MGコラム
トランプの戦争決断から考える「聞きたくないことを聞く」ことの重要性
2026年2月28日、トランプ米大統領はイランへの大規模攻撃を決断した。イスラエルと連携した空爆により最高指導者ハメネイ師を殺害、「体制転換」を呼びかけた。
しかし3週間が経過した今、事態は泥沼化している。ホルムズ海峡は事実上封鎖され、原油価格は高騰、アメリカ国内のガソリン価格は政権への不満が高まる水準に達した。トランプの支持率は下落し、身内であるはずのMAGA支持者からも批判の声が上がっている。
なぜ世界最強国のトップが、これほど予測可能な失敗を犯したのか。その構造は、企業経営における意思決定の失敗と驚くほど似ている。
・インテリジェンスは警告しなかったのか
インテリジェンスとは、意思決定者に判断材料を提供するための情報収集・分析活動を担う者を指す。国家においてはCIAやNSAといった情報機関がこれを担い、企業においては市場調査、法務・労務・税務の専門家などがこの役割を果たす。重要なのは、インテリジェンスの本質が「正確な情報を届けること」にあり、意思決定者が聞きたい情報を届けることではない、という点である。
さて、イランを攻撃すれば、ホルムズ海峡を封鎖される可能性が高いことは予見可能だったはずだ。機密情報でも何でもない。
イランは通常戦力ではアメリカに勝てないことを自覚している。だからこそ「非対称な切り札」を持っている。ホルムズ海峡は世界の原油輸出の約20%が通過する要衝であり、ここを止められれば、アメリカ本土を攻撃するより効果的にアメリカ経済を痛めつけられる。
米国のインテリジェンス機関は、間違いなくこのリスクを警告していたはず。「攻撃すれば海峡を封鎖される」「原油価格が高騰する」「長期戦になれば中間選挙に影響する」というのは簡単に予測できたと思う。
・なぜ聞かなかったのか
事実、トランプはインテリジェンス機関の声を聞かなかった。代わりに「友人」の声を聞いたようだ。
イスラエルのネタニヤフ首相、巨額献金者のミリアム・アデルソン、ゴルフ仲間のリンジー・グラハム上院議員、そして娘婿のジャレッド・クシュナー。「イラン攻撃」を後押ししそうなメンバーが彼の取り巻きには何人もいる。
彼らは「短期で終わる」「体制は崩壊する」「歴史に名を残す大統領になれる」とトランプに吹き込んだのだろう。トランプの虚栄心を刺激し、「自分で決断した」と思わせながら、上手に誘導した。
さらに、1月のベネズエラ作戦の「成功体験」が判断を狂わせた。マドゥロ大統領を143分で拘束した実績が、「イランでも同じようにできる」という過信を生んだのではないか。
・経営における同型の失敗
こういうことは、企業経営でもよくある。
例えば、労務管理において「残業時間の上限を超えているが、現場が回らない」という状況があるとする。専門家は「36協定違反になる」「過重労働が続けば、社員が倒れる」と警告する。しかし経営者は、現場の声、あるいは自分にとって都合の良い情報を優先し、警告を無視する。
その結果、何が起きるか。
監督署の調査くらいは謝れば許してもらえる。本当に怖いのは、過重労働による労働災害である。過労死、過労自殺、メンタルヘルス不調による長期離脱。一人の社員の命や健康が損なわれれば、その影響は本人と家族の人生を破壊し、職場の士気を崩壊させ、企業の社会的信用を失墜させる。予測可能だったリスクが、取り返しのつかない現実になる。
あるいは、新規事業への参入。市場調査の結果は厳しいものだったとしても、「やりたい」という意志が先行し、楽観的なシナリオだけを採用する。「競合はうまくいかなかったが、うちは違う」と。
結果は、「やはり」うまくいかなかった、ということになる。
・「金」と「票」のジレンマ
トランプの支持基盤には、本質的に相容れない二つの勢力が存在する。
一方は福音派。聖書の記述に基づきイスラエルを支持し、イラン攻撃を神学的義務として歓迎する。彼らはカネを持っている。
他方はMAGA支持者。「America First」を掲げ、他国のための戦争を明確に拒否する。彼らは票を提供する。
2024年の大統領選でトランプが勝てたのは、この二つを同時に取り込んだからだった。しかしイラン戦争は、両者の矛盾を一気に表面化させた。
トランプは「金をくれる層」の声を聞き、「票をくれる層」を裏切った。タッカー・カールソンが「これはイスラエルの戦争だ」と批判し、元グリーンベレーの政権高官が「イランは差し迫った脅威ではなかった」と辞任したのは、MAGA側の本音の噴出だ。
献金者は選挙を助けるが、票を持っているのは有権者だ。間もなく訪れる中間選挙の結果は惨憺たるものになるだろう。
・「友人」と「専門家」の違い
ここで重要なのは、「友人」と「専門家」の役割の違いである。
友人は、あなたとの関係性を維持したいと考える。だから、耳障りの良いことを言う。あるいは、友人自身の利害に沿ったアドバイスをする。
専門家は、あなたとの関係性より、事実と論理を優先する。だから、聞きたくないことを言う。それが仕事だからである。
トランプの周囲にいた「友人」たちは、それぞれの利害を持っていた。トランプは彼らに上手に利用されてしまった。
・成功体験の罠
もう一つ、経営者が陥りやすい罠がある。「成功体験への過信」である。
トランプは1月のベネズエラ作戦で、143分でマドゥロ大統領を拘束するという成功を収めた。この体験が、イランでも一瞬で片が付くという過信を生んだ。
しかし、ベネズエラとイランは違う。ベネズエラは軍事的に脆弱で、ロシア製の防空システムも機能しなかった。一方、イランは非対称戦の能力を持ち、ホルムズ海峡という切り札を握っている。
過去の成功は、次の成功を保証しない。むしろ、過去の成功が判断を曇らせることがある。「前回うまくいったから、今回も」という思考は危険である。
経営においても同様だ。ある事業で成功した手法が、別の事業で通用するとは限らない。市場も競合も顧客も異なる。にもかかわらず、成功体験のバイアスに踊らされれば大きな損害を被る。
・聞く耳を持つということ
結論として、トランプの失敗から経営者が学ぶべきことは以下の通りである。
第一に、専門家の声を聞く仕組みを持つこと。 自分にとって都合の悪い情報こそ、意思決定に必要な情報である。聞きたくないことを言ってくれる存在を、遠ざけてはならない。
第二に、「友人」の声を疑うこと。 友人が善意であっても、彼らには彼らの利害がある。友人の声と専門家の声を混同しない。
第三に、成功体験を疑うこと。 過去の成功は、次の成功を保証しない。むしろ、過去の成功が最大の盲点になりうる。
・おわりに
トランプ自身が老練と言ってよい経営者であったにも関わらず、今回の失敗はあまりにも初歩的だった。
それほど人間というものは愚かにできているということだ。
専門家の警告を無視し、友人の楽観論を信じ、過去の成功に酔う。この組み合わせは、確実に失敗に向かわせる力を持つだろう。
インテリジェンスとは、「聞きたくないことを聞く」ための仕組みである。その仕組みを機能させるかどうかは、経営者の姿勢にかかっている。
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