GOLGOのひとりごと
【雇用の入り口と出口】記事一覧
- 2022.11.30
- 外国人が帰国した際の年金はどうなる?
- 2021.11.30
- 新型コロナウイルスの影響によるシフト減少で離職した場合の求職者給付
- 2021.10.18
- うつ病による通院歴を隠して入社する行為は履歴詐称か
- 2021.09.20
- 64歳と65歳の失業保険の違いは?
- 2021.03.19
- 士業事務所の社会保険の適用要件が変わります
- 2021.03.08
- 自己都合退職の場合の給付制限期間の短縮
- 2021.02.12
- 離職票の発行義務について
- 2020.12.24
- 整理解雇の4要件を知ってますか?
- 2020.12.17
- ワーキングホリデーで滞在する外国人の保険加入
- 2020.11.12
- 業務上のミスで発生した損害を折半することを約束した労働条件は無効か
- 2020.10.05
- 雇用契約と業務委託契約
- 2020.05.12
- 外国人を雇用する際の注意点
- 2020.03.31
- 試用期間の延長はできるか
- 2020.02.10
- 転籍は拒否できるか
- 2020.01.27
- 雇用保険の手続き終了後に誤りがあった場合の対処法
- 2019.10.07
- 解雇とは?
- 2019.08.19
- 連絡の取れない無断欠勤中の従業員への対応
- 2019.06.02
- 経歴詐称と内定取り消し
- 2019.04.15
- 試用期間中の社会保険
- 2019.01.31
- 社員を雇った時の書類
- 2018.11.30
- 失業時の給付が手厚くなる条件
- 2018.09.24
- 雇用保険の再就職手当
- 2018.05.07
- 競業避止
- 2018.04.23
- 退職金を減額したい
- 2018.04.09
- 社会保険の資格取得日と喪失日
- 2018.03.05
- 定年後再雇用、有給休暇の扱い
- 2017.09.23
- 能力不足の社員を辞めさせることはできるか?
- 2017.09.04
- 退職勧奨と解雇は同じではない件
- 2017.01.17
- 試用期間に問題社員を解雇する場合
- 2016.12.20
- 解雇の撤回
- 2016.10.24
- 入社してすぐに辞めた社員の離職票
- 2016.07.20
- 入社時に提出させるべき書類
- 2016.05.18
- 解雇予告手当とは?
- 2016.05.04
- 無断欠勤の社員は解雇できるか?
- 2016.04.23
- 経歴詐称の社員を解雇できるか
- 2016.02.09
- 自己都合退職の撤回
- 2015.12.29
- 行方不明になった社員を解雇にできるか
- 2015.11.12
- 「業務委託」と「雇用」の違い
- 2015.08.02
- 会社が負担した外部研修費用の返還請求
- 2015.07.11
- 整理解雇の対象者は会社が選べるか
- 2015.03.31
- 有期契約労働者の雇止め
- 2015.03.17
- 退職の申し出は撤回できる?
- 2014.12.25
- 解雇の有効・無効
- 2014.11.20
- 出向は同意が必要?
- 2014.10.29
- 転勤拒否した従業員を解雇できるか?
- 2014.10.24
- 引き継ぎ不十分の社員に退職金を払わなければならないのか?
- 2014.08.25
- 契約社員の契約満了時の注意
- 2014.08.20
- 試用期間中に解雇する場合の注意
- 2014.07.20
- 契約社員に辞めてもらう際の注意点
- 2014.06.15
- 退職社員と守秘義務
- 2014.05.09
- 解雇にもいろいろある
- 2014.03.20
- 社員が行方不明になったら?
- 2013.12.27
- よく似た言葉:退職願と退職届
- 2013.11.23
- 仕事を覚えるまでの賃金を低く設定してもよいか
- 2013.11.18
- 「退職証明書」の話
- 2013.11.09
- 賃金や労働時間などの労働条件は口頭の説明だけでよいか?
- 2013.11.02
- 試用期間と契約期間
- 2013.10.28
- 求人募集の注意点
- 2013.10.01
- 職種によって定年年齢を変えても良いか?
- 2013.09.21
- 社内不倫を理由に解雇できるか?
- 2013.08.14
- 労働者からの退職申し出期間
- 2013.08.05
- 社員は転勤命令を拒否できるか?
- 2013.07.05
- 内定取り消しはできる?
- 2013.06.30
- 試用期間の延長はできるか?
- 2013.06.25
- 退職願の撤回はできるか?
- 2013.06.15
- 退職社員への賞与は必要か?
- 2013.05.30
- 妊娠・出産を機に解雇してもよいか
- 2013.05.10
- 広告と異なる条件での労働契約
- 2013.05.05
- 試用期間の話
- 2013.02.25
- 健康保険の任意継続制度
- 2013.02.15
- 問題社員の解雇②
- 2013.02.09
- 問題社員の解雇①
- 2012.08.30
- 私生活上の犯罪・非行に対する解雇は有効かどうか?
- 2012.08.19
- 整理解雇の4要件
- 2012.08.15
- 解雇の話②
- 2012.08.10
- 解雇の話①
- 2012.07.25
- トラブルを予防する雇用契約書の書き方のコツ② (試用期間)
- 2012.07.19
- トラブルを予防する雇用契約書の書き方のコツ① (転勤)
外国人が帰国した際の年金はどうなる?
社会保険適用に国籍要件はないため、外国人であっても日本の法人で働く人には社会保険(健康保険・厚生年金)が適用されます。しかしながら、数年だけ日本で働いて自国に帰国する外国人にとっては年金の受給資格を得る前に帰国することになるため、掛け捨てとなる問題が出てきます。
脱退一時金とは、日本国籍を有しない方が、国民年金、厚生年金保険(共済組合等を含む)の被保険者(組合員等)資格を喪失して日本を出国した場合、日本に住所を有しなくなった日から2年以内に脱退一時金を請求することができます。
支給要件
1、国民年金
国民年金の脱退一時金の支給要件は以下のとおりです。
・日本国籍を有していない
・公的年金制度(厚生年金保険または国民年金)の被保険者でない
・保険料納付済期間等の月数の合計(※)が6月以上ある(国民年金に加入していても、保険料が未納となっている期間は要件に該当しません。)
・老齢年金の受給資格期間(厚生年金保険加入期間等を合算して10年間)を満たしていない
・障害基礎年金などの年金を受ける権利を有したことがない
・日本国内に住所を有していない
・最後に公的年金制度の被保険者資格を喪失した日から2年以上経過していない(資格喪失日に日本国内に住所を有していた場合は、同日後に初めて、日本国内に住所を有しなくなった日から2年以上経過していない)
脱退一時金の計算式
(①最後に保険料を納付した月が属する年度の保険料額)×2分の1×(③支給額計算に用いる数)
つまり、最大で掛けた額の半額程度が脱退一時金として支給されることになります。なお、③については最低6から最高60(5年分)となります※。
※2021年(令和3年)4月より(同年4月以降に年金の加入期間がある場合)、月数の上限は現行の36月(3年)から60月(5年)に引き上げられました。
新型コロナウイルスの影響によるシフト減少で離職した場合の求職者給付
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、シフト制で働く労働者が、通常時なら入れるはずのシフトを削られてしまい収入が減ってしまう事態が発生しております。これに対して、各種支援金や、給付金がありますが、雇用保険の求職者給付でも特例の取り扱いがされます。
具体的には、以下のようになります。
1、労働契約に具体的な就労日数等の定めがある場合
シフト制労働者で、例えば以下に該当する方は「特定理由離職者」または「特定受給資格者」として認められる場合があります。
・具体的な就労日数が労働条件として明示されている一方で、シフトを減らされた場合
・契約更新時に従前の労働条件からシフトを減らした労働条件を提示されたため、更新を希望せずに離職した場合
2、1以外でシフト減少により週の労働時間が20時間を下回ることとなる場合
令和3年3月31日以降に、以下の理由により離職した方は「特定理由離職者」として、雇用保険求職者給付の給付制限を受けないこととしました
・シフト制労働者のうち、新型コロナウイルス感染症の影響により、シフトが減少し(労働者が希望した場合は除く)、概ね1か月以上の期間、労働時間が週20時間を下回った、または下回ることが明らかになったことにより離職した場合
今回の取り扱いに該当し、「特定理由離職者」あるいは「特定受給資格者」として認定されれば、失業保険受給時の給付制限がなくなる等のメリットがあります。退職者本人に限らず、労務担当者も抑えておいた方がよい情報でしょう。
うつ病による通院歴を隠して入社する行為は履歴詐称か
基本的なポイント
就業規則などの定めにもよりますが、重大な経歴詐称は解雇理由となり得ます。例えば業務に関連する資格を実は持っていない場合などは、想定していた仕事を任せることができないため解雇もやむを得ないでしょう。ただし逆に言うと、経歴詐称したとしても実際の業務に支障ない場合は、それによって会社に不利益が生じていないため解雇は難しくなります。
精神疾患歴は「重要な経歴」となるか
精神疾患歴を偽ったことが問題となった過去の裁判では、精神疾患歴を隠して入社し、後日、そのことが判明した場合でも精神疾患が軽度であり、労働能力の判定に及ぼす影響が少ないようならば仕事に影響が無い、と判断され解雇無効とされた例があります。
精神疾患の通院歴を隠したことが「詐称」となるか
また、そもそも精神疾患の通院歴について「尋ねられなかった場合は答えない」こともあるでしょう。これが意図的に通院歴を隠したと言えるかどうかもポイントでしょう。
診断書を求めたり、ストレートに病歴を尋ねたりすることが憚られる場合は、任意の「病歴申立書」のようなアンケートを採用選考時の資料としてもらうと良いでしょう。その申立書に「精神疾患の経験があるかないか」を尋ねることで、確認をしたことを客観的に記録できます。
なお、病歴申立書をもらうことは、健康状態が採用の合否を決める重要な要素であるため問題はありません(常識はずれのプライベートな質問だと問題になるかもしれません)。
もっとも、選考の段階では雇用していないので、申立書の提出は任意としたほうがよいかもしれません。申立書提出を拒否された場合は口頭で「仕事内容は〇〇で、職場環境は◯◯ですが、あなたの健康上配慮すべきことや気になることはありますか?」と尋ねたりしても良いでしょう。
平和的解決が望ましい
上記のことを踏まえた上で、実際に入社後に精神疾患の罹患歴が判明した場合、それが仕事に影響がどの程度あるか、配置転換などの配慮をすることができるか、などを総合的に考えた上で対処方法を平和的話し合いのもとで決めていくことが望ましいでしょう。
64歳と65歳の失業保険の違いは?
老齢厚生年金の支給開始年齢が引き上げられていることに伴い、60歳以降の高齢者就労場所の確保は引き続き社会的な課題となっています。60歳以降も、週20時間以上で働いている限り雇用保険(いわゆる失業保険)には加入継続しますが、辞めるタイミングによって失業保険給付の内容が異なることに注意が必要です。
64歳までに退職する場合
64歳までに退職する場合は「基本手当」という失業保険が支給されます。基本手当は、雇用保険をかけていた期間により、基本手当の支給が基本手当日額の90日分(被保険者期間10年未満)、120日分(被保険者期間1年以上20年未満)、150日分(被保険者期間20年以上)と変わります。雇用保険の加入期間が長いほど給付日数が多くなります。
65歳以降に退職する場合
一方で、65歳以降に退職した場合、基本手当でなく「高年齢求職者給付金」という失業給付がなされます。「高年齢求職者給付金」は、雇用保険をかけていた期間により、30日分の一時金(被保険者期間1年未満)か50日分の一時金(被保険者期間1年以上)となります。
両者を比較すると、同じ「失業者」でも給付日数に差があることがわかります。
64歳までに退職して失業保険をもらった方がいいか?
失業保険だけを見ると64歳までに退職した方が得に見えますが、「会社からの給与」「老齢厚生年金」「退職金」などその他の金銭にも影響するため一概に得とは言い切れません。
例えば早めに退職することでもらえる給与は少なくなりますし、64歳未満の基本手当を受給している間老齢厚生年金が支給停止になるという制度もあります。また、在籍年数が退職金に影響することもあるでしょう。退職時期がある程度コントロールできる場合、これらを多方面から考えてベストなタイミングを決めていくと良いでしょう。
士業事務所の社会保険の適用要件が変わります
厚生年金保険法の一部改正(令和2年6月5日法律第40号〔第4条〕 令和4年10月1日から施行)について説明します。
1、厚生年金保険の適用拡大
⑴弁護士、公認会計士その他政令で定める者が法令の規定に基づき行うこととされている法律又は会計に係る業務を行う事業の事業所又は事務所であって、常時五人以上の従業員を使用するものについて、厚生年金保険の適用事業所とすることとした。(第六条第一項第一号レ関係)
→今までは弁護士や税理士、社労士、司法書士、行政書士、公認会計士などの個人事務所は加入対象者が5人いても適用除外となっていましたが、今回の改正により適用事業所となることになります。
2、適用要件の変更
⑴事業所に使用される者であって、その一週間の所定労働時間又は一月間の所定労働日数が同一の事業所に使用される通常の労働者の所定労働時間又は所定労働日数の4分の3未満である短時間労働者に係る厚生年金保険の適用除外の要件について、当該事業所に継続して1年以上使用されることが見込まれないこととする要件を削ることとした。(第一二条第五号ロ関係)
→雇用契約期間にかかる要件が削除されることにより、今までよりもシンプルに「4分の3要件」で適用を判別することとなります。
⑵二月以内の期間を定めて使用され、当該定めた期間を超えて使用されることが見込まれる者について、厚生年金保険の被保険者とすることとした。(第一二条第一号ロ関係)
→今までは2ヶ月以内の有期雇用契約の場合は適用除外とする定めがありましたが、それが単なる試用期間のようなもので、その後も雇用されることが見込まれる場合は「最初から」適用となる旨変更されます。
自己都合退職の場合の給付制限期間の短縮
かつては、自己都合退職の給付制限は3カ月でしたが、令和2年10月1日以降に退職された方は、正当な理由がない自己都合により退職した場合でも、5年間のうち2回までは給付制限期間が2か月となりました。3回目以降は給付制限3カ月となります。
・給付制限期間とは
雇用保険の加入者が会社を退職した際、一定の要件を満たせば次の仕事を探すまでの間に基本手当(いわゆる失業保険)を受給することができます。この失業保険が受給できるまでには7日間の待期期間があり、加えて退職理由により制限期間が設けられています。この制限期間を給付制限期間と言います。
・退職理由による給付制限期間
退職した時の理由により、給付制限期間は主に以下のように決められています。
(1)正当な理由のない自己都合退職:3か月間→2か月間(今回の改正)
(2)自己の責めに帰すべき重大な理由による退職(懲戒解雇等):3か月間
(3)会社都合の退職、正当な理由のある自己都合退職等:無し
正当な理由のない自己都合退職とは、正当な理由のある自己都合退職(例えば、疾病・心身の障害・体力不足・通勤困難な場所への事業所移転等)以外を言います。
退職日を月末に設定する人が多いですので、現実的には10月31日退職者から関係してくるのではないでしょうか。5年のうち2回の縛りはありますが、給付制限期間は短いほうがありがたいですね。
離職票の発行義務について
雇用保険の被保険者が退職した時、退職者から「離職票を発行して欲しい」と頼まれることがあります。これは必ず対応しなければならないものでしょうか。
1、離職票とは
離職票は、会社でなく「ハローワーク」が発行するものです。会社が
・退職日
・退職理由
・生年月日
・退職前の給与額や出勤日数
を離職証明書という書類でハローワークに申請し、帰ってくる書類が離職票です。
2、何に使用するか
離職票には、「退職者がその会社にどのくらいの期間勤めていて、いくら給料をもらっていたか。どんな理由で辞めたか」などが記載されてあります。
その内容によって、基本手当等の給付(いわゆる失業保険など)の内容が決まります。
よって、失業保険をもらわない場合は、離職票を使う場面はあまりありません。
3、発行は原則必要
基本的に離職票の発行は必要です。
ただし、退職者本人が離職票の交付を希望しない時は発行しなくても大丈夫ですが、59歳以上の被保険者が離職した場合は必ず発行しなければなりません。また、退職時には不要と言った社員が後日離職票を求めてくるケースもありますので会社としては全員に対して発行するものとしておくほうがいいでしょう。
4、離職票のその他の使い道
離職票は、その他国民健康保険や国民年金の免除手続きに必要なことがあります。つまり、「失業をしてお金の余裕がないから保険の免除を受けたい」と申請する際の証拠書類になったりします。
整理解雇の4要件を知ってますか?
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、
1、人員整理の必要性
2、解雇回避努力義務の実行度合い
3、被解雇者選定の合理性
4、説明責任・手続の妥当性
ワーキングホリデーで滞在する外国人の保険加入
ワーキングホリデーの外国人を雇い入れる場合の保険手続きについてはどのように考えればいいのでしょうか?
雇用保険について
ワーキングホリデーで入国した場合、来日目的が「就労」ではなく、「休暇」になります。「休暇」であるため、雇用期間や労働時間等に関わらず、雇用保険の適用除外となります。ただし、その際でも外国人雇用届出書の提出は必要となりますので、ご注意ください。
社会保険について
一方、社会保険の場合、通常通り、他の従業員同様、一定の要件を充足した場合には原則的には社会保険の加入義務が生じてきます。
ただし、例外的に、外国人労働者の国籍の国と日本との間で社会保障協定が締結されている場合、日本の社会保障制度への加入が免除される場合があります。
※社会保障協定とは、「保険料の二重負担」(二重加入の防止)および「年金加入期間の通算」を目的とした協定です。
日本との協定発効済み国は20か国ですが、協定によっては「保険料二重負担防止」のみ締結されている場合もあり確認が必要となります。
また、社会保険に加入し、年金の受給資格を得ないまま、帰国した場合でも完全に掛け捨てとなるわけではございません。
脱退一時金を申請できる場合があります。
脱退一時金については次回ご紹介いたします。
業務上のミスで発生した損害を折半することを約束した労働条件は無効か
【損害賠償を予め明示することについて】
労働基準法16条によれば、会社は労働契約の不履行について違約金もしくは、損害賠償額を実害の有無にかかわらず一定金額を定めることを禁止しています。
5割と一津に定めてしまうと、16条に抵触する恐れが非常に高いといえるでしょう。
もっとも、現実に損害が発生した場合について、損害賠償を従業員にさせること自体を禁止しているわけではありません。
したがって、労働者に入社の際、業務上のミスによっては損害賠償を求める場合があることを伝えた場合にただちに違法とはなりません。(就業規則等にも定めておきましょう)
※折半することを決定事項とせず、あくまでも「損害賠償を請求する場合がある」にとどめておくことが重要です。
【損害賠償の程度】
実損害額を労働者に負担させることがただちに違法ではないことは上述の通りですが、その賠償責任の程度には留意が必要です。
民法の基本理念において「損害の公平な分担」が挙げられますが、その観点からしますと、労働者の業務遂行時に発生することが予測されるようなミス、気を付けていても防げないようなミス、労働環境に起因するようなミス等での損害の場合は、「会社が負担すべき損害」と認められる場合がございます。
仮に労働者に大きな過失が認められたとしても、全額負担は難しいでしょう。過去におきましても4分の1を限度として示した判例もでております。
実際の運用についても、安易に損害額を決定せず、都度、労働者の過失の割合を吟味したうえで慎重に決するべきであり、予め労働条件として組み込むことはしないようにしましょう。
雇用契約と業務委託契約
先日、健康機器メーカーのタニタが、働き方改革の一環として雇用契約から業務委託契約への移行制度を導入している事がニュースで取り上げられました。雇用契約と業務委託契約では具体的にどのように違ってくるのでしょうか。
雇用契約とは
労働の対価として報酬を与える契約のことを言います。雇用契約を結んだ場合には労働基準法(労働者保護の法律)が適用され、労働時間の管理や、残業した場合は残業代等の支払いが必要になります。また、働く時間によっては雇用保険や社会保険に加入させなければなりません。
業務委託契約とは
仕事の処理を約束することの対価として報酬を与える契約を言います。取引業者のひとつとなるため、労働基準法は適用されず、残業代等の支払いが不要となります。また、雇用保険や社会保険の加入も不要です。
ただし、実態としてどのような取り扱いがされているかが重要で、主に以下項目に該当するならば業務委託契約と判断され、該当しないならば雇用契約と判断される可能性が高いです。
・仕事の依頼を拒否できる
・勤務場所や勤務時間が指定されていない
・仕事の成果に対して報酬が支払われている(労働時間に対してではない)
・業務に使用する器具の費用負担をしている
・源泉徴収をされていない
等
企業側から見れば、業務委託契約にすることによって経済的なメリットが大きいと言えます。また、労働者側から見れば、労働時間に縛られるよりも、成果報酬型の方が時間に自由度があり魅力的に見えるかもしれません。業務委託契約を導入する場合は、運用に十分注意しましょう。
外国人を雇用する際の注意点
近年、外国人労働者を街中で目にする機会が増え、都内のコンビニでは必ずと言ってよいほど見かけます。外国人労働者が日本で働くためには在留資格が必要ですが、今年の4月より新たな在留資格である「特定技能」が創設されたこともあり、今後も人数が増えていくと予想されます。雇用する際の注意点について見ていきましょう。
・まずは在留資格の確認を
事業主は、在留カード等により、日本での就労が認められる在留資格であるか確認をする必要があります。認められているのは、主に、技術・人文知識・国際業務・企業内転勤・技能等です。中華料理屋等のコックは技能にあたります。また、永住者や日本人の配偶者等は就労活動に制限がありません。留学や家族滞在は原則として就労が認められませんが、資格外活動許可を得ることで週28時間までの就労が認められています。
・外国人雇用状況の届出
在留資格の確認がとれ、雇入れた際は、外国人雇用状況届出書を管轄のハローワークに届出しなければなりません。届出をするタイミングは雇い入れ時と離職時です。届出を怠ると30万円以下の罰金が科されます。
・雇用保険や社会保険について
雇用保険や社会保険は、日本人と同じように、一定の要件を満たす場合には加入させる必要があります。外国人だからと言って取扱いに違いはありません。簡単に、週20時間以上の労働なら雇用保険加入、週30時間以上の労働なら社会保険の加入が必要です。また、雇用保険加入時には在留資格等の情報を記載する必要があります。
その他、雇入れ時には労働条件通知書の発行を忘れないようにしましょう。その際、日本ならではのルールもあると思いますので、丁寧に説明してあげたほうがいでしょう。日本語の文字理解が難しい場合は、外国語での各書類作成も検討のうえ、事後のトラブルに発展しないよう注意が必要です。
試用期間の延長はできるか
多くの企業で採用の際、試用期間を設けているかと思います。期間の長さについて法的な制限等は特にありませんが、一般的には1ヶ月~6ヶ月程度として設けられており、最長でも1年限度と解釈されております。
試用期間それ自体は企業が独自に設定するものと考えられますが、仮に採用した人材の適正が判断しづらい場合、企業は試用期間を延長できるのでしょうか?
結論としましては、試用期間の延長は違法ではないが非常にハードルが高いものと言えるでしょう。
試用期間の延長が認められる要件は以下の通りです。
① 試用期間の延長について就業規則等に予め規定されていること
② 本人に採用時に予め延長について通知および合意を得ること
③ 試用期間を延長するに合理的な理由が存在すること
特に注意が必要であるのが、③合理的な理由があることです。
そもそも試用期間を設ける目的とは、労働者の適性を評価・判断するものであると解されます。試用期間中の労働者は通常よりも不安定な地位に置かれることから、適性を判断するのに度を越えた長期に試用期間に関しての基準は必然的に厳しいものとなってきます。そこで、試用期間の延長が認められる為には、そもそも合理的な正当事由が必要になります。
具体的には、欠勤日数が多い場合、試用期間中に業務違反や規律違反に当たるような行為をした場合、勤務成績が著しく悪く、注意・指導しても一向に改善されない場合には合理的な理由と認められるケースがあります。
ポイントとしましては
① 適性判断をするのに不十分と認められるかどうか
⇒欠勤期間が多く物理的に不十分といえるかどうか、即時不適格と断定できないとしても、適性に疑問があり適性判断に更に時間を要することが必要と認められるかどうか
② 既に不適格と認められていても本人の反省をみたいかどうか
⇒規律違反をした場合等、恩恵的に試用期間を延長する場合等
上記基準によって合理的理由と認められるかどうか検討する必要がありそうです。
転籍は拒否できるか
転籍は拒否できるか?
子会社に転籍をさせたい従業員がいた場合、会社は無条件に社員に対し、転籍命令を出せるでしょうか? 従業員が拒否した場合にはどうなるでしょうか?
転籍とは、従来雇用関係のあった会社との労働契約を終了し、新たなに別の会社と労働契約を結びなおすことが同時に行われることを言います。
【転籍は本人の同意が必要】
「転籍」を命じる場合、法律上は労働者の同意(承諾)なくして別の会社の指揮命令下のもとで働かせることは出来ない、とされています。(根拠:民法625条)
就業規則、労働契約等で「転籍」に関する規定があったとしても、本人の個別の同意がない限り転籍をさせることが出来ないというのが、裁判所の見解です。
転籍には労働者個別の同意が必要、というのが大原則となります。
これはあくまでも、転籍は移転先との労働契約の成立を前提とするため、元の会社が規則等により定めていても、労働者は元の会社の規則で制限することは出来ず、元の会社規則等を根拠に転籍を命じることができない、という理論になります。
・労働者本人の同意が得られない場合は?
上記はあくまでも原則論になります。原則としては個別の同意が必要となりますが、以下の条件を満たす場合には個別の同意を必要としない、とされています。
① 親会社の入社案内に子会社が勤務地の1つして明示され、
② 採用面接時に転籍があり得る旨の説明、労働者がそれに同意、
③ 更に転籍によって労働条件が不利益にならず
④ 転籍といっても、実質的には親会社の一部門として扱われており、永年転籍も配転と同様に扱われてきた
上記要件を全て満たす場合には、個別の同意なく、転籍を命ずることが出来ると過去に認められた判例があります。
グループ会社であり、グループ内における雇用調整のための転籍が慣習的に定着している場合には、例外的に認められるケース場合があります。
ただし、この場合でも、転籍後の労働条件の保障は特に重要な要素となりますので、注意が必要です。
・まとめ
「転籍」を命令する場合、原則としては労働者の同意が必要不可欠です。同意が得られないまま、勝手に転籍をさせることは出来ません。
例外的に同意を必要としない場合もありますが、認められる余地は非常に小さいです。
実際に「転籍」命令の同意を得られなかった場合には、従業員との労働条件の擦り合わせをし、同意をもらう方向性に話し合いをする、もしくは出向や配転など別形態での人事異動を模索することになるでしょう。
雇用保険の手続き終了後に誤りがあった場合の対処法
雇用保険資格取得手続きを終えた後に、届出内容に誤りがあったと気づいた場合、「雇用保険被保険者関係諸届 訂正・取消 願」という申請書に客観的証拠(正しい内容が記載されている資料)を添付して訂正をすることになります。
氏名変更届では申請できない
よく誤解しやすいのですが、例えば被保険者の名前のフリガナが誤っていた場合(例:誤:ヤマザキ 正:ヤマサキ)、この場合氏名変更手続きによって訂正をすることはできません。あくまでも氏名が変更するわけではなく、読み方の訂正ですので、訂正願を提出しなくてはなりません。
通常の資格取得・氏名変更手続は電子申請も可能ですが、この訂正願については電子申請が認められておりません。直接管轄のハローワークに提出もしくは郵送による提出が必要となります(郵送手続の場合は通常よりも審査に時間がかります。申請前に管轄のハローワークへの確認をした方がよいでしょう)。
添付する書類について
添付する書類は訂正内容によって、異なります。
・生年月日に誤りがある場合には、保険証、年金手帳や免許証を添付します。
・氏名のフリガナに誤りがある場合、保険証もしくは年金手帳を添付します。
・資格取得日に訂正がある場合、訂正をしたい日付に在籍、加入要件を満たしていることが確認できる出勤簿及び賃金台帳を添付します。
解雇とは?
解雇とは、使用者の一方的な意思表示により労働契約を終了させる事です。
解雇の種類には大まかに下記の3通りがあります。
●普通解雇 ・勤務成績が著しく悪く、指導を行っても改善の見込みがないとき ・健康上の理由で、長期にわたり職場復帰が見込めないとき ・著しく協調性に欠けるため業務に支障を生じさせ、改善の見込みがないとき 労働契約の継続が困難な事情があるときに限られます。
●整理解雇 ・人員削減を行う必要性 ・できる限り解雇を回避するための措置を尽くすこと ・解雇対象者の選定基準が客観的・合理的であること 会社の経営悪化により、人員整理を行う為の解雇で労働組合との協議や労働者への説明を行うとともに、慎重に検討を行う事が重要です。
●懲戒解雇 従業員が極めて悪質な規律違反や非行を行ったときに懲戒処分として行う為の解雇で、就業規則や労働契約書にその要件を具体的に明示しておくことが必要です。 労働契約法第16条では「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定めています また労働基準法上では解雇予告について定められており、少なくとも30日前までにその予告をしなければならなりません。また、予告をしないで即時に解雇しようとする場合には、解雇と同時に平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払う義務があります。解雇しようとする日まで30日間無い場合は解雇予告をした上で30日に不足する日数分の解雇予告手当を支払うことになります。
解雇と勘違いしやすいもののひとつに、退職勧奨というものがあります。
退職勧奨とは、会社側から労働者に対し、退職してもらいないか?ということを打診し、労働者がこれを受諾して退職する場合に、退職勧奨による退職という形になります。
解雇と退職勧奨による退職の違いは、労働者側の合意があるかどうかです。解雇とは、労働者の意思とは関係なく会社側から一方的に雇用契約を解除することを意味します。
この、合意があるかどうか、という点が非常に重要です。ですから、退職勧奨に合意してもらった場合には、必ずそれを書面で確認しておく必要があります。書面が無ければ、そこに合意があったという事実を後から確認しようがないからです。書面が無ければ、労働者側に「合意してない。解雇だ」と言われても証明する術がありません。なら、解雇でいいじゃないかと思われるかもしれませんが、解雇と退職勧奨とでは天と地ほど意味が違うのです。
・雇用保険上の取り扱いはどちらも同じで会社都合による退職として取り扱われる(給付日数の上で労働者に有利)
・解雇の場合は30日分の解雇手当または解雇予告が必要となる(退職勧奨に合意した場合は、即日退社でも解雇手当は発生しない)
・解雇の場合は訴訟を起こされる可能性があり、裁判の結果「客観的に合理的な理由」が無いと判断されれば、解雇が無効となってしまい、裁判に要した期間分も含めて給与を支払わなくてはならなくなる可能性がある
解雇手当は数十万円で済む話ですが、解雇無効となると数百万円以上の損害の可能性があります。やむを得ない場合は別として、安易に解雇を行わず、金銭的な補償を併用してでも退職勧奨に合意してもらう意味はそこにあります。
連絡の取れない無断欠勤中の従業員への対応
無断欠勤には連絡の取れる従業員と連絡の取れない従業員とで大きな違いが生じます。
連絡の取れる従業員へは話し合いさえできればその原因がトラブル(体調不良込)なのか出社拒否なのか寝坊、二日酔いなどのちょっとした素行の悪さなのかが把握できます。
もちろん就業上良い事ではありませんが会社は一安心できるかと思います。
問題なのは連絡が取れない無断欠勤中の従業員です。その期間が続くようで有り、連絡を待つだけとなってしまった場合にはどのように対処していけば良いのでしょうか
1.連絡をした履歴を管理する。(最近ではLINEのような既読通知機能のあるツールが便利とされています)
2.自社の就業規則を確認し無断欠勤への懲戒、解雇条項等を確認しておく。(大体の企業の就業規則では2週間とされています)
3.就業規則に則り「〇月〇日まで連絡もしくは出社の無い場合は、働く意思が無いものとみなし退職の手続きをすすめる」旨の意思表示をメール、LINE、書面等で公示する。
4.期日になっても進展がないようであれば資格喪失手続きを開始する。
◆ポイント
・無断欠勤開始~資格喪失手続きの間に賃金支払い日が来る時は「賃金一定期支払」の法律がある為、給与の支給は行う。
・「解雇」は通知、予告などが本人に到達しないとできないので「働く意思のないもの」とみなし「自然退職」を促す方向ですすめる。
いざというときの為にも緊急連絡先を控えておくのも対策の一つです。
経歴詐称と内定取り消し
1採用内定を自由に取り消せるか
採用内定者と企業は、卒業できないことその他一定の事由による解約権を留保した労働契約(解約権留保付労働契約)を締結していると考えられています。つまり、実際に働いていないが労働契約は結んでいるわけですから、内定取り消しは「解雇」と同様に考えるべきであり、採用内定者との合意がないにもかかわらず自由にその内定を取り消すことはできないと考えるべきでしょう。
2 内定取り消しの根拠
内定取り消しの根拠として「内定者側に原因がある」と言えるのはどのような場合でしょうか。基本的には書面による根拠があると良いでしょう。「採用内定通知」、「誓約書」等に内定取消事由の記載(こういうケースでは内定を取り消す、という旨の自由の列記)があるとき
ただし、採用内定通知、誓約書等に記載されていない理由による場合でも、事情によっては内定を取り消すことができる場合があります。
経歴詐称があった時は、その虚偽の経歴が採用の合否に重大な影響を与えるとみられる場合は内定取り消しができる可能性が高いでしょう。一方で瑣末な経歴の偽りの場合、「内定を取り消すほどではない」という相手側の主張が通ることもあるでしょう。
内定後、勤務開始までの間については、勤務の意思確認も兼ねてしっかりと内定通知書や誓約書などの書面の取り交わしをしておくことがおすすめです。
試用期間中の社会保険
「試用期間中だから社会保険や雇用保険をかけなくて良い」というのは誤解です。
正社員、アルバイト、パートタイマー、契約社員などの呼び名はたくさんありますが、その呼称や給与額に応じて社会保険が適用されるものではありません。
社会保険は「原則は全員被保険者となる、ただし労働時間や労働日数が通常の労働者(常用労働者)と比べて一定以上短い(4分の3未満)場合、または臨時の雇用の場合は対象から外すことができる」という形になっています。
臨時の雇用の場合とは、次の通りです。
・日々雇い入れられる者(1ヶ月を超え、引き続き使用されるに至った場合を除く)
・2ヶ月以内の期間を定めて使用される者(2ヶ月を超え、引き続き使用されるに至った場合を除く)
・事業所又は事務所で所在地が一定しない者に使用される者
・季節的業務に使用される者(継続して4ヶ月を超えて使用されるべき場合を除く)
・ 臨時的事業の事業所に使用される者(継続して6ヶ月を超えて使用されるべき場合を除く) 等
試用期間中は本採用を前提に設けられており、2か月を経過した後に正社員として雇用することを前提にしているのであれば、最初から社会保険に加入することになるのが通常でしょう。
短い場合も対象となる場合
法改正により、勤務時間・勤務日数が、常時雇用者の4分の3未満であっても、以下の①~⑤全ての要件に該当する場合は被保険者になります。
① 週の所定労働時間が 20 時間以上あること
② 雇用期間が 1 年以上見込まれること
③ 賃金の月額が 8.8 万円以上であること
④ 学生でないこと
⑤ 被保険者数が常時 501 人以上の企業に勤めていること
社員を雇った時の書類
近年、働く社員からの権利主張をされる事が多くなりました。「言った 言わない」で揉めないように、雇った時に書面を交付してトラブルを予防しましょう。
労働基準法第15条
労働基準法15条によると、会社が労働者を雇用するときは、賃金や労働時間等の労働条件を書面などで明示しなければならないとされています。明示された労働条件が事実と相違する場合、労働者は即時に労働契約を解除することができます。さらに労働条件が違う場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合、使用者は必要な旅費を負担しなければならないと決められています。
内容として、「書面で交付するもの」と「口頭で良いいもの」があります。
書面の交付による明示事項
(1)労働契約の期間
(2)就業の場所・従事する業務の内容
(3)始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務をさせる場合は就業時転換(交替期日あるいは交替順序等)に関する事項
(4)賃金の決定・計算・支払方法、賃金の締切り・支払の時期に関する事項
(5)退職に関する事項(解雇の事由を含む)
中小企業では、特に有給休暇、労働時間、賃金が揉め安い箇所でしょう。
転勤があるかないか、賞与についても気をつけたほうが良さそうです。
口頭の明示でもよい事項
(6)昇給に関する事項
(7)退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払の方法、支払時期に関する事項
(8)臨時に支払われる賃金、賞与などに関する事項
(9)労働者に負担させる食費、作業用品その他に関する事項
(10)安全・衛生に関する事項
(11)職業訓練に関する事項
(12)災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
(13)表彰、制裁に関する事項
(14)休職に関する事項
なお、(1)~(6)は必ず明示しなければならない事項で、(7)~(14)は制度を設ける場合に明示しなければならない事項です。
失業時の給付が手厚くなる条件
雇用保険の被保険者が退職した時、次の職を見つけるまでのつなぎとして「基本手当」、いわゆる失業保険が給付されます。
この基本手当は、失業者の状況によって給付の日数に差がつけられています。別の言い方をすると、手厚い保護が必要な人に対して多くの給付を、そうでない人に少ない給付をするように設計されています。
中でも、辞めた理由が「本人の責任とはいえず保護が必要な」人のことを「特定受給資格者」として手厚い保護をすることになっています。
特定受給資格者の種類は以下の通りです。なお、以下の退職理由でない者に対して事実と違う理由を書いて特定受給資格者とする行為は違法であり、会社がその違法行為に関与した場合は手当の返還やペナルティーの罰金の適用もあり得ます。
「倒産」等により離職した者
(1) 倒産(破産、民事再生、会社更生等の各倒産手続の申立て又は手形取引の停止等) に伴い離職した者
(2) 事業所において大量雇用変動の場合 (1か月に30人以上の離職を予定) の届出が されたため離職した者(※)及び当該事業主に雇用される被保険者の3分の1を超える者が 離職したため離職した者
(3) 事業所の廃止 (事業活動停止後再開の見込みのない場合を含む。)に伴い離職した者
(4) 事業所の移転により、 通勤することが困難となったため離職した者
「解雇」等により離職した者
(1) 解雇 (自己の責めに帰すべき重大な理由による解雇を除く。)により離職した者
(2) 労働契約の締結に際し明示された労働条件が事実と著しく相違したことにより離職した者
(3) 賃金(退職手当を除く。)の額の3分の1を超える額が支払期日までに支払われなかったことにより離職した者
(4) 賃金が、 当該労働者に支払われていた賃金に比べて85%未満に低下した (又は低下することとなった) ため離職した者 (当該労働者が低下の事実について予見し得なかった場合に限る。)
(5) 離職の直前6か月間のうちに[1]いずれか連続する3か月で45時間、[2]いずれか1か月で100時間、又は[3]いずれか連続する2か月以上の期間の時間外労働を平均して1か月で80時間を超える時間外労働が行われたため離職した者。事業主が危険若しくは健康障害の生ずるおそれがある旨を行政機関から指摘されたにもかかわらず、事業所において当該危険若しくは健康障害を防止するために必要な措置を講じなかったため離職した者
(6) 事業主が法令に違反し、妊娠中若しくは出産後の労働者又は子の養育若しくは家族の介護を行う労働者を就業させ、若しくはそれらの者の雇用の継続等を図るための制度の利用を不当に制限したこと又は妊娠したこと、出産したこと若しくはそれらの制度の利用の申出をし、若しくは利用をしたこと等を理由として不利益な取扱いをしたため離職した者
(7) 事業主が労働者の職種転換等に際して、当該労働者の職業生活の継続のために必要な配慮を行って いないため離職した者
(8) 期間の定めのある労働契約の更新により3年以上 引き続き雇用されるに至った場合において当該労働契約が更新されないことと なったことにより離職した者
(9) 期間の定めのある労働契約の締結に際し当該労働契約が更新されることが明示された場合において当該労働契約が更新されないこととなったことにより離職した者(上記(8)に該当する場合を除く。)
(10) 上司、 同僚等からの故意の排斥又は著しい冷遇若しくは嫌がらせを受けたことによって離職した者、事業主が職場におけるセクシュアルハラスメントの事実を把握していながら、雇用管理上の必要な措置を講じなかったことにより離職した者及び事業主が職場における妊娠、出産、育児休業、介護休業等に関する言動により労働者の就業環境が害されている事実を把握していながら、雇用管理上の必要な措置を講じなかったことにより離職した者
(11) 事業主から直接若しくは間接に退職するよう勧奨を受けたことにより離職した者 (従来から恒常的に設けられている 「早期退職優遇制度」 等に応募して離職した場合は、 これに該当しない。)
(12) 事業所において使用者の責めに帰すべき事由により行われた休業が引き続き3か月以上となったことにより離職した者
(13) 事業所の業務が法令に違反したため離職した者
雇用保険の再就職手当
雇用保険に一定期間以上加入していた者がハローワークで失業の認定を受けた時、その人は基本手当、いわゆる「失業保険」を受給する権利があります。
この基本手当は、辞める前の給与を基準に単価が決まり、90日ぶん(離職状況によっては日数が異なる)支給されますが、その権利を使い切る前に再就職した場合に、ご褒美として一時金が支給されます。その一時金を「再就職手当」と言います。
再就職手当は、基本手当の受給資格がある方が安定した職業に就いた場合(雇用保険の被保険者となる場合や、事業主となって、雇用保険の被保険者を雇用する場合など)に基本手当の支給残日数(就職日の前日までの失業の認定を受けた後の残りの日数)が所定給付日数の3分の1以上あり、一定の要件に該当する場合に支給されます。支給額は、所定給付日数の支給残日数×給付率×基本手当日額((注意3) 一定の上限あり)となります。
給付率については以下のとおりとなります。
・基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の2以上の方は、所定給付日数の支給残日数×70%(注意1)×基本手当日額((注意3)一定の上限あり)。
・基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上の方は、所定給付日数の支給残日数×60%(注意2)×基本手当日額((注意3)一定の上限あり)。
タイミングによっては「ハローワークなどを経由した再就職」出ないと対象にならないことがあります。
競業避止
社員が退職後に同業他社に就職したり、独立をしたりすることを防ぐことはできるでしょうか。
退職後一定期間競業行為を行わないように制限する規定を「競業避止規定」と言います。この競業避止の規定はいつも認められる訳でなく、有効とするためにはいくつか基準があります。
在職中
在職中の競業行為は当然制限できます。在職中に会社に不利益を与えるような行為をすることは禁止して当然であるという訳です。
退職後
退職後について競業避止義務を 課すことについては、憲法で定める「職業選択の自由」を侵害し得ること等から、制限的に解されています。
この点、有名な判例(奈 良地判 S45.10.23)があります。
この判例において競業避止義務契約について、「債権者の利益、債務者の不利益及び社会的利害に立って、制限期間、場所的職種的範囲、代償の有無を検討し、合理的範囲において有効」であるとしています。
判例上、競業避止義務契約の有効性を判断する際にポイントとなるのは、以下の点です。
① 守るべき企業の利益があるかどうか、を踏まえつつ、競業避止義務契約の内容が目的に照らして合理的な範囲に留まっているかという観点から、
② 従業員の退職時の地位、
③ 地域的な限定があるか、
④ 競業避止義務の存続期間(制限する長さが適当か)
⑤ 禁止される競業行為の範囲について必要な制限が掛けられているか、
⑥ 代償措置が講じられているか(競業をしない代わりにお金が払われているなど)
退職金を減額したい
人間関係が悪化した結果退職した社員に対して、退職金を減額したい、あるいは支払いたくないという心情は理解できなくもありませんが、法律的には簡単に減額できる訳ではありません。
退職金制度があるにも関わらず、会社が退職金の不支給や減額を行おうというのであれば、予め「不支給条項」や「減額条項」、つまり●●の時には不支給(減額)とするというルールを退職金規定に定めておく必要があります。
簡単に減額してはいけないのは、退職金が「賃金の後払い的な性質」を持っているからです。つまり、長く勤めてもらうことを奨励するために、社員に払うお金の一部をプールしておいて、長く勤めたことと引き換えに退職時に渡すという性格があるため、簡単に減額をすることを許さないという訳です。
ただし、減額が許されない「退職金」は、「退職金規程において制度化されている退職金」のことです。退職金規程がなく、状況によってその都度支払うものは、「恩恵的な給付」という性格が強いでしょう。。
退職金減額の根拠として正しいかどうかの例は以下の通りです。
・円満退職でないときは不支給とする
→恣意的に取り扱いできるので認められないでしょう。
・懲戒解雇された従業員には不支給とする
→合理的で認められやすいでしょう。ただし、懲戒解雇が認められるのは余程の悪事を働いた時に限られるので、一般的な解雇では認められにくいと考えてください。
・懲戒を受けた従業員には減額をする
→程度問題ですが、全く不可能という訳ではありません。就業規則の懲戒規程にしっかり根拠を書いておくと良いでしょう。
社会保険の資格取得日と喪失日
社会保険については、その入社日がいつか、退職日がいつかによって社会保険料のかかり方が違います。以下、社会保険資格と保険料のルールを説明します。
資格の原則
社会保険における資格取得日とは「社会保険の加入要件に該当した日」を指します。会社に入社した日=資格取得日とは限りません。例えば、最初は時間の短いアルバイトとして入社して、のちに社員に登用された場合は、社員登用の日が資格取得日になります。
一方で、資格喪失日は「社会保険の要件に該当しなくなった日」となります。退職であれば「退職日の翌日」ですし、常勤の正社員から時間の短いアルバイトになった場合は、アルバイトに転換した日となるでしょう。
保険料のルール
社会保険料は「暦月単位」で「資格を取得した日の属する月」から「資格喪失日が属する月の『前月』」までかかるというルールがあります。
例えば、4月1日に入社して、6月15日に退職した場合、資格取得日は「4月1日」、資格喪失日は「6月16日(退職日の翌日)」となるため、保険料がかかるのは4月と5月の2ヶ月となります。
※ただし、資格取得日と喪失日が同月にある場合は、一ヶ月分の保険料がかかる例外的取扱いとなります。
資格喪失日のルールを利用した社会保険料節約
社会保険料が「喪失日の属する月はかからない」というルールを利用して、退職日を意図的に「月末の前日」に設定するケースがありますが、この退職月は国民年金や次の健康保険料がかかるため、本人にとって節約となるとは限りません。
定年後再雇用、有給休暇の扱い
労働力人口が減っていること、年金の支給開始年齢が引き上げられていること、高齢者の健康寿命が伸びていることなどから、高齢者雇用はこれからの企業経営にとって注目すべき課題です。
高齢者雇用安定法という法律において、定年後の継続雇用についてのルールを定めていますが、一旦定年になって嘱託として再雇用した場合、有給休暇を与える上での勤続年数はどのようにカウントすれば良いでしょうか。
年次有給休暇を付与することが必要となるための要件のひとつとして、労基法第39条では「6ヶ月以上継続勤務」することを定めとしていますが、この「継続勤務」とは、労働契約が存続している期間の意であり、いわゆる在籍期間のことであると解されています。労働契約が存続しているか否かの判断は、「実質的に」判断されるべき性格のものであり、形式上労働関係が終了し、別の契約が成立している場合であっても、前後の契約を通じて、実質的に労働関係が継続していると認められる限りは、労基法第39条にいう継続勤務と判断されます。
つまり、定年退職による退職者を引き続き委嘱等として再採用している場合(退職手当規定に基づき、所定の退職手当を支給した場合を含む。)は、有給休暇の付与日数を決める勤続年数をカウントする上では継続勤務となります。
一方で、グループ会社に転籍した場合、有給休暇については「雇っている会社が違う」ため、通算を必ずしも要しません。ただし、会社の都合で移籍させる場合などは、有給を引き継ぐなどのケアがあった方が望ましいかもしれません。
能力不足の社員を辞めさせることはできるか?
経営者・マネージャーの目から見て能力の低い社員がいたとしても、一旦雇用した従業員を簡単に辞めさせることはできません。
日本の労働基準法その他判例では解雇に対して大変高いハードルがあり、「あれこれ手を尽くしたけれど、解雇以外の方法がない」という場合でなければ解雇は認められない事情があるからです。
さらにその解雇が合理的だったとしても、30日以上前の予告または解雇予告手当が必要であるなどの付随する企業負担があるため、「解雇はできるだけ避けたほうがよい」という意識を持った方がよいと考えます。
この前提を踏まえた上で、能力不足社員をやめさせたい場合、実務的には最低限、次のステップを踏むことが必要です。
「就業規則の解雇の事由」に、能力不足についての解雇が記載されていること能力向上のために、そのような教育的指導を複数回にわたって行ったこと配置転換、出向等を何度か行い、本人に見合った職種に就かせるよう努力したこと降格、減給などの措置を並行して、退職勧奨を行ない、状況に応じて退職加算金も考慮すること指導実績や配置転換措置などに関する事実(企業の解雇回避努力)を文書で記録・保管しておくこと
能力不足が採用後に発覚した場合、このように膨大な労力がかかります。ということは、採用時にできるだけ能力不足を見抜く必要があると言えます。能力不足を見抜くためには、「自社にとって必要不可欠な能力は何か、どのようにその能力を測ることができるか」を採用時に定義し、採用活動に当たることが必要でしょう。
退職勧奨と解雇は同じではない件
退職勧奨とは、会社からの労働契約解除の「提案」を言います。提案するのも自由であると同時に、その提案に社員が応じるかどうか(退職するかどうか)は当人の意思にまかされ、社員が「合意」することをもってはじめて退職となります。
一方、解雇は本人の意思に関係なく「一方的に」労働契約を打ち切るものです。一方的な契約解除であるため、法律で「客観的合理性と社会通念上の相当性がないと解雇無効」と、その要件が厳しく設定されているというわけです。
上記のような違いがあるため、退職に関する平和的解決のために退職勧奨措置が取られることが少なくありません。ただし、両者には明確に定義に異なりがありますが、処分が用いられる場面は似ています。どちらも「やめてほしい事情がある」わけです。
退職勧奨とはそもそも退職を強要するものではないため、原則として制約はありません。どんな事情であっても構わないわけですが、実際には多くの労働者は給与収入が唯一の生活手段でしょうから、退職勧奨により退職を提案する場合、それなりの事情(会社の経済事情、人員過剰、業務への適性など)を説明し、理解・納得してもらう必要があります。
ただし、退職することを説得するための手段、方法が「社会的相当性を欠く」場合は、違法な退職勧奨とみなされることがあります。
社会的相当性を欠く退職勧奨とは、次のようなものです。
・強迫、詐欺に類する行為があった場合(部屋に閉じ込めて説得したり、大声で怒鳴ったりした場合)
・暴力行為があった場合
・仕事を減らすなど、嫌がらせ行為があった場合
・退職を断っているのに執拗に説得を繰り返す場合
違法な退職勧奨による退職は、「無効」もしくは「取り消される」こととなります。専門家の意見を聞きながら慎重に行う方が良いでしょう。
試用期間に問題社員を解雇する場合
多くの会社では、本採用前に試用期間を設けています。試用期間は文字通り「試しに使用する」期間ですから、その間に会社への適性や能力、健康状態などをみるために設けられます。
では、その「試しの使用期間」内に能力が足りない、意欲が足りない、会社の文化や習慣と合わなさそうだ、などが分かった場合、会社は自由に解雇ができるでしょうか。
答えは「No」で、会社が自由に解雇できると考えるのは間違いです。ただし、自社の社員としてふさわしくないと判断された場合は、本採用後よりは解雇が認められやすい(裁量の範囲は広い)傾向はあります。
法的には、試用期間中は「解雇権を一定程度留保した雇用契約が成立している」状態となります。適性がなかった場合解雇の可能性があることを示唆している状態ですから、試用期間中の解雇は通常の解雇よりも自由度が比較的高いと言えるでしょう。
だからといって「反抗的だ」とか「ただ単に気に入らない」などの理由で解雇できるものではありません。労使トラブルを防ぐためには以下の点に注意して運用するとよいでしょう。
1、試用期間であることを明言し、雇用契約書などにも明記しておく
2、本採用するか否かの判断基準をできるだけ明確に示しておく(本採用の筆記試験で合格すること、パソコンスキルチェックのための社内テストに合格することなど、合否が判定しやすい条件が望ましい)
3、特に雇入れ14日以内に適性を細かく見ること
上記の3について、試みの期間中であり、且つ採用から14日以内の人を解雇する場合、「解雇予告(30日以上前に解雇を予告すること)が不要となります。逆に言うと14日経過後は、たとえ試用期間であっても解雇の予告が必要になります。
解雇の撤回
一旦解雇の通告をした後で、会社側の事情によりそれを撤回することができるでしょうか。
結論を先に言うと、一旦解雇を言い渡してしまうと、労働者からの同意がなければ撤回できません。「お前は明日から来なくていい!」と言うなど、解雇予告手続を踏んでいない解雇に対して、労働者は①解雇無効だから在籍していると主張する②解雇有効を前提としての予告手当支払いを求める、のどちらかを選べることになります。
なぜ解雇を撤回したいのか
解雇撤回の主な理由は金銭的なものでしょう。労働者に即時解雇を通告した後、労働者から解雇予告手当を請求されると(お金を払いたくないなどの理由で)即時解雇を撤回し、合意退職などの交渉をする場合があります。最近では、国からの助成金をもらっている関係で、いったん提示した「解雇」を白紙に戻したいと申し出るケースも増えています(多くの助成金では「解雇を一定期間行っていないこと」が受給要件となっている)。
しかし、解雇とは本来一方的に会社が解約を言うわけですから、労働者に到達した時点で効力が発生します。つまり、原則として労働者の同意がない限り、撤回することはできません。労働者側の立場で言うと、会社のさじ加減で一方的に解雇や撤回が認められていては労働者が不利になるため、労働者が「自由に同意できる環境下で」撤回に応じた場合にのみ解雇の撤回ができるとされます。
一旦「解雇」と口に出してしまうと、それは取り消せないばかりか、もっと大きなトラブルに発展することがあります。会社側は十分慎重に事を進めなければなりません。
入社してすぐに辞めた社員の離職票
雇用保険法上の手続きである「離職証明書」は、在職中の賃金額や退職理由などをいちいち記載しなければならず、手続きが多少面倒です。入社してすぐ辞めてしまった社員についても「離職証明書」を作成し、届出をしなければならないのでしょうか。
失業保険のルール:
自己都合で会社を辞める場合、基本手当(いわゆる失業保険)を受給するためには要件があります。被保険者期間が離職日以前2年間に12ヵ月以上なければ基本手当の受給要件に該当しません。つまり概ね1年以上勤めていない場合、せっかく離職票を作っても失業保険はもらえないように見えます。
離職証明書作成届出の基準:
原則論からすれば、資格喪失届に離職証明書を添付することになっており、基本手当を受給できるかどうか?は関係ありません。ですから、例えば被保険者期間が1ヵ月未満であっても交付義務はあります。
ただし、本人が離職票の交付を希望しないときは省略することが可能です。
(離職時の年齢が59歳以上のときは高年齢雇用継続給付との関連があるので、交付する必要があります。)
つまり、退職社員に作成希望の有無を確認し、必要ないと言われれば省略、ただし59歳以上だった場合は希望に関わらず作成するようにしてください。
基本手当がもらえないとは限らない:
ちなみに、1つの会社での在籍期間が1年未満でも、その前の雇用保険期間と合算できることがあります。直近の会社を1ヶ月で辞め、その前の会社を11か月で辞めた場合などは、二つの社歴を合算して基本手当がもらえることがあります。
入社時に提出させるべき書類
社員が入社したときには、まず以下の項目を社員に説明をしなければなりません。
1) 就業の場所、従事すべき業務に関する事項
2) 始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、就業時転換に関する事項
3) 賃金の決定、計算・支払の方法、賃金の締切り・支払の時期に関する事項
4) 退職に関する事項
5) 労働契約の期間に関する事項
6) 所定労働時間を超える労働の有無
これら労働基準法上の「労働条件の明示義務」に対応する事項です。
この明示の際、「雇用契約書」を作成して、会社と社員が署名捺印することまでは求められておらず、「労働条件通知書」「雇入通知書」等の書面を会社から(一方的に)社員に通知することで足りるとされています。
ただし、賃金(とくに定額残業代など)については後のトラブルのもとになりますので、雇用契約書(双方の捺印がなされた書類)を取り交わしたほうが安全でしょう。
入社に関する書類の提出
入社後は、各種の手続きやトラブル予防のために速やかに以下の書類を提出してもらいましょう(面接時に一部もらうものもあります)。
1) 履歴書
2) 職務経歴書 (前職のある場合)
3) 卒業証明書・成績証明書 (新卒の場合) ※
4) 健康診断書 ※
5) 身元保証書 ※
6) 秘密保持誓約書 ※
7) 口座振込依頼書(給与振込のため)
8) 通勤手当支給申請書(通勤経路の確認および通勤手当決定のため)
9) 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
10) 源泉徴収票 (本年中に他社からの給与所得がある場合)
11) 雇用保険被保険者証 (以前に雇用保険に加入していた場合)
12) 年金手帳 (以前に国民年金もしくは厚生年金に加入していた場合、被扶養配偶者がいるときは配偶者の分も)
13) 健康保険被扶養者(異動)届 (健康保険の扶養に入れる親族がいる方のみ)
※の書類は、必ずしも提出してもらう必要はありません。
それぞれの書類の意義と会社の考え方を鑑み、提出してもらうべきかどうか判断してください。
解雇予告手当とは?
法律では、労働者を解雇する場合において、原則として少なくとも30日前に解雇の予告をするか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければならないとしています。
※平均賃金=直前3カ月に支払われた給与総額÷3カ月の総日数(原則)
解雇予告をする日については、平均賃金を支払った分の日数だけ短縮することができます。
解雇予告をした日から、解雇日までの期間のことを解雇予告期間と言いますが、この期間を計算する場合、計算の始めの日は解雇予告を行った日の翌日とします。
例)解雇日→8月31日
解雇予告日→8月11日
この場合、解雇予告日の翌日である8月12日~8月31日の解雇日までの日数は20日
となります。よって、解雇者に支払わねばならない解雇予告額は、
30日-20日=10日分
の平均賃金となります。
○解雇予告の適用除外
次の臨時的に働いている労働者には、解雇予告手続きの必要はありません。
① 日雇いの労働者
※ただし、1ヶ月を超えて雇用されたときは、解雇予告手続きが適用になります。
② 2ヶ月以内の契約で働く労働者
※ただし、所定の期間を超えて継続して使用されたときは、解雇予告手続きが適用になります。
③ 季節的な業務に4ヶ月以内の契約で働く労働者
※ただし、当初の期間を超えて継続して使用されたときは、解雇予告手続きが適用になります。
④ 試みの使用期間中の者
※ただし、14日を越えて使用されたときは、解雇予告手続きが適用になります。
また、上記の適用除外期間中は、正当な理由がなければ解雇することはできません。
特に、上記4の労働者については正当な理由がなければ本採用を拒否することはできないということになります。
無断欠勤の社員は解雇できるか?
無断欠勤を続けており連絡も取れない社員について、会社としてはすぐにその人を解雇したいところではありますが、それは可能なのでしょうか。
解雇とは、法律では「合理性のない解雇は、権利の濫用になるので無効になる」とされ、就業規則に解雇に該当する例を定めている場合でも、すぐに解雇が認められるわけではありません。また会社が社員を解雇する場合、少なくとも30日以上前に解雇の予告をするか30日分以上の平均賃金である解雇予告手当を支払う必要があります。
では、無断欠勤が「解雇するのに合理性があるか」というと、「原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合」は、解雇予告除外認定を受ける基準の一つとされています。この「解雇予告除外認定」とは、「労働者側が悪いから、解雇予告をしなくてもよい」という認定のことです。つまり、2週間以上の無断欠勤は解雇にそれなりの合理性があるとみられます。
しかし、2週間以上無断欠勤が続いているからといって、いきなり解雇をすると、手続きとして不当であると相手に主張される可能性もあります。揉め事を避けるため、「一定期日までに連絡が取れない場合には、就業規則の定めに基づいて解雇手続きを行う」という旨の通知をした上で、解雇の手続きを進めるべきでしょう。電話などで連絡がとれない場合には内容証明郵便等で上記内容を送付しておくとよいでしょう。
入社時に実家など他の連絡先が分かる場合、そちらにも連絡を試みて、あとから「解雇の連絡を受け取っていない」など主張されないように用意してください。
経歴詐称の社員を解雇できるか
就職の際に会社に提出する履歴書は直接合否に関わってくる非常に重要な書類です。
さて、少しでも採用される確率を上げようと履歴書に嘘の情報を書いてしまい、これが後でバレた場合、クビになったり何らかの処分を受ける事になるのでしょうか?
○嘘を書くことそのものは罪にならない
法律上では、履歴書や職務経歴書のような書類は嘘の情報を書いたことそのものが罪に問われるわけではありません。
○採用条件に直接関わるかどうかが重要
しかし、履歴書に嘘を書いた結果、会社に損害を与えたり、その嘘の内容によって会社の判断を惑わせた場合、当然それは懲戒処分を受けたり、損害賠償を求められたりする可能性は十分にあります。
例えば履歴書に「宅建(宅地建物取引主任者)の資格を取得済み」と嘘を書いて不動産関連の会社に就職したり、「管理職としての経験がある」と嘘の職務経歴を提出して、実はその仕事を行なう能力が十分に無かったりすれば、会社は明らかにその被害を受けている被害者ということになります。
逆に「勤続年数を少しだけゴマかして書いた」とか、「経歴を多少大げさに書いた」という程度であれば、それが仕事に直接影響したという事実が無ければ解雇などの懲戒処分を行なうのは認められないと考えられます。
つまり、履歴書等に事実と違う内容を書いた場合に処分の対象になるかどうかは、その影響の大きさによって異なるということです。
どれくらいのレベルの嘘が懲戒処分の対象になるかは、過去に行われた裁判を見る限り、「ここまでがセーフ」というラインを引くのは非常に難しいと思います。
書類に嘘を書いたことが原因で懲戒処分の対象になった場合は、まずその処分が本当に正しいものであるかどうかよく考えてみて下さい。
そして「不当処分だ!」と感じたら、専門家に詳しい状況を説明して判断をしてもらう必要があるでしょう。
自己都合退職の撤回
自己都合での退職を申し出た社員が後になって「やはり退職したくない」と退職の撤回を求めた場合、会社はそれに応じなければならないのでしょうか。
「一方的な解約の宣言」なのか「合意解約を申し入れた」のか
退職願の提出について、その提出が「会社の合意なんて関係ない。一方的に期日を指定して辞める」という意思があるならば、原則として撤回に応じる必要はないとされています。一方で「○月○日に辞めたいのだが、認めてくれますか?」という伺いをたてる趣旨であるならば、会社側が退職を承認する前であれば撤回ができると考えられます。別の言い方をすると「合意解約の申し入れ」の場合であっても、会社が承諾したあとの撤回はできないとみなされます。
判断に迷う時はどうすればよいか
では、「一方的な解約の宣言」と「合意解約を申し入れた」のどちらであるかの判断については慎重に行う必要があります。
一般的に「退職届」=一方的な解約の宣言、「退職願」=合意解約の申し入れと見なされると言われていますが、実際に退職を巡ってトラブルになるときは状況を総合的にみて判断されるでしょう。例えば形式上退職届となっていても、「退職させてくれませんか?」とお願いするニュアンスを口頭で伝えていた場合、本人は相手の合意をもらうつもりであったと解釈されるかもしれません。
退職の撤回を巡ってのトラブルを未然に防ぐためには、①本人の意思確認を正確に行うこと②会社の意思を明確に示すことに尽きます。
後から撤回されたくない退職の場合、退職願について承諾したことを客観的資料(書面やメールなど)で残しておくなどの対策が有効でしょう。
行方不明になった社員を解雇にできるか
突然連絡が取れなくなり、自宅や実家に連絡しても行方がわからなくなった社員の多くはもう働くつもりはないでしょうから、ほとんどの場合辞めてもらうのが妥当でしょう。
辞めてもらう場合は①解雇(会社からの一方的な雇用契約打ち切り)という取扱いと②就労の意思がないとみなして「自己都合退職」としての取り扱いの2パターンがあります。
解雇として取り扱う場合
解雇にする場合、就業規則の解雇事由に「○日以上無断欠勤が続き、連絡が取れない場合は解雇として取り扱う」などの取り決めをしていなければなりません。通常14日以上の無断欠勤は解雇事由として妥当と言われています。
ここで問題になってくるのは、「どうやって相手に解雇を伝えるか」です。解雇とは会社側からの一方的な契約打ち切りを「通告」することですから、会社の解雇の意思が相手に到達しなければ効力を発揮しません。
現実的な順序としては、①本人に電話やメールなど通常の連絡を試みる②ダメなら実家や保証人などに連絡をする③それでもだめなら「○○日以内に連絡がなければ解雇として取り扱う」という文面を配達が記録される方法で郵送するという流れになるでしょう。
簡易裁判所に公示送達という手続きを申し立てて法的に解雇の意思表示を有効にする手段もありますが、面倒ですし費用も掛かるのであまり用いることはないと思われます。
自己都合退職として取り扱う場合
この場合も就業規則に「○日以上無断欠勤が続き、連絡が取れない場合は就労の意思なしとみなして自己都合退職をしたものと取り扱う」などの規定をしておくことが前提になります。
ただし、「連絡が取れない」だけでは「連絡をとるつもりがない」のか、「事情があって取れない」のかがわかりませんので、厳密には自己都合退職として取り扱うことには疑問が残ります。退職処理をした後で本人がひょっこり現れた場合、退職処理の取り消しをしなければならない場合もあるということを心得ておきましょう。
ただし、ユニフォームを返却している、保険証を返納してきているなど、状況から考えて辞める意思が見られる場合は自己都合として取り扱ってもよいでしょう。
「業務委託」と「雇用」の違い
業務委託とは、書類上、形式的には「取引業者のひとつ」として業務を引き受ける形式ですが、実態としては雇用関係、つまり労働者であるものを言います。なぜ企業が労働者を業務委託と偽るかというと、次の理由が考えられます。
・労働者でないなら、残業代の支払いが不要になる
・労働者でないなら、社会保険加入が不要になる
・労働者でないなら、労災の責任所在をあいまいにできる
・労働者でないなら、労働基準法上の「解雇」という高いハードルを越えなくてもよい
つまり、企業側にとって経済的利益が大きいことが理由です。
業務委託関係と雇用関係の最大の違いは「発注者が指揮命令をすることができるか否か」です。指揮命令権の有無は具体的には以下の点を参考に判断されます。
1、仕事の依頼に対して引き受けた側が断ることができるか
2、仕事を進める上で本人の裁量の余地が相当程度あるか
3、勤務時間について発注者から拘束されるか
4、本人のかわりに他の者が労務提供することが認められているか(代わりがきくか)
たとえば美容室などでの業務を命じられている美容師の場合、形式的には業務委託契約であっても、①仕事は原則として断れない、②業務遂行について裁量の余地は少ない、③出勤簿などで勤務時間管理を受ける、④労務提供の代替性も認められていないという状況であれば、労働基準法上の労働者と判断される可能性が高いでしょう。
一方で、社会保険料や残業代の負担を想定しなくてすむ分、当人に高い報酬を支払うことができる可能性もありますから、いわゆる「仕事のできる人、あれこれ指示されたくない人」にとっては、業務委託という形式で働くことはメリットもあるかもしれません。
いずれにせよ書類上だけで業務委託契約を整えたことになりません。実際の仕事の命令の方法や業務の管理実態まで注意しなければなりません。
ちなみに、僕が大学生の頃、家庭教師センターで家庭教師のアルバイトをした事がありますが、これは業務委託契約となります。家庭教師が生徒にどう教えるかはお任せですから。
ちなみになぜ業務委託契約か気づいたかというと、家庭教師センターが潰れたからです。社長が夜逃げしてしまい、一か月分の給料が貰えなくなってしまいました。
その時、実は労災保険から労働者保護の給与の立替払い制度があるから、対象になるかもしれないという話を聞いて、新宿の監督署まで相談に行ったのですが、対象外だと言われ、お金は貰えませんでした。
なぜ貰えないかというと、家庭教師は労働者ではないから、ということでした。
貧乏学生にとっては貴重なバイト代でしたが、当時はそのアルバイトが雇用契約なのか、業務委託契約なのかは考えたこともありませんでしたので、良い勉強になったと思っています。
会社が負担した外部研修費用の返還請求
研修費用(資格取得費用や、留学などの費用)を会社が負担した社員が、業績などで会社に貢献する前に自己都合で退職した場合、会社側としてはその費用を返還してほしいところです。この返還請求の法的な正当性は、研修費用の定義によって異なります。
(1)「研修など受講後○年以内に辞めた場合は返還せよ」は違法
この場合は労働基準法における強制労働に該当するというのが一般的な見解です。この定義によると、定められた期間は自由に辞めにくいため、結果的には強制労働を強いているに等しいということになってしまうわけです。
(2)・研修への参加は自由意志(不参加を不利益取り扱いしない)
・研修費用は本人の希望に基づき受講費用を貸し付ける制度がある
・研修終了後、一定期間勤務によって返済を免除(あるいは返済額相当を給与に上乗せ)
とした場合は概ね合法
この場合、当事者の自由な意思により「研修費用の貸し借りをした」に過ぎないため、不当に社員を拘束するものではないとされます。
ポイントは、「研修への参加並びに受講費用の借受けに自由意思があること」です。
研修費用の貸付についてはきちんと契約書を取り交わすなどの書類整備も必要でしょう。「参加自由の研修について本人が希望して受講した」「研修費用を貸し付ける社内制度があるが、それを借りるかどうかは本人の自由」という仕組みであることがわかるような書類の整備を専門家に意見を聞きながら進めてください。
整理解雇の対象者は会社が選べるか
経営状態が悪化し、整理解雇などの人員整理が必要になった場合、その整理解雇の相手を会社が任意に選ぶことはできるでしょうか。
整理解雇の正当性について争うときは、判例で確立された次の4つの要件をもとに判断されます。
1、経営上の必要性
まず、「経営上整理解雇が本当に必要なのか」という点です。必要性の程度ですが、必ずしも「整理解雇しないとすぐに会社が潰れてしまう」までの緊急度までは求められず、例えば「不採算の部門があり、残しておくとこの先ずっと赤字を垂れ流しになってしまうから」という理由であっても大丈夫な場合もあります。財務状態や市場動向などの数値で必要性を説明できることが大切です。
2、解雇回避努力の程度
解雇は従業員にとっては一大事ですから、他の部門に異動させるとか、ワークシェアを試みるとか、他のコストカットを頑張るなど「解雇をできるだけ避けるために努力した実績」が必要です。
3、対象者の選び方の合理性
ここが表題の疑問に対する部分です。対象者選びについて会社の意向があるのはもちろんですが、「ただ何となく働きが悪い」「上司に楯突くから目障りだ」などの理由では合理性は認められないでしょう。特定の従業員の働きぶりが悪いなら、その「働きぶりの悪さ」を説明できるだけの証拠を揃えなければなりません。
4、会社が説明責任を果たした程度
整理解雇に至るまでに、「なぜ整理解雇が必要なのか」などについて誠意をもって話し合うことも必要です。
整理解雇については心苦しいことですが、専門家などの意見を聞きながら十分な準備をして臨むことが大事でしょう。
有期契約労働者の雇止め
雇止めとは、期間の定めのある労働契約で、期限が到来した際に次の契約更新を行わないことを言います。
更新をしない場合、契約期間が1年未満または更新が2回までの労働契約の場合は、契約期間の満了をもって退職してもらうことができます。
ただし、下記ケースに該当する時は、契約期間が満了する日の30日前までに、その予告をしなければなりません。
・労働契約が3回以上更新されている場合
・1年以下の労働契約が更新または反復更新され、最初に労働契約を締結してから継続して1年を超える場合
・1年を超える契約期間の労働契約を締結している場合
従業員から見て、「雇い続けられるだろう」と期待するに足りる十分な事情がある場合には、会社としては所定の期間が終了したからという理由だけでは契約を終了させることはできないのです。上記のような場合、正社員とほとんど変わらない実態があると判断され、解雇法理が類推適用されることとなります。
有期契約労働者としては、何度も契約を更新されれば、次も更新されるだろうと思い込んでしまいます。契約終了前にいきなり雇い止めを通告されてしまうと、素直に受け入れたくないのが心情でしょう。その場合、労使トラブルに発展する恐れがあります。
こういった状況を防ぐためには、契約の終了前ではなく、更新時に「次回は更新しない可能性がある」ことを伝えておくべきでしょう。
退職の申し出は撤回できる?
自己都合や退職勧奨に応じるなどの理由で退職する場合、労働者側から何らかの意思表示をすることになります。例えば自己都合であれば①口頭または②書面(「退職願」や「退職届」)の提出という行為によって意思表示を行いますが、これらの意思表示は撤回できるのでしょうか。
退職することについて合意が「いつ」なされたか、がポイント
労働者側から退職の意思表示をする場合には、次の要素が正しく伝達される必要があります。
l 退職日
l 退職理由
l 当事者双方(会社と本人)の表示および意思表示の方向(だれから誰に向けて意思表示されたか)
退職の申し出をした時点では「労働者が(○○という条件で)退職したいので合意(承諾)してください」と一方的に意思表示をしたにすぎませんので、会社側が合意したことの意思表示をしなければ、原則としてはその意思表示を撤回することができると考えられます。
退職願などの「書面を受け取ったこと」がすなわち「会社側の合意」に当たるかどうかは個別のケースにより異なるでしょう。例えば社長や人事権を与えられている直属の上司が退職願を受け取り、口頭により「わかりました」「合意しました」と言ったならば、もはや撤回はできない可能性が高く、総務担当者が受領しただけの段階であれば「退職について合意がなされた」とはみなされにくいでしょう。
解雇の有効・無効
日本では、諸外国に比べて解雇が驚くほど厳しく規制されています。労働基準法または労働契約法などに定めのあるように「客観的合理性と社会通念上の相当性を欠く解雇は無効である」とされており、そのいわば「曖昧な」ハードルを越えるのは簡単ではありません。
では、どのような場合に解雇が有効とされやすいでしょうか。
1、解雇が有効と認められやすい場合
① 業務上の金銭の窃盗や横領
窃盗や横領を客観的証拠により証明できれば金額の大小にかかわらず解雇理由として認められやすいです。日本の裁判所は金銭的な不正行為に厳しい判断を下す傾向にあります。
② 強制わいせつなどの性犯罪を起こした場合
職場内で性犯罪行為を行った場合、職場の秩序を守るために解雇することが認められやすいでしょう。
③ 著しい勤怠不良の場合
無断欠勤が2週間程度続き、注意指導にも従わない場合、解雇の理由として認められる傾向にあります。
④ 配置転換拒否
家族の介護などのやむを得ない理由がないにもかかわらず配置転換命令を拒否することは解雇事由として成立し得ます。転勤や配置転換命令は、それが会社の正当な必要性に基づくものであれば人事権として認められます。
2、解雇が有効とは認められにくい場合
① 能力不足による場合
能力不足は客観的な証明が難しく、さらに裁判所は「一度雇った従業員に対しては、能力がないとしても教育をすべき」という考え方をとる傾向があるため、解雇をするためには複数回指導教育をした実績を積み重ねる必要があります。
② 協調性不足による場合
協調性もやはり曖昧で、客観的に証明することが容易でないため、解雇理由としては成立しにくいでしょう。
解雇の際に重要なのは、「客観的な証拠」と「会社の解雇回避努力」です。日本の解雇権濫用法理がずいぶんと厳しいことを十分注意すべきでしょう。
出向は同意が必要?
人事異動により関連会社等への出向をさせる場合、その出向命令の内容によっては対象従業員への説明や同意の取り付けを慎重に取り扱う必要があります。
原則として、出向には本人の同意が必要
従業員本人の同意がなければ、会社が強制的に出向させることはできません。
なぜなら、出向先は関連会社とは言えあくまで別の会社ですから、労働契約を結んだ元の会社でなく別の会社の指揮命令下で働いてもらうためには、従業員本人の同意を得る必要があるためです。
個人の同意が必要ない場合
ただし、必ずしも出向を命じる際に労働者本人の同意が必要でない場合があります。
それは、就業規則や労働協約等に「業務の都合により、従業員に出向を命じることがある」旨規定をしており、かつ「出向規程」などで出向の具体的条件を定めている場合です。これらが規定されていることで、出向に関し「包括的(ほうかつてき)な同意があった」と見なされ、個別の同意がなくても出向命令が可能となります。
過去にも「出向の諸条件が労働協約や就業規則で制度として明確にされている場合には、労働者その都度の個別の同意がなくても、使用者は労働者に出向を命じうる(松山地昭55.4.21)」という判例があります。
従業員を出向させる予定がある場合は、トラブル予防のため就業規則や諸規程の整備を進めましょう。
ただし、出向(とくに給与の減額、職種転換や転居を伴うもの)は従業員の生活環境を大きく変化させることになるため、規程整備をしたとしても、尚しっかりと説明をして同意をとる手順を踏む会社側の姿勢が肝心です。
転勤拒否した従業員を解雇できるか?
転居など生活環境の変化を伴う転勤の場合、従業員が嫌がることもあるでしょう。ただし、会社には広く人事について命令をする権限があるものとされていますので、原則として転勤を命令することは有効です。ただし、転勤命令に関しては以下の点について注意をする必要があります。
1、就業規則に「転勤の可能性があること」について書かれてあるか
労働契約法第7条では「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする」と定めています。
つまり、合理的な内容であれば、就業規則に書かれてあることで転勤命令に根拠があることになります。
2、転勤する従業員との個別の雇用契約に「転勤なし」という特約が結ばれていないか
転勤を命ずる従業員について、個別の契約で「転勤はしない」「勤務地を限定する」などの約束がなされていないかを改めて確認する必要があるでしょう。
3、異動をするのに積極的な理由があるか
転勤の理由についてちゃんとした理由があるかについても注意が必要です。「ちゃんとした理由」とは、例えば「人材の再活用のため(ある地域でダメな社員を、別の地域でなら活躍できるかも、という場合)」「新規開拓のため」「教育指導のため」などの説明がつくかを確認しましょう。
ちなみにこの「積極的な理由」とは、必ずしも「栄転のため」などのプラスの理由である必要はありません。
転勤命令でトラブルになりそうな場合は、事前に以上のことについて気を付けてください。
引き継ぎ不十分の社員に退職金を払わなければならないのか?
【引き継ぎ不足を理由とした退職金不支給は難しい】
退職金制度がある会社において退職金を支払わないためには、まず退職金規定に「○○という場合には不支給にするとの明示」があることが前提となります。そのうえで、退職金を不支給とする場合には、「会社に重大な不利益を及ぼす行為があった」と認められなければなりません。今回のように「十分な引継ぎをしなかった」ことは、会社に重大な不利益を及ぼす行為とまでは認められない為、不支給は無効となると思われます。
【減額は可能だが、その程度には制限がある】
退職金の減額は規定として定めておけば可能です。しかし、十分な引継ぎをしたかどうかは会社と社員で解釈が異なるため、判断が難しく、減額できたとしても10%程度までしか認められないでしょう。
【引き継ぎ期間】
期間の定めのない契約は、民法上原則として退職を申し出てから14日以上経過すれば退職が成立します。ということは、「退職申し出から14日後に退職されてしまうこと」を想定して、14日で引継ぎが完了するような引き継ぎマニュアルを整備しておく必要があるでしょう。
【退職前に有給休暇を消化したいと言われたら拒否は難しい】
一般常識的には1ヶ月から数か月の引き継ぎ期間を設けて引き継ぐべきでしょうが、感情的な対立などにより退職する場合にはうまく引継ぎができない場合も出てきます。例えば14日間の間に有給を取得したいと申し出があれば、会社側が拒否することは難しいでしょう。退職日まで無断欠勤した場合は、規定の定めがあれば退職金の減額を行うことが可能な場合もありあますが、引継ぎは行ってもらえません。
特定の社員にしか行えない作業が多い場合、引継ぎの量も多くなり、引継ぎが行えなかった場合の影響も大きくなります。代替要員でも作業が滞らないような業務体系を作っておくことが大切です。
契約社員の契約満了時の注意
契約社員の期間満了の退職については、「労働者からの退職の意思表示」をする場面ではないため、原則として退職届は必要ありません。
ただし、反復契約更新をしている場合など、契約内容によっては、「雇止め」に関するトラブルの発生があるため、場合によっては「退職合意書」を取り交わすなどのケアが必要でしょう。
契約社員との労使関係においては、更新トラブル(更新を拒否したことを「解雇」であると労働者が主張するケース)が最も多いですが、契約内容や今までの契約更新状況等により、問題なく「期間満了による退職」となることもありますし、更新拒否が「解雇」と見なされる場合もあります。
有期雇用契約の更新について、平成25年4月1日から改正労働契約法が施行されました。
改正労働契約法によると
1.無期労働契約への転換(第18条)
同一の使用者との間で、有期労働契約が通算で5年を超えて反復更新された場合は、労働者
の申込みにより、無期労働契約に転換しなければならなくなりました。
ただし、途中で6カ月以上のクーリング期間がある場合、前後の契約期間は通算しません。
2.「雇止め法理」の法定化(第19条)
① 過去に反復更新された有期労働契約で、その雇止めが無期労働契約の解雇と社会通
念上同視できると認められるもの
② 労働者において、有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新され
るものと期待することについて合理的な理由(※)があると認められるもの
については、「解雇」と同様に取り扱われ、合理性のない雇止めは無効であるとの考え方が法律上明文化されました。
上記の法改正も踏まえながら、状況に応じて「契約期間満了による退職合意書」または「契約期間満了通知書」などの書類を作成し取り交わすなどをして雇止めにかかるトラブルが起こらないようにしましょう。
試用期間中に解雇する場合の注意
「試用期間中は自由に解雇できる」という誤った考え方がされることもありますが、試用期間中であっても解雇には合理的な理由が必要となります。
試用期間中の解雇と、通常の解雇の違いは「雇い入れから14日以内の試用期間」であれば、
解雇予告や解雇予告手当の支払いをしなくてもよいという点です。
※前提条件として試用期間が就業規則などに定めていなければ、たとえ14日以内であっても解雇予告または解雇予告手当の支払いが必要となります。
逆に言うと、14日を超えると解雇するには30日以上の予告期間が必要となり、合理的な理由があったとしても解雇予告が必要になります。予告期間が足りない場合には、不足分の解雇予告手当が必要になります。
試用期間と言えば入社後2~3か月を試用期間とすることが一般的ですが、その長さに関わらず、解雇を検討するならば雇い入れから14日以内に適性を判断したほうがよいということになります。
14日以内の合理的な不採用理由とは
試用期間での本採用拒否は、通常の解雇に比べて広い範囲で認められます。
しかし、14日以内という短期間では、能力不足を理由に本採用拒否することは、中途採用であっても難しいです。
能力不足を向上させるために会社がどのような措置を講じたのかということも、重要な判断要素となります。
14日以内の本採用拒否は、能力以前の勤務態度や勤務状況に関わる下記の理由がある場合認められます。
1、無断欠席、遅刻、早退が多く出勤状況が悪い
2、健康上の問題が発覚した
3、上司に正当な理由なく、反抗するなど指示、業務命令に従わない
いずれにせよ解雇については具体的な解雇事由を記録して、就業規則上の解雇事由と照合しながら判断してください。
契約社員に辞めてもらう際の注意点
社会情勢、経済事情などで仕事の受注等が急激に減った場合、契約社員の契約満了前に契約解除を申し入れるなどの方法で人件費負担軽減を行わざるを得ないことがあります。
この場合、原則としては(たとえ社会情勢など周りの環境が原因だとしても)「会社側の都合」とみなされるため、相応の補償をする必要があります。
まずは合意を得るよう努力すること
まずは真摯に会社の現状を説明し労働者の合意を得るよう努力することが先決です。
しかし、もちろん労働者の生活にも配慮をしなければ合意を得ることは簡単ではないでしょう。
そこで合意をしてもらうための条件として金銭面での補償を申し出ることになります。
金銭補償の判断基準
・休業手当
金銭補償の金額の一つの判断基準に「休業手当」があります。
会社都合で自宅待機を命じた場合などは、労働基準法上社員の保護をする意味で休業手当(平均賃金の60%以上)の支払いが必要となります。
契約残存期間分「会社都合で自宅待機を命じた」とみなし、本来の60%の給与額を補償額として提示することには一定の合理性があると言えるでしょう。
・有給休暇の残業日数
契約解除を行う社員に有給休暇が残っている場合は、この残日数の処理をどうするのかも交渉するうえでポイントになります。
有給休暇残日数分の賃金を補償額の一つとして提案することも相手方説得のためには有効でしょう。
・解雇予告手当相当分
労働基準法上の解雇予告手当(平均賃金の30日分)を補償額の判断基準として考えることができるでしょう。
上記を参考にしつつ、金銭解決に用意できる金額上限と照らし合わせながら検討をしてください。
合意を得ることができたら
会社側の提案を社員が受け入れた場合は、(合意が得られた時)トラブルにならないという証明として、「退職届」もしくは、「退職同意書」を回収しましょう。」
退職社員と守秘義務
守秘義務(しゅひぎむ)とは、
一定の職業や職務に従事する者・従事した者に対して、法律の規定に基づいて特別に課せられた、「職務上知った秘密を守る」べき法律上の義務のことです。
まず、対策として、考えられるのが「退職時に守秘義務誓約書」を結ぶことです。
ですが、守秘義務誓約書だけでは、情報漏洩による損害賠償を請求することは不十分です。
不正競争防止法において、情報漏洩による損害賠償請求は、
「守秘義務の対象となる秘密情報が特定され管理されていること」が要件と定めてあります。
そのため、秘密情報が適切に管理されていなければ、保護の対象ともなりません。
誓約書を結んだ社員もどこまでが秘密情報なのかわからないことになります。
会社は守秘義務の内容を定めた秘密管理規定を整備し管理をすることが必要になります。
「秘密管理規定」に下記の事項を最低限として定めるべきものとされています。
- 秘密の対象となる情報の特定
- 秘密情報の管理、表示方法
- 秘密情報の管理者、取扱権限者
以上、秘密義務についてでした。
解雇にもいろいろある
解雇とは、会社側から一方的に雇用契約を解除する行為ですが、その解雇には普通解雇、整理解雇、懲戒解雇の3種類があります。
【普通解雇】
普通解雇とは、従業員が勤務するにあたって、会社側と約束したこと(能力や勤務態度など)が実行できなかったことを理由する解雇です。
例えばパソコンを使用して仕事を行う場合、パソコンの使い方がわからなければ仕事になりません。その意味では「パソコンを一定程度使えるという能力」が足りなかったことになります。しかし、パソコンの操作方法がわからないからといって、即座に解雇することは難しいでしょう。
まずはパソコンの操作方法を教え、操作が出来るように指導する必要があります。解雇に対するハードルが高い日本においては、「根気よく何か月も指導したが、全く操作を覚えない」というような前提を踏まえていなければ解雇は認められないと思ってください。
【整理解雇】
整理解雇とは、経営状況悪化のために、従業員を減らすことを目的とする会社都合の解雇です。整理解雇が認められるためには。4つの要件が必要となります。
①本当に人員削減が必要か
どうしてもリストラを行わなければならない理由が必要となります。
②解雇を避けるために努力をしたか
解雇は最終手段です。整理解雇を行う前に会社は次のような努力をしなければなりません。役員報酬の削減、希望退職者の募集、新規採用の抑制、配置転換や出向等です。
③解雇をする従業員の選定は合理的か
人事権のある人物が、個人的感情で選定してはいけません。勤務態度や営業成績等の客観的な判断基準が必要です。
④整理解雇までの手続きは妥当なものか
整理解雇の対象となる従業員へ整理解雇の理由を説明したか、十分に話し合いを行って納得を得る努力をおこなったかが大切になります。
【懲戒解雇】
従業員の責めに帰すべき理由による解雇です。
懲戒処分は主に従業員の非行・悪事・失敗に対して、その重大さによって、軽いものから譴責(厳重注意)、減給、出勤停止、降格、諭旨退職、懲戒解雇に分けられます。懲戒処分を行うためには、就業規則の定めが必要となります。懲戒解雇でも、30日前までの解雇予告や、解雇予告手当の支払いは必要となりますが、労働基準監督署で除外認定を行う事で即時解雇が可能です。
社員が行方不明になったら?
社員が行方不明になった場合には、当然まずは安否確認、状況の把握に努めなくてはなりません。
本人への連絡は電話、メール、書面などの方法で手を尽くし、加えて親類などに対しても現状の伝達をするべきでしょう。
事業主には労働者に対する安全配慮義務があるからです。
連絡の手順
電話やメールで一向に連絡が取れないのであれば、特定記録郵便など受け取りを証明できる方法で書面連絡を試みましょう。書面内容としては
・ 連絡が取れなくて苦慮している旨
・ 担当者宛に連絡を求める旨
・ 受け取りから相当程度余裕を持った期限を設定して、期限内に連絡がない場合は、退職取り扱いとなる旨
を盛り込むとよいでしょう。
本人への連絡が付かない場合は、念のため同様の連絡を親類に対して行うと尚よいでしょう。
手を尽くしても連絡が取れない場合
この場合は、就業規則の定めに従い退職処理をすることもやむを得ません。
このときには就業規則上の規定が重要になります。2週間以上の無断欠勤に対して「解雇」取り扱いとする旨規定する事もできますが、実際に解雇となると「客観的合理性」が求められるため、後で本人が出社してきたときに合理性で争うことになる可能性が残ります。解雇に対しては法的制限が多く有るため、できれば「出勤の意思がないものとみなして自己都合で退職取り扱いとする」方向で規定整備をした方がよいでしょう。
行方不明者に対応するためには、具体的に就業規則に以下のような規定を定めます。
例:社員が次の事項に該当した時は自然退職とする
原因の如何を問わず、社員が会社に届出た連絡先にて会社との連絡不能となった状態(行方不明)が2週間以上経過したとき
ただし、長年真面目に勤務してきた社員と、入社間もない社員とでは、同じ行方不明でも意味が違ってきます。事案により個別に検討しましょう。
よく似た言葉:退職願と退職届
自己都合退職をする場合、退職を申し出る書面を会社に提出することが日本の雇用関係上慣例となっていますが、その書面の名称は「退職願」「退職届」のふたパターンあります。
この両者はどのように異なるのでしょうか。
退職願:
退職願は文字通り、従業員が会社に「退職させて下さい」とお伺いを立てる(お願いする)物です。従業員からお願いされたことに対して、会社がわかりました、退職意思を受け入れます。と受理した時点で退職することが成立します。
では、会社が退職願を認めない場合は、退職できないかと言うとそういうわけでもありません。会社が認めない場合であっても、民法上は「従業員が退職したいという意思表示をしてから2週間たてば退職できる」となっています。
この退職願の場合、会社が正式に受理するまでは、従業員側からの退職願の撤回や、退職日が変更できます。
退職届:
退職届は従業員が会社に「退職します」と断言する物です。
ここに会社の受理というプロセスはなく、あくまでも従業員の意思のみで退職を決めます。
退職届の場合、退職することは一般に「届出をした日」に確定となりますので、会社が変更しても構わないと言わない限り、従業員が退職届の撤回や日付を変更できないことになります。
ただし、現実的には退職前に当然行うべき引継ぎがあるはずですから、相当の期間をおいて退職するよう日付を設定することが常識でしょう。慣例ではすくなくとも1か月前には届け出ることが多いでしょう。
トラブルに発展しそうなときは書面で確認を:
退職について意見が労使間で食い違い、トラブルに発展しそうなときは、退職願の正式な受理を証明する資料として書面で「退職願受理承諾書」を発行したほうがよいでしょう。
これによって会社が正式に退職願を受理したか証拠として残すことが出来ます。
仕事を覚えるまでの賃金を低く設定してもよいか
刈谷市の勉強会である経営者から質問いただきました。
「仕事を覚えるまでの賃金を低く設定してもいいんですか?」
研修中や試用期間中など、賃金を低く設定しても、前もって求人票に記載していれば基本的には問題ありません。ただしその際には、最低賃金を下回らないように注意しましょう。
未経験者であって仕事が出来なくても、都道府県又は産業別の最低賃金以上の賃金を支払う必要があります。2013年7月現在の最低賃金の最高額は東京都の850円、最低額は島根等の652円ですが、毎年上昇傾向にあります。これは、最低賃金で働くと生活保護受給者の収入を下回ってしまう場合があるからです。最低賃金の上昇は、大人数のパートを雇用している会社にとってはコストアップに直結する重大な問題となります。
しかし、最低賃金以上の例外があります。労働基準監督署からの許可を得ることで、次にあげる人は適用除外となります。
① 精神又は身体の障害により著しく労働能力の無い者
② 試の使用期間中のもの
③ 基礎的な技能等を内容とする認定職業訓練を受けている方のうち、厚生労働省令で定めるもの
④ 軽易な作業に従事する者
⑤ 断続的な業務に従事する者
また、未経験者を採用する場合には「トライアル雇用奨励金」の活用も可能です。ハローワークからの求人募集する際の助成金です。3ヶ月間の試用期間で双方のマッチングを図り、最大12万円支給されます。
未経験者、もしくは経験が少ないことが要件となっていますので、経験者の方が同業他社に転職する場合は対象となりません。なお、この助成金はハローワーク経由で求人を出し、ハローワークに「トライアル雇用が適当だと認められた」人が対象となるので注意しましょう。
刈谷市の勉強会はみなさん実績もあり、知識も深く刺激になっています。そういうメンバーの中で活動していてご質問いただけるのは本当に光栄なことだなと思っています。
「退職証明書」の話
会社では、退職者や退職願を受理した従業員から請求があった場合には、すぐに「退職証明書」を発行しなければならないということが義務付けられています。
この「退職証明書」とは、労働基準法で以下の様に定められたものです。
根拠となる条文:
(退職時等の証明)
第22条
労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。
つまり、前職で働いていた条件などを証明するものです。労働力の移動への障壁が低くなりつつある現在では、再就職先でこの退職証明書の提出を求めるケースもそう多くはないと思われますが、それでも「退職者本人が求めれば」会社はこれらを証明しなければならないという決まりになっています。
退職証明書に記載する内容:
退職証明書に記載する内容は下記のとおり法律で決められていますが、「退職者が請求していない項目は記載してはいけない」という点に注意が必要です。
1、 勤務していた期間
2、 業務の種類
3、 会社での地位
4、 給与
5、 退職の事由(解雇の場合はその理由も含む)
例えば、5、退職の事由について「書いてほしくない、証明してほしくない」と退職者から申出があれば、その内容は記載してはいけないことになります。
ちなみに、退職証明書を請求できる期間が決まっています。
請求できる期間は退職後2年以内です。
この点で、退職しても2年間は、元従業員の情報は保管しておかなければならないということになります。
賃金や労働時間などの労働条件は口頭の説明だけでよいか?
労働条件の書面通知義務:
労働条件のうち、勤務時間、契約期間、給料といった重要な事項については、雇入れ時に書面での条件通知をしなければなりません。後々に労働条件を巡る労使トラブルが起こらないためにも、書面の交付または取り交わしをしましょう。
書面で通知しなければばらない事項
1、労働契約の期間(契約期間がある場合は、労働契約を更新する場合の基準)
2、就業の場所・従事する業務の内容
3、労働時間に関する事項(始業・終業時刻、早出や残業など所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、労働者を2組以上に分けて就業させる場合の就業時転換に関する事項
4、賃金の決定、計算、支払い方法、賃金の締切・支払いの時期
5、退職に関する事項(解雇となる事由も含む)
また、パートタイマーには下記3つの内容も書面にて通知しなければなりません。
1、昇給の有無
2、退職手当の有無
3、賞与の有無
※口頭でも構わないが、必ず通知しなければいけない事項
・昇給に関する事項
会社で決まりがある場合には書面で通知しなければならない事項
・退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払い方法および支払い時期
・臨時に支払われる賃金、賞与および最低賃金額に関する事項
・労働者に負担される食費、作業用品などに関する事項
・安全・衛生に関する事項
・職業訓練に関する事項
・災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
・表彰・制裁に関する事項
・休職に関する事項
労働条件通知書の保管方法
労働条件通知書は写しをとって会社に保管しておきましょう。
また、労働条件通知書は会社から労働者への一方的な通知ですが、その説明を労働者が受けたことを記録するために、労働者の署名などをもらっておくと尚良いでしょう。
試用期間と契約期間
【試用期間】
試用期間は必ず設定しなければいけない項目ではありません。しかし、会社に適性があるか見極める期間として、多くの会社で試用期間を設けています。
この試用期間の長さは、会社で独自に決めることができます。しかし、あまりに長すぎると、従業員はいつ正社員になれるのか、不安を抱えたまま仕事をすることになります。一般には1年未満、できれば3~6か月が一般的でしょう。また、従業員の適正に応じて、試用期間を短縮・延長できるような制度をつくると良いでしょう。
【雇用契約期間】
期間を定めた雇用契約は、原則3年以内でなければなりません。契約期間を最大の3年とした場合、会社は3年間必ず雇用しなければなりません。従業員側は、3年間は働ける保障になります。
では、会社側に3年の雇用義務が生じる場合、従業員は3年間退職出来ないのでしょうか。法律では、従業員は契約開始から1年間を過ぎれば、退職の申し出が可能となっています。
有期雇用契約の場合は、試用期間というものは定めることができません。
たとえば1年間の有期雇用契約のうち、最初の3か月間を試用期間とするなどです。
試用期間とはそもそも、無期雇用に移行する前に有期の雇用期間を置いているのと同じようなことです。
上記のような例では、雇用契約期間が3か月なのか1年なのか分からなくなってしまいます。
このような場合は、最初に3か月の有期雇用期間を設定し、3か月が経過したら再度契約を更新して、残りの9カ月の契約を結ぶ方がいいでしょう。
雇用契約の原則は3年以内ですが、満60歳以上の労働者、医師や税理士等の例外的な職種の人は5年以内での契約期間が認められています。しかし、この例外となる人の場合、通常の契約社員と違い、雇用契約から1年間を過ぎても退職の申し出はできません。
また、道路工事などの事業の完了に5年を超える期間が必要な場合は、5年を超える契約期間が認められています。
契約の更新を繰り返している場合は、注意が必要です。更新を繰り返し、通算で5年を超えて更新した場合、従業員からの申し込みがあれば、期間の定めのない契約に転換しなければなりません。会社が認めるか認めないか問わず、従業員の申し込み時点で会社が承諾したとみなされます。
契約を更新するときは注意しましょう。
求人募集の注意点
1、 求人募集は「老若男女問わず」
法律では次のように定められています。
①応募条件には、年齢や性別などに関係なくすること。
②応募の機会は平等に与えること。
この意味で、応募できる人を限定してしまう募集内容はいけないことになります。
男女差別の禁止:
女性だけ、男性だけの募集もいけません。
また、男女問わず募集はしたものの、男性は面接のみにもかかわらず、女性の場合は面接の他に測定もして、採用を決定する基準に男女で違った方法を設けるということもいけません。
男女別の募集人数を決めることもいけません。
男性2人女性1人募集というような男女別の採用人数を決めたうえの募集をしたり、
応募者の中から男性だけを先に面接して採用者を決め、その後に女性を面接する方法も
男女平等ではないのです。
ただし、特別に女性だけの募集を限定してもいい場合があります。それはつまり、「男女の人数構成の偏りを是正する目的で」女性を積極採用する(=ポジティブアクション)場合です。
例えば、正社員の割合が男性9割女性1割の会社では女性が4割程度となるまで女性だけを募集してもよいでしょう。
年齢による差別禁止:
65歳以下の募集には必ず、その理由も示しましょう。その際に「定年が65歳」と記載すれば、理由になります。
2、 求人募集の方法について
求人の方法はいろいろあり、どんな人が集まる媒体なのかで選んでみるとよいでしょう。
下記の方法があります。
・ハローワーク
・インターネットの求人サイト
・駅などに設置してあるフリーペーパー
・新聞折り込み求人広告
・有料職業紹介事業からの斡旋
・新聞社や人材会社が運営する転職フェアへブース出展
職種によって定年年齢を変えても良いか?
職種が異なる場合、同じ会社に所属する社員の間で、定年に差をつけることに合理的な理由があれば、その範囲においてはただちに違法とはなりません。
社員に必要とされる「能力」や「適性」は、職種によって異なってきます。加齢による肉体の衰え等が職務の遂行能力に大きく影響する職種と、その影響が小さい職種では、その労働条件を変える合理的必要性もあるでしょう。
また労働条件は、労働契約を結ぶときに「個人ごと」「職種ごと」に応じて決定されるものですから、定年年齢だけを全社員そろえる必要はありません。
ただし、名目上は職種が異なっていたとしても、実態が同様であれば定年に差をつけてはいけません。労働基準法第3条で均等待遇の原則が規定されているからです。
定年差の合理性の例:
(例1)
事務職は70歳、現場での製造職は65歳の定年を定めていた場合。製造業は高齢になると肉体的に厳しくなること、現場製造職員への安全配慮から定めたものであれば、その範囲で定年差には合理性があるでしょう。
(例2)
女性は60歳、男性は65歳の定年を定めた場合。合理的な理由がないので無効です。
ただし会社は、定年年齢に差異を設けるときは、必要最小限にとどめる配慮をしなければなりません。老齢年金の支給開始時期が遅くなりつつある現在は、社員の所得保障について従来以上に気を回す必要があります。例えば、ほかの社員に比べ早い定年を設ける職種に関しては、当該職種の定年後、より高い定年年齢の職種に配転するなどの配慮をすることも考えられます。
社内不倫を理由に解雇できるか?
社内不倫が判明した場合、会社は当事者に解雇その他ペナルティを与えることが出来るでしょうか。
原則:ペナルティを与えるには「根拠」と「実害」が必要
社内不倫に対して会社が何らかのペナルティを与えるには、「就業規則上の根拠」と、「社内不倫による実害の存在」が必要でしょう。
就業規則上の根拠については、「会社の秩序を乱してはならない」等の服務規定が存在していることが多いでしょうから、そこに根拠があるとしてもよいでしょう。
ただし、「実害の存在」については中々容易でありません。
例えば、
・社内不倫が家庭に知れ、夫婦間のモメごとが職場に及んだ場合(職場でケンカをする、執拗な電話が職場にかかってくる、怪文書が送られてくるなど)
・同じ職場内の人間関係等に悪影響を与えている(まわりが気を使って、社内の協力体制がめちゃくちゃになる、円滑なシフト組みに影響を与えるなど)場合
・職種上特に倫理観が求められる状況で、その倫理観にそぐわない場合
などの場合は、ある程度実害があると認められます。
一方で、単に不倫がわかったことだけを持って(つまり私生活上の行動があることで)、会社として解雇その他のペナルティを与えることは難しいでしょう。
干渉の仕方について:
社内不倫については、その注意の仕方に注意をしなければなりません。
社内の噂やネットの書き込み等のみを鵜呑みにして執拗に問い詰めると、その問い詰める行為がセクハラ・パワハラに該当してしまう可能性も否定できません。
まずは事実確認を公平な立場ですることが必要です。
また、プライバシーにも注意して、事情を聴く際も別室に呼ぶなどの配慮を持つ方が良いと思われます。
労働者からの退職申し出期間
社員が会社の慰留を受け入れず、一方的に退職をした結果会社が損害を受けた場合、損害賠償を請求できるのでしょうか。
期間の定めのない雇用契約をしている社員が2週間前に退職を申し出ている場合、民法上退職は認められ、退職を理由とする損害賠償を請求できないと考えられます。
【社会通念上の対応】
労働契約には、期間を定めたものと、期間の定めがないものとがあります。期間を定めた契約を結んでいるときは、やむを得ない事情がない限り、期間が満了するまで退職することは認められません。
しかし、期間が定められていない契約の場合には、基本的に社員は会社の許可を得ることなく、いつでも退職できます。
とは言え、社員が任せられている職務を引き継ぎせずに即日退職をすると、会社の営業に不利益を与えることになります。やはり事前に申し出をすることが「社会通念上」は求められます。では、法律上はどのようになっているのでしょうか。
【法律上の対応】
実は、労働基準法をはじめとする労働諸法令では、社員側からの退職申出の期日については特に定められていません。一方で、民法では以下の様に定められています。
<民法第627条第1項>
期間の定めのない労働契約については、各当事者はいつでも解約の申し入れをすることができ、解約の申し入れから2週間を経過することによって終了する。
つまり、社員側からの退職申し出については、一般法である民法の規定が適用され、原則として2週間以上前に申し出ればよいことになっています。今回のケースでは、2週間前という条件を満たしていれば、退職申し出そのものは有効になります。
ところで、就業規則上はしばしば「一般社員は1ヶ月前、役職者は3ヶ月前」などと民法上の規定よりも長めに期間を定めていることが多いですが、これは実は会社独自のルールとして定めているにすぎず、法律上は民法の規定が優先します。ただし、実務上は就業規則には長めに期間を定め、会社の慣習として退職社員の協力を求める方が良いでしょう。
社員は転勤命令を拒否できるか?
社員を転勤させる時、会社は一方的に勤務場所を変更できるのでしょうか?
完全に勤務地を限定している場合は、社員の同意がなければ変更はできません。しかし、そのような特約がなく、就業規則や雇用契約書に転勤の可能性が記してある場合には、常識的な範囲内で転勤命令ができます。
【転勤命令ができる条件】
労働契約を結ぶ際には、「就業の場所」や「職務の内容」など重要な労働条件をきちんと説明する必要がありますが、「転勤の可能性があるかどうか」も明示しなければなりません。この際に、勤務場所を限定していたのであれば、転勤命令は認められないでしょう。
逆に、そのような特約をしていない場合で、長期の雇用を見込んで期間の定めのない契約(※)を結んでいる時は、一定の期間が経過して条件がそろえば、会社は業務命令として社員の職務内容や勤務地を変更する権限を有すると考えられています。
※いわゆる正社員としての雇用契約
その条件とは、次のようなことです。
- 就業規則、雇用契約書などに、転勤を命じる場合があることを明記していること
- 業務上の必要性、合理性があること
- 場合によっては前例があること
まずは、1.就業規則や雇用契約書に転勤の可能性について記載されていることが求められます。そして2.人員の適正配置や、会社組織編成の変更、組織活性化等の目的で人員を移動する必要性がある、対象者の選定に一定の合理性があることも必要でしょう。さらに、3.その会社で同じように転勤命令が慣習化されているという状況も場合によっては必要です。
【転勤命令が無効になる場合】
これらの条件が整っている場合、原則として社員は特別な事情がない限り転勤命令を拒否することはできません。ただし、次のような場合にはその転勤命令は無効となることもあるでしょう。
- 業務上の必要性もなく転勤を命じる場合
- ほかの不当な目的で転勤を命じる場合
- 転勤命令が、社員に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合
会社は転勤の命令権を持ちますが、持病を持つ者や家族の介護をしている者など、私生活上特に配慮が必要な社員に対する転勤命令は慎重に判断する必要があるでしょう。
内定取り消しはできる?
採用内定を取り消すことはできるのでしょうか。取消は不可能ではありませんが、多くの採用内定は労働契約が成立したことを意味しますので、解雇と同様に慎重に行う必要があります。
「採用内定」は、「解約権留保付始期付雇用契約」が成立したものと言われます。言い換えると、「解約権も残っている、スタート時期を定めた雇用契約」ということになります。
採用内定の仕方は様々で、どんな内定でも解約権留保付始期付雇用契約が成立したことは一概に言えませんが、内定通知に「最終的な採否の決定は追って連絡します」といった(採用が確定していないような)記載がない限り、雇用契約は成立したものと考えられます。
こうして解約権留保付始期付雇用契約が成立すると、もう使用者は正当な理由なく内定を取り消すことはできません。なぜなら、雇用契約が成立しているということは、労働基準法上の解雇に関する定めの適用を受けることになるからです。なお、解雇理由には、合理性および社会通念上の相当性が必要です。
【採用内定取り消しができる具体例】
判例では、正当な理由とは「採用内定当時知ることが出来ず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らし客観的に合理的と認められ、社会通念上相当と是認することができる」ものとされています。
具体的な例をあげると、次のような場合が考えられます。
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- 新規学卒者が卒業できなかった場合
- 提出書類などに虚偽の記載があったり、虚偽の事実を述べた場合(虚偽の内容が軽微であるときは、内定を取り消しが認められない場合もあります)
- 採用後の業務に支障が出るほどの健康異常が発生した場合
- その他不適格事由があった場合(犯罪を犯した等の場合)
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これらは客観的合理性、社会通念上相当性という原則に照らしてみると、内定取り消しが認められる可能性が高いでしょう。しかしこれらの場合でも、内定時に「これらのことがあったら内定取消が起こること」を相手方に通知しておく等のリスク対策をすることをお勧めします。
【業績悪化による内定取り消しについて】
たとえば、予定通りの内定者を雇い入れると人件費が経営を圧迫していきづまることが明らかであり、すでに雇用している社員の解雇を回避するためには、内定取り消しはできるのでしょうか。
この場合は、上記の経営ひっ迫の事実のほか、内定取り消しを回避するために最大限の努力をしていたこと、内定のやむなきに至った時点ですみやかに取り消しの補償をするなど、とり得る措置を尽くす必要があります。内定取消回避のための努力の程度を見られるということです。
試用期間の延長はできるか?
試用期間を延長したい場合、どんな理由なら延長できるのでしょうか?
就業規則などの根拠がない試用期間の延長は原則としてできませんが、たとえ明文化されている場合でも、会社側からの恣意的な延長は難しいでしょう。
【前提】
まず、試用期間を設ける場合には、就業規則などでその期間をあらかじめ定めていかねばなりません。そして、「延長があるかもしれないこと」が明記されていない限り、この期間は原則として会社が一方的に延長できません。
また、たとえ明文化されていたとしても、一方的な試用期間延長は認められません。
なぜなら試用期間中は、会社側からみて解雇の有効性を主張しやすく、社員にとって不安定な状況であるからです。
ですから、たとえ試用期間を延長する場合がある旨の規定があったとしても、これだけを根拠として使用者が期間延長することは許されず、延長することについて合理的な理由が求められます。
【合理的な理由とは】
例)当初の試用期間中に採否の判断をできない場合
試用期間中に交通事故や私傷病等でやむを得ず欠勤をした結果、(会社としては試用期間に適格性を判断したかったのに)正社員としての適格性を判断できないことが考えられます。
この場合は合理性がある程度認められる余地がありますが、それにしても一方的な延長をせず、理由を説明して労働者の合意を取ることがトラブル回避のためには重要です。
なお、過去の判例では、「会社の慣行として長年にわたって試用期間の延長が随時行われてきており、社員も慣行によるものとして延長を受け入れた事実がある場合については、試用期間を延長することを認めた」ものもあります。
それぞれの会社の文化や風習も合理性判断の一因となります。いずれにせよ、試用期間延長の判断は慎重に行ってください。
退職願の撤回はできるか?
退職願が提出されたとき、いったん受理された後で撤回できるのでしょうか?
退職願の二つの性格によって、撤回の可否が決まります。
退職願には、以下二つの意味があると言われています。
- 退職の申し込み(相手の合意を要する)
- 労働者の一方的な意思表示(相手の合意を要しない)
「退職の申し込み」の場合は、退職願を出したあとでも、その後の話し合いによっては取下げられる余地があります。
しかし、2の労働者の一方的な意思表示は、会社の意思に関わりなく、期日の到来をもって自動的に労働契約関係を終了させるものです。
【1. 退職の申し込みの場合】
1の退職の申し込みの時は、会社が退職に合意したことをもってはじめて労働契約が終了します。この場合、会社による合意したという意思表示が、当該労働者に到達するまでの間は、社員は一方的にこれを取り下げることができることになります。反対に、到達後であれば、原則として社員は会社の承諾がなければ、これを取下げることができません。
ただし、例外として、社員が会社から詐欺とか脅迫によって退職願を出させられた場合には、撤回することが認められます。
【2. 退職願が「一方的な意思表示」の場合】
一方、2に一方的な意思表示である場合は、社員が退職願を提出した時点で、もう原則として社員は会社の承諾なしに取り下げることができません。
【二つの性格のどちらかを判断する基準】
社員が退職願を出したいきさつや理由を総合的に判断する必要があるのですが、一般的には社員が「慰留は受け付けない」とか「すでに転職先と約束してある」など、一方的な意思表示であることを明らかにする合動をとらない限り、退職の申し込み、つまり「会社の合意をもって初めて成立する」ことになるでしょう。
なお、会社側からの合意は必ずしも書面による必要はありません。口頭でも有効となります。
退職社員への賞与は必要か?
辞めた従業員にも、在社期間の賞与は出すべきでしょうか。
賞与支払いに関するルールを整備していれば、賞与支給日に在籍していない社員には支給しなくてもよいでしょう。ただし、トラブル予防のため自社におけるボーナスの性格をきちんと定義付けましょう。
【支給日在籍要件】
賞与の支給条件として、「支給日に在籍していなければ支払われない」という支給日在籍要件が明確に定められていれば支給対象者とはならず、賃金の不払いにはなりません。つまり、支給対象期間ずっと在籍していたとしても、支給日に在籍していなければボーナスは払う必要はないのです。
【賞与の性格】
法律上は賞与についての明確な定義はありませんが、一般には以下の3つの性格のいずれかを有すると言われています。
- 賃金の後払い的性格のもの
- 功労報酬的性格のもの
- 成果分配的(給与や賞与の支給額を、経営の成果に結び付けて決定する)性格のもの
賞与が「1. 賃金の後払い的性格のもの」である場合には、前述のような支給日在籍要件を設けるのは論理的に難しいでしょう。
しかし、「2. 功労報酬的性格のもの」であるならば、支給日在籍要件を設けることができます。功労報償とは、将来に向けたインセンティブ、つまり、「今後もしっかり働いてください」という動機づけであると解釈できるからです。
いずれにせよ、就業規則・賃金規程その他の規則で、賞与の支払い要件をきちんと定義しておく必要があります。
妊娠・出産を機に解雇してもよいか
妊娠・出産を機に解雇してもよいのでしょうか。
妊娠をし、出産を控えた女性従業員を解雇する事は、法律で禁止されているためできません。
【関係法令】
妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いに関する法令(男女雇用機会均等法 第9条第3項)
事業主が、厚生労働省令で定められている事由を理由に、女性労働者に対し不利益な取扱いをすることは禁止されています。
【厚生労働省で定める事由】
- 妊娠したこと
- 出産したこと
- 母性健康管理措置を求めたこと又は措置の適用を受けたこと
- 坑内業務・危険有害業務に就けないこと...又はこれらの業務に就かなかったこと
- 産休を申出たこと又は取得したこと
- 軽易業務への転換を請求したこと又は転換したこと
- 時間外労働、休日労働又は深夜業をしないことを求めたこと又はしなかったこと
- 育児時間の請求をしたこと又は取得したこと
- 妊娠又は出産に起因する症状により労働できないこと...又は能率が低下したこと
【禁止される不利益取扱いの例】
- 解雇すること
- 期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと
- あらかじめ契約の更新回数の上限が示されている場合に、当該回数を引き下げること
- 退職の強要や正社員からパートタイム労働者等への労働契約の変更の強要を行うこと
- 降格させること
- 就業環境を害すること
- 不利益な自宅待機を命じること
- 減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと
- 昇進・昇格の人事評価において不利益な評価を行うこと
- 不利益な配置の変更を行うこと
- 派遣労働者について、派遣先が当該派遣労働者に係る派遣契約の役務の提供を拒むこと
会社は、上記に抵触しないように取り扱いをしましょう。
広告と異なる条件での労働契約
求人広告と異なる条件で労働契約を結ぶ時、広告の内容通りの労働条件を結ぶべきでしょうか。
【広告掲載の条件は見込みである】
求人広告に記載された賃金額はあくまでも見込みであり、必ずしも広告どおりの労働条件で受け入れる必要はありません。
【労働契約申し込みの誘引】
一般に会社が社員を雇い入れようとする際には、新聞や求人雑誌に求人広告を出したり、ハローワークに求人票を提出したりします。当然これらには、求職者が応募するかどうかを検討するために賃金や労働時間などの条件を提示します。
こうした募集にかかわる行為は、法的には「労働条件申し込みの誘引」と考えられ、求人広告などを見て求職者が応募する行為は「契約の申し込み」となります。そして、この契約の申し込みを受けた事業主が、採用面接などの段階をへて採用を決定した時点で、はじめて労働契約が成立します。
つまり、求職者が応募してきた時点では、まだ労働契約は結ばれていないのです。
【実際の条件が違いするのは問題である】
求人広告で示した条件で雇い入れる必要はないとしても、求人者は提示された条件を判断材料として応募したのですから、あまりに条件が違いすぎることも問題です。
ですから、広告や求人票などの条件は一応の目安であるといってもなるべく実際の労働条件もこれに合わせることができる程度に柔軟な対応をするのが望ましいといえます。
実際の判例でも、求人広告は就職申し込みの誘引なので、採用面接で広告の賃金額を異なる合意があれば「労働者を保護する特別の事情がない限り、その合意に従って賃金額が決定される」とされており、広告の条件と面接で合意した条件が異なることは何ら問題がないとされています。
求人者は、「むやみに、求人票記載の見込み額を著しく下回る額で賃金を確定すべきではない」ということを覚えておきましょう。
試用期間の話
本採用の前に試用期間を設けるとき、試用期間はどの程度の長さまで認められるのでしょうか。一般的には、1ヶ月~6ヶ月ほどの期間が設定されます。
【試用期間】
会社が本採用を決定する前に、社員の職務遂行能力や適性などを判断する期間を言います。
【試用期間の長さに法の規制はない】
試用期間の長さについては、法の規制はありませんが、一般的には1ヶ月~6ヶ月ほどの期間が設定されます。
1年間の試用期間を設ける企業もありますが、社員の立場が不安定であることから、あまり長すぎる試用期間は無効とされることがあります。
また、試用期間中であっても、雇い入れの日から14日を経過すると解雇予告が必要です。さらに、「おおむね6ヶ月を経過すると、最低賃金法の適用除外者でなくなるとする」という判例もありますので、注意が必要です。
【試用期間が不当に判断される場合】
<例1>
すでにパートタイム社員として務め、正社員と同じ業務について2年間勤めている人を1年の試用期間ののち、正社員として採用する場合。
すでに一般社員と同じ業務について相当の期間が経過しているとういう事実があるので、適性を判断するには、ごく短い期間で十分と考えられます。したがって、設定した試用期間は不当に長いものと判断される可能性が高くなります。
<例2>
試用期間の本来の目的を逸脱し、賃金を低く抑えることを目的とした試用期間。
実際、あるメーカーが1年を超える試用期間を設けて争われた判例では、まず、試用期間中の労働者は、賃金や雇用の面で不安定な地位に置かれることを認め、1年を超える試用期間は公序良俗に反すると判断しています。
つまり、1年を超える試用期間は必要以上に長すぎると認めたわけです。
もちろん、業種や職種、本人の経歴など、様々な要因によって必要とされる試用期間の長さは異なりますが、使用者は、試用の目的に沿った形で試用期間を設ける必要があります。
健康保険の任意継続制度
健康保険の任意継続とは、
【要件】
だれでも任意継続ができるわけではなく、次の要件があります。
(2)資格喪失日から「20日以内」に申請すること。
(
【任意継続をしたほうが有利な場合】
任意継続をしたほうが有利な場合とは、保険料で比較して任意継続の保険料が低いときです。
任意継続の保険料は、以下のルールにより決まります。
- 退職時の健康保険の標準報酬月額を引き継ぎます
- ただし、任意継続における標準報酬月額の上限は28万円です
- 在職時に会社が半額負担してくれていた分も本人が負担します
(つまり健康保険料の負担が倍になります)
この「上限28万円」がポイントで、退職時の給与が高額な場合、たとえば過去3年の月額給与が100万円であっても、任意継続の保険料は28万円をもとに決められます。一方で国民健康保険の場合は「前年の所得」
つまり、
蛇足ですが、社会保険労務士試験の時には
「ニンケイは2年、2ヶ月、20日」と覚えたものでした。
問題社員の解雇②
問題社員の解雇、特に能力不足の社員を解雇する場合には、問題点の改善のための教育・研修をしているかどうかが重要です。また、問題社員の「問題」を客観的に証明できるかも重要です。
以下、問題社員の解雇事案の際に裁判所が重視する点について説明します。
<問題の程度>
【1.勤務態度不良の程度】
お客様からのクレーム事実が、「日付」「状況」「クレーム内容」など詳細に記録されているでしょうか。たとえばクレームがあった場合には、「クレーム報告書」などの所内書式に基づいて本人から報告をさせることでそのクレーム事実を証明しやすくなります。
【2.問題発生の回数】
何回も同様の種類のトラブルを繰り返していることは解雇しやすい方向の要素になります。「何回も指導したのだけど改まらなかった」という状態であることです。
【3.問題点、問題行動について会社の指導があったのか】
解雇する前に十分な注意、指導、教育を行っているかが大事です。長期間複数回にわたってきっちりとした注意指導をするほど解雇しやすい方向になります。
指導の事実は「指導書」などの書面化するほか、口頭や電話、メールなどでの指導も「〇月〇日に〇〇という事案について△△という方法でこのように指導し、改善の意思を確認した」などの記録しておくべきでしょう。
【4.改善指導について、本人の態度はどうだったか】
改善指導、いわゆるイエローカードに対して本人がどのようにリアクションしたかも重要です。
【5.他の社員との公平性はあるか】
同じような問題行動・ミスをした他の社員はどんな処分を受けていたかも重要です。そこに不公平がある場合は解雇しにくくなります。
以上のことから、「教育指導をしつつ、その指導事実を記録しておくこと」が、解雇の有効性を考える上で重要になるでしょう。
問題社員の解雇①
問題社員の解雇については、ご存知のようにかなり高いハードルがあると言っていいでしょう。
日本では、終身雇用制度を前提とした労働理論が発展しており、社員を一人前に育てて、その能力を高めるのは採用した会社の責任であるという考え方がベースになっています。つまり、問題社員(特にその能力不足による)の解雇については、「会社側がその問題点を注意・指導する段階があるかないか」が重要になってきます。
以下、問題社員の解雇事案について裁判所で重視される要素を示します。
【1.解雇する前に、配置転換や職種の変更などで様子をみたか?】
他の上司のもとで異なる職務をさせると、能力を発揮しだすこともある。そのチャンスを与えているのかを見られます。環境か仕事内容を変えてみたか、ということです。
【2.会社側に落ち度はないか?】
問題社員の問題について、会社の制度や体制に落ち度がないかを見られます。会社にも原因がある場合、一方的な解雇は不公平とされる可能性があります。
例)教育や研修が不十分である、上司の指示が不明確・不適切である
【3.即戦力として中途採用された者か、新卒か?】
新卒であれば、とくに会社の教育責任の度合いは強いでしょう。単に期待された能力がないことだけで解雇をすることは難しくなります。一方、即戦力として中途採用された者について、その採用面接で「即戦力として求めている能力」をはっきりとさせ、かつ、それが一定の常識的な条件下で出来ないときには解雇等もあり得ると伝えている場合は、解雇の有効性が高くなるでしょう。
【4.勤続年数はどのくらいか?】
勤続年数が長ければ、基本的な能力には問題がないはずだという推定が働きます。つまり、「基本的な能力が足りないならばもっと早い段階で処分や再教育があったはず」という考えが出てきます。
これらを考えると、経営者は雇入れの段階から「教育コストはかかるもの」という認識でいたほうがよさそうです。
私生活上の犯罪・非行に対する解雇は有効かどうか?
酒に酔って暴力事件を起こした、窃盗や不法侵入などの犯罪行為を働いて逮捕された、痴漢等の性犯罪の加害者となったなど、私生活上の犯罪行為や非行を理由とした解雇は有効でしょうか。
私生活上の犯罪行為等について、会社として心情的に許せなくても、安易に解雇をしないように注意をしなければなりません。以下のポイントに沿ってその是非を検討してください。
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【1.犯罪の程度】
「懲役刑なのか、数千円の罰金刑なのか」といった刑罰の重さは解雇有効性に影響を与えうるポイントです。例えば、酒に酔って住居不法侵入により罰金刑に処された社員を解雇した事案では、懲戒解雇の相当性がないということで解雇無効の判決が下されました。
【2.職種】
職業に貴賎はないとはいえ、その職業に特に求められる倫理と、起こした犯罪のバランスもポイントとなります。プロボクサーが暴力事件を起こした場合は厳しく罰せられるのと同様に、例えば乗客の痴漢を厳しく取り締まるべき鉄道会社の社員が自ら性犯罪を犯した場合は、解雇の有効性を認められやすいでしょう。
【3.就業規則上の根拠】
もちろん就業規則上にその根拠がなくてはなりません。「刑法上の犯罪を犯し、会社の信用を著しく落とした場合は、懲戒解雇とする」などの規定があるかを確認しましょう。
【4.会社の信用を落とした程度】
「事件がメディア報道をされた」「会社にマスコミの取材が来た」などの事実の有無と、その程度もポイントとなります。
【5.解雇の場合に労働者が受ける不利益の程度と、事件とのバランス】
「解雇となった時に、退職金が不支給または減額となる」などの規定がある場合、そのマイナス分と事件の重大性のバランスが取れていることも求められるでしょう。
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上記ポイントを踏まえて処分を検討してください。
以上、私生活上の犯罪非行による解雇についてでした。
整理解雇の4要件
解雇のうち、主に会社の財務や戦略上の必要性から行うものを「整理解雇」といいます。(俗に言う「リストラ」とほぼ同義です)
整理解雇が認められるのは、判例上以下の4つの要件を満たす場合とされています。
1.整理解雇の必要性があること財務上、または経営戦略上、当該解雇が「どの程度必要であったか」が問われます。例えばある部門の業績が著しく悪い場合などは、部門下の社員の解雇必要性が比較的高いと言えます。
2.解雇を回避する努力をしていること日本では特に解雇に対して高いハードルを設けていますので、整理解雇の是非を問う時は「解雇回避のために会社がした努力の程度」を加味されます。例えば、他の部門への配置転換を打診したか、希望退職を募ったか、などがこれにあたります。
3.人選に妥当性があること解雇対象となる労働者を選ぶ基準が公平であることも要件になります。例えば、高年齢者のみを解雇対象とすることは、人選の公平性をはかる上で会社にマイナスに働きます。
4.説明責任を果たしていること解雇にあたり事前に十分な説明を行っているかも重要です。唐突な解雇通告は労働者の生活を脅かしかねないため、この要件があるものと思われます。
整理解雇の是非を問う時、以上の4つの要件がどの程度みたされているかがポイントになります。リストラ事案に直面している会社の人事担当者の方は、上記の4要件に照らし合わせてみてください。
以上整理解雇についてでした。
解雇の話②
解雇を「するか」「しないか」という場面に直面したとき、経営者・担当者は何を拠り所にその決断をすればよいのでしょうか。
解雇をめぐる事案には大抵多面性があるため、その決断は慎重に行わなければなりませんが、それを「損得」という二元論で考えた場合には、次の各要素を対比させて考えることができます。
(解雇を是(得)とする理由)
1.下記の例のように、その者を雇い続けることで回避できるリスクがあるから
・素行に問題があり企業秩序維持に著しい支障をきたす
・生産性が著しく低く、雇用継続が人件費の無駄以外の理由を持たない
・業務上外の素行不良事実を看過すると企業モラルの低下が起きる
2.財務上や、ワークフロー上の無駄が減ることで効率化を期待できるから
(解雇を非(損)と考える理由)
1.法律要件たる「合理性・相当性」が十分でない場合、解雇無効を巡る訴訟が起きるかもしれないから
2.残業代未払いなどの法律違反が明るみになり、さらなる金銭ダメージが起こるかもしれないから
3.助成金が不支給になるなどの副次被害があるかもしれないから
会社は上記を踏まえて、状況に則した判断をしなければなりません。
以上「解雇を損得で考える」でした。
解雇の話①
「日本では解雇をしにくい。だから正社員雇用は慎重にしなければ・・・」
と巷で言われていますが、その根拠はどこにあるのでしょうか。
本稿では、解雇にまつわる法律について解説します。
解雇の有効無効については、次の二つが重要なポイントとなります。
1.解雇は、「客観的にみて合理性があり」、「社会通念上の相当性がある」ことを求められる。
客観的な合理性の有無とは、『解雇という重いペナルティーに見合うほどの事実があったか』と解釈できます。その事実は「労働者の問題(横領や無断欠勤など)」と「会社の問題(業績悪化など)」に分類され、過去の判例を拠り所にしてその合理性を判断することになります。
また、社会通念上の相当性とは、「いわゆる一般人10人に解雇の是非について聞いてみたとして、8人~9人が『解雇止むなし』と考えるかどうか」と解釈できます。
上記を満たさない場合は、解雇無効(効力なし)となり、その人との雇用関係は継続することになります。
2.解雇が有効だったとしても、多くの場合「事前予告」をしなければならない。
1の要件をみたす解雇であったとしても、急なクビをするとその人の生活に支障がでる(かもしれない)ために、30日以上前の予告が求められるわけです。
※予告についてはさらに詳細な決まりごとがあります。
「合理性・相当性」と「予告」。労使トラブルを防ぐためにも、解雇のことを考えるときにはまず思い浮かべて欲しいポイントです。
トラブルを予防する雇用契約書の書き方のコツ② (試用期間)
雇用契約書に潜むトラブルのタネ、今回は「試用期間」についてです。
試用期間は法律上定めなければならないものではありませんが、実際には社員としての適格性を見るために(あるいは労働者側が会社の風土にならって働けそうかを判断するために)試用期間を定めることが多いです。
また、試用期間は1~3ヶ月とするケースが最も多いです。これについても法律上の根拠があるものでなく、半年でも1年でも構いませんが、あまり長い試用期間が
実際には採用されていないことから、長すぎるものは実用性に欠けるのでしょう。
では試用期間にどこにトラブルのタネが潜んでいるか。それは
①試用期間中ならいつでも即時解雇できるという会社側の誤解
②試用期間で適格性の判断ができない場合の取り扱いについてのルール未整備
この二つが挙げられます。
①試用期間中であっても雇い入れから14日を経過した場合は、30日以上前の解雇予告が必要です。また、解雇には合理性と社会通念上の相当性が必要です。
②試用期間の延長の可能性についても雇用契約書上で言及するとよいでしょう。
同時に、就業規則上も試用期間延長の規定をしておきましょう。
試用期間はよく「お見合い」に例えられます。ミスマッチが起らないように自社に合った定めをしましょう。
トラブルを予防する雇用契約書の書き方のコツ① (転勤)
雇用契約書には、実はいろんなところに労使トラブルの種が潜んでいます。
例えば「就業の場所」。
就業の場所は労働基準法上明示しなければならない項目ですが、そこに転勤の可能性を明記していますか?
広域的に事業展開をされている場合など、将来転勤をさせる可能性が少しでもあれば、その旨記載しておきましょう。
転勤拒否を巡る解雇等トラブルを防ぐには、下記の三つが出来ていることが必要です。
1、雇用契約書にきちんと記載する
2、就業規則にも同様に記載する
3、一方的に決めずに家庭の事情も考えた話合いの機会を持つ
1、雇用契約書にきちんと記載する
これは個別の労働者と転勤についての合意がなされたことを記録する目的があります。
2、就業規則にも同様に記載する
これは転勤が「会社のルールとしても定められている」ことを示すためです。
3、一方的に決めずに家庭の事情も考えた話合いの機会を持つ
実際に転勤を命ずる場合は、上記2つを踏まえた上で、さらに慎重な伝え方をしましょう。相手も人間ですから、環境変化に過敏に反応することがありあす。
チョットしたコツで防げる労使トラブル、今回は転勤について取り上げました。
ご質問ご相談はお気軽に当事務所までお寄せください。