否かを判断し、無理であれば「休むことに専念して回復しなさい」と休職を命ずる立場であることに注意しましょう。