GOLGOのひとりごと
【会社を守る!・リスク管理】記事一覧
- 2017.11.26
- SNSの発信を会社が取り締まることができるか
- 2017.11.19
- インフルエンザにかかった社員への対応
- 2017.10.15
- 社員が会社のお金を横領・窃盗したら?
- 2017.10.09
- 遅刻や無断欠勤への対処
- 2017.09.29
- 注意するとパワハラ呼ばわりする社員
- 2017.09.04
- 退職勧奨と解雇は同じではない件
- 2017.08.20
- 通勤災害とは
- 2017.05.28
- アルバイトやパートにも雇用契約書が必要か?
- 2017.04.24
- 通勤中にケガをしたら
- 2017.04.09
- 研修中の安全配慮義務
- 2017.03.23
- 出張や社員旅行などで泥酔してけがをした場合に労災保険は使えるか?
- 2017.03.07
- アルバイトの労災保険
- 2017.03.01
- 社員が自主的にサービス残業していると会社は罰せられるか?
- 2017.02.21
- 上長の指示に従わない社員への対応
- 2017.02.14
- 無断欠勤!無断遅刻!
- 2017.02.07
- パワハラとは
- 2017.01.17
- 試用期間に問題社員を解雇する場合
- 2017.01.11
- 過重労働撲滅特別対策班
- 2017.01.04
- 賃金構造基本統計調査には協力せねばならない?
- 2016.09.20
- 有期雇用契約の注意点2
- 2016.09.14
- 有期雇用契約の注意点1
- 2016.08.24
- 休職者の職場復帰をどう判断するか?
- 2016.08.09
- 年金事務所の調査
- 2016.07.12
- 監督署の調査の種類
- 2015.12.22
- 人事労務の環境整備不足は「負債」である
- 2015.11.02
- 団体交渉の注意点
- 2015.10.27
- 労働組合からの団体交渉
- 2015.10.20
- セクハラの定義
- 2015.10.12
- セクハラ対策
- 2015.09.22
- 自主的な残業への残業手当問題
- 2015.09.15
- 協調性のない社員を解雇できる?
- 2015.07.15
- パワハラの定義について
- 2015.05.05
- 解雇が無効になった場合の金銭支払
- 2015.02.10
- 労働組合法を知ってますか
- 2015.01.19
- 退職勧奨の注意点
- 2014.12.25
- 解雇の有効・無効
- 2014.12.20
- メンタル疾患の労災認定
- 2014.10.14
- 音信不通の社員への対応
- 2014.10.09
- 研修時間は労働時間か?
- 2014.09.19
- 従業員の身辺調査はどの程度許されるか?
- 2014.08.19
- 退職の多い時期に退職を防ぐ対策
- 2014.08.05
- タイムカードは無い方が良い?
- 2014.07.20
- 契約社員に辞めてもらう際の注意点
- 2014.07.05
- 社員が勤務中に倒れた場合、労災は?
- 2014.06.30
- 労災保険に入ってないのに労災事故が起きたら?
- 2014.06.15
- 退職社員と守秘義務
- 2014.06.05
- 健康診断の義務
- 2014.05.25
- 休憩時間中のケガと労災保険
- 2014.05.14
- 通勤経路の重要性
- 2014.04.19
- 家族従業員の扱い方
- 2014.03.09
- 派遣社員が仕事中にけがをした場合
- 2014.02.19
- 労基署の臨検で違反が発覚したら?
- 2014.02.09
- 副業を禁止できるか?
- 2014.02.04
- 遅刻の多い社員への対応
- 2014.01.29
- 労働基準監督官の持っている権限とは
- 2014.01.24
- 労働基準監督署の臨検とは?
- 2014.01.19
- 派遣と請負の違いは?
- 2014.01.14
- セクシュアル・ハラスメントの境界線
- 2013.12.19
- 社長の労災
- 2013.12.05
- 社員を他の店舗へ転勤させるときの注意点
- 2013.11.15
- 仕事中にケガをした場合の対応
- 2013.11.09
- 賃金や労働時間などの労働条件は口頭の説明だけでよいか?
- 2013.11.04
- 社会保険の調査で調べられること
- 2013.10.14
- 接待でお酒を飲む事は業務と認められるか?
- 2013.10.05
- 「検索文化」が労使トラブルを助長する?
- 2013.09.23
- 外部の労働組合から団体交渉を申し込まれたら?
- 2013.09.21
- 社内不倫を理由に解雇できるか?
- 2013.09.16
- 休職を繰り返すうつ病社員への対応
- 2013.09.07
- 社員が裁判員に選ばれて仕事を休まれたら?
- 2013.09.03
- 内部告発にどう対応するか?
- 2013.08.31
- 社員が過労死したら会社の責任?
- 2013.08.26
- 過労で社員が自殺したら、会社の責任?
- 2013.07.30
- 職種の変更はできる?できない?
- 2013.07.25
- 出向に関する労働者の同意
- 2013.06.20
- 社員にペナルティを課すには
- 2013.06.10
- 無断で残業された場合の残業手当は?
- 2013.06.05
- 資格取得費用の返還請求
- 2013.05.24
- 管理監督者とは?
- 2013.05.15
- 配置転換による給与の引き下げ
- 2012.12.28
- ネット社会における内部告発対策
- 2012.10.19
- 現場から見た労使紛争の治療と予防
- 2012.08.19
- 業務上事故の使用者責任
- 2012.06.26
- 年金事務所の調査が増えています
- 2012.05.22
- 社会保険協会への入会は義務ではありません
- 2012.01.15
- 企業が持つべきソーシャルメディア「防衛策」
- 2012.01.03
- 「雇用契約書」が大切な本当の理由②
- 2011.12.15
- 「雇用契約書」が大切な本当の理由①
- 2011.11.01
- 残業代をめぐるトラブルの防止策②
- 2011.10.01
- 残業代をめぐるトラブルの防止策①
SNSの発信を会社が取り締まることができるか
ブログ、facebook、ツイッターなどSNSが普及し、ネット上にいろいろな書き込みが手軽にできるようになりました。このことにより「会社の悪口を書く」「同僚同士のいじめや誹謗中傷が起こる」「会社の秘密情報をばらす」などの新たな労務問題の発生リスクが高まりました。企業はSNSについてどう対応したらよいでしょうか。
ポイントは「企業秩序」:
各人には原則として憲法で保障された言論の自由がありますので、個人的な信条や感情をブログなどで表現することについて会社は制限をする立場にありません。しかし、社員には集団行動をする上で団体の秩序を守る義務が当然に課せられていると解されるため、「会社のブランドイメージを壊す」「書き込みの内容が事実に反しており、風評被害を招く」、「機密情報を漏洩する」、「社内不和を招く」恐れがある場合など、「企業秩序を乱す」場合は、懲戒処分(ペナルティー)の対象とすることが考えられます。
行き過ぎたSNSの使用に対しては、懲戒処分により抑止する方策を考えましょう。
懲戒の対象と考えられる書き込み内容とは、以下のものが挙げられます。
・事実に反するもの
・批判内容が社会的に相当な範囲を逸脱して不穏当な誹謗中傷となるもの
・機密情報を漏洩するもの
・上司・同僚の個人攻撃をしているもの
就業規則に根拠条文を追記する:
まず、就業規則に懲戒の根拠となる以下のような規定を整備します。
「正当な理由なく、会社の名誉又は信用を損なう行為をしないこと」
「インターネット上に、会社や会社の社員に関する事項を掲載しないこと」「秘密情報を漏洩しないこと」「犯罪行為を自慢するような反社会的動画などを掲載しないこと」 など、できるだけ禁止行為を列挙しておきましょう。
内容によっては会社の信用を失墜させたことを理由として、行為をした社員に対し損害賠償請求をすることも考えられます。
インフルエンザにかかった社員への対応
体調不良により急に仕事を休む社員がいると現場に支障をきたしますが、インフルエンザ等感染する病気にかかった場合など、他の従業員に伝染しないように無理に出勤させず休ませた方が良いこともあります。インフルエンザなどで社員を休ませた場合、賃金等の処遇においてはどうすれば良いでしょうか。
法定伝染病とそれ以外では対応が異なる:
法定伝染病の場合、労働安全衛生規則第61条第1号において「病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾患にかかった者」については「その就業を禁止しなければならない」と定められています。言い換えると、会社は病気の拡散を防ぐために病気の社員を出社させてはいけないということです。
<病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾患>
結核、梅毒、淋病、トラコーマ、流行性角膜炎
上記に準ずる伝染性疾患(感染症予防法18条)
一類、二類、三類感染症の患者※
※エボラ出血熱、ペスト、鳥インフルエンザなど
これらの病気については、法律で出社させてはいけないと定められているため、当然に給与の支払い義務はありません。また、会社都合で休ませた時に発生する「休業手当」の支払いも不要となります。
インフルエンザは対象外
ところがインフルエンザ等(はしか、風疹、ノロウイルス等)は、感染症予防法の分類上、就業禁止の対象となるべき法定伝染病には該当しませんので、会社ごとに対応方針を決める必要があります。
通常は病気が社員へ拡散することを防ぎたいでしょうから、休業を命じることになるでしょう。その場合会社都合による休業になります。したがって、最低でも休業手当(平均賃金の60%)の支払いが必要となります。
もっとも、有給休暇を当人が取得して100%給与を受け取る権利もあります。
法定伝染病とそれ以外では就業禁止の根拠及び賃金の支払いの取り扱いが違うので注意が必要です。
社員が会社のお金を横領・窃盗したら?
現金を取り扱う部署では、従業員の金銭上の不正にも特に注意しなければなりません。また、会社の備品を不正に持ち帰るような行動も取り締まる必要があります。従業員が現金を横領したり、会社の備品を盗んだりしたことが発覚した場合、会社はどのように対応すればよいでしょうか。
まずは事実確認
当然ながら、横領や窃盗が事実であるかどうかを確認することが最も優先します。確たる証拠がない段階で問い詰めた場合、しらを切られ、不正の隠蔽をされてしまう可能性もありますので、しっかりと調査をしてください。
証拠が確かに存在する場合は、当人と面談し、不正が事実であることを認めさせる必要があります。事実を認めさせる方法としては、口頭でなく「顛末書」など書面で行うことが望ましいでしょう。顛末は「横領・窃盗時期、回数、金額、方法、使途、返済の意思の有無、返済の時期、方法」など、できるだけ詳細に書かせるとよいでしょう。
処分決定
顛末書並びにさらなる周辺事実の調査をした上で、当人に対する処分を決定します。処分が下るまでの間は、証拠隠蔽などを防ぐため自宅謹慎を命じることも検討してください。
金銭の横領や窃盗は「刑法犯」です。したがって刑事告訴するかどうかという問題が生じます。刑事告訴するかどうかは、横領・窃盗した金銭の額や頻度、横領・窃盗した金額の返済の有無などによって判断することとなります。
多くの就業規則には「窃盗や横領」の類の刑法犯は大きく信頼関係を損なう事案であるため、「懲戒解雇事由」として規定されています。温情で諭旨退職扱いにすることはあっても、秩序維持のため、原則としては厳しく処分を行うべき事案です。
いずれにせよ、慎重な調査と冷静な判断が必要ですので、社労士など専門家にも意見を聞きながら処分検討をしてください。
遅刻や無断欠勤への対処
遅刻や急な欠勤、または無断欠勤が多い従業員は、組織に一定の割合で存在します。彼らの行動は、時間を「自分中心」に捉えており、人へ与える迷惑を考えていない点で問題があります。業種・業態によっては柔軟な働き方がふさわしく、厳格な時間管理が馴染まないものもありますが、それでも対外的な印象や、社内で時間をちゃんと守っている従業員とのバランスを考えると、注意指導する必要があるでしょう。
① 記録:
当然ながら、遅刻や無断欠勤の事実を記録しておくことが重要です。タイムカードその他の方法で不正打刻ができない環境を整え、遅刻や無断欠勤の事実を明らかにし、記録しておきましょう。
② 本人の言い分を聞く:
次に、遅刻や欠勤について本人から理由をヒアリングします。病気が原因である場合などやむをえない理由がある時は、状況に応じて特別な対応をすることがあるかもしれません。
③ 再発防止策を指導する:
それから、遅刻や無断欠勤などをしないようにするための「再発防止策」を本人から出させて、指導書などに記録をすると良いでしょう。会社の対応として書面記録をするすることは、本人への自覚をより一層促す意味でも効果があるといえます。ただし、始末書の提出については、会社が作成した雛形を「強要」することは避けてください。
それでも態度が改まらず、無意味な遅刻を繰り返してしまう場合、さらに重い退職勧奨、あるいは懲戒処分として一番重い懲戒解雇といった処分も段階的に検討すべきかもしれません。
注意するとパワハラ呼ばわりする社員
労働者の権利意識の高まりから、パワハラという言葉をよく聞くようになりました。しかし当然ながら部下への指導の全てがパワハラになるわけではありませんし、パワハラと言われることに過敏になるあまり、上司が部下に対して何も指導できなくなってしまうことも組織運営上の問題があります。
厚生労働省においてパワハラは次のように定義されています。
1、 同じ職場で働くものに対して
2、 職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に
3、 業務の適正な範囲を超えて
4、 精神的・身体的苦痛を与える
5、 または職場環境を悪化させる行為
ポイントとなるのは3「業務の適正な範囲を超えて」という箇所でしょう。
業務上必要な範囲とは、例えば「放置すると重大なクレームを招く行動」「社会通念上当然に守るべき規律を守らない言動」「同様の職務にあたっている他の従業員と比べて著しく仕事の手段及び方法が適切でなく、能率が低い業務遂行」という事実に対してであれば、適正な範囲内と主張できるのではないでしょうか。
ただし、それがあまりに長くの時間にわたる執拗な叱責であったり、暴力を伴うものであったりした場合、4「精神的・身体的苦痛」に該当するとみなされる可能性はあります。
上司としては、できるだけ客観的事実に基づいて冷静に部下の芳しくない行動を指摘し、改善を促すようにしたいものです。
退職勧奨と解雇は同じではない件
退職勧奨とは、会社からの労働契約解除の「提案」を言います。提案するのも自由であると同時に、その提案に社員が応じるかどうか(退職するかどうか)は当人の意思にまかされ、社員が「合意」することをもってはじめて退職となります。
一方、解雇は本人の意思に関係なく「一方的に」労働契約を打ち切るものです。一方的な契約解除であるため、法律で「客観的合理性と社会通念上の相当性がないと解雇無効」と、その要件が厳しく設定されているというわけです。
上記のような違いがあるため、退職に関する平和的解決のために退職勧奨措置が取られることが少なくありません。ただし、両者には明確に定義に異なりがありますが、処分が用いられる場面は似ています。どちらも「やめてほしい事情がある」わけです。
退職勧奨とはそもそも退職を強要するものではないため、原則として制約はありません。どんな事情であっても構わないわけですが、実際には多くの労働者は給与収入が唯一の生活手段でしょうから、退職勧奨により退職を提案する場合、それなりの事情(会社の経済事情、人員過剰、業務への適性など)を説明し、理解・納得してもらう必要があります。
ただし、退職することを説得するための手段、方法が「社会的相当性を欠く」場合は、違法な退職勧奨とみなされることがあります。
社会的相当性を欠く退職勧奨とは、次のようなものです。
・強迫、詐欺に類する行為があった場合(部屋に閉じ込めて説得したり、大声で怒鳴ったりした場合)
・暴力行為があった場合
・仕事を減らすなど、嫌がらせ行為があった場合
・退職を断っているのに執拗に説得を繰り返す場合
違法な退職勧奨による退職は、「無効」もしくは「取り消される」こととなります。専門家の意見を聞きながら慎重に行う方が良いでしょう。
通勤災害とは
通勤災害とは、労働者が通勤により被った負傷、疾病、障害又は死亡を言います。ある事故が通勤災害となるか否かは、次の基準により決まります。
言葉の定義:「通勤」
この場合の「通勤」とは、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くとされています。
(1)住居と就業の場所との間の往復
(2)就業の場所から他の就業の場所への移動
(3)住居と就業の場所との間の往復に先行し、又は後続する住居間の移動
ただし、移動の経路を逸脱し、又は移動を中断した場合には、逸脱又は中断の間及びその後の移動は「通勤」とはなりません。
言葉の定義:「就業に関し」
通勤とされるためには、移動行為が業務に就くため又は業務を終えたことにより行われるものであることが必要です。したがって、被災当日に就業することとなっていたこと、又現実に就業していたことが必要です。この場合、遅刻やラッシュを避けるための早出など、通常の出勤時刻と時間的にある程度の前後があっても就業との関連性は認められます。
言葉の定義:「合理的な経路及び方法」
就業に関する移動の場合に、一般に労働者が用いるものと認められる経路及び方法をいいます。合理的な経路については、通勤のために通常利用する経路であれば、複数あったとしてもそれらの経路はいずれも合理的な経路となります。
また、当日の交通事情により迂回してとる経路、マイカー通勤者が貸切りの車庫を経由して通る経路など、通勤のためにやむを得ずとる経路も合理的な経路となります。しかし、特段の合理的な理由もなく、著しい遠回りとなる経路をとる場合などは、合理的な経路とはなりません。
次に、合理的な方法については、鉄道、バス等の公共交通機関を利用する場合、自動車、自転車等を本来の用法に従って使用する場合、徒歩の場合等、通常用いられる交通方法を平常用いているかどうかにかかわらず、一般に合理的な方法となります。無免許運転の自動車などは、合理的方法とはみなされない可能性が高いでしょう。
アルバイトやパートにも雇用契約書が必要か?
週に数日しか働かないアルバイトや時間の短いパートタイマーに対しても雇用契約書を取り交わすことが必要です。
根拠は、まず労働基準法第15条に、「労働条件の明示義務」が定めてあるからです。雇用契約期間や業務内容、勤務場所、賃金や退職に関する事項は、書面によりどのような従業員に対しても交付しなければなりません。逆に言うと、その書類を交付していないことで労働基準法違反になるということです。
また、その法律のあるなしに関わらず、雇用契約書は働く条件を記した書類ですから、トラブル防止のために取り交わすことをお勧めします。近年では、パートやアルバイトであっても残業代や休日休憩、解雇についてトラブルが多くなっています。
非正規雇用の割合が増えている今にあっては、パートやアルバイトでも労基法をはじめとした権利関係を知っており、その権利主張を強くするタイプの従業員と感情的な対立をしてしまうと、退職時に思わぬトラブルに発展してしまうかもしれません。
パートやアルバイトに対しては、とくに「契約期間及び更新の有無」「更新の判断基準」「職務内容」についてトラブルとなることが多いでしょう。専門家の力を借りながらしっかりとした書面を取り交わしてください。
ちなみに、労働条件の明示は会社側が一方的に行っても問題ありませんが、お互いが内容に合意したことを証拠として残すためにも、双方の署名や記名押印がなされた「雇用契約書」の様式になっていたほうがベターでしょう。
通勤中にケガをしたら
「通勤災害」という言葉を聞いたことがありますか?
通勤災害とは、「労働者の通勤による負傷、疾病、障害または死亡」をいい、通勤災害と認められると、労災保険の補償対象として、一定の保険給付が受けられます。
たとえば、いつもの利用している駅で、たまたま階段を踏み外してケガをしてしまった場合は、通勤災害として考えられます。
では、会社に行く途中であれば何でも通勤災害になるか?といえば、そういうわけではありません。
ここでいう「通勤」とは、原則として「住居」と就業の場所との往復の移動を、合理的な経路および方法で行うことをいい、業務の性質があるもの(出張など)を除くものとされています。 「住居」は、就業にあたり、日常生活の拠点となっている場所をさします。
冒頭の駅でケガをした例は、「住居」から出発して、就業場所へ向かう途中の駅でのアクシデントでした。
では、「住居」から出発してすぐにケガをした場合はどうなるのでしょうか。
通勤経路は、一般の人が自由に通行できるかどうかにより区分されることになっているので、通常は門や扉または戸外が境界となります。このため、家を出てから、自宅の庭を通る際にケガをした場合は、認められないケースがほとんどとなります。マンションの廊下で転んだ場合は、共用スペース(=自由に通行できる)にあたるため、通勤災害となるでしょう。
新入社員や春の人事で異動となった社員も、毎日の通勤に慣れてきた頃でしょうか。同じように通勤しているつもりでも、どこでケガをしたのかで、扱いが大きく異なる点に、注意してください。
研修中の安全配慮義務
企業研修において、歩行、アウトドアなどの運動や、大声を出させるなどのいわゆる「体育会系」なものを行う場合、社員のキャラクターを見極めながら、健康と安全について注意をしたほうがよいかもしれません。
企業には労働者の安全に配慮する義務=安全配慮義務があり、受講者の体力を鑑みることなく過酷な研修を行った結果心身に不調をもたらした場合、企業側が「安全配慮義務違反」を問われる可能性があります。
会社の安全配慮義務違反に問われる条件とは、①社員が心身の健康を害することを会社が予測できた可能性(予見可能性)があり、②それを会社が回避する手段があったにもかかわらず(結果回避可能性)、何らの手段を講じなかった場合です。この場合に安全配慮義務違反となり、場合によっては損害賠償責任を負うことになります。
いわゆる体育会系の研修における安全配慮という観点で考えると、例えば「持病を持っている、体力が弱いなどの理由により過酷な研修はできないと当人から訴えられたにもかかわらず、」「別メニューを用意するなどの配慮をする余地があったのに」何も対策を打たなければ、労働安全衛生法上の問題が出てくる可能性があるでしょう。
チームビルディングのために多少は過酷な時間を共有することも大切でしょう。しかし近年はそういった体育会系の雰囲気について来れない新入社員も増えているため、何事もやり過ぎには注意が必要でしょう。
出張や社員旅行などで泥酔してけがをした場合に労災保険は使えるか?
労働者の仕事中のケガや病気については労災保険でカバーされますが、出張や社員旅行などの際に酒に酔ってケガなどをした場合は注意が必要です。
出張中の場合:
出張中は、その用務の成否や遂行方法などについて包括的に事業主が責任を負っているため、よほどの事情がない限り、出張過程の「全般について」事業主の支配下にあるとみなされます。そのため、出張中のケガや病気については労災補償の対象となることが多いでしょう。
ただし、労災には「業務起因性:業務が原因で被災した」ならびに「業務遂行性:業務を行っている最中だった」の二つの要件が必要ですので、どんなケガや病気でも出張中だからOKというわけではありません。
例えば過去の判例では、出張中の懇親会で酔っぱらって階段から落ちた事件について、「懇親会は仕事に付随したものだった」と認められて、労災事故となった例があります。他方で、同じく酔っぱらって二回の窓から用を足していて足を滑らせて転落したケースでは、労災として認められなかったこともあるようです。
社員旅行中の場合:
社員旅行の場合、「業務上」の負傷等であるか否かは、主催の目的、内容、参加の強制の有無、費用負担、運営方法から総合的に判断されることになります。一般的には、参加の強制がない場合には、特別な事情がない限り、社員旅行=労災とはならないでしょう。
飲酒については社会的な監視の目も強まっています。ハメを外し過ぎて事故にならないように気を付けましょう。
アルバイトの労災保険
労災保険はアルバイトでも加入するか
労災保険は人を雇う全ての会社(個人事業含む)が加入しなければならないものです。
「保険」と言う言葉から、民間の生命保険や損害保険をイメージしますが、労災保険は「事業所単位」で加入するものであり、民間保険のように「被保険者」という考え方がありません。つまり、労働者の名前などを登録する必要はありません。その意味で、タイトルの「加入する」という表現は正確ではありません。
労災保険の対象者
労災保険は、会社で雇う全ての労働者がその補償対象となります。
例えるなら、会社全体で「労災という大きな『傘』」をさして、その傘の下にいる人は働き方に関わらず全て労災の庇護を受けます。
もちろんパートタイマーやアルバイトなどの非正規雇用者であっても労災の適用を受けますので、アルバイトが仕事中や通勤中の事故によりケガ等をした場合、労災から給付を受けることができるわけです。
労災保険料はだれが払うか
労災保険料はすべて会社が負担しなければなりません。労災保険料の原則的な計算式は
「その会社にいる全ての労働者の1年度の賃金総額×労災保険料率」
です。労災保険料率は、仕事の危険度や労災の発生率などをもとに業種ごとに定められており、また数年に一度改定が行われます。デスクワークが中心の業種は労災保険料率は0.3%程度と安く、建設業や林業などは事故が起こりやすいため高く設定してあります。
労災事故が起こったら隠さずに速やかに労働基準監督署への報告や給付の手続きを進めてください。
社員が自主的にサービス残業していると会社は罰せられるか?
社員が自主的にサービス残業していることが当局に関知されると、会社は罰せられる可能性があります。
会社には雇用している労働者に対する安全配慮義務というものがあり、長時間労働によって社員の健康が損なわれないようにするために、労働時間の適正な把握と管理が義務付けられているのです。
労働時間の適正な把握のために会社がすべきこと
会社には労働者の労働時間をきちんと「管理し、把握する」必要があります。そのために何をすべきかについて、厚生労働省が基準を出しています。
その 1:始業・終業時刻の確認・記録
使用者は、労働時間を適正に管理するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録すること。
労働時間の適正な把握を行うためには、単に 1 日何時間働いたかを把握するのではなく、労働日ごとに始業時刻や終業時刻を使用者が確認・記録し、これを基に何時間働いたかを把握・確定する必要があるとしています。
つまり、「いつ出勤して、いつ勤務終了したか」についても記録をさせて、把握しなければならないということです。
その 2:始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法
使用者が始業・終業時刻を確認し、記録する方法としては、原則として次のいずれかの方法によることを例示しています。
(ア) 使用者が、自ら現認することにより確認し、記録すること。
(イ) タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録すること。
(ア)について
「自ら現認する」とは、使用者自ら、あるいは労働時間管理を行う者が、直接始業時刻や終業時刻を確認することです。なお、確認した始業時刻や終業時刻については、該当労働者からも確認することが望ましいものです。極端に言えば、毎朝社長のもとへ始業報告に来させるなどの確認方法を指すのでしょう。
(イ)について
タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基本情報とし、必要に応じて、例えば使用者の残業命令書及びこれに対する報告書など、使用者が労働者の労働時間を算出するために有している記録とを突き合わせることにより確認し、記録して下さい。
なお、タイムカード、ICカード等には、IDカード、パソコン入力等が含まれます。
つまり、厚労省の基準によると、基本的にはタイムカードなどの1分単位で打刻される類の管理方法を推奨しているということです。単に出勤印を押すだけの出勤表では始業就業時刻や残業時間が分からないからダメ、ということになります。
上長の指示に従わない社員への対応
上司からの指示に従わない社員に対する対処の仕方
上司からの業務指示に従わない社員がいた場合、会社はどのように対応すればよいでしょうか。
この問題については、以下の3つのポイントに注意しましょう。
1、業務指示の妥当性を確認する
まずはその業務指示の内容および方法が、社会の一般常識から考えて妥当なものであるかを確認しましょう。大声をあげたり暴力を伴ったりすると業務指示というよりパワハラとみなされてしまう可能性が高くなりますし、指示の「発信者」と「受け手」が噛み合っていない場合(割り当てられていない仕事に対する指示や、本来の命令系統と違うボスからの指示の場合など)も妥当性が問題になってくるでしょう。
2、業務指示をした記録、および業務指示を聞くように指導したという記録を残す
業務指示が妥当なものであると会社が判断した場合、その指示を「いつ、だれが、誰に対して、なんのために」行ったかをメモや日報などに記録しておきましょう。同時に、業務の指示に従わない社員からも「始末書」を書かせる等の方法で「業務指示をまもらないことについて指導をしたという実績」を記録しておきましょう。
3、段階的にペナルティを与えていくか、異動を検討する
最初は始末書などの軽いペナルティーですが、何度も業務指示を守らない場合はペナルティの度合いを強めていくことも検討しましょう。もしくは、そもそも合わない上司と部下を引き話すために異動を考えてもよいかもしれません。
指示に従わないからと言ってすぐに解雇をしたり左遷したりするのは乱暴で、後々のトラブルにつながりますから、上記のポイントを参考にしながら慎重に進めてください。
無断欠勤!無断遅刻!
社員が無断で遅刻したり、欠勤したりする場合、会社はどのように対処すればよいでしょうか。
前提:遅刻欠勤は労働契約上の違反
無断で遅刻したり欠勤したりということは、労働契約上の労働者としての義務を果たしていない、つまり債務不履行をしていることになります。労働者は会社に対して「決められた条件で働く」という義務を負っていますし、会社は労働者に対して「決められた賃金を支払う」義務があります。
ポイント1 事実と理由の確認
まずは無断遅刻・欠勤の事実があったか、ならびにその理由を確認しましょう。遅刻または欠勤の連絡が誰に対してもなかったのか、連絡すべき相手にしていなかったが何らかの連絡をしているのかを事実確認してください。
また、理由が止むを得ない理由であるかどうか、本人から申し開きの機会を与えるとよいでしょう。
ポイント2 遅刻・欠勤に対するルール確認
会社としてのルールがあいまいで「なあなあ」になっていないかを確認してください。
実態として遅刻欠勤に対する罰がなされていない場合や、人によって罰を与えたり与えなかったりという場合であれば、会社としても無断遅刻や無断欠勤を咎める根拠が弱くなります。
遅刻や欠勤については始業時刻の○分前までに電話(またはメール)で××課長に連絡をいれること、などのルールを決め、就業規則などに明記してください。
ポイント3 賃金の減額
約束の時間を働いていないことにより、その時間分の賃金を差し引くことは、原則としては「ノーワーク・ノーペイ」のルールにより可能です。そのほか罰を与えたい場合は、就業規則などにペナルティについて規定し、指導目的で懲戒処分を検討してください。
パワハラとは
パワハラについて、国がその定義を発表しています。
厚生労働省が発表した「職場のパワーハラスメント」の定義は以下の通りです。
「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」
この定義によると、職場内の優位性は必ずしも上司と部下の間にだけおこるものでなく、同僚間や部下から上司に向けても起こりうるとしています。
さらにパワーハラスメントに当たる具体的な行為を6つの類型に分けて示しています。
職場のパワーハラスメントに当たる行為の類型
- 暴行・傷害(身体的な攻撃)
- 脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
- 隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
- 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
- 業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
- 私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
つまり、職場で行われている何らかの行為が1~6に該当する場合で、前述の定義に合致するならば「パワハラ」だということになります。
パワハラは受け手の認識により成立する
パワハラは行為だけを切り取って判断するものではなく、行為を「受けた側がどう認識したか」と合わせて考える必要があります。例えば、私的なことに立ち入った質問を上司が部下にしたとしても、部下がそれを不快に思わなければパワハラとして成立しないでしょう。
ということは、行為ばかりを糾弾してもナンセンスで、職場において苦痛を感じている人間がいないかを監視する機能を会社に持たせることが大事でしょう。
試用期間に問題社員を解雇する場合
多くの会社では、本採用前に試用期間を設けています。試用期間は文字通り「試しに使用する」期間ですから、その間に会社への適性や能力、健康状態などをみるために設けられます。
では、その「試しの使用期間」内に能力が足りない、意欲が足りない、会社の文化や習慣と合わなさそうだ、などが分かった場合、会社は自由に解雇ができるでしょうか。
答えは「No」で、会社が自由に解雇できると考えるのは間違いです。ただし、自社の社員としてふさわしくないと判断された場合は、本採用後よりは解雇が認められやすい(裁量の範囲は広い)傾向はあります。
法的には、試用期間中は「解雇権を一定程度留保した雇用契約が成立している」状態となります。適性がなかった場合解雇の可能性があることを示唆している状態ですから、試用期間中の解雇は通常の解雇よりも自由度が比較的高いと言えるでしょう。
だからといって「反抗的だ」とか「ただ単に気に入らない」などの理由で解雇できるものではありません。労使トラブルを防ぐためには以下の点に注意して運用するとよいでしょう。
1、試用期間であることを明言し、雇用契約書などにも明記しておく
2、本採用するか否かの判断基準をできるだけ明確に示しておく(本採用の筆記試験で合格すること、パソコンスキルチェックのための社内テストに合格することなど、合否が判定しやすい条件が望ましい)
3、特に雇入れ14日以内に適性を細かく見ること
上記の3について、試みの期間中であり、且つ採用から14日以内の人を解雇する場合、「解雇予告(30日以上前に解雇を予告すること)が不要となります。逆に言うと14日経過後は、たとえ試用期間であっても解雇の予告が必要になります。
過重労働撲滅特別対策班
労働時間|東京労働局・過重労働撲滅特別対策班 通称「かとく」とは?
2015年4月1日、過重労働による健康被害の防止などを強化するため、違法な長時間労働を行う事業所に対して監督指導を行う過重労働撲滅特別対策班、通称「かとく」が新設されました。
国が長時間労働を問題視し、強弁な姿勢で立ち入り調査などをすることで過重労働を抑制しようという意図が見えます。
有名なのは、2015年7月の「ABCマート違法残業摘発事件」です。
36協定(時間外労働の限度を定めた協定書)で定められた上限を超えた残業をさせていたとして、責任者らが書類送検されました。
この事件で、ABCマートは法定通りで計算した割増賃金を支払っていたようですが、それでも「労働時間が長すぎること」をもって書類送検に行ったということで、強気な姿勢がうかがえます。人手不足に悩む飲食、小売、サービス業や、ITなど長時間労働が起こりがちな業種に対して、今後もこの過重労働撲滅特別対策班の立ち入り調査が起こる可能性があります。
小売・外食・サービス業界などは、近年は人手不足により、長時間労働になりやすいと指摘されていますが、これらの業界に対して、行政の取締はますます強化されていくことが予想されます。
残業が多すぎると健康被害を誘発するばかりか、労働者との間でもトラブルの種を育てることになります。最近はスマートフォンなどで気軽に労働法を調べることもできるため、企業側は特に労働時間などの労働環境整備に気をつけなければなりません。
賃金構造基本統計調査には協力せねばならない?
賃金構造基本統計調査とは、主要産業に雇用される労働者について、その賃金の実態を労働者の雇用形態、就業形態、職種、性、年齢、学歴、勤続年数及び経験年数別に明らかにすることを目的として、毎年6月(一部は前年1年間)の状況を調べる調査です。
ランダムに当たった事業所に調査用紙が届き、6月30日現在の状況を報告します。
調査結果の利用方法
調査結果は民間企業における賃金決定等の資料として広く利用されているほか、損害賠償請求訴訟における逸失利益の算定、最低賃金の決定、労災保険法の年金給付基礎日額の最低及び最高限度額の算定資料などに活用されています。
調査に答える義務はあるか
調査対象として指定された場合、答える義務があります。
この調査は、統計法に基づく「基幹統計」に指定されています。統計法第13条では、国の重要な統計調査である基幹統計調査について、「個人又は法人その他の団体に対し報告を求めることができる」と規定しています(報告義務)。また、同法第61条では、「報告を拒み、又は虚偽の報告をした者」に対して、「50万円以下の罰金に処する」と規定しています。
どの会社が調査に当たるか
主要産業に属する5人以上の民営事業所及び10人以上の公営事業所とそれらの事業所に雇用されている労働者を調査の対象として、事業所が所在する都道府県労働局又は労働基準監督署を通じて行っています。
毎年6月にはこの賃金構造統計調査の他にもいくつか報告書の届出があります。
記入例がありますので、参考にしながら記入報告をしましょう。
有期雇用契約の注意点2
契約社員(期間の定めがある雇用契約により雇った社員)の雇止めをすると、社員としては生活が脅かされるため、多くのトラブルが発生しています。雇用の打ち切りについての取扱いは十分な注意が必要です。
雇止めの予告:
使用者は、有期労働契約(有期労働契約が3回以上更新されているか、1年を超えて継続して雇用されている労働者に限ります。なお、あらかじめ当該契約を更新しない旨明示されているものを除きます。)を更新しない場合には、少なくとも契約の期間が満了する日の30日前までに、その予告をしなければなりません。
予告の対象となる有期労働契約は、
① 有期労働契約が3回以上更新されている場合
② 1 年以下の契約期間の労働契約が更新または反復更新され、 最初に労働契約を締結してから継続して通算 1 年を超える場合
③ 1 年を超える契約期間の労働契約を締結している場合
です。
雇止めの理由の明示:
使用者は、雇止めの予告後に労働者が雇止めの理由について証明書を請求した場合は、遅滞なくこれを交付しなければなりません。また、雇止めの後に労働者から請求された場合も同様です。明示すべき 「雇止めの理由」 は、 単に「契約期間の満了」ではなく、具体的な説明を求められます。
例:
・ 前回の契約更新時に、 本契約を更新しないことが合意されていたため
・ 契約締結当初から、 更新回数の上限を設けており、 本契約は当該上限に係るものであるため
・ 担当していた業務が終了・中止したため
・ 事業縮小のため
・ 業務を遂行する能力が十分ではないと認められるため
・ 職務命令に対する違反行為を行ったこと、 無断欠勤をしたこと等勤務不良のため
有期雇用契約の注意点1
契約社員(期間の定めがある雇用契約により雇った社員)の入社、更新、雇止めについては多くのトラブルが発生しています。有期雇用契約に関する取扱いは十分な注意をしましょう。
原則1 契約締結時の明示事項等
(1)使用者は、有期契約労働者に対して、契約の締結時にその契約の更新の有無を明示
しなければなりません。
その契約が1回限りなのか、更新する可能性があるのかを説明してください。
具体的には「自動的に更新する」「更新する場合があり得る」「契約の更新はしない」等を説明します。
(2)使用者が、有期労働契約を更新する場合があると明示したときは、労働者に対し
て、契約を更新する場合又はしない場合の判断の基準を明示しなければなりません。
契約更新するかしないかの判断基準の例は以下の通りです。
・ 契約期間満了時の業務量により判断する
・ 労働者の勤務成績、態度により判断する
・ 労働者の能力により判断する
・ 会社の経営状況により判断する
・ 従事している業務の進捗状況により判断する 等
これらの判断基準について、できれば入社時に客観的な尺度も合わせて説明できるとよいでしょう。つまり、勤務成績⇒勤務成績が評価基準C以下は更新しない、能力による判断⇒作業Xが概ね10分以内にできること、など具体的な基準を伝えておくとよりトラブル予防になります。
契約は最初にしっかりとした説明をすることが重要ですので、手を抜かずにきちんと説明しましょう。
休職者の職場復帰をどう判断するか?
私傷病(労災でない病気やケガ)が原因で休職した社員が休職期間を満了しそうな場合、会社としては「復帰させるか」「引き続き療養させるか」「辞めてもらうか」などを検討することになります。安易に辞めさせようとするとトラブルにつながりますので注意が必要です。
特にうつ病などの精神疾患は再発性が高く、休職と復職を繰り返す事態にもなりかねません。安易な復帰判断は危険が伴うことに気を付けてください。
原則的な復帰の判断基準
原則的には「①従来の業務を、通常程度にこなせるかどうか」で、「②会社が」判断をします。
まず前提として見落としがちであることが、復職の判断をするのは、あくまで『会社』であるということです。
当人の主治医が「復帰できる」と言ったところで、その主治医は業務内容を詳しく知らないかもしれません。念のため会社が指定する医師にセカンドオピニオンを求めるなどの対策を検討してもよいでしょう。
例えば「軽微な業務であれば復帰できる」という診断が出た場合、当人の業務の中に軽微な作業があるか、その作業のみをさせることができるか、他の業務に転換することはできるかなどを総合的に検討してください。特にうつ病などの精神疾患による休職の場合、あいまいな診断結果になることが多く、より慎重な復帰の可否判断が必要になってくるでしょう。
繰り返しになりますが、医師の診断書は判断材料ですので、業務内容がわかっている会社が慎重に検討してください。
年金事務所の調査
マイナンバー制の開始を受けて、社会保険未適用事業所に対して「社会保険新規適用に対する調査連絡」が郵送されてきています。年金事務所の調査は以下の種類があります。
1、定期調査
約4年に一度、管轄内の会社をランダムに当てて行う調査です。算定基礎届の提出時期に呼び出して調査をします。
2、新規適用後調査
社会保険新規適用手続きをした会社について、概ね適用後3~12ヶ月以内に調査をします。
3、未適用事業所への加入指導調査
社会保険未適用の会社に対する加入勧奨調査です。マイナンバーのこともあり、厳格化しています。
チェックする内容:
端的に言うと、①社会保険に入るべき人や会社が加入しているか②届出している報酬額が、実態と合っているかの二つをチェックするための調査です。
ポイント
未加入チェックのポイント
月間の労働時間が130時間を超えている場合、概ね正社員の4分の3以上の勤務実態があるため、社会保険加入対象者とみなされることになります。パート・アルバイト(フリーター)で社会保険未加入としたい場合、勤務時間を抑える必要があります。
実報酬と等級の差についてのポイント
賃金台帳との照合作業の他、源泉所得税の納付書に書かれた給与総額と、社会保険加入者の等級合計の差からチェックをされます。
法人事業所は原則としてすべて、個人事業であっても法定16業種の事業所は5人以上であれば加入義務のある会社とみなされます。
自社の社会保険加入状況を今一度チェックし、社労士の助言を聞きながら善後策をご検討ください。
監督署の調査の種類
税務署の調査があるように、労働基準監督署も労働関係の実態調査(臨検監督)を行います。調査は以下の通り4種類に分類されます。
1) 定期監督
最も一般的な調査で、労基署がランダムに調査対象を選択し、法令全般に渡って調査をします。原則としては予告なしで調査に来ますが、事前に調査日程を連絡してから行う場合もあります。主に労働時間や規程、届け出書類等の整備状況の確認を受けます。
2) 災害時監督
大きな労働災害が発生した際に、原因究明や再発防止の指導を行うために行う調査です。
3) 申告監督
労働者からの申告(いわゆるタレコミ)があった場合に、その申告内容について確認するための調査です。この申告監督の場合、労働者を保護するために労働者からの申告であることを明らかにせず、定期監督のように行うケースと、労働者からの申告であることを明かして呼出状を出して呼出す場合があります。
4) 再監督
定期調査などの結果、是正勧告を受けた場合に、その違反が是正されたかを確認するために行われます。
労働基準監督官は司法警察官としての権限を持っていますので、監督署調査を断ることはできません(ただし日程の変更などは可能)。法令違反状態を隠そうとして調査を無視したり逃げたりしないようにしましょう。
調査については専門的な知識も必要になるため、なるべく社労士など専門家に関わってもらい、事前に是正できる部分は是正して臨んだほうがよいでしょう。
人事労務の環境整備不足は「負債」である
会社の財務状態を表す「貸借対照表=バランスシート」の見方はご存知でしょうか。左右に分かれているバランスシートは、右側が「資本および負債:お金をどうやって調達したか」を表し、左側が「資産:そのお金が何に姿を変えているか」を表します。
健全な会社は「負債」つまり借金や未払い金が少なく、「資産」の中ですぐに現金化できるものが多いと言われています。例えば借金が少なく自己資本で多くのお金を調達しつつ、それを現金や貯金の状態でたくさん持っていれば、いざというときに支払いに困らずに済みます。
人事労務の環境の整備状況は基本的にこのバランスシートに表れない数字ですが、実は「目に見えない負債」にあたると考えられます。
つまり、残業代や過重労働への対策を何もしていなければいつかそれがトラブルになり、100万円単位のお金が出ていくことになるかもしれません。
この人事労務の環境整備の不足とは、例えば次のようなことがあります。
・残業代対策ができていない
・休日労働が多い
・健康診断をしていない
・うつ病の人が増えているが対策をしていない
・退職金規程がバブル時期のままで、たくさん支払いが生じる予定がある
・育児休業制度の未整備
これらを放置しておくと、会社の財務状態に一気にダメージを与える可能性があることを経営者はよく意識しておく必要があります。専門家の意見を聞きながらしっかり整備を進めていくことをオススメします。
団体交渉の注意点
労働組合との団体交渉の場では、会社側にはとにかく冷静な対応が求められます。会社側出席者は、大声で怒鳴る、法律違反の言動を不用意にするなどの行為がないようにしなければなりません。ただし、弱気な態度でいると相手のペースに巻き込まれてしまいます。あくまでも「堂々と」交渉に臨む気持ちをもちましょう。
以下に団体交渉の際の注意点を紹介します。
1、出席者は必ずしも社長でなくてもよい
労働組合側は、社長や代表者が団体交渉に出席するよう要求してきますが、必ずしも社長である必要はなく、人事課長や総務課長が出席しても構いません。ただし、その出席者は交渉内容について社長と同等の決定権をもっていなければなりません。
社長が出席すると、相手は労働法に関する知識不足をわざと社長に向けて集中的に指摘し、交渉を優位に進めようとしてくる可能性があります。社長が激高してしまう性格であるなど、キャラクターによっては他の出席者の方が良い場合もあるので、出席者の選定は慎重に行いましょう。もちろん弁護士を代理人として立てることも有効です。
2、団体交渉の場所はできれば社外で
団体交渉の場所として社内の会議室や、合同労働組合の会議室などを指定して来ることがありますが、それも応じる必要はありません。社内会議室を使用した場合、労働組合側は団体交渉が行われていることを他の社員に知らしめようとする可能性もあります。また、わざわざ相手の土俵で交渉をする必要もないでしょう。会議室に余裕がないなどの理由を伝えて、外部の貸し会議室などを用意したほうがよいでしょう。
団体交渉は通常1回では終わらず2回3回と続きますが、第1回の団体交渉での進め方が以後の事実上のルールになってしまう傾向があります。最初のルール決めは相手のペースに乗ることのないように慎重に準備をして進めましょう。
労働組合からの団体交渉
団体交渉とは、労働組合側が団体で労働条件についての交渉を持ちかけることをいいます。
労働組合が自社になくても、労働者が社外にある「合同労働組合」に加入して団体交渉を要求してくるケースが近年では増えてきています。最近は労働組合を組織している会社も多くないので、一部の大企業を除けば、合同労働組合が交渉相手にあることがむしろ目立っています。
合同労働同組合とは
合同労働組合とは、所属する職場や雇用形態に関係なく、企業の枠を超えて、産業別、業種別、職業別、地域別に組織する労働組合です。組合のない中小企業の社員が個人単位で加入するほか、社内労働組合に加入している大手企業の社員が加入するケースもあります。
合同労働組合からの通知
自社の社員が合同労働組合に加入すると、たいていはいきなり「労働組合加入通知」を会社に送ってきます。これは「あなたの会社の社員○○が労働組合に加入した」と知らせる物ですが、もちろん加入したことだけを伝えたいわけではなくて、「これから労働条件について団体交渉をします」という意思表示と取っていいでしょう。
団体交渉の申し入れ
団体交渉で多く取り上げられる議題は「未払い残業代」「有給休暇」「解雇や労働条件引下げ」です。これらについて話し合いに応じるよう求めてきます。団体交渉の申し入れは文書で送られてきます。
団体交渉は断ってよいか
団体交渉をする権利は法律で保障されていますので、団体交渉のテーブルに着かずに放置することはできません。放置してしまうと「団体交渉を断るようなヒドい会社だ」という、会社にとって悪い事実ができてしまいます。交渉が不利に進むことのないよう、冷静に対応をすることが経営者には求められます。
セクハラの定義
セクハラとはセクシュアルハラスメントの略で、「職場において、労働者の意に反する性的な言動が行われ、それを拒否するなどの対応により解雇、降格、減給などの不利益を受けること」又は「性的な言動が行われることで職場の環境が不快なものとなったため、労働者の能力の発揮に悪影響が生じること」をいいます。男女雇用機会均等法により事業者にその対策が義務付けられています。
セクハラが起こるのは会社の中だけではなく、会社の飲み会や、打ち合わせに使った喫茶店、顧客の自宅など、社員が仕事をする場所は全てセクハラの定義による職場にあたります。
セクハラには以下の二種類があります。
1、対価型のセクハラ
対価型セクハラとは、職務上の権限や地位を利用して、性的な言動をし、そのリアクションに対して解雇や降格、減給などの不利益を受けることを言います。
例えば、デートに誘ったり、交際を迫ったり、性行為を強要したりして、「言うことを聞けば昇給する」などと圧力をかける行為が該当します。あからさまに要求をしなくても、それをほのめかす行為もこの対価型セクハラにあたります。
2、環境型セクハラ
環境型セクハラとは、性的な言動によって職場環境が害されることをいいます。例えば女性のヌード写真を貼る、ボディタッチをする、卑猥な冗談を言うなどの行為がこれにあたります。
セクハラ的な行為は、受け止め手の感じ方によってセクハラとなるかならないかが異なります。同じ行為をしても、ある人は許され、ある人は許されないという事態が起こりえます。受け手が不快な感情を抱かないように、日ごろから誠実にコミュニケーションをとるようにしましょう。
セクハラ対策
男女雇用機会均等法では、会社に対して、セクハラ防止のために被害を受けた労働者からの相談に応じ、適切に対応するよう求めています。セクハラ対策としては以下のような内容を検討していきましょう。
①セクハラに対する会社の方針を明確にし、周知すること
まずは「セクハラとはどのような行為なのか」を定義することが重要です。そのうえで、会社はセクハラ行為を許さないという方針を明確にし、すべての社員に周知徹底するよう努めなければなりません。
周知方法としては
・就業規則に明記する
・社内報に記載する
・社内の掲示板に掲載する
・パンフレットを配布する
・セクハラ対策に関する社内研修を実施し、参加者名簿を記録する
などが考えられます。要はセクハラに対する対策をする意思があることを誰の目にも見えるようにすることです。
②ペナルティと関連付けする
就業規則などで、「セクハラ行為を行った場合は○○というペナルティを科す」などと明記し、抑止に努めることも大事でしょう。セクハラは立場が上の人が下の人に行うことが多いため、管理者研修などで厳格に周知するようにしてもよいかもしれません。
③相談窓口を設置する
セクハラを防止するため、できるだけ「相談しやすいように配慮された相談窓口」を設置しましょう。自社内では利害関係者が近くにいて機能しないようであれば、相談業務を外部のカウンセラーや社労士などに委託する方法もあります。
セクハラに関する問題は場合によってプライバシーにも十分な注意が必要です。専門家の意見を聞きながら自社にあった対応策を検討してください。
自主的な残業への残業手当問題
会社が指示していないのに残業をした場合でも、残業手当の支払いが必要なのでしょうか。
労働時間の定義:
労働時間とは以下のふたつを指します。
①会社が働くように義務付けている時間
②形式的には会社は働くことを義務付けていないが、実質的には義務付けているのと同じと見なされる時間
①の時間はいわゆる「所定労働時間」です。9時から18時まで勤務、休憩12-13時であれば、「9時から12時まで」、「13時から18時まで」が①の時間に当たります。
②は例えば以下のような時間を指します。
・昼休憩時間中に電話番をさせている時間
・始業前に作業着に着替える時間
・始業前の機会の点検やパソコンの立ち上げ、終業時の後始末の時間
・強制参加の研修や教育の時間
これらのいずれかに該当すればそれは労働時間なので、会社はその時間分の給与を支払わなければなりません。
では自主的な残業はどうかというと、たとえ会社が残業を命令していなかったとしても、「黙示の指示」をしている場合は労働時間に当たるとされています。
黙示の指示とは次のような状態を指します。
・所定時間内ではとうてい終わらない量の仕事を与えている
・会社が残業状態を知りながら黙認している
この場合は、たとえ会社が命令していない残業であっても労働時間となり、残業手当の支払いが必要になってきます。この「黙示の指示」をしている状態でないか、自社の状況をチェックしてみてください。
協調性のない社員を解雇できる?
社内行事に参加しない、協力して行うべき掃除などの雑務をしないなど、協調性がない社員を解雇することはできるのでしょうか。
一般的には、単に協調性のなさをもって解雇することは難しいでしょう。
判例では「協調性のないことが業務を遂行する上で重大な障害となっている状態」でなければ解雇は難しいとしています。
「協調性の無さが重大な障害である」とする場合は、以下の点に注意しなければなりません。
前提:
就業規則などの解雇理由に「協調性がない場合は解雇とする」などの規定があること。
必要なポイント:
1、その行為が繰り返し行われていること
2、その行為が起きた日時を記録していること
3、会社がその者を教育・指導するなど、改善のための努力を行っても改善が見られないこと
4、会社が教育・指導をした事実・日時を記録していること
5、その行為により業務の遂行に具体的な支障があった事実を記録していること
6、その者より勤務態度が悪い者を不問にしていないこと
裁判では会社には広く従業員を教育指導する義務があると考えられます。会社として「これだけの指導をして協調性を促したのだが更生せず、結果的に○○という損害や支障が出た」と言えなければ解雇は難しいと考えてください。
一方で、協調性とは何かを定義し、その行動を客観的に評価した結果昇給・昇格などの処遇に影響させることはできます。協調性のなさが会社にとって問題であることを理解させるには、人事評価制度とリンクさせて指導することも有効でしょう
パワハラの定義について
パワハラとはパワーハラスメントの略で、厚生労働省によると「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」と定義されています。「職場内の優位性」は必ずしも上司の部下への優位性だけに限らず、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して様々な優位性を背景に行われるものも含まれるとされています。
会社は広く「働く人の安全に配慮する義務」がありますから、パワハラ状況があることを知りながら放置できません。パワハラが原因でうつ病などのメンタルヘルス不調を引き起こした場合、会社がその責任を問われる可能性があります。
職場のパワーハラスメントは、次のような例示がされています。
(1)身体的な攻撃(暴行・傷害)
(2)精神的な攻撃(脅迫・暴言等)
(3)人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
(4)過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
(5)過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
(6)個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
熱血指導のあまり行き過ぎた言動が見られる場合は、会社はフォロー役の人員を配置したり、苦情窓口を設置したりなど「そのストレス(上司・部下両方のもの)を解消・軽減するための施策」を講じ、事故が起こることを未然に防ぐようにしましょう。
解雇が無効になった場合の金銭支払
会社が従業員を解雇したあとで、辞めさせられた従業員が「解雇は納得がいかない」と主張し、裁判所等に訴え出るケースがあります。
その場合、解雇が有効か無効かを争う事になりますが、裁判で負けて解雇が無効になってしまった場合、会社は思いもよらない金銭を支払うことになってしまいます。どのような金銭を支払う必要が出てくるのでしょうか。
1、係争期間中の給与
解雇無効になった場合、争っている期間中の給与を支払わなければなりません。これは、「雇用関係がまだ続いている」と判断されるためです。この給与には基本給のほか、住宅手当等の諸手当も含まれます。
ただし、必ずしも給与の全額を支払う必要はありません。この期間については「事業主の都合で休んでいる休業期間」とみなされるため、最低でも平均賃金の6割以上を支払えば良いとされています(就業規則で全額それ以上の賃金を払うと規定されている場合は、就業規則で定めてある金額を支払う必要があります)。
いずれにせよ「辞めたはずの社員」の給与を支払うことになることには変わりがありません。
2、係争期間中の社会保険料
また、社会保険料や労働保険料の負担も生じてきます。係争期間が長引いた場合、社会保険料などにかかる延滞金も余分に負担する可能性が出ます。
3、訴訟にかかる費用
労働問題が裁判になってしまった場合、弁護士報酬などの裁判費用もかかってきます。また、裁判が長引くほど、通常業務に支障を来す「時間的ロスというコスト」も見過ごせません。
そもそも日本では解雇に対するハードルはかなり高いものです。従業員に辞めてもらいたい場合でも、すぐに解雇と考えるのではなく、まずは自主退職を進めてみる等、より慎重に進めてください。
労働組合法を知ってますか
労働者と企業(使用者)が労働条件を結ぶ上で、1人1人の労働者の力では使用者と対等な立場に立つことは難しく、実質的に労働者と使用者が対等な交渉ができるように、憲法では下記の労働三権が保障されています。
1、団結権(労働組合を結成する権利)
2、団体交渉権(労使間の団体交渉を保障する権利)
3、団体行動権(ストライキ等の合法的な労働争議を行う権利)
これらの権利を明確にするために制定された法律が、「労働組合法」です。
不当労働行為
労働組合法の中で、最も知っておいて欲しい箇所は、労働組合法第7条に制定されている下記の「不当労働行為:使用者がしてはならない行為」です。
・不利益取り扱い
→労働者が労働組合を結成しようとしたこと、もしくは組合員として活動したことなどを理由に、その労働者について解雇等、不利益を与える取り扱いをすること
・黄犬契約
→労働組合に加入しないこと、組合を脱退することを条件とした採用活動をすること
・団体交渉の拒否
→正当な理由なく、労働組合からの団体交渉の申し入れを拒否すること
・支配介入
→労働組合の結成、運営に対し、会社が介入したり、支配すること
・経費援助
→労働組合の運営のための経費を、会社が援助すること
・報復的不利益取り扱い
→労働者が「不当労働行為」の申立てをしたこと等を理由に、解雇等の不利益取り扱いをすること
労働組合法は、使用者に対して、労働組合からの団体交渉に応じ、誠実に交渉する義務を課しています。しかし、交渉が行われたからと言って、労働組合の要求を会社が受け入れなければならないわけではありません。受け入れられない理由を明確に示したうえで拒否することは、当然にできます。労働組合と関わる場合は、労働組合法上の不当労働行為をしないことを前提とした姿勢で臨むようにしましょう。
退職勧奨の注意点
退職勧奨とは、会社側が労働者に退職の誘引をすることを指します。つまり、「退職をしてはどうかと提案する行為」をいい、相手の意思に関わらず一方的に雇用契約を解消する解雇とは異なった取り扱いをします。
日本における厳しい解雇規制とのバランスを取るために、退職勧奨は裁判などの場では比較的広く認められる傾向があります。裁判でも、退職勧奨行為自体が違法とされるケースは多くありません。例えば、退職を拒否しているにもかかわらず10数回以上に及びしつこく退職を迫る、または退職勧奨を受け入れるまでは軟禁状態で攻め続けるなどの極端な場合にのみ違法性が認められています。
では、退職を提案する理由としてはどのようなものがあるのかというと、極端な言い方をすれば「労働者側が条件を呑むのであればどんな理由でもいい」と言えます。つまり交渉の仕方次第でトラブルを防ぎ穏便に退職につなげることも可能です。
実際に退職勧奨をする理由としては(1)経営状況の悪化による人員整理(2)本人の能力不足(3)同僚や取引先からの苦情などが考えられますが、会社側としてはまずそれらの理由を客観的に説明できる資料を持って交渉に臨む必要があります。客観的な事実に基づいて会社が退職を提案していることを率直に伝え、相手方の立場や生活環境も考慮しつつ真摯に説得を試みてください。通常、退職の提案をするからにはいくらかの見返りや当人にとってのメリットを同時に提示して交渉するほうがうまくいくことが多いでしょうから、退職金や賞与の割り増しなどの条件提示を検討する必要もあります。
とにかく、退職勧奨は感情論による対立を出来る限り防ぎ、あくまで大人同士の交渉としてドライに行うことがトラブル予防のためには大切です。
解雇の有効・無効
日本では、諸外国に比べて解雇が驚くほど厳しく規制されています。労働基準法または労働契約法などに定めのあるように「客観的合理性と社会通念上の相当性を欠く解雇は無効である」とされており、そのいわば「曖昧な」ハードルを越えるのは簡単ではありません。
では、どのような場合に解雇が有効とされやすいでしょうか。
1、解雇が有効と認められやすい場合
① 業務上の金銭の窃盗や横領
窃盗や横領を客観的証拠により証明できれば金額の大小にかかわらず解雇理由として認められやすいです。日本の裁判所は金銭的な不正行為に厳しい判断を下す傾向にあります。
② 強制わいせつなどの性犯罪を起こした場合
職場内で性犯罪行為を行った場合、職場の秩序を守るために解雇することが認められやすいでしょう。
③ 著しい勤怠不良の場合
無断欠勤が2週間程度続き、注意指導にも従わない場合、解雇の理由として認められる傾向にあります。
④ 配置転換拒否
家族の介護などのやむを得ない理由がないにもかかわらず配置転換命令を拒否することは解雇事由として成立し得ます。転勤や配置転換命令は、それが会社の正当な必要性に基づくものであれば人事権として認められます。
2、解雇が有効とは認められにくい場合
① 能力不足による場合
能力不足は客観的な証明が難しく、さらに裁判所は「一度雇った従業員に対しては、能力がないとしても教育をすべき」という考え方をとる傾向があるため、解雇をするためには複数回指導教育をした実績を積み重ねる必要があります。
② 協調性不足による場合
協調性もやはり曖昧で、客観的に証明することが容易でないため、解雇理由としては成立しにくいでしょう。
解雇の際に重要なのは、「客観的な証拠」と「会社の解雇回避努力」です。日本の解雇権濫用法理がずいぶんと厳しいことを十分注意すべきでしょう。
メンタル疾患の労災認定
メンタルヘルス不全が労災と認定されるためには、下記の要件をすべて満たしていることが必要となります。
1、認定基準の対象となる精神障害を発病していること
2、認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷が認められること
3、業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと
ここで言う「認定基準」とは、平成23年に厚生労働省より発表されている「心理的負荷による精神障害の認定基準」のことを指します。
メンタルヘルス発病前に極度の長時間労働をしている場合などは、上記2の強い心理的負荷として認められ、さらに1と3の要件も満たすなら、労災と認定されることとなります。
過去に労災と認められた事例としましては
① 「新規事業の担当となった」ことにより、「適応障害」を発病したとして認定された事例
→「新規事業の担当になったこと」と、「恒常的に長時間労働をしていたこと」により心理的負荷が強いと判断されたことが一因
② 「ひどい嫌がらせ、いじめ、または暴行を受けた」ことにより、「うつ病」を発病したとして認定された事例
→「部下に対する上司の言動が、業務範囲を逸脱しており、その中に人格や人間性を否定するような言動が含まれ、かつ、これが執拗に行われた」とされ、心理的負荷が強いと判断されたことが一因
などがあります。
労災が認定される可能性として、肉体的に心理的負荷がかかる長時間労働、精神的に心理的負荷がかかること等の具体的な基準が設けられています。メンタルヘルス不全になっただけで、ただちに労災と認められるわけではないですが、会社は日頃から従業員の肉体面、精神面に過度な心理的負荷を与えていないかに注意を払う必要があるでしょう。
音信不通の社員への対応
従業員の無断欠勤状態が続いた場合、会社として業務上はもちろん、給与や社会保険資格などの面でも取扱いに困ることになります。まず無断欠勤は許されないことをしっかりと教育すべきですが、無断欠勤者への対応として会社は以下の点を注意しましょう。
1、就業規則に無断欠勤に関する条文を規定すること
前提として、「無断欠勤が14日以上続いた時は、退職の意思があるものとして自然退職の扱いとする」などの文言を就業規則に定めておくと、当該日が経過したときにその規定に則って手続きをすすめることができます。
2、退職の意思確認をすること
従業員本人に、就業意思があるかの確認をしましょう。メールや電話、あるいは自宅訪問等、連絡がとれる可能性のある手段で行い、それを記録として残しておきます。
文書連絡であれば、「連絡が欲しい。このまま連絡がとれないと、自然退職として取扱いせざるをえない」等の内容にして、会社側が連絡を取ろうと試みた形跡を残しておくことが肝心です。それでも連絡がとれないようならば、事前に定めたルール(就業規則等)に則り、日数が経過したら自然退職として処理します。
ちなみに無断欠勤に対して「解雇」という取扱いをするのはできれば避けたいところです。解雇となると労働契約法などの規定による「解雇権濫用法理:合理的かつ社会通念上の相当性がない解雇は無効」に照らし合わせて妥当か否かを判断されることになり、万が一退職をめぐってトラブルになった場合、解雇の高いハードルが会社に不利に働く可能性があります。
3、給与の払い方
給与を本人の口座に振り込んでいるならば、給与支払日には口座に振り込みます。また、直接手渡しで行っている場合には、「○月○日に給与を支給するので、会社までとりにきてください」という内容の文書を送ると良いです。こちらで、会社は残りの給与を支払う意思があるのだと伝えることができます。
退職に関する取扱いはしばしばトラブルにつながりますので、慎重に行ってください。
研修時間は労働時間か?
社員研修時間については「実際の業務をしていないから労働時間でない」と当然に言えるものではありません。
ポイントは「参加が強制かどうか」
社員研修時間が労働時間かそうでないかを判断する上では、その研修が「参加強制であるか否か」が大きなポイントになります。
社員研修が、皆が必ず参加しなければならない強制参加の研修であれば、それは原則として労働時間とみなされるでしょう。一方で参加希望者だけを募る自由参加の研修であれば、労働時間とならないでしょう。
ただし、「自由参加」としておきながら、皆が参加しなければならない雰囲気を会社側が作っていたり、参加しないことで給与査定が悪くなったりする等、実質的に参加を強制されている状況であれば、その研修時間は労働時間としてみなされます。
研修時間中の給与支払いについて
強制参加の場合、研修時間=労働時間ですので、当然に給与を支払う必要があります。一方で参加を強制されない研修については、原則として給与を支払う必要はありません。
3、研修時間の考え方
社員研修が強制参加の場合、その労働時間は、「会社に拘束されている時間」が基準となります。例えば、皆で集合してから研修場所へ向かう場合は、集合時刻から労働時間となる可能性がありますが、一方参加者が各々で現地へ集合する場合には、研修開始時刻が始業時間となります。また当然ながら、通常の労働時間と同じく、1日8時間を超えた場合は残業代がつきます。
従業員の身辺調査はどの程度許されるか?
解雇に対するハードルの高さ
労働基準法および労働契約法では、解雇には客観的合理性と社会通念上の相当性が必要であり、それらがない解雇は解雇権濫用として無効とされます。わかりやすく例えると、10人に聞いて9人程度が『これは解雇止む無しだ、解雇する以外にない』というほどの理由がなければ、解雇は難しいということだと考えたほうがよいでしょう。
金銭的不正に対しては厳罰傾向がある
そんななか、判例上は「従業員の着服、横領など金銭的な不正」については、金額の多少にかかわらず厳格な判断をする傾向があります。会社の備品を横領したり、不正経理などにより自己の便宜を図るような行為については、懲戒解雇有効とされた判例がいくつもあります。
証拠をつかむための身辺調査はどの程度許される?
もちろん、懲戒解雇をするためにはその証拠がなければなりません。そこで、不正現場を抑えるために探偵を雇って身辺調査をしたり、ビデオカメラを設置することは問題ないのでしょうか。
このような身辺調査や監視については、なんでも許されるものではなく、慎重に行う必要があります。
裁判では、会社側の対応に信義の点で問題がなかったかも考慮されます。例えば、個人のプライバシーを著しく害するような方法、高圧的な方法等での調査は「不正調査としてもやりすぎだ」という判断をされる恐れがあります。
例えばロッカールームで盗難が相次いだ場合に監視カメラを設置するならば、その設置を周知し、さらにロッカールームが女性のものであれば、映像確認も女性がするなどの配慮をしつつ慎重に行うべきでしょう。
退職の多い時期に退職を防ぐ対策
年末年始、お盆、ゴールデンウィーク。
長期連休の前後は退職のリスクがとても高くなります。社労士事務所は色々な会社の入退社の事務を取り扱っていますので、これはもう目に見えるように分かります。
原因はやはり、落ち着いて身の振り方を考える時間を持つからでしょう。
これに対して企業側は何か対策を考えているでしょうか?
退職にもいろいろあって、ちゃんと自分の進むべき道が見えて退職する積極的なパターンと、とにかく今の状況から逃げ出したくて退職する消極的なパターンとがあります。
積極的なパターンの場合は、そもそも対策するのは難しいでしょう。
消極的なパターンの場合であれば、きちんと話を聞くことで打開策が見つかる可能性があります。
ただし、日頃からコミュニケーションが取れていない場合に、下手に話をすると逆効果になる場合もあります。ですから、常日頃から小さな不満の芽をその都度取り除いてあげるのが一番です。また、世間話のようなどうでもいい話をしながら、お互いの考え方を開示し合うのもいいでしょう。
退職の多い時期ははっきりしていますが、その時になって急に対策が取れるものではなく、日頃から退職リスクがその時期に高くなることを想定しながら対策しておくことが必要ですね。
タイムカードは無い方が良い?
会社には、社員の労働時間を適切に把握する義務があります。たとえば、「出退勤や休日休憩含め、労働時間は社員の自主性に任せている」というルールの会社があったとしても、「実際の労働時間がどうであったか」を把握しなければなりません。
タイムカードの設置は、法律上義務ではありませんが、ない場合にはタイムカード以外の方法で時間管理をする必要があります。出勤日に印を押す出勤簿などのアナログな方法で管理しても構いませんが、出勤時刻・退勤時刻や休憩時刻について正しく管理できていないならば、法律上不十分な時間管理とみなされてしまうことに注意が必要です。
労働時間について争ったとき
会社と従業員との間で、長時間労働等の争いになった場合、従業員の実際の労働時間は以下の記録からも認定されます。
①パソコンのONとOFFのログデータ
②メールの送信記録
③ドライブメーター、タコメーターの記録
④労働者が日々つけていたメモ等の記録
従って、タイムカードを意図的に不設置にしたとしても、他の記録によって労働時間が証明される可能性があるので、未払い賃金の解決にはなりません。
作業効率や人事評価と労働時間の関係
客観的な記録がないと会社も社員も労働時間が把握できません。そのため、同じ仕事・同じ成果をどれだけ早く出せるかという部分の、適切な評価が出来なくなってしまいます。
また、労働時間を適切に管理すれば「どの作業にどれだけの時間がかかっているか」「作業効率を向上させるためにどんな手を打てばよいか」という業務改善の面でも有効なデータとなるでしょう。
「労働時間はあいまいなほうが未払い残業代対策の面ではよい」という消極的な考え方ではなく、労働時間を管理し、集めたデータを有効に活用することで、時間あたりの生産性を高めることに目を向けていくという積極的な姿勢も一考の価値があるのではないでしょうか。
契約社員に辞めてもらう際の注意点
社会情勢、経済事情などで仕事の受注等が急激に減った場合、契約社員の契約満了前に契約解除を申し入れるなどの方法で人件費負担軽減を行わざるを得ないことがあります。
この場合、原則としては(たとえ社会情勢など周りの環境が原因だとしても)「会社側の都合」とみなされるため、相応の補償をする必要があります。
まずは合意を得るよう努力すること
まずは真摯に会社の現状を説明し労働者の合意を得るよう努力することが先決です。
しかし、もちろん労働者の生活にも配慮をしなければ合意を得ることは簡単ではないでしょう。
そこで合意をしてもらうための条件として金銭面での補償を申し出ることになります。
金銭補償の判断基準
・休業手当
金銭補償の金額の一つの判断基準に「休業手当」があります。
会社都合で自宅待機を命じた場合などは、労働基準法上社員の保護をする意味で休業手当(平均賃金の60%以上)の支払いが必要となります。
契約残存期間分「会社都合で自宅待機を命じた」とみなし、本来の60%の給与額を補償額として提示することには一定の合理性があると言えるでしょう。
・有給休暇の残業日数
契約解除を行う社員に有給休暇が残っている場合は、この残日数の処理をどうするのかも交渉するうえでポイントになります。
有給休暇残日数分の賃金を補償額の一つとして提案することも相手方説得のためには有効でしょう。
・解雇予告手当相当分
労働基準法上の解雇予告手当(平均賃金の30日分)を補償額の判断基準として考えることができるでしょう。
上記を参考にしつつ、金銭解決に用意できる金額上限と照らし合わせながら検討をしてください。
合意を得ることができたら
会社側の提案を社員が受け入れた場合は、(合意が得られた時)トラブルにならないという証明として、「退職届」もしくは、「退職同意書」を回収しましょう。」
社員が勤務中に倒れた場合、労災は?
仕事中に脳疾患・心臓疾患などで倒れてしまった場合、会社としては、まず労働者の安全確保や救急の手配をしなければなりませんが、その病気と仕事に因果関係が認められている場合は、当該病気について労災が適用となりえます。
原則として、突然倒れてしまうような脳梗塞や心筋梗塞などの、長年の生活習慣や食生活が大きく影響する病気については、その生活習慣や既往症、ならびに直前の勤務状態等を総合的に判断することになります。
会社として注意しなければならないのは、やはり「病気」と「過労」との間に相当の因果関係が認められる場合」です。長時間の残業や休日出勤が続いた結果倒れてしまった場合、労災認定をされ、さらに会社の損害賠償責任が生じる可能性もあります。
脳疾患・心臓疾患に対する労災認定基準は次の通りです。
- 発症直前から前日までの間において、発症状態を時間的・場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇してこと。
- 発症に近接した時期において、特に過重な業務に就労したこと。
- 発症前の長時間にわたって、著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと。
なかでも最も明確な判断指標が労働時間(残業時間)です。
現状、月に45時間以上の残業が発生すると、脳疾患や心臓疾患発症の「関連性が強まる」とされています。
残業時間について、2~6か月平均で80時間以上か、1か月に100時間以上となると「関連性が強い」とみなされます。
会社には「労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」という安全配慮義務があり、損害賠償責任が発生しうるのはこの安全配慮義務違反が認められる場合です。
安全配慮義務違反を問われないよう、会社としては適切に労働時間を把握管理する必要があることを心がけましょう。
労災保険に入ってないのに労災事故が起きたら?
労働者を1人でも雇っている事業主は労災保険の加入手続きを行わなければなりません。この労災保険手続きを行っていない場合、事故発生で思わぬ費用を払わなければならないことがあります。
労災保険の加入手続きとは、「労働保険関係成立届」を労働基準監督署に提出することですが、この手続きを行っていなかったとしても、労災事故が起きた場合は「労働者保護の観点」から保険は適用されます。つまり労働者は労災保険の給付を受けることができます。
では、事故が起きるまでは加入しなくても良いのではと思ってしまうかもしれませんが、未加入時に事故が発生した場合、会社に対してペナルティが課せられます。
パナルティは遡って保険料を徴収する他に、給付を受けた金額の40%又は100%を事業主から徴収します。
<「故意」に手続きを行わなかった場合>
労災保険の加入手続きについて行政機関から指導等を受けたにも関わらず、手続きを行わない期間中に事故が起きた場合、「故意」と判断されます。「故意」と判断された場合には、保険給付額の100%が徴収されます。
<「重大な過失」により手続きを行わなかった場合>
労災保険の加入手続きについて行政機関から指導等は受けていないものの、労災保険の適用事業となってから1年を経過し、手続きを行わずに事故が起きた場合、「重大な過失」と判断されます。この場合には、保険給付額の40%が徴収されます。
例:行政機関から加入の指導は受けていなかったが、労災加入手続きを行っていなかった会社で、賃金日額1万円の従業員が労災事故で死亡し、遺族に労災保険から遺族補償一時金が支給された場合。
遺族補償一時金(1万円(賃金日額)×1000日分)×40%=400万円
ペナルティの額が想像以上に高額になることもあるので、未加入の場合は早急に手続きを行いましょう。また、労災保険は場所ごとに適用になるので、支店を開設した場合の手続きも忘れずに行いましょう。
退職社員と守秘義務
守秘義務(しゅひぎむ)とは、
一定の職業や職務に従事する者・従事した者に対して、法律の規定に基づいて特別に課せられた、「職務上知った秘密を守る」べき法律上の義務のことです。
まず、対策として、考えられるのが「退職時に守秘義務誓約書」を結ぶことです。
ですが、守秘義務誓約書だけでは、情報漏洩による損害賠償を請求することは不十分です。
不正競争防止法において、情報漏洩による損害賠償請求は、
「守秘義務の対象となる秘密情報が特定され管理されていること」が要件と定めてあります。
そのため、秘密情報が適切に管理されていなければ、保護の対象ともなりません。
誓約書を結んだ社員もどこまでが秘密情報なのかわからないことになります。
会社は守秘義務の内容を定めた秘密管理規定を整備し管理をすることが必要になります。
「秘密管理規定」に下記の事項を最低限として定めるべきものとされています。
- 秘密の対象となる情報の特定
- 秘密情報の管理、表示方法
- 秘密情報の管理者、取扱権限者
以上、秘密義務についてでした。
健康診断の義務
会社に実施義務のある健康診断は、【一般健康診断】と【特殊健康診断】に分けられます。
<一般健康診断>
①雇入時の健康診断:労働者雇入れの時
②定期健康診断: 1年以内ごとに1回
③特定業務従事者の健康診断:深夜業に配置替えの際、6月以内ごとに1回
④海外派遣労働者の健康診断:海外に6ヶ月以上派遣するとき、帰国後国内業務に就かせる時
⑤給食従業員の検便:給食の業務に従事する労働者の雇入れの際、配置替えの際
<特殊健康診断>
石綿などの特に有害な業務に従事する労働者に実施
年1回の健康診断以外にも、会社には健康診断の実施義務があります。健康診断を実施しない場合、会社は労働安全衛生法違反によるペナルティーを科せられるほか、健康診断を受けさせなかった結果労働者が病気になった場合には損害賠償責任が生じる可能性があります。
また、たとえ健康診断を実施していても、健康に異常が見つかった社員を放置した場合は責任を問われる可能性があります。異常があった場合には、再検査や休暇などの措置を行う事が必要です。
【健康診断費用はだれが負担すべきか】
行政通達によると、労働安全衛生法により実施を義務付けている以上、健康診断の費用負担は当然会社がすべきとされています。
一般健康診断中の賃金の支払いについては、法律で定められていません。会社と労働者が協議して決めるべきとされています。しかし、実施義務が会社にある以上、給与は支給したほうが望ましいでしょう。
特殊業務従事者に対する特殊健康診断については、業務との関連性が強いため、労働時間内に行い、賃金を支払うべきとされています。
健康診断実施は法律上求められていることでもありますし、労働者の健康に配慮している会社の意思表示手段としても有効ですので、受診をしていない場合は今後の受診をしましょう。
休憩時間中のケガと労災保険
仕事中のけがであれば、労災保険が適用されますが、休憩中の場合は原則として労災保険適用外であり、健康保険が適用されます。
けがの原因にもよりますが、原因が「会社の施設の欠陥」等である場合は、例外的に労災適用が可能となることがあります。
労災の認定をするのは労働基準監督署ですので、
社員が会社内で休憩中にけがをした場合であっても、「休憩中の事故だから労災はムリだろう」と勝手に判断せず、労災保険の適用の手続きを行いましょう。
ちなみに休憩時間は、「労働時間の途中にとらせる」「一斉付与」「自由利用」という三つの原則があります。一定の業種などで例外は認められていますが、休憩時間にすぐに仕事に取り掛かれるよう待機させることは手待ち時間、つまり「労働時間」と解釈されてしまいます。
手待ち時間には賃金の支払い義務が生じる可能性があります。
待機させておく「手待時間」が多い業種の場合は許可申請をしましょう。
手待時間は労働時間となりますが、逆に拘束時間の大部分が手待時間の業種は、疲労や精神の緊張も少ないとされますし、労働基準監督署の許可を受けることを条件とし、労基方の労働時間、休憩、休日を適用除外にすることが可能になります。
手待時間自体は利益もないですが、会社から手待時間の給料を支払いはしたくない場合は、適用除外申請を活用しましょう。
通勤経路の重要性
通勤手当の支給額決定のため、通勤の経路を報告させていることがあります。
その報告を受けた経路と違うルートで通勤を行っている最中に交通事故などにあってしまった場合は、労災保険(通勤災害)の適用がされるかというと、それが「合理的な経路及び方法」であるなら適用されます。
逆に言うと、特段に合理的な理由もなく大きく遠回りする場合、無免許運転をする場合などは「合理的な経路及び方法」と認められず、通勤災害の適用範囲から外れてしまうことがあります。
通勤災害の適用の如何は最終的には労働基準監督署の判断によるので、事実のまま申請をしましょう。
一方で、本件は「虚偽の通勤ルート報告をしていた」ことについて社内処分の観点で検討をしなければなりません。
多いケースでは、会社には電車での通勤申請をし、定期代を請求しているが、実際は自転車やバイクで通勤することがあげられます。このようなことを通勤手当の水増し請求、架空請求ともいいます。
これらの通勤手当の水増し、架空請求は、虚偽の申請として服務規定違反といえます。
会社としては、そのような行為が発見された場合は、処分が下るような服務事項・懲戒処分項目を規定しておくことが必要になります。
またこのような通勤ルート虚偽申告などの服務規律違反を未然に予防するために
・通勤手当の支給申請には領収書や定期券の写しを提出させるようにしましょう。
・車やバイクでの通勤の場合は、免許証のほか、自賠責保険ならびに任意の自動車損害補償保険の加入証書などの写しを提出させましょう。
まとめると、通勤ルートを正しく申告させる意義とは
① 万が一通勤災害として認定されないことを防ぐため
② 通勤手当の架空申請などの不正を防ぐため
であることに留意してください。
家族従業員の扱い方
事業主と同居している家族は、原則として労働基準法の「労働者」にあたりません。同居家族については雇う、雇われるという関係が認められないはずだということですが、例外的に「労働者」とみなされることがあります。
具体的には次の条件をすべて満たせば例外的に「労働者」となります。
①同居の親族のほかに一般社員がいること
②就労の実態が、当該事業所における他の労働者と同様であり、賃金もこれに応じて支払われていること。
③労働時間の管理方法や給与の決定、計算方法が明確に定められており、他の労働者と同様に管理されていること。
④事業主の指揮命令に従っていることが明らかなこと
なお、別居の親族であれば原則として労働者として取り扱ってもよいですが、念のため上記の条件の通り労働者性を確認できる状態にしておくほうがよいでしょう。
労災との関係:
労働者であるかないかは、労災保険の適用について問題になります。労働者でない場合、労災保険は適用されません。
同居の親族の他に一般社員がいたとしても、親族に対して給与や労働時間を特別に扱っていた場合、労災保険は不支給となる場合があります。
そのため、業務災害が起きる前に、①例外的に労働者の対象となるよう、上記に挙げた条件を満たすように管理をする②労災保険の特別加入制度を利用する③民間の傷害保険に加入するなどの整備を事前にしておくとよいでしょう。
派遣社員が仕事中にけがをした場合
派遣社員の労災は、「派遣元会社」が適用されます。
派遣社員が仕事中にケガをしたり、仕事が原因で病気になってしまったりした場合には、派遣会社の労災保険を使うことになるので、労災の給付関係申請は派遣元会社に任せてください。
ただし、実際に派遣社員が安全・健康に働くことができるように配慮するのは、現場を監督している「派遣先会社」の責任であることに注意が必要です。
派遣先会社の責任としては以下のようなことがあります。
1、労働基準監督署へ労災の報告義務
派遣社員が労災に遭った際は、正規の従業員と同じように、労働基準監督署へ労災が起きた旨を報告しなくてはいけません。とくに4日以上の休業を伴う労災の場合は、死傷病報告書という様式の届け出を速やかに行ってください。
2、労働基準監督署の立ち入り調査対応義務
労災が発生すると、労働基準監督署が状況確認のために会社へ立ち入り調査を行うことがあります。これは、安全配慮義務違反がないかを調査される趣旨のもので、とくに大きな労災事故が発生した場合に行われます。
労災の報告義務に違反すると「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」ということもあります。派遣受け入れ会社としては、悪気なく労災報告を忘れてしまうこともあるようです。現場での安全配慮義務、ならびに労災の報告義務は派遣先会社にあることを十分認識してください。
労基署の臨検で違反が発覚したら?
調査の結果、違反などがあった場合、労働基準監督官は会社に対して、それを是正するように指導します。即刻改めるべきものもありますし、数か月猶予をもって正すようにと言われるものもあります。
何かしらの法令違反があった場合、具体的には下記の3つの書面を渡されます。
- 是正勧告書
労働基準法等の違反が見つかった場合、その違反事項を正すように指導する書面
是正勧告書を受けたということは、労働基準法などの違反があったという証拠です。
違反した項目、是正期日が書かれているもので、正式に法違反を証明されたものと言えます。
必ず指定された日付までに違反していた項目を正して、是正した状況を労働基準監督署へ報告しましょう。報告は「是正報告書」という様式を用いますが、必要な内容(タイトル、管轄監督署長宛である旨、日付、社名・代表者名と代表社印、各是正勧告内容と、各是正日、是正内容等)が記載されていれば任意様式でも大丈夫です。
その是正報告書に是正内容がわかる確認資料を添付して提出してください。
- 指導票
法違反には該当しないけれど改善した方が好ましい事項に対して、改善を指示する書面です。例えば、有給休暇の管理内容が十分でない場合などが指導対象にあたります。
- 使用停止等命令書
施設や設備の不備や不具合で、従業員に緊迫した危険が生じてしまうため、その施設や設備を緊急に使用停止などするようにと命令する書面です。
是正勧告書を無視したり、提出したけれど是正した振りをする「嘘」の報告をすると、最悪の場合書類送検されてしまうこともあります。指導されたことに対しては誠実に対応しましょう。
副業を禁止できるか?
副業については、法律の制限はありません。つまり会社が許せば社員が副業を行うことができます。しかし、社員は労務を提供することで給与をもらっている以上、健康に注意して良質な労働力を提供する義務があり、良質な労働力の提供の邪魔になるような副業は、会社の判断で禁止することも出来ます。
副業を禁止する場合、就業規則の服務規定にその旨の文言を明記しましょう。服務規定に入れておくべき内容は以下の通りです。
・健康に留意して、良質な心身状態で勤務するように努めること
・会社の機密、不利益事項を他に漏らさないこと
・会社の許可なく他社の役員、従業員又は個人事業主となり、営利を目的とする業務を行わないこと
・会社の許可なくアルバイトなどをしないこと。ここでいうアルバイトとは、営業上の技術を使用して個人的に報酬を得る行為を含む
ペナルティーについて:
副業が発覚した場合、懲戒処分を行うかについては、次の項目から判断します。
① 副業を行うことで、本業にどのくらいの影響が出ているか
② 競業他社での副業かどうか
③ 副業により、自社の秘密漏漏洩の危険性があるか
アルバイト等副業行為とあまりに釣り合わないペナルティーをしないように注意する必要があります。懲戒解雇が有効となるような副業行為は、背任的に自社のノウハウを漏えいさせている場合や、競業行為を意図的に行うような悪質なものに限られるでしょう。
副業を許可制や禁止にしている場合は、パートや短時間勤務者について、配慮が必要となります。これらの社員は、他社に勤務している確率も上がります。また、正社員とは違い空き時間を有効活用しているにすぎず、正社員の副業とは解釈が変わってきます。
正社員の副業とは違った基準で、ある程度副業を認めてあげる配慮が必要になります。
遅刻の多い社員への対応
口頭注意をしても、遅刻が改善されない場合は、書面通知で改善指導を行いましょう。即座に解雇するとトラブルにつながります。トラブルを防止するために、処分を行う場合には、手順をふむことが大切です。
① 口頭注意=戒告、譴責
遅刻をした場合には、その都度注意をし、改善するように伝えましょう。遅刻を繰り返す社員をそのままにしておくと、本人だけでなく他の社員にも悪影響を与えます。
注意をした日付をメモで構わないので記録しておいてください。
② 書面による改善指導
口頭注意だけで改善が見られない場合、「始末書の提出」「業務改善指導書」「承諾書」のような書面で厳格に対応することで、社員の意識向上が望めます。
書面の中の重要な要素としては、
・遅刻の事実を本人に認めさせること
・改善のためにどのようなことをするかを宣言させること
・日付、誰から誰に提出したものかを明らかにすること
です。
文書を残すことで改善されなかった場合に、会社が改善の努力をしたという証明になります。
③ 減給・降給
書面でも改善しない場合、減給や降格へ進むこともできます。
ただし、減給には、1回の額が平均賃金の1日分の半額、総額の1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならないという制限があります。減給を行う場合は、制限を超えない範囲で行いましょう。
④ 退職勧奨、普通解雇(懲戒解雇)
それでも改善しない場合、「改善のために会社は指導教育を尽くしたけれど直らなかった」ということで退職勧奨や解雇も検討しなければならないかもしれません。
ただし、解雇は最終的な手段です。遅刻を繰り返すという理由だけで、いきなり解雇することは相当に難しいと考えましょう。
いずれにせよ、上記のような手順をしっかり踏んだうえでの段階的対応が重要です。
労働基準監督官の持っている権限とは
労働基準監督署にいる労働基準監督官は、いわば労働に関する法律の番人で、法により多くの権限を持たされています。
労働基準監督官の権限:
1、 強制的に会社に立ち入り、調査することができる権限
2、 帳簿書類や証拠物件などの提出を要求することができる権限
3、 会社や従業員に尋問・報告命令・出頭命令をすることができる権限
4、 会社の付属寄宿舎に使用停止、変更など処分することができる権限
さらに労働基準監督官は、次の法律については、司法警察官として、逮捕、送検をする権限もあります。
労働基準監督官が司法警察権を持っている法律は次のようなものです。
1、 労働基準法
2、 最低賃金法
3、 家内労働法
4、 労働安全衛生法
5、 作業環境測定法
6、 じん肺法
7、 賃金の支払の確保などに関する法律
労働基準監督官が会社を調査する場合には、警察が家宅捜査するときのように裁判所の許可も必要ありません。アポイントなしで急に調査することもできます。税務署の税務調査官には強制捜査権がないことと比較すると、労働基準監督官は相当強い権限をもっているといえます。
もちろん多くの場合は事前に書面などで連絡があって、調査日を決めてから調査されますが、前述の通り突然会社に労働基準監督官が訪れることもあります。これは、アポイントをしたうえでの調査では労務管理の真の姿が見えない、会社にとって不都合な事実を隠ぺいされることを防ぐためです。
労働基準監督署の臨検とは?
「労働基準法などの労働関係諸法令を守っているかをチェックするために、労働基準監督官が会社に立ち入り調査をすることがあります。この調査を「臨検」といいます。この臨検には主に3つの種類があります。
1、 定期調査
最も一般的な調査で、臨検のほとんどはこの定期監督に該当します。
年度ごとに重点的に調査する業種等を決めて行われるようです。
定期調査で調べられる項目の相場は大抵決まっていて、
①労働時間は多すぎないか、休日数は適法か
②残業など割増賃金の計算方法は適正か
③36協定(時間外協定)を届出しているか
④就業規則は適法に整備されているか
⑤労働者名簿、出勤簿、賃金台帳は適法なものが備え付けられているか
⑥健康診断を毎年実地しているか
のような労働基準法や労働安全衛生法の違反はないかを調査します。調査の対象となる会社は、ある意味ランダムに決められます。特に法違反の事実を掴んで調査されるものではありませんので、必要以上に心配しなくてもよいものです。
2、 申告調査
従業員や退職者が「会社は労働基準法違反をしている」など直接労働基準監督署に申告(内部告発)したときにその内部に基づいて調査をします。従業員や退職者が会社に改善を求めるために労働基準監督署へ申告し、その内容を確認するための調査をします。
労働基準監督署へ申告する人は、在職者より退職者のほうが多いようです。労働基準監督署に申告があった場合はほぼ100%の確率で臨検されます。
3、 災害時調査
労災が起こった場合に、その災害の実態確認や原因究明、再発防止のために調査します。
臨検の連絡があった場合も慌てずに、社会保険労務士等専門家に相談し、善後策を検討しましょう。
派遣と請負の違いは?
〈派遣〉
派遣とは、派遣元会社自身が雇用している従業員に、派遣先で働いてもらう仕組です。派遣社員の雇用主は派遣元会社となります。しかし、実際に働いてもらう場合には、派遣先での指示に従います。
つまり、派遣元会社と派遣社員が雇用契約を結び、指揮命令は派遣先(受け入れ側)が行う、派遣会社と派遣先は派遣契約を結ぶ、という三角関係になります。
〈請負〉
請負は派遣と似ていますが、指揮命令の部分で異なります。
請負は、仕事を完成させることを約束し、仕事の結果に対して報酬をもらう契約です。ですので、仕事を依頼する発注者と請負会社があった場合、発注者はどのような方法で仕事を完成させるか一切指示してはいけません。あくまでも仕事の完成だけです。
仕事のスケジュールを発注者が管理していたり、仕事の報告を発注者に行うことが義務付けられたりした場合などは、請負ではなくなります。途中で指示を行った場合は、「派遣」になってしまいます。
派遣社員の給与や労働保険料、社会保険料は派遣元会社の負担となります。従って、派遣先で時間外労働をしたとしても、割増賃金の支払い義務は派遣元会社にあります。派遣社員は派遣元会社と雇用契約を結んでいるためです。派遣先の会社は、派遣社員の働いた時間分の料金を派遣元会社に支払うだけとなります。
派遣を依頼する場合、下記業務は派遣が禁止されているので、注意が必要です。
① 建設業務
② 港湾運送業務
③ 警備業務
④ 病院・診療所での医療業務
⑤ 人事労務関連の一定業務
⑥ 弁護士・税理士・社会保険労務士等の士業の一部
⑦ 管理栄養士の業務
セクシュアル・ハラスメントの境界線
セクシャルハラスメント、いわゆるセクハラは、その境界が極めてあいまいで、正確な答えはありません。
大きく言うと、性的な意味合いを持つ言動を「相手が望まなければ」セクハラとなります。
Aさんに言われたらセクハラだけれども、Bさんなら問題ないというケースも当然の様にあります。
セクハラには2種類あります。
1、 対価型セクハラ
セクハラ被害者が、それを拒否したために解雇、降格、減給といった不利益を受けること。
2、 環境型セクハラ
セクハラ被害者の就業環境が不快なものとなり、仕事に支障が出ること。
セクハラというと、男性が加害者、女性が被害者というイメージですが、実際はどちらが加害者であってもセクハラとなります。男性が女性の言動を不快に思えばセクハラになります。年上の女性が、若手男性社員の男女交際関係をしつこく聞き、男性側が不快に思えばそれもセクハラでしょう。
その他、「髪の毛切った?」「最近太った?」「女のくせに」「男のくせに」「キレイだね」などの言葉も、受けて手の気持ちによってセクハラになりえます。
セクハラの責任はどこにあるか
会社には、「従業員が働きやすい環境を維持する義務」があります。セクハラの発生を知りながらそれを放置する行為があるとすればそこには会社の責任を追及される可能性があります。
セクハラについての職場環境整備の具体的方法としては、例えば相談窓口の設置があります。セクハラの受け手が正直に事実を相談できる仕組みを備えた相談窓口にすることで、実態確認とセクハラ発生予防に努める姿勢が企業には求められています。
社長の労災
仕事中にケガなどをして労災保険が適用される場合には、本人が窓口で診察代を支払うことはありません。本人の自己負担額は0円になります。
しかし、労災であったとしても、相手のある交通事故の場合には、相手方の自賠責保険等から優先して請求することとなります。また、治療に必要のない差額ベット代のかかる部屋に入院した場合には、その部分は自己負担となります。
労災保険の対象は従業員ですので、経営者や取締役は対象となりません。つまり、社長が仕事中にケガをした場合は、労災保険は使えないことになります。また、仕事中のケガですので、健康保険も使うことが出来ません。全額自己負担をしなければならないことになってしまいます。
しかし、中小企業では社長もプレイヤーとして現場で働いていることが多いため、仕事中のケガや病気について全額自己負担では社長がかわいそうだということで、下記2つの条件に当てはまる場合は、仕事中のケガであっても健康保険を使うことが出来ます。
① 健康保険の被保険者数が5人未満の事業所に所属している
② 通常の従業員と変わらない仕事をしている
なお、この場合には、「傷病手当金」の請求は出来ないので、注意が必要です。傷病手当金とは、健康保険から支給される休業中の所得補償です。連続3日以上休業した場合、4日目から標準報酬日額の3分の2が支給されます。
因みに、通常労災保険の対象とならない人が労災保険に加入できる、「特別加入」という制度があります。特別加入することが出来るのは、以下の方です。
前提:
労働保険事務組合に労働保険事務を委託している会社であること
対象者:
① 中小事業主とその従事者(常時300人以下の労働者を使用)
② 一人親方その他の自営業者とその事業に従事する者(従業員を雇わずに仕事をしている)
③ 特定作業従事者
④ 海外派遣者
仕事中のケガや病気に見舞われてしまう可能性の高い方は、労働保険事務組合への委託をし、特別加入を検討するのもよいでしょう。
社員を他の店舗へ転勤させるときの注意点
転勤を命令するときには、本人の同意が必要なのでしょうか。
一般に、就業規則に転勤の旨の記載があり、社員に周知されていれば、個別の同意は不要です。そのため、会社は一方的に転勤を命じたとしても問題ありません。なお、入社時の労働条件明示(契約書などの取り交わし)の際に転勤の可能性を明示すると、トラブル防止になるでしょう。書面交付の際には、「絶対に転勤がない」という場合以外は、原則として「転勤の可能性あり」と明示したほうが無難ではないでしょうか。
上記のように、転勤命令は、原則として一方的に命じることが出来ます。しかし、例外として次にあげるケースでは同意が必要とされます。同意なく行った場合は、権利濫用として無効になる場合があります。
① 業務上の必要性が存在しない場合
② 業務上の必要性以外の不当な動機、目的をもってなされた場合
③ 社員に対し、限度を超える著しい不利益を負わせる場合
④ 労働契約において勤務場所を特定して採用された社員に対し行う場合
例えば、勤務地限定の社員に行う場合、業務上の必要性があったとしても本人の同意がなければ転勤はさせられません。
では、勤務地限定の契約書でない場合はどうでしょうか。この場合も、同意が必要となります。判断基準となるのは、就業規則に「転勤を命じる旨の規定があるかどうか」だからです。転勤の可能性を明示、説明することが重要です。記載例をあげますので、参考にしてみて下さい。
労働契約書への具体的な記載例
・場合により他社多店舗への転勤を命じる可能性があります。
・本労働契約は、勤務地を特定した契約ではなく、場合によって転勤を命じる可能性があります。
・勤務地は入社時点のものであり、人事異動によって、全国、海外を含めた支店への転勤を命じる可能性があります。
転勤はその対象者の生活環境を大きく変える可能性があります。その対象者だけでなく、周りの家族などの事情も考えて慎重に対応しましょう。
仕事中にケガをした場合の対応
仕事中にケガをした場合は労災となります。
従業員が仕事中にケガをしたり、仕事が原因で病気になった場合、これは「業務上」の災害となります。どのような場合に「業務中」となるのでしょうか。
業務上の判断基準:
「業務上」かどうかは次の2つで判断します。
1、 業務遂行性
仕事をしている最中であったか
2、 業務起因性
ケガや病気の原因が仕事にあるか
補償内容:
労災には例えば下記のような補償があります。
・労災で病院にかかったときの診察料
・その間会社を休んだ際の休業補償
・障害を負ってしまった場合や死亡してしまった場合の金銭的補償
労災はアルバイトも対象となるか:
労災の対象となる従業員はパートタイマーやアルバイト、月1回しか勤務しないような従業員までも含まれます。
判断が難しい「病気」の労災認定:
ケガであれば、すぐに労災かそうでないか判断がつきやすいですが、問題は病気です。
たとえば、勤務中に脳梗塞で倒れてしまったとき、その原因が仕事なのかすぐにはわかりません。近年注目されているうつ病などの精神疾患もその判断が難しいでしょう。
病気による労災認定については、長時間残業やパワハラ・セクハラ等ともつながる問題であるため、慎重な対応が求められます。
労災をかけていれば安心とは限らない:
会社には労災加入義務だけでなく、労働者の安全に気を付ける義務(=安全配慮義務)があります。
この意味で、労災が起きてしまった場合、「労災=会社が安全に気を付けなかった責任がある」という図式が成り立ち、特に障害や死亡にまで至ってしまった場合、安全配慮義務違反という理由から、本人やその家族から損害賠償請求をされる可能性があります。この場合損害賠償額は近年特に高額化する傾向にあるため、安全配慮にも十分に気を付けたいところです。また、労災上乗せ補償などの保険加入も検討してみてください。
通勤途中の災害も補償されます。
賃金や労働時間などの労働条件は口頭の説明だけでよいか?
労働条件の書面通知義務:
労働条件のうち、勤務時間、契約期間、給料といった重要な事項については、雇入れ時に書面での条件通知をしなければなりません。後々に労働条件を巡る労使トラブルが起こらないためにも、書面の交付または取り交わしをしましょう。
書面で通知しなければばらない事項
1、労働契約の期間(契約期間がある場合は、労働契約を更新する場合の基準)
2、就業の場所・従事する業務の内容
3、労働時間に関する事項(始業・終業時刻、早出や残業など所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、労働者を2組以上に分けて就業させる場合の就業時転換に関する事項
4、賃金の決定、計算、支払い方法、賃金の締切・支払いの時期
5、退職に関する事項(解雇となる事由も含む)
また、パートタイマーには下記3つの内容も書面にて通知しなければなりません。
1、昇給の有無
2、退職手当の有無
3、賞与の有無
※口頭でも構わないが、必ず通知しなければいけない事項
・昇給に関する事項
会社で決まりがある場合には書面で通知しなければならない事項
・退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払い方法および支払い時期
・臨時に支払われる賃金、賞与および最低賃金額に関する事項
・労働者に負担される食費、作業用品などに関する事項
・安全・衛生に関する事項
・職業訓練に関する事項
・災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
・表彰・制裁に関する事項
・休職に関する事項
労働条件通知書の保管方法
労働条件通知書は写しをとって会社に保管しておきましょう。
また、労働条件通知書は会社から労働者への一方的な通知ですが、その説明を労働者が受けたことを記録するために、労働者の署名などをもらっておくと尚良いでしょう。
社会保険の調査で調べられること
社会保険調査とは、年金事務所が会社に対して社会保険料を適切に納めているかを確認する調査です。この調査は、加入漏れや給与変更に伴う保険料変更手続きのし忘れなどの不適切な処理を発見し、正しい保険料を徴収するために行われます。
調査で確認される主なポイントは、①加入漏れと②報酬金額です。
(①加入漏れの確認)
まず、タイムカードから出勤状況がチェックされます。社会保険の加入基準は正社員の4分の3以上ですので、基準を超えて働いているパートがいないかチェックされます。一般に正社員は法定労働時間上限の「週40時間労働」のことが多く、この4分の3である「週30時間以上」働いている形跡がある場合、加入漏れの可能性を指摘されるでしょう。
さらに、源泉税納付書、賃金台帳、算定基礎届などの過去の届け出書類から、社会保険に加入すべき社員がきちんと加入しているかチェックされます。例えば源泉所得税納付書で30人の給与支払実績がありながら、社会保険加入者が10人であるなら、残り20人が社会保険非該当であるかを説明できなければなりません。
(②報酬金額の適性の確認)
また、報酬金額が正しく届出されているかも要チェックです。例えば給与額が30万円でありながら社会保険の標準報酬月額が20万円であるなら、その10万円の差額は指摘を受ける事項となるでしょう。
未加入者が発見された場合、過去2年遡って保険料負担が発生することがあります。保険料は本来、会社と社員が折半するものですが、会社の不手際で未加入であった場合、社員から折半の同意を得られるかはわかりません。
調査で指摘されたことを無視し続けた場合は、最悪財産を差し押さえられることがあります。無視をした以後は立ち入り調査の対象となり、ずっと目を付けられます。調査の結果、多額の保険料納付義務が発生したものの支払を無視し続ければ、差し押さえの可能性もあります。
会計検査院の調査
また、年金事務所が独自に行う調査のほかに、会計検査院の調査もあります。会計検査院の調査は、年金事務所が適切に業務を行っているか調査するため、非常に厳しくなります。社会保険調査の案内通知書を見れば、年金事務所か会計検査院のどちらの調査かが判断できます。会計検査院の場合、「今後加入を検討します」という回答は通りません。その場で書類を書かされる場合もあり、経営が苦しい会社にとっては死活問題となります。
社会保険調査に当たった場合上記の調査項目を中心に事前確認をしてください。
接待でお酒を飲む事は業務と認められるか?
ある種の仕事には接待(お酒の席)がつきものです。この接待については、どこまでが仕事でどこからがプライベートなのでしょうか。
仕事が関係ない飲み会はむしろ少ない:
人によって程度の差はありますが、社会人が飲み会に参加する場合、仕事の同僚や取引先と飲む割合が少なくないでしょう。ただし、仕事の関係者と飲む事が全て業務とも考えられません。
判断基準:
酒席が業務かそうでないかは、状況により異なりますが、例えば次のような要件を考慮しなければなりません。
1、 会社の命令の有無
2、 時間帯
3、 場所
1、会社の命令の有無
最も重要な要件は、「会社命令があるか否か」です。取引先との親睦を深める目的、または社内のコミュニケーション機会のために会社が参加を強制している場合は、業務の性格が強いと言えるでしょう。
2、時間帯
飲み会が二次会三次会にまで及ぶ場合や、深夜に行われていた場合、それが業務としての必要性を認められない場合も出てくるでしょう。例えば深夜まで接待していたのなら、「通常業務の終了が遅く、飲み会の開始も遅かった」などの理由が必要となります。
3、場所
飲むためにあちこち移動した等は業務上の必要性を認められない可能性があります。
飲み会業務中ということであれば、その会の最中に起きたケガや飲み過ぎによる急病は労災保険の対象にもなり得ることになりますので、会社側としては安全配慮に気を配らなければなりません。
「検索文化」が労使トラブルを助長する?
最近の労務に関するトラブル増加の要因は何でしょうか。
要因として、スマートフォンなどインターネット検索を容易にする機器の普及により「労働法知識に関する情報が簡単に手に入るようになったこと」や、「個人の権利意識が強くなったこと」が挙げられるのではないでしょうか。
インターネット検索の容易さ:
今日では、インターネット(PCやスマートフォンなどの普及)を通じて、労働法に関する知識や、会社に権利主張するための方法などの情報が容易に入手できるようになりました。「未払い残業代 請求」「不当解雇」などの検索ワードでインターネット検索をすれば、それこそ数えきれないほどの情報が出てきます。
そしてインターネット経由で気軽に習得された(しかもそれはしばしば権利意識を強調した)情報により、少なからず権威意識の高まりは助長されるようになったのではないでしょうか。
法律違反は是正されるべきですが、労働法の条文の中には業種・企業規模の現状に合わない箇所もあるでしょう。「現在の労働事情と乖離した部分」についても杓子定規に行使できる権利を主張し始めたことで、昨今の労務トラブルは増加したと考えられます。
さらに、日本の終身雇用に対する公信力が弱まり、会社への忠誠心が減退したのも要因の一つだと考えられます。
いずれにせよ世の中や社員の意識は大きく変化しています。社員は「自分の身は自分で守らなければならない」という立場になっています。忠誠心も減退していることから、滅私奉公的な勤務意識や、「上から目線」の考えを許容する社員は少なくなっているのではないでしょうか。
しかしインターネット普及に逆行することはできません。
これからは、「個人の権利・自己防衛」でなく「会社全体の共通目的」をいかに共有していくかを会社は考えなければならないでしょう。
外部の労働組合から団体交渉を申し込まれたら?
まず、労働組合とはどのような団体かを説明します。
「労働組合」とは、「労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他の経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合会」と労働組合法で定められています。つまり、労働者の権利保護や働く環境の改善のために団結した集団ということになるでしょう。また、「団体交渉」とは、労働組合が会社と労働条件等について交渉する行為を指します。
通常は「団体交渉申入書」という書面が会社に送られることで団体交渉が始まることになります。
交渉拒否ができるか:
団体交渉を求められた場合、使用者は正当な理由なく拒むことができません。団体交渉を特に理由なく拒むことは「不当労働行為」として法律上禁止されているからです。
さらに、労働組合の構成員は自社単一の社員に限るという定めはないので、加入者に自社社員がいれば、外部の労働組合の交渉も応じなければなりません。
では、解雇された元従業員が労働組合に加入し、団体交渉を求めた場合はどうでしょうか。元社員なので「雇用する労働者」とは言えません。
しかし、不当解雇で争っている場合や、未払い賃金等で争いがある場合には、その範囲で「雇用する労働者」とされます。よって元社員であっても、使用者は団体交渉に応じる義務があります。
団体交渉を拒否した場合:
団体交渉を拒否すると、労働組合は労働委員会に団交応諾の救済申立が出来ます。この申立を受けた労働委員会は、労働組合が法に適した団体であり、当該会社の労働者がその組合に加入していれば、会社に対して救済命令を出します。
したがって、結局、団体交渉に応じなければならなくなります。
団体交渉のすすめかた:
会社側は最初から弱腰にならず、法律違反事実を確認し、改善策を見出す努力が必要です。法律違反については正す努力をしつつも、あまり感情的にならず、論理的に話を進めるように心がけましょう。なかなか交渉がまとまらない場合は、ADR等、第三者の専門家も交えての紛争解決手段を利用するのも良いでしょう。
社内不倫を理由に解雇できるか?
社内不倫が判明した場合、会社は当事者に解雇その他ペナルティを与えることが出来るでしょうか。
原則:ペナルティを与えるには「根拠」と「実害」が必要
社内不倫に対して会社が何らかのペナルティを与えるには、「就業規則上の根拠」と、「社内不倫による実害の存在」が必要でしょう。
就業規則上の根拠については、「会社の秩序を乱してはならない」等の服務規定が存在していることが多いでしょうから、そこに根拠があるとしてもよいでしょう。
ただし、「実害の存在」については中々容易でありません。
例えば、
・社内不倫が家庭に知れ、夫婦間のモメごとが職場に及んだ場合(職場でケンカをする、執拗な電話が職場にかかってくる、怪文書が送られてくるなど)
・同じ職場内の人間関係等に悪影響を与えている(まわりが気を使って、社内の協力体制がめちゃくちゃになる、円滑なシフト組みに影響を与えるなど)場合
・職種上特に倫理観が求められる状況で、その倫理観にそぐわない場合
などの場合は、ある程度実害があると認められます。
一方で、単に不倫がわかったことだけを持って(つまり私生活上の行動があることで)、会社として解雇その他のペナルティを与えることは難しいでしょう。
干渉の仕方について:
社内不倫については、その注意の仕方に注意をしなければなりません。
社内の噂やネットの書き込み等のみを鵜呑みにして執拗に問い詰めると、その問い詰める行為がセクハラ・パワハラに該当してしまう可能性も否定できません。
まずは事実確認を公平な立場ですることが必要です。
また、プライバシーにも注意して、事情を聴く際も別室に呼ぶなどの配慮を持つ方が良いと思われます。
休職を繰り返すうつ病社員への対応
私傷病による「休職制度」は法律上の義務ではなく、会社のルールで任意に定めることが出来ます。休職からの復職についても同様に会社独自のルールを適用させることができます。
休職させるべきか否か、復帰可能か否かについて、外傷であれば治癒状態が判定しやすいですが、ことに精神疾患の場合は、回復の判断が難しく、再発することが少なくありません。そして精神疾患、いわゆるうつ病については、近年休職を巡るトラブルが多くなっていますので、特にこれらの反的基準を休職制度上で整える必要があります。
例えば、「精神疾患が再発したかどうか」を判断する上で、休職者・または休職者のかかりつけの医師の意見のみを拠り所にした場合、休職者の側の利益に偏った診断書が出てくることも想定できます。こうなると、再発の度に短期間の休職何度も繰り返され、会社は労働力を提供されていないにも関わらず社会保険料その他福利費を負担し続ける事態にもなりかねません。
【解決方法】
休職に対するルール作りとしては以下のようなことが考えられます。
①復職の扱いを慎重にする
・就業規則に、私傷病で休職していたものが復職する場合に下記趣旨の文言を入れると良いでしょう。
・会社が指定する医師への受診を命ずること
・復職を本人の申告制でなく、人事部長等の許可制にすること
②再休職を前休職期間と通算する
・復職したものが復職後短期間に同一理由で就職した場合、前回の休職と通算する
・通算により、残期間を休職の限度とする
このような趣旨の規定があれば、前後の休職期間を通算することが出来ます。例えば、休職期間満の上限が3ヶ月であった場合、1ヶ月後復職し、再度類似の傷病で休職したものを「病気がなおっていなかったもの」と取扱い、休職期間のカウントを通算することが可能です。規定がない場合、休職期間が通算されず、いつまでたってもゼロからカウントしなければなりません。また、「休職満了後になっても休職事由になった私傷病が回復しておらず、従前の職務に復帰できない場合には、自然退職とする」旨を就業規則に定めておけば、解雇でなく休職期間満了による自然退職との取扱いになります。
いずれにせよ、休職に係る規定は整えておく必要があるでしょう。
社員が裁判員に選ばれて仕事を休まれたら?
【Q】
従業員が裁判員に選出された場合、どのように取り扱えばよいか?
【A】
裁判員に選出された場合、原則として拒否できないため、会社は公務に必要な休暇を与えなければなりません。但し有給にするか無給にするかは会社毎に定めることができます。
(解説)
平成21年5月21日から、裁判員制度がスタートしました。
裁判員制度とは、殺人罪、傷害致死罪、強盗致死傷罪、現住建造物等放火罪、身代金目的誘拐罪といった、一定の重大な犯罪における刑事裁判で、事件ごとに無作為に選ばれた国民が、裁判員として裁判官とともに審理に参加する、日本の司法・裁判制度をいいます。
20歳以上の国民であれば、だれしも裁判員に選出される可能性がありますが、この裁判員に選出された場合、原則としてこれを拒否することはできません。
(※ただし、義務教育を修了しない者、禁錮以上の刑に処せられた者、一定の公務員・法曹など法律関係者・警察官、くわえて被告人・被害者の関係者、事件関与者、さらに直近の裁判員従事者など、一定の者は除かれます。)
単に「仕事が忙しいから」という理由で、制度への参加を拒否することはできず、正当な理由なく拒否した者については、罰金や過料の罰則規定が適用されることがありますので注意してください。
(取扱い方)
労働基準法第7条は、労働者が「公の職務を執行するために」必要な時間を請求したときには、使用者はこれを拒んではならないとしています。
裁判員としての裁判への参加はこの「公の職務執行」に該当するため、裁判員制度参加に係る休暇を与える必要があり、またこれを理由として使用者が労働者に対して解雇その他不利益処分をすることはできません。
(賃金について)
裁判員として裁判に出席した者には、法で定められた一定の旅費や日当が支払われますので、会社が休暇を与えたその日の分まで、必ずしも有給扱いにする必要はありません。
ただし、有給休暇扱いをしない場合にはその旨就業規則上に定めておくほうがよいでしょう。
以上、裁判員制度についてでした。
内部告発にどう対応するか?
【Q】
インターネットの掲示板に、社内の事柄について事実と違う書き込み(内部告発)をしていた場合、内部告発をした従業員は解雇できるのか?
【A】
内部告発が真実でないことだけをもって解雇できるとは限りません。
コンプライアンス遵守が社会的に求められるようになるにつれて、社員からの内部告発の有用性が認知されてきました。この内部告発をした労働者を保護する目的で「公益通報者保護法」という法律が作られ、平成18年から施行されています。
この法律では、通報者が会社でも行政でもない、第三者で被害の発生や拡大の防止のために必要であると認められるものに対する通報対象事実が生じ、または、まさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある一定の場合に、通報が認められています。公益性が重視されるので、この法律が適用されるか否かはそうした観点から個々に判断されることになります。
また、内部告発に関する判例では「仮に内部告発の事実が真実でないとしても、真実と信じることに相当な理由がある場合には、内部告発の目的の公益性、内部告発の内容の重要性、内部告発の手段・方法の相当性を総合的に考慮して、内部告発が正当性を有することがある」と判断しているものがあります。
このことから会社は、内部告発が事実でなかったというだけで、内部告発した者を、当然に解雇することはできないということになります。
(内部告発で、懲戒処分ができる場合)
内部告発の事実が真実だった場合でも、それが会社の定める秘密事項だったり、社内規定で公開を禁止している事項であった場合、その程度によって解雇など懲戒処分が有効になる可能性が高いものと考えられます。
また、労働者の行為により会社が損失を負った場合、会社はその被害の程度に応じて、労働者に対して損害賠償請求を行うことのできると解されています。
社員が過労死したら会社の責任?
会社は社員の健康に一定の責任を負っています。社員の健康に対する注意を怠れば、損害賠償を払う義務が生じることがあります。
(解説)
【過労死とは】
過重労働などが原因で脳梗塞や、心筋梗塞などを起こして死亡することです。過労死の認定基準は平成7年に新たに設けられ、平成13年に改正がなされています。
主な認定要件は、以下の通りです。
・発症直前から前日に異常な出来事に遭遇した
・短期間に過重な業務に就労した
・長期間に著しい疲労の蓄積をもたらす過重業務についた
また、平成11年に指針が制定され、精神障害等(過労によるうつ病からの自殺等)も労災として認められるようになりました。
【会社の責任】
社員の死亡が過労死とされ業務上災害と認められた場合、会社が「過労死の防止措置」をとっていたかが問題となります。
会社は、法で定められた健康診断を行わなければなりません。異常が発見された場合は再検査を行わせたり、業務量を減らしたりなど、社員の健康に注意を払う必要があります。
もし、健康診断を適法に受診させていない場合や、異常発見の場合に何の措置も講じていなければ、遺族から損害賠償を請求された場合、拒むことが難しくなります。
健康上の異常が発見されない場合でも、過重な業務に従事している場合は注意が必要です。健康診断の徹底や業務の省力化など、できる限りの対策を講じましょう。
健康診断は重要です
健康診断により病気の早期発見をすることで、労働者は自ら予防しようと思います。また、使用者側から見ても、健康診断は労働者の過労死防止や、欠勤による損害の予防になります。
→使用者と労働者、両方の利益につながります。
過労で社員が自殺したら、会社の責任?
自殺の要因が労働で、会社に安全配慮義務違反があれば、損害賠償責任を負います。
(解説)
【安全配慮義務】
会社は、社員を働かせる場合、生命や身体を危険から保護するように配慮しなければなりません。これを安全配慮義務といいます。
自殺の場合も、労働が要因で安全配慮義務違反があれば、損害賠償責任を負うことになります。
しかし、自殺は本人の意思に基づくものです。要因が労働であったか否か、使用者に安全配慮義務違反があったか否かの立証は難しい場合が多いでしょう。過労な業務があったことが明らかでも、個人的な悩みや性格が自殺の要因であったかもしれないからです。
【判断基準】
社員の自殺が会社の責任になるかは、以下4点で判断されます。
・自殺する要因が仕事以外になかったか
・会社が社員の異常に気づいていたか
・社員の異常に、会社は何らかの措置をとったか
・自殺に至るまでの労働が過剰だったか
(例1)広告会社の社員がうつ病発症後、自殺した例。
上司は長時間労働と健康悪化をしりながら、改善措置をとらなかったとして、安産配慮義務違反があるとされました。
(例2)インドへ出張した製鉄所の新入社員が自殺した例。
インドでの生活自体のストレスと業務のストレスがかさなったことから、精神障害を発症し自殺したとして、業務起因せいがあるとされました。
安全配慮義務に違反しないためには
→過度の業務を命じないこと、社員の言動や体調に注意することが大切です。異常があった場合はただちに医師の判断を仰ぎ、業務の軽減や環境を変化させるなど配慮しましょう。
日ごろから、社員とのコミュニケーションを十分にとることで、異常の早期発見につながります。
職種の変更はできる?できない?
従業員の職種を変更するとき、契約とは異なる職種に配置転換できるのでしょうか。
当初の契約時の特約により職種を限定している場合、配置転換ができないこともあります。しかし、通常は、常識的な理由があり、雇い入れから一定期間を経ていれば配置転換は出来ます。ただし、できれば事前に労働者と話し合い、同意を得たほうが望ましいと言えます。
【労働条件の明示義務】
労働基準法第15条では、労働契約を結ぶ際には、賃金や労働時間と言った重要な労働条件を労働者に明示しなければならない「労働条件の明示義務」が定められています。
そして、この重要な労働条件には「労働者が従事すべき業務=職務」も含まれており、原則として、会社はここで明示した業務以外に就くように労働者に命じることはできません。
ただし、この労働条件明示は、あくまでも「雇入れ当時の労働条件」を示したものと解されています。時間経過や労働者の適性、会社・社会情勢などの変化により、常識的な範囲での職務の変更・配置転換はむしろ自然なことであり、「この職種限定」「この地域限定」といった職務や地域を限定した特約がない限りは、会社は配転や転勤を命じることが出来ます。
この配置転換命令によるトラブルを未然に防ぐためには、労働条件通知書・雇用契約書などで配置転換の可能性について説明しておくとよいでしょう。
【賃金が下がるときは注意が必要】
職種転換が可能とはいえ、転換により賃金額が変わる場合には注意が必要です。なお、減額になる場合は特に気をつけましょう。
その職種に就いていたから支給していた手当(例えば看護師という職種に対して支給される「看護師手当」など)について、職種から外れたことにより手当がなくなり、大幅に減額した場合、労働者の反発が予想されます。
労働者と「労働条件の不利益変更」について争うことになった場合、「なぜその職種から配置転換したのか」「その労働者を選んだことに合理性があるか」などを会社は主張しなければなりません。月次賃金の総支給額の減少については、以下のように対応して慎重に行いましょう。
- 配置転換に関する可能性を事前に話し、合意を得る
- 能力不足・適性による配置転換の場合、改善の機会を与える
- 変更後の職種における教育機会を与える
出向に関する労働者の同意
社員を出向させるとき、社員の同意は必要なのでしょうか。
<出向の定義>
命令を受けて、籍をもとのところに置いたまま、他の役所や会社などで勤務につくこと。「子会社へ―する」 ○人事異動としての出向は、出向元の事業主と何らかの関係を保ちながら出向先の事業主との間に新たな雇用契約を結んで継続的に勤務することで、在籍出向と移籍出向があります。
原則として、社員の同意がなければ出向させることはできません。ただし、就業規則・出向規定・労働協約などで出向命令の可能性や内容を定めており、包括的に同意があるとみられる場合は、社員の同意なく出向を命じることが出来ます。
【原則的には労働者の同意が必要】
社員は、労働契約によって会社の指揮命令下で働く義務を負っているに過ぎません。そのため、他の会社(出向先の会社)の指揮命令下で働くことを一方的に命じることは原則として許されず、社員の同意が必要になります。
ただし、必ずしも個別的な労働者の同意を得る必要はなく、包括的な同意があれば、出向命令は認められます。
【包括的同意とは】
会社の就業規則・出向規定・その他労働協約などで、「会社は、業務上の都合により社員に出向を命じることがある」旨の規定があり、その規則などが適法に届出などされ、または契約として成立していれば、出向命令の可能性について労働者が全体として同意していると考えることが出来ます。このことを包括的同意といいます。
ただし、出向による「個別の労働条件変更」は原則としては「画一的・集団的な明示」ではあまりに乱暴とみられることもあります。つまり、ただ「出向の可能性があります」だけでは十分とは言えず、規定には「出向先、出向期間、出向先での労働条件、出向元への復帰に関する事項など」の具体的事項について定めることが望ましいでしょう。
いずれにせよ、この包括的同意があることで、労働者の同意を得ずとも出向命令をすることができます。
【できれば同意を得ることが望ましい】
ただし、出向は以下のような変更を伴うため、労働者によってはストレスを感じることもあるでしょう。
- 通勤にかかる時間
- 賃金など労働条件
- 職務内容
- 企業文化
そのため、できれば出向の必要性や条件などをきちんと説明して理解を求めるのが望ましいでしょう。
社員にペナルティを課すには
遅刻が多い社員にペナルティーを与えたい時、どのような手順を踏めばよいのでしょうか。そのような場合は、就業規則に懲戒処分について規定をして、そのルールに則って処分しましょう。
【懲戒処分とは】
企業の秩序と規律を維持する目的で、使用者が従業員の企業秩序違反行為に対して課す制裁罰のことで、処分の種類には戒告・けん責・減給・出勤停止・懲戒解雇などがあります。
懲戒処分の前提として、会社は企業秩序を守るためのルールを作る権利があり、労働者は企業に雇用されることによって、この企業秩序を遵守する義務(企業秩序遵守義務)を負うものと考えられます。そのルールが就業規則ということになります。
【懲戒処分の種類】
<1. 譴責・戒告>
行為や過失の反省を求めて戒める処分です。
- 始末書の提出が必要:譴責
- 始末書の提出は不要:戒告
<2. 減給>
賃金から一定額を差し引く処分。
<3. 出勤停止・停職>
一定期間の出勤を停止し、欠勤とする処分です。
- 数日程度:出勤停止
- 数週間~数ヶ月:停職
<4. 降格>
降任等の職務上の地位を下げる処分です。なお、降格による賃金の減額は、降格された地位による給与変更であるため、減給とは異なる処分となります。
<5. 諭旨解雇>
勧告による自主退職処分です。懲戒解雇よりも軽く退職金が減額して支払われる場合が多いのが特徴です。しかし、勧告を断ると懲戒解雇処分として扱われ、退職金が支給されません。
<6. 懲戒解雇>
悪質重大な処分として解雇を行います。退職金の全部、または大幅な減額が伴います。
懲戒処分の決定方法については、就業規則にそれぞれの懲戒処分が適用される懲戒項目を定める必要があります。つまり、「〇〇をしたときはけん責、△△をしたときは減給」というように、行動と処分の因果関係がわかるようにします。
無断で残業された場合の残業手当は?
社員が会社に無断で残業したとき、その残業に対する賃金の支払うべきでしょうか。
会社の命例がない残業は認めなくともよいですが、実質的に残業命令をしていると追認されれば支払い対象になります。
【残業の命令】
残業は、業務の必要性から会社が命令して初めて残業となります。会社は、業務命令にもとづかない業務(この場合は残業)は労働時間として取り扱う必要はありません。実際に、終業時間後もダラダラと居残りして同僚としゃべっている時間も残業手当の対象になることは、会社としては納得ができないでしょう。
ただし、使用者による業務の明示的な指示がない労働時間でも、黙示的な指示があると認められる場合には、正規の労働時間として取り扱われることになりますので注意が必要です。
【実質的には業務命令の残業であるとみなされる場合】
上司が残業を行っていることを認識している場合、直接には残業命令をしていなくても残業をしていることを知っていてそのままにしているならば、「残業が必要な業務状態であること」を暗に認めたことになるでしょう。この場合、「命令していないから残業代は払わない」という理屈は通じません。
使用者が追認したのであれば、残業時間が労働時間として取り扱われる可能性が高いでしょう。労働時間の管理は使用者の義務ですから、使用者が「残業は不要である」ときちんと判断する場合には帰宅命令を行うべきです。上司のあいまいな態度、無責任さがトラブルを招くこともあります。
資格取得費用の返還請求
従業員の資格取得費用を会社が負担したが、会社の期待に反して早期に退職した場合、費用の返還請求はできません。従業員の勤続を促すために「資格取得費用貸付制度」などの導入を検討しましょう。
【根拠】
- 労働基準法第16条・・・会社は、労働契約の不履行について、違約金を定めたり、損害賠償額を予定する契約を結んではならない
- 労働契約の不履行と違約金
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<ケーススタディ>
従業員が業務を遂行するために取得した資格の全費用を会社が負担して取ることとなった。
これにあたり、会社は「雇い入れ1年以内に自己都合で退職する場合には、会社が負担した費用を変換すること」という特約を労働契約に追加したが、半年後に家の事情で退社した。
そこで、会社は資格取得に要した費用の返還を求めた。
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上記の場合、会社が労働契約に追加した「退職する場合は費用を返還すること」という特約そのものが無効で、従業員はお金を返す必要はありません。
労働基準法第16条では、「金銭をいわゆる足かせとして、労働者を拘束してはならない」ということを言っています。このケースの特約は「不履行について違約金を定める契約」に該当し、従業員を不当に拘束する恐れがあるため認められません。
ただし、下記の場合、第16条に抵触しないとされます。
- その費用の計算が合理的な実費であること
- その金員が会社の立替金と解されるものであること
- その金員の返済により、いつでも退職が可能であること
- 返済に関する約定が不当に雇用関係の継続を強制しないこと
【資格取得費用の貸付制度】
上記のトラブルを防ぐために、資格取得費用を「会社が負担する」のでなく、「無利子あるいは低利子で貸し付ける」という制度を導入することができます。
この場合、以下のような定め方をします。
- 本人の自由意思に基づいて資格取得費用の借り入れを申し込む
- 申込に応じて会社が費用相当額を貸し付ける(金銭消費貸借契約の締結)
- 一定期間勤続することを以って、その「返済を免除する」規定を設ける
この場合は、労基法第16条に抵触しません。
管理監督者とは?
「管理職には残業代を支払わなくてよい」と考えている人が多いように思いますが、実際はどうなのでしょうか。
【法律根拠】
労働基準法では、第41条で「監督若しくは管理の地位にある者」(以下「管理監督者」といいます)については、「労働時間、休憩及び休日に関する規定は適用しない」となっています。
週40時間・1日8時間といった労働時間の制限や、週1日は休日を与える義務があるといった労働基準法の規定が適用されません。つまり、管理監督者には、この条文を根拠として「時間外労働手当や休日労働手当を支払わなくても良い」ということになっています。管理者は「経営者と一体的な立場」にあって、自分自身が労働時間についての裁量権を持っているので、労働基準法で保護する対象としてふさわしくないからというのが理由です。
【管理監督者にあたるかどうかの判断】
よく誤解されていますが、「役職がつけば管理監督者」ではありません。役職名・肩書きには関係なく、実態で判断されます。通達によると、管理監督者とは、「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」とされています。具体的には以下4つを基準として判断されます。
<1. 重要な職務と権限が与えられていること>
企業の経営方針や労働条件、採用の決定に関与していて、経営者と一体的な立場にあることが求められます。例えば「採用決定に関与している」「社員の人事考課の重要な決定をなす」「社員の勤怠管理を担う」「経営戦略などの作成に関与する」などの職務を行っているかどうかで判断されます。
<2. 出退勤について管理を受けないこと>
始業・終業時間を拘束して、遅刻・早退の際に給与を減額したり、懲戒処分の対象としているような場合は、自由裁量がないと判断されて管理監督者とは認められません。ただし、管理監督者であっても深夜勤務手当の規定の適用は除外されていませんので、タイムカード管理をしているだけで管理監督者として認められないとは限りません。
<3. 賃金面で、その地位に相応しい待遇がなされていること>
管理監督者という立場にふさわしい給与が支払われているか否かも判断のよりどころになります。通達でも「定期給与である基本給、役付手当等において、その地位にふさわしい待遇がなされているか否か、ボーナス等の一時金の支給率、その算定基礎賃金等についても役付者以外の一般労働者に比し優遇措置が講じられているか否か等」とあります。
<4. 現場に出て他の一般労働者と同様の業務を行っていないこと>
管理監督者として「監督される側」の作業を行っていることは、管理監督者でない根拠を強める事になります。例えば、工場長だがラインに混じって作業をしている場合は管理監督者として認められない可能性が高いでしょう。
以上の3つの点について総合的にみて、管理監督者であるかどうか判断されます。以上の事から、日本の労働環境に置いては「管理監督者として認められる管理者はほとんどいない」と言えるでしょう。
配置転換による給与の引き下げ
配置転換によって手当をなくしたり、給与を引き下げたりすることはできるのでしょうか。
※配置転換:人事異動により、従業員の勤務地・職務などを変更すること
部署の異動や仕事の内容変更に伴って給料の額を変更することはできますが、変更は慎重に行う必要があります。
【ポイント】
給与条件の引下げが認められるか否かは、賃金のどの部分が、どのような理由で変動するかがポイントになります。その部署や仕事の変更による「手当」の変更は、場合によっては部署移動によるメリットとも認められ、合理性は認められやすいでしょう。
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例)営業部員が事務職に配転になったため、営業手当をもらえなくなる場合
その営業手当が「営業職を行う上で必要な出費」として支給されていたのであれば、配転によって、その社員の出費もなくなるため不当な賃下げにはあたらず、配転命令は有効とみられます。
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一方で、生活給である基本給が大幅に下がるようなときは、いかに使用者の裁量権が認められているといっても「権利の濫用」とされ、配転命令は認められない可能性が高いでしょう。
「社員がそれまで就いていた職務がなくなることとなり、雇用を維持するためにはどうしても基本給の減額を伴う配転を行わなければならない」などの特別な事業がある場合には、その内容を対象者に十分に説明し、納得を得ることが必要でしょう。
ネット社会における内部告発対策
今日のネット社会では、社員が会社を転覆させようと思ったら、いともたやすい状況にあります。社員はいくらでも情報を入手できるし、情報を発信することもできるからです。
内部告発によってこの数年、多くの大企業、老舗企業が大きな痛手を負ってきています。
目先の利益だけを追求していては、いつ何時、足下をすくわれるか分かりません。
さて、このリスクから会社を守る方向性としては2つあります。
ひとつはコンプライアンスを徹底することです。そして情報漏洩対策。
これが最も正攻法のやり方でしょう。
でも、それでもリスクをカバーしきれるものではないのが現実です。
社員は機械ではなく人間なのですから、100%管理することはとても不可能です。
社員の方がその気になったら、どんなに正攻法で守ろうとしても会社を陥れる方法はいくらでもあります(ただし、社員のうっかりによる情報の流出を防ぐ上ではこれも大事です)。
では、どうしたらネット社会のリスクから会社を守れるのでしょうか?
「人は城、人は石垣、人は堀。情けは味方、仇は敵なり」
(どれだけ城を堅固にしても、人の心が離れてしまったら世を治めることはできない。民衆に情けをかけることは人をつなぎとめ、国を栄えさせるが、民衆に憎まれれば国は滅びる)
実はネット社会とは程遠い時代に信玄が残したこの言葉こそ、会社を守る最終手段なのです。
この言の通り、信玄はその生涯の内一度も甲斐国内に新たな城を普請せず、堀一重の躑躅ヶ崎館(つつじがさきのやかた)に住みました。
一方で、信玄が心血を注いだのは民政でした。当時、多くの大大名が民衆の一揆によって進軍を阻まれてきました。業を煮やした信長などは、比叡山を焼き討ちして更に人心が離れる結果となり、本能寺の変で非業の死を遂げています。そんな時代にあって信玄の民政の巧みさは傑出しています。釜無川に今も残る信玄堤がその象徴です。
自らの居城を堅固にするよりも、民衆の暮らしを良くしてあげることで、民衆が城になって国を守ってくれる。事実、信玄の治世において、甲斐国内で大規模な一揆が起きたことはありませんでした。城に住まずとも、信玄は安心して眠れたわけです。
もうお分かりでしょう。内部告発から会社を守る最後の砦は、社員の情なのです。
おそらく、賞味期限の改ざんをしてきたA社でも、過去に何度も社員から非難の声が上がったのではないでしょうか? そうした正義の声に耳を貸さない会社だからこそ、内部告発が起きるのです。
社員の気持ちを大事にして、みんなで社会に貢献していこうという姿勢で会社が運営されていれば、あのようなことになるはずがありません。
「大変な世の中になった」・・・そんな声をよく聞きますが、そうでしょうか? 会社なんて元々、世の人々が必要としてくれるから繁盛するのです。社員を人間を大事にしない会社が淘汰されるという世の中は、むしろ健全と言えるのではないでしょうか?
究極のリスク対策は、社員を大事にし、社員から大事にしてもらえる会社を作ることなのです。
現場から見た労使紛争の治療と予防
税理士会で労使紛争の実態とその予防について講演させていただきました。
労使紛争のほとんどは、労使のコミュニケーション不全によるものだと思います。
人間同士、相手のことを理解し合えればいいのですが、情報化社会とグローバル競争の時代にはなかなか難しいようです。
会社の抱えているリスクがどのくらいなのかを読み間違えると、大変なしっぺ返しを喰らうことになりかねません。知らなかったでは許して貰えないのが社長の辛いところです。
定期的に専門家の意見を聞き、リスクをきちんと理解して、対応を取ってゆくことが企業存続のためには重要です。
業務上事故の使用者責任
関越自動車道で4月29日に7人が死亡した高速ツアーバスの事故は、その凄惨さから世間の大きな注目を集めています。
価格競争に端を発する業界の下請け・孫請け構造、労務管理体制の不備や違法性が次々に明らかになると同時に、今後企業は世間からますます高い企業倫理を求められることになるでしょう。本稿では、業務上の事故の使用者責任について取り上げます。
【業務上事故の使用者責任】
そもそも、この「使用者責任」という耳慣れない言葉は民法上に規定されているものです。
---------------------------------------------------------------------------------------------------- <民法715条1項>
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。
----------------------------------------------------------------------------------------------------
つまり、仕事をしていて第三者に損害を与えた場合には、会社には損害賠償責任があるということになります。ただし、次の例外があります。
----------------------------------------------------------------------------------------------------使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
----------------------------------------------------------------------------------------------------
これは、会社が相当の注意をしていたのに起きてしまった事故の場合は、その範囲において会社は賠償責任を負わなくともよい、ということです。言い方を変えれば「会社が相当の注意をしていた」と立証できない限りは、会社の責任はあるということになります。
【使用者責任の例】
●残業や休日出勤により疲労の蓄積が認められる状態で交通事故を起こした場合、その点で企業は責任がある。
●発作を伴う病気を持った労働者であると知りながら業務上車の運転をさせ事故を起こした場合、使用者責任がある。
●労働者が(勝手に)不正な会計処理や公文書偽造により第三者に損害を与えた場合、(会社が不正を命令していないとしても)監督責任を果たしていないとなる可能性がある。
【事故を起こした労働者の責任はあるか】
もちろん事故を起こした本人にも責任があるため、会社がその損害賠償金を支払った場合は本人に請求(「求償」といいます)できます。しかし、この求償の場合にも、労働条件や事故防止策について会社の不備がある場合には制限がかかります。会社はこのように大きな社会的責任を担っている分、残業等の労働時間管理や内部統制には十分な対策を練る必要があります。
年金事務所の調査が増えています
最近、年金事務所による、社会保険(健康保険と厚生年金)の被保険者の資格と標準報酬などの調査が増加しております。
調査日の2週間くらい前に「健康保険及び厚生年金被保険者の資格及び報酬等の調査実施について」という文書が管轄の年金事務所から事業所に送付されてきます。
●年金事務所の調査の目的
年金事務所の調査の目的としては、
・被保険者の賃金及び賞与から社会保険料が正く計算され、届出漏れがないか
・被保険者の賃金及び賞与から社会保険料が正しく控除されているか
・短時間勤務者などで社会保険に加入すべき従業員を加入させているか
・被保険者の加入時期は正しいか
などと思われます。正しい届出が行われていない場合は、指導がされ、場合によっては遡って手続を行うことを求められます。
最近は、社会保険の新規適用を受けた事業所に対し、翌年度の算定基礎の頃合いに調査が入るパターンが多いようです。
社会保険協会への入会は義務ではありません
このような書面が毎年5月頃に届くことと思いますが、文面を読んでいると「6月11日までに」などと太字で納期限が書かれており、しっかり納付書まで同封されているため、あまり深く考えず、うっかり会費を支払ってしまう方も見えるかもしれません。
文面をよく読めば「入退会は任意」と書いてあります。
協会の活動内容は、広報紙の発行などですので、これに入会しなくても社会保険の適用において何ら困ることはありません。
たかだか数千円の会費とはいえ、この協会の発行する広報紙が本当に事業に必要かどうか?きちんと検討して頂いてから意志決定されることをお勧めいたします。
企業が持つべきソーシャルメディア「防衛策」
北海道山越郡長万部町のイメージキャラクター「まんべくん」。
TwitterによるPRを担当した企業が、まんべくんの名で過去の戦争に対し
政治的に過激な発言をした結果、多数の批判を受け、
同twitterが閉鎖となった問題は記憶に新しいですが、
Facebookやtwitter、ブログなどのソーシャルメディアの急速な普及を受けて、
企業は新しい防衛策を求められています。
本稿ではソーシャルメディア社会に対するトラブル事例と、
企業の防衛策について記述します。
【トラブル事例】
<CASE 1>
2011年8月。
京都に本社を置く製薬会社の女性社員が、「同僚が睡眠薬を飲み会で
他人の酒に混入している」という主旨のつぶやきをtwitterに投稿。
それを見たネットユーザーが批判し、「炎上」となる。
投稿した社員が特定され、個人情報や写真がネットに流出。
9月5日には、会社が自社サイトに謝罪文を掲載した。
(日本経済新聞WEBニュースより転載)
<CASE 2>
同年1月、東京都目黒区の高級ホテルのアルバイト従業員が勤務中に、
利用客だった有名人カップルに関する情報をtwitterで発信。ホテルが謝罪した。
このアルバイト従業員は、匿名でtwitterに登録していたが、
他のネットユーザーによって特定され、同従業員の個人情報や写真がすぐにネットに流出した。
(日本経済新聞WEBニュースより転載)
【SNSが企業にもたらすリスクの種類】
左記2つのケースおよび「まんべくん」事件、その他最近の報道等を踏まえると、
SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)は以下の点で企業運営のリスクとなります。
1、反社会的言動、過激な個人的信条・思想の発信による
企業イメージ損失・コンプライアンス違反のリスク
2、個人情報・顧客情報等の流出リスク
3、企業の取引情報、営業機密・企業秘密の漏えいリスク
これらのリスクが現実のものとなることを防ぐため、企業側としては、
SNS、インターネットメディア等の使用に関するガイドラインを定め、
禁止事項をあらかじめ特定し、従業員に周知させておく必要があります。
さらには、そのガイドラインを逸脱した場合のペナルティーや損害賠償の可能性についても、
就業規則その他社内規程に厳格に定めておくべきでしょう。
若い社員は特にソーシャルメディアの使用率が高いことが予想されます。
4月に新入社員を迎える前に、規程・ガイドラインなどの整備を進められることをお勧めします。
その他ソーシャルメディア関連規程の整備については、お気軽に当事務所までご相談くださいませ。
「雇用契約書」が大切な本当の理由②
労使間で締結する雇用契約書には法令上の決まりがあり、
またトラブル回避のためにリスクポイントを押さえた内容にする必要があります。
本稿では、前号に引き続きQ&A方式で重要な点をご説明します。
【Q1】雇用契約書には、どんな項目を記載すればよいでしょうか。
【A1】雇用契約書(労働条件通知書)には、「絶対に書かなければならないこと」と
「決まりがあるなら明示しなければならないこと」があります。
<絶対に書かなければならないこと>
(絶対的明示事項)
? 雇用契約期間・更新の有無、更新の判断基準
? 就業場所、転勤の可能性の有無、従事する職種
? 始業および就業の時刻、休憩時間、休日、休暇
? 所定時間を超える労働の有無
? 交代制について(交代制がある場合)
? 賃金額、計算及び支払方法、賃金締日支払日
? 昇給について ※1
? 定年・継続雇用等
? 退職について(解雇の事由を含む)
※1 昇給については、口頭で明示してもよい。
<決まりがあるなら明示しなければならないこと>
(相対的明示事項)※2
? 退職金、賞与その他臨時に支払われる賃金
? 労働者に負担させる食費や作業用品
? 安全及び衛生に関する事項
? 職業訓練に関する事項
? 災害補償及び業務外の傷病補助に関する事項
? 表彰及び制裁に関する事項
? 休職に関する事項
※2相対的明示事項は、口頭で明示してもよい。
企業の雇用契約書について、
これらの項目がもれなく記載されているかを確認してみて下さい。
【Q2】今まで雇用契約書を取り交わしていなかったのですが、
今後パートも含め全員分の雇用契約書を整備したいと考えています。
入社後相当年数経過している従業員との雇用契約締結は、どのように進めればよいでしょうか。
【A2】入社後相当年数経過した従業員との雇用契約については、
例えば「新事業年度」「新年」「組織変更等の日」など
切りのよいタイミングでの一斉整備をご検討ください。
既存の従業員の中には、入社から何度も賃金など労働条件が変わっている方も
いらっしゃると思いますので、入社時に遡って雇用契約を締結することが困難です。
そのような場合は、従業員の納得性が高い日付から
「改めて今後の労働条件はこうです」と雇用契約を結ぶと良いでしょう。
ただし、企業規模や既存社員の方の勤続年数によっては、
「なぜ今さら雇用契約書を結ぶのか?」といった警戒・反発・不審を招く可能性もありますので、
雇用契約書整備は慎重に進める必要があります。
また、雇用契約書は、就業規則との整合性についても注意しなければなりません。
雇用契約書と就業規則との間にズレや矛盾はないか、併せて検討していくことが必要です。
雇用契約書についてのご不明点は、お気軽に当事務所までお尋ね下さい。
「雇用契約書」が大切な本当の理由①
2011年もあとわずかとなりました。
毎年1月に雇用契約の更新や給与の見直しを行う企業も多いことから、
本稿では雇用契約書についてよく寄せられるご質問をQ&A方式で紹介していきます。
【Q1】雇用契約書を特に取り交わしていませんが、大丈夫ですか?
【A1】雇用契約書は、法律的見地、及び労使トラブル回避のため作成するべきです
<律的見地>
雇用契約≒労働契約は、労使当事者間の合意のみによって成立する契約であり、
口頭での約束でも成立しますが、労働基準法上「賃金、労働時間その他の労働条件を
明示しなければならない(労基法第15条1項)」とあります。
特に「契約期間」「就業場所」「賃金」「退職」などの
重要事項は書面により明示するよう定められています。
労働諸条件について合意があったことを記録する意味でも、
労使双方の捺印等のある雇用契約書を取り交わしたほうが望ましいと言えます。
<労使トラブル回避>
契約期間や契約更新の有無、転勤可能性、解雇に関する事項や賃金、
固定残業代などの「トラブルになりやすい事柄」について、契約締結時に合意がなされた
という書面を取り交わしておくことで、のちの労使トラブルを回避・軽減することができます。
【Q2】雇用契約書がない(あるいは整備不十分)ことで、具体的にどんなトラブルがあるのでしょうか?
【A2】「契約期間、契約更新」「転勤」「退職・解雇」「賃金・賞与・ 残業代」が挙げられます
<詳細説明・トラブル例>
《契約期間・契約更新》
働きの悪い社員を契約期間満了として取り扱いたいが、自動更新状態であったり、
契約更新の判断基準について決めていなかったためできなかった
《転勤》
転勤を社員に命令したが拒否され、雇用契約書上で転勤の可能性の記載がなかったためできなかった
退職・解雇 定年について明記しておらず、就業規則もない会社において、慣例により60歳定年を申し渡したが、労働者が継続雇用を申し出て、労使関係が悪化した
賃金・賞与・残業代 賞与について「就業規則による」と定めており、当該就業規則で「経営状態悪化時の賞与減額または不支給」について定めておらず、賞与の減額ができなかった
雇用契約書には上記のようなトラブルの種があるため、企業側は特に注意してその作成をすすめる必要があります。
残業代をめぐるトラブルの防止策②
前号で取り上げた「残業代を巡るリスク」を軽減させるためには、
具体的にどのような対策が有効でしょうか。
本稿では、リスク軽減の具体的方法を「1.業務効率化的アプローチ」
「2.就業規則・給与支払的アプローチ」の二つからご紹介します。
【1.業務効率化的アプローチ】
まずは「業務効率化により残業時間そのものを軽減させる」
視点で可能性を検討しなければなりません。
例えばサービス業であるならば、時間帯ごとの業務量を定量測定し、
繁閑に合わせて労働時間・休憩時間を配置するシフトを組むことができないでしょうか。
あるいは「ノー残業デー」などの強制的な時間短縮も、
業種によっては生産性を落とさずに導入できるかもしれません。
ご存知の方も多いと思いますが、下着メーカー「トリンプ」では、
午後12時30分から2時間を「がんばるタイム」と社内外に公言し、
その時間帯は電話(緊急のものを除く)に出ずひたすら事務処理をするそうです。
残業そのものを減らす取り組みは、会社の人件費圧縮と従業員の生活充実の
両面に寄与する善的アプローチであることを、今一度考えましょう。
【2.就業規則・給与支払的アプローチ】
上記、「業務効率化的アプローチ」の業務効率化による時間短縮効果が
短期的に見込めない場合や、営業形態から時間削減が難しい場合は、
会社の制度の見直しをするアプローチが検討できます。
現状の給与支払項目の中で、「恒常的な残業の対価ととらえることができる手当」を洗い出し、
「残業手当を固定的に支給するもの」と再定義することで、「恒常的残業に対するケアが出来ている状態」
に整える取組み等がこれに当たります。
<事例>株式会社Y(リフォーム販売業)の場合
・週40時間労働制
・営業社員Aの給与細目
総支給26万円:基本給20万円、職務手当5万円
通勤手当月額1万円
このうち「職務手当」は、営業社員に対して支給される手当であり、
営業社員の恒常的な残業をケアする意味合いがありました。
そこで、就業規則(賃金規程)においてこれを「固定残業手当」と再定義し、
同時に社員Aとの間で当該固定残業手当を記載した雇用契約書を再度取り交わしました。
その結果、社員Aさんについて月々5万円の残業手当が
合法的に支払われている状態が整ったことになります。
固定残業手当額から逆算すると、以下の式により、
34.6時間分の残業手当が支払われていることになります。
基本給20万円 ÷ 173時間(月間所定労働時間)× 1.25 ≒ 1,445円(残業単価)
5万円 ÷ 1,445円 ≒ 34.6時間
このアプローチを行うためには、以下三つが特に重要になります。
1.就業規則等に根拠があるか
2.労働者本人の同意が得られているか
3.給与明細等の上で固定的残業である旨明記されているか
固定残業手当の導入は、事前に当事務所にご相談下さい。
残業代をめぐるトラブルの防止策①
退職した労働者からの未払い残業代は、予期せぬ一般管理費の増加をもたらし、
会社の収益にダイレクトに影響します。
そればかりでなく、折衝や裁判などにかかる時間的・精神的コストをも併発させるため、
経営者や労務管理担当者の頭を悩ませる問題となります。
【株式会社 G社の例】
平成23年1月、前月末日付で退職した社員Aから内容証明郵便が届きました。
過去2年間の未払残業代合計250万円を支払うよう求めた内容のものでした。
指定期日までに支払わない場合、公的機関に訴え出る旨記載されています。
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業種:システム開発業
従業員数:10名
年間総人件費:3,000万円
勤怠管理:出勤時間、退勤時間を記入しない押印型出勤簿
所定の勤務時間:9時~18時(8時間)、月あたり平均20日の出勤日
残業状況:社員によってまちまちだが、概ねの社員が恒常的に一日3時間程度の残業あり
残業代に関する説明:雇用契約書はなく、採用時に口頭にて「残業代は給与に含まれる」旨を伝達
社員Aの給与:基本給20万円、職務手当2万円、通勤手当月額1万円、在籍期間3年
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【社員Aの主張は正当なのか?】
<勤怠管理の側面>
社員Aの主張の正当性を確かめるためには、まずは実際の残業時間を把握する必要があります。
この会社では「出」「欠」の印を押印する簡易的な勤怠管理をしており、
残業時間をそこから読み取ることはできません。
だからといって会社は「相手の主張には根拠がない」と決めつけることもできません。
なぜなら、出勤簿以外にも、「パソコンのログアウト時刻」や
「帰宅時間に関する本人や家族の主張・メモ書きなど」
も場合によっては証拠能力があるとみなされるからです。
<残業代に関する説明の側面>
この会社では、残業代は給与に含まれる旨口頭で説明していたに過ぎず、
雇用契約書や給与明細書上に残業を支払った記載がありませんので、
残業代が給与に含まれていることを主張するには十分でありません。
<2年遡及請求の側面>
賃金債権の請求時効は2年と定められていますので、法的根拠があります。
【計算根拠】
以上のことから、仮に社員Aの1日の残業時間が平均3時間だと仮定して
過去2年の残業代を計算すると以下のようになります。
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総残業時間:3時間×月20日×24ヶ月=1,440時間
残業の単価:約1,719円
残業代総計:2,475,360円
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社員Aの主張は、概ねこのような計算根拠を持っていると予想されます。
【会社は何をポイントに対策すべきか】
250万円と言えば、株式会社Yの年間人件費の実に8.3%に当たります。
その8.3%増は、「それが生産的な残業であったか」を問わずに会社にのしかかってきます。
会社側が行うべき対策として、「残業代リスク診断」を活用し、
まずは自社でのリスクポイントを整理しましょう。